とある侯爵家が滅亡するまでの物語

レイちゃん

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隠し章

いつかの話

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役人の演説だったか僧侶の説法だったか、誰かが街かどで言っていた。
「人はみな平等、同じ命なのだ」と。
そして、その人は続けて言った。
「奴隷がいればは労働から解放され、より芸術学術に専念できる」と。

要するに、私は人間ではないらしい。
まぁ彼が言っていたことも一理ある。
貴族に育てられれば、その子は貴族になるだろう。
盗賊団に育てられれば、その子は盗賊になるだろう。
だから、都で随一の娼館で育てられた奴隷は、まぁ性奴になるだろう。




私のルーツは、かつて王国に征服された小国の民らしい。
実際の両親の顔は覚えていない。
気が付けば娼館にいて、雑用をしていた。
年端もいかぬ子供では春を売るのは無理だが、娼館の仕事はそれだけではない。
力仕事は無理でも娼婦のお姉さま方の身の世話とか、出来ることは色々ある。
だから私にとっては、濃密な人間関係が渦巻く環境が普通だった。




私が初めて抱かれたのは何歳だったか。
相手は王国の若い兵士だった。
庭先で掃除していた私を見初め、館主に頼み込んだ。
お披露目も済んでいないし技術も持ち合わせていない私は、まぁ知識だけは豊富だったので、見様見真似だった。
聞いていた痛さもあまり感じず、それよりも、何ともいえない感覚を覚えた。
年上の男が、いくらかは知らないが大切な金を払って、年下の私を相手にベッドで必死になっている。
滑稽、それとも愉悦?
まぁ何と表現すればいいのか知らないが、それに一種の楽しさを覚えた。




館主は私たちを純粋にと見ていた。
役立たずは責められるが、するべきことをこなせば衣食住はきちんと面倒を見てくれた。
「金を生む道具をわざわざ虐げるのは愚かだ」という考え方で。
命の保証さえない奴隷にとっては本当にありがたかった。

そして娼館のお兄さまお姉さま方は、私に色々なことを教えてくれた。
娼館はいわば実力勝負。
御贔屓客を横取りするのは心底嫌われるが、お客が自分の意思で乗り換えるのは仕方がない。
だからトップランカーの方々は客を放さず虜にする強力な何かを持っていた。
吟遊詩人も逃げ出すほどの歌唱、言葉だけで酔わせる話術、いくつもの面白い伝承話。
チェスなんていう男娼のお兄さんは傑作だった。
「勝てばタダで抱いてもいい」と言われ何人もが挑戦し、返り討ちにあった。
それで負けて逆恨みなど野暮、ただ笑い、金を置いてその日は諦める。
だから一度も抱かれることもなく一日に何人も相手するなんて人もいた。

私の場合、逆だった。
読み書きより先にエッチを習った私だ。
幼い頃から環境に慣れ、お兄さまお姉さまから技術を教わり。
何より奴隷の私がベッドでは客を手玉にとれる支配できることが面白く。
気が付けば、もう私をロストバージンさせた兵士の賃金じゃ手の届かない、高価なトップランカーの仲間入りをしていた。

娼館を訪れる客の間で「人体を知り尽くしていて、マッサージが上手く、エッチが気持ちいい」と評判になり。
とある大臣が見初め、私を買い受けた。
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