とある侯爵家が滅亡するまでの物語

レイちゃん

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エピローグ

そして今日のアーシュ邸宅

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そして。


「何でそんな意地悪なこと言うの…?」


アーシュさんのお屋敷で、パティさんが絶望的な表情を浮かべていた。
ただ『血を飲ませない』との一言だけで。

「意地悪じゃありません、お仕置きです!
 全く、なんて本を渡すんですか!」

「あ~…パティよ、事情はスーから聞いたがの。
 すまんが、さすがの我も弁護の余地が無いの…」

何百年も行方不明だった貴重な文献をポンと出せば、それは騒動になる。
もしあそこで私とセシアが壇上に呼ばれていたら、非常に面倒な話になっていた。

その様な文献の出どころを詰問されると、つじつまの合う嘘を考えるのも難しい。
そして、仮にアーシュさんの存在を学院や王宮の方々が知れば、それは大変なことになる。
必死で秘匿している王太子殿下や国王陛下にも多大なご迷惑をおかけすることになる。
そんな文献だと私は気づかなかったけど、パティさんは知っていた。

「以前にパティさんのことを”優秀だけど詰めが悪い”と聞いていました。
 こういうことだったんですね。」

「すまんの。
 基本的には有能なのじゃが。」

建国記念日の翌日、研究レポートについて教官同席の元で王宮文官の聴取を受けた。
とはいえ研究成果をネス様に渡したのはセシアだし、その書物もアーシュさんのものだ。
私を処分するのはお門違いだと思うし、少なくとも王太子殿下は私に関わりたくもないだろう。

「…というか、数学”7つの千年問題”じゃったか?
 確か3つは完全に解決しておったぞ。」

何気なく、とんでもないことを口にしたアーシュさん。
一つの問題の解説本で大騒ぎになったというのに。

「…え?」

「かつてここにおった魔法使いの連中が、こういう問題に取り組わぬわけがなかろう。
 3つは解決、2つは解決したと思ったが途中で深刻な矛盾が出てきた。
 残りは切っ掛けすらつかめんかった。
 我は興味が無かったが、連中は悶絶しておったよ。」

「あの…ここ、世界が驚く発見の宝庫なのでは…」

「そして我の屋敷に無法者が押し寄せて、書庫から寝室までひっくり返すのか?
 公開は御免被る。」

ソファに身を沈めると、キャティさんの給仕を受けるアーシュさん。
まぁ名声を求める人なら結界など張らないだろうけど。

「では、本日の報告は以上です。
 私は王立学院の寮へ戻ります。」

「左様か。
 パティ、送ってやれ。」

絶望的な表情だったパティさんは、いよいよ泣きそうな顔になる。
私の血は格別の味らしいのだが、それを一滴も飲めないと言われれば無理もない。
アーシュさんもキャティさんも普通に飲んだというのに。

何だか少し可哀そうになってきた。

「もう…どうぞ。」

苦笑して襟首を引っ張って首筋を出すと、見たことも無い満面の笑顔で飛びついてくる。
そのまま少し息も荒く、一心不乱に血を吸う。

「やれやれ…スーもパティの魅力に堕ちたかの。」

「反則ですよね。」

キャティさんが近づくと、ゆっくりとパティさんの頭を撫でる。

「この子、実は少し虐めてから受け入れると、とんでもない魅力を発揮するんです。
 何百年か昔の話ですけど、お嬢様もその魅力に抗えずに思わず抱いてしまいましたから。」

「ほう…
 その初体験直後のそやつを失神するまで抱いた鬼畜は一体どこの誰だったかの。」

少し呆れたようなアーシュさんの言葉に、キャティさんは笑顔のままゆっくりと顔を逸らす。

「…抱いちゃったんですか。」

「名誉のために言っておくが、手篭めにしたわけではないからの。
 我もキャティも外道畜生では無い。
 そしてパティを虐めて良いのは、強固な心の繋がりがあり、パティ自身がそれを望んでおる者のみじゃ。
 この世で我とキャティ以外は許さぬ。
 …最も、性奴だった頃に主家族から使用人まで性豪が全力を出せば、それは意識も飛ぶわ。」

「若気の至りでした。」

それはまた何と言うか…。

「さて、パティが満足すれば王都まで送らせよう。
 そのうち『言霊』もいくつか覚えるがよい、何かと便利じゃからの。
 まぁ時間は悠久にあるのじゃ。
 表の世界と裏の我らの境界を越えるそなたじゃ、存分に精進せよ。」
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