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第二章:本編(再び)
崩壊への序章
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「この大バカ者!
よくも恥をかかせてくれたな!」
セイシェル侯爵家の王都邸宅、その執務室で怒鳴り声が響く。
床には殴り倒され、口から一筋の血を流すネス。
「しかし、父上!」
「言い訳など聞きたくないわ!
王宮謁見の間で王太子殿下から注意されたのだぞ!
いい笑いものだ!」
セイシェル侯爵が激怒するのも当たり前。
領地に戻り政務を行っていたところ、突然に王宮から呼び出しを受けた。
何事かと王都の邸宅へ急ぎ戻れば、執事長から聞かされた息子の不始末。
ネスが提出した課題を見た王太子殿下から命を受けた文官が、ゴリーペの数学書を国宝扱いで管理したいと訪れた。
が、そんな書物に心当たりは無く、使用人総出で屋敷中を捜索したが出てこなかった。
改めてネスに聞くと、その課題レポートはペニシフィン子爵家の令嬢から受け取ったとのことだった。
「お前が課題を自分の力でやろうが他人の力でやろうが、それ自体は関係ない!
ペニシフィンの娘ならば我が家には借りが大量にあるから課題をやらせたところで訴えはすまい!
問題なのは、その行為を他の者に攻撃されることだ!」
王立学院の講堂壇上にてネスは王太子殿下から直接賛辞を受け取った。
それも全教員全生徒の眼前にてだ。
それがまやかしだったなど、これ以上の恥はない。
セイシェル侯爵家を快く思わない勢力からは王家侮辱罪に問うべきとの声すら出ている。
「正式処分が決定するまで無期限の謹慎ということだ!
しばらくは自室で反省でも…」
ドアがノックされたことで𠮟責を中断する。
「旦那様、執事長ですが…」
「取り込んでいる、後にしてくれ。」
「失礼します。」
セイシェル侯爵の返事に反し、一方的に開くドア。
ドアの入り口には困惑した表情の執事長。
そして、その横をすり抜け部屋に入ってくる数名。
「おい、無礼であろう!
しかも貴族の邸宅で帯剣とは!
貴様どこの部署だ、正式に抗議する!」
合計7名、全員が揃いの白い胸当てと剣を装備している。
胸当ての左に彫られているのは女神の横顔。
白い胸当ては王宮近衛兵のものだが、その女神の紋章はセイシェル侯爵も見覚えがなかった。
「改めまして、失礼します。
閣下、自分は王国近衛師団憲兵大隊第二憲兵中隊副長のフェイスであります。」
「憲兵隊?
憲兵が何の用だ!」
「はい閣下。」
フェイスと名乗った女性は悪びれる様子もなく。
「23万7520ゴールドについて、ご説明を。」
謎の金額を口にした。
意味が分からず、わずかに沈黙が流れる。
「…何だ、それは。」
「お分かりで無い?」
「だから尋ねているのだろうが!
早く答えんか!」
怒鳴り声に、少し間をおいて。
「セイシェル侯爵家の家令や執事ら数名の名義で、共和国に開設している銀行口座の預金残高です。
言うまでもなく王国民が他国で口座を開設することは違法ではありません。
貿易など商取引するには口座がなければ決済も一苦労ですからね。
ただ…23万7520ゴールド。
家令や執事の給金や個人的な投資運用資金としては、いささか莫大過ぎると思うのですが?」
その言葉に一瞬で顔面蒼白になる侯爵。
「セイシェル侯爵家の領地には金山がありましたね。
もちろん金山は国の直轄地ですから、その産出された金は当然国庫に帰属すべき物なわけですが。
ただ実際のところ金鉱石がどれだけ掘られ精錬されたかについては、その場においてしか分かりません。
とはいえ、もし仮に掘り出されたと記録された量と国庫に納められた量が一致しないとするならば。
その消えた金は別に精錬され、運搬され、換金されたと考えるのが自然でしょうね。」
冷汗の止まらない侯爵を睨みつけながら、たすき掛けにした鞄から紙を取り出す。
「閣下、王宮への出頭命令書です。
共和国の口座について、国王陛下は非常に興味をお持ちだそうです。
閣下をはじめ奥様や使用人数名に対して身柄拘束の許可も出ていますので直ちに連行します。
なお奥様はバーナー侯爵家でお茶会でしたね。
そちらは第三憲兵中隊が向かっておりますので、奥様とは王宮でお会いできると思います。」
歩み寄った憲兵に促され侯爵が連れ出される。
ただ茫然と床に座り込んだままのネスに対し。
「国王陛下の命ですので、恐れながら父上殿にはご同行頂きます。
疑惑が解消されれば直ちに帰宅されます。
ただ、そうならなければ残念ながら貴族法廷にてお会いすることになるでしょう。」
よくも恥をかかせてくれたな!」
セイシェル侯爵家の王都邸宅、その執務室で怒鳴り声が響く。
床には殴り倒され、口から一筋の血を流すネス。
「しかし、父上!」
「言い訳など聞きたくないわ!
王宮謁見の間で王太子殿下から注意されたのだぞ!
いい笑いものだ!」
セイシェル侯爵が激怒するのも当たり前。
領地に戻り政務を行っていたところ、突然に王宮から呼び出しを受けた。
何事かと王都の邸宅へ急ぎ戻れば、執事長から聞かされた息子の不始末。
ネスが提出した課題を見た王太子殿下から命を受けた文官が、ゴリーペの数学書を国宝扱いで管理したいと訪れた。
が、そんな書物に心当たりは無く、使用人総出で屋敷中を捜索したが出てこなかった。
改めてネスに聞くと、その課題レポートはペニシフィン子爵家の令嬢から受け取ったとのことだった。
「お前が課題を自分の力でやろうが他人の力でやろうが、それ自体は関係ない!
ペニシフィンの娘ならば我が家には借りが大量にあるから課題をやらせたところで訴えはすまい!
問題なのは、その行為を他の者に攻撃されることだ!」
王立学院の講堂壇上にてネスは王太子殿下から直接賛辞を受け取った。
それも全教員全生徒の眼前にてだ。
それがまやかしだったなど、これ以上の恥はない。
セイシェル侯爵家を快く思わない勢力からは王家侮辱罪に問うべきとの声すら出ている。
「正式処分が決定するまで無期限の謹慎ということだ!
しばらくは自室で反省でも…」
ドアがノックされたことで𠮟責を中断する。
「旦那様、執事長ですが…」
「取り込んでいる、後にしてくれ。」
「失礼します。」
セイシェル侯爵の返事に反し、一方的に開くドア。
ドアの入り口には困惑した表情の執事長。
そして、その横をすり抜け部屋に入ってくる数名。
「おい、無礼であろう!
しかも貴族の邸宅で帯剣とは!
貴様どこの部署だ、正式に抗議する!」
合計7名、全員が揃いの白い胸当てと剣を装備している。
胸当ての左に彫られているのは女神の横顔。
白い胸当ては王宮近衛兵のものだが、その女神の紋章はセイシェル侯爵も見覚えがなかった。
「改めまして、失礼します。
閣下、自分は王国近衛師団憲兵大隊第二憲兵中隊副長のフェイスであります。」
「憲兵隊?
憲兵が何の用だ!」
「はい閣下。」
フェイスと名乗った女性は悪びれる様子もなく。
「23万7520ゴールドについて、ご説明を。」
謎の金額を口にした。
意味が分からず、わずかに沈黙が流れる。
「…何だ、それは。」
「お分かりで無い?」
「だから尋ねているのだろうが!
早く答えんか!」
怒鳴り声に、少し間をおいて。
「セイシェル侯爵家の家令や執事ら数名の名義で、共和国に開設している銀行口座の預金残高です。
言うまでもなく王国民が他国で口座を開設することは違法ではありません。
貿易など商取引するには口座がなければ決済も一苦労ですからね。
ただ…23万7520ゴールド。
家令や執事の給金や個人的な投資運用資金としては、いささか莫大過ぎると思うのですが?」
その言葉に一瞬で顔面蒼白になる侯爵。
「セイシェル侯爵家の領地には金山がありましたね。
もちろん金山は国の直轄地ですから、その産出された金は当然国庫に帰属すべき物なわけですが。
ただ実際のところ金鉱石がどれだけ掘られ精錬されたかについては、その場においてしか分かりません。
とはいえ、もし仮に掘り出されたと記録された量と国庫に納められた量が一致しないとするならば。
その消えた金は別に精錬され、運搬され、換金されたと考えるのが自然でしょうね。」
冷汗の止まらない侯爵を睨みつけながら、たすき掛けにした鞄から紙を取り出す。
「閣下、王宮への出頭命令書です。
共和国の口座について、国王陛下は非常に興味をお持ちだそうです。
閣下をはじめ奥様や使用人数名に対して身柄拘束の許可も出ていますので直ちに連行します。
なお奥様はバーナー侯爵家でお茶会でしたね。
そちらは第三憲兵中隊が向かっておりますので、奥様とは王宮でお会いできると思います。」
歩み寄った憲兵に促され侯爵が連れ出される。
ただ茫然と床に座り込んだままのネスに対し。
「国王陛下の命ですので、恐れながら父上殿にはご同行頂きます。
疑惑が解消されれば直ちに帰宅されます。
ただ、そうならなければ残念ながら貴族法廷にてお会いすることになるでしょう。」
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