とある侯爵家が滅亡するまでの物語

レイちゃん

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第二章:本編(真)

曇天に差す一筋の光

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セシアが王立学院から一時帰宅した際、ペニシフィン子爵夫妻は非常に驚いた。
必ずしも優秀と呼べる成績ではないにせよ、王室の名誉を汚したとして無期限の謹慎処分を受けるような娘ではなかったからだ。
当然に理由を問いただし、そして娘の口から語られた内容に子爵夫妻は泣き崩れた。
マーサもまたセシアの側にいながら苦しみに全く気付かなかった自分を責めた。
テキストやノートは絶対に触らせなかったし、毎日夜遅く、もしかすると早朝にも机に向かっている姿を見た。
しかしそれは王立学院が国家のエリートを養成する機関であり、当然厳しい課題を出されると思っていたから。
まさか二人分の課題を仕上げていたなど思いもしなかった。

部屋に閉じこもった娘が万が一の行動を起こさないよう、マーサを側に置いて見張らせ。
そして子爵夫妻もまた沈痛な面持ちで夫婦の寝室へ籠った。
娘が何も言わずセイシェル侯爵家子息の言葉に従った理由は痛いほど分かる。
莫大な援助が無ければ既にペニシフィン子爵家は没落している。
使用人とその家族は路頭に迷い、領民は大混乱に陥る。
元々自分で抱え込む性格の娘が「私さえ我慢すれば」と思うのは、貴族としてよく分かる。
しかし同時に、娘に苦しみを強いた遠因もまた自分たちではないのか。
その答えは出なかった。





お通夜のような雰囲気が続いた数日後の朝、ヴァルト子爵夫妻と子息カイの訪問を受けた。
カイはセシアの婚約者として王立学院から特別に外出の許可を得ていると言った。
ヴァルト子爵夫妻とカイの固い表情に、ペニシフィン子爵夫妻は婚約解消の申し入れだと思った。
たとえセシアから真実をカイに伝え、それでも結婚したいと言われていると聞いていても。
ネスの行為に加え王立学院からの謹慎処分、それも今後更なる処分も予想されれば、無理もないことだった。

他者から辱めを受け、更に王立学院を退学処分にでもなれば。
貴族の結婚相手という意味に限れば、セシアの評価は地に落ちる。
貴族の結婚は本人の意思よりも家の事情が優先する、それは常識だった。
いくら親しい仲とはいえヴァルト子爵側にこの縁談を受けなくてはならない理由は無いはずだ。
死刑宣告を受けるような気持ちでセシアを呼び、その言葉を受け入れようと覚悟した。


しかしヴァルト子爵の言葉は婚約解消ではなく結婚の申し入れだった。
信じられず、改めて尋ねたペニシフィン子爵に対し。


「御令嬢セシア様との結婚を、どうかお許しください。
 甚だ若輩者ですが、私はセシア様との結婚を切に望んでおります。」

「カイ殿…よろしいのですか…
 セシアは王立学院に今後通えるかどうかも分からず…
 それに、その…なのでしょう…?」

「恐れながらペニシフィン子爵閣下。
 私にとって重要なのは、セシア様の気持ちであり、閣下御夫婦の許可です。
 セイシェル侯爵家に連なる者は。」

その言葉に母と娘は泣き崩れた。

「どうだろうか、ペニシフィン子爵殿。
 愚息もこう言っているし、何より同じく北方の領で放牧に汗する仲ではないですか。
 許可してはくれまいだろうか。」




庭のテーブルで二人きりで話す子供たちを眺めながら、二組の夫妻もまた色々なことを話した。
元々親交が深かったが、これからは親戚になる。
それ故に話しておかねばならないことは多々あった。
特にペニシフィン子爵家が銅山開発のために抱えた多額の借財は懸念であった。
セイシェル侯爵家からは既に援助が完了しており、後は長期間に渡って返済を続けることになる。
しかし銅山で問題が起きれば返済計画どころか子爵家の財務状況すら破綻しかねない。
とはいえ主要産業であるチーズを取り巻く状況は非常に芳しくなく、ヴァルト子爵家も他家を援助する余裕など無かった。
なのでセシアはヴァルド子爵家へ嫁いでいれば、最悪の場合は縁切りしてしまえば法的に累が及ぶことは回避できる。

話は尽きず悩みも尽きないが、ただせめて今日だけは子供たちの未来を語りたい。
いい機会だとペニシフィン子爵は夕食までの滞在を提案し、ヴァルド子爵もまたそれに賛同した。
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