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第二章:本編
紛失事故
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「え…?」
「本当にごめんなさい!」
3週間近く、寮で過ごす時間の多くをリシア様と一緒に課題に費やした。
そして分からない部分を教官に相談したいからとレポートノートをリシア様が持ち出した。
そのノートを丸ごと紛失するなんて誰が想像しようか。
「もしかしたらメイドが誤ってゴミとして処分してしまったのかもしれません。
何とお詫びしていいか…」
「…とにかく、今は復元することが優先です。
幸い私の本は手元にあります。
下書きやメモを集めてください。
記憶も頼りに、戻せるところまで戻しましょう。」
「あの、そのことなのですが!」
呼び止めるような声に、さすがに私の動きも止まる。
「今から全てを書き戻して、更に仕上げるのは不可能です。
私の不手際なのに言える立場ではないのは重々承知していますが…
こうなっては、たとえ内容が簡素になっても残り時間で仕上げられるものに変更するしか…」
「待ってください。」
今、強く思ったことがある。
先日のリャム様の時もそうだったけど、おそらく私は逆境になると逆に頭が冷えるタイプだ。
血の気が引くというより、余分な血が脳から落ちて逆に脳がフル回転するような。
「リシア様。
何か私に隠していること、ありませんか?」
「えっ…」
「本来なら3週間分の努力をどうにか生かそうと考えるはず。
なのに、その努力をわざわざ捨てて無駄にしようとするのは不自然です。」
リシア様は視線をずらし、お詫びの言葉を繰り返す。
ただ、それは答えになっていない。
(それにしても…分からないのは、何でそんな自ら評価を落とすようなことをするのか…)
今度の評価はペアで出される。
当然内容が稚拙だとリシア様の成績にも跳ね返る。
そして私もリシア様も成績優秀とは言い難いので取れる分はしっかりおさえないと進級に関わる。
もしこれが故意なのだとすれば、必ず動機があるはずだ。
(ただリシア様に恨みを買うような覚えも無いんだよな…)
そもそもリシア様と会ったのも、この学園に来てからだ。
それ以前には接点が無いし、それ以後も何度かペアを組んだだけだ。
少なくとも自らの成績をも犠牲にして私の成績を落とす理由が分からない。
(ペニシフィン子爵家自体もフィッツ男爵家とは怨恨は無いはず…
いや…私が知らないだけで両親や義妹が何かやっているのかも…
あるいは…)
憲兵隊や貴族法廷の調査官はリャム様たちの失踪に私が関与していないと思っている。
実際に関与していないのだから、それを示す証拠が出てくるわけがない。
しかしセイシェル侯爵家など被害者と繋がりの深い人たちがどう思うかは別問題だ。
たとえ理性では分かっていても感情が抑えきれないことは多々ある。
もしセシア様がセイシェル侯爵家かリャム様個人に多大な恩があれば、それは十分な動機になる。
「一つ確認なのですが。
まさかセイシェル侯爵家は関係しませんよね?」
「嘘、そんな…
誰から聞いたのですか!?」
…あぁ、ビンゴだ。
どうしようもないくらい、ビンゴだ。
「リシア様。」
目を見開くリシア様に。
「実は最初からおかしいと思ったんです。
メイドが、仕える主人の勉学に関するものを勝手に処分するわけないでしょう。
もちろん不手際を起こすメイドも中にはいるかもしれません。
でも、王立学院に連れてくるようなメイドがそんな無能なわけがない。」
理由なんて分からない、想像もつかない。
だったら、もう本人に自白してもらう。
こういうのはハッタリだ。
たとえ手にしているのがブタでも、涼しい顔してフルハウスを張っていると思わせれば、後は相手が勝手に降りてくれる。
「理由の内容にもよりますが、最低限の秘密は守ります。
場合によっては課題の変更も飲みましょう。
だから、何もかも正直に答えてください。
もし先ほどみたいに嘘をついて、私がそれを見破ったら。」
完全に怯えるリシア様に、心を鬼にしてダメ押し。
「教官に報告すると共にフィッツ男爵家としてセイシェル侯爵家に抗議します。
その時はリシア様に同行してもらいますから、ご実家にも少なからず影響が出るとお覚悟ください。」
「本当にごめんなさい!」
3週間近く、寮で過ごす時間の多くをリシア様と一緒に課題に費やした。
そして分からない部分を教官に相談したいからとレポートノートをリシア様が持ち出した。
そのノートを丸ごと紛失するなんて誰が想像しようか。
「もしかしたらメイドが誤ってゴミとして処分してしまったのかもしれません。
何とお詫びしていいか…」
「…とにかく、今は復元することが優先です。
幸い私の本は手元にあります。
下書きやメモを集めてください。
記憶も頼りに、戻せるところまで戻しましょう。」
「あの、そのことなのですが!」
呼び止めるような声に、さすがに私の動きも止まる。
「今から全てを書き戻して、更に仕上げるのは不可能です。
私の不手際なのに言える立場ではないのは重々承知していますが…
こうなっては、たとえ内容が簡素になっても残り時間で仕上げられるものに変更するしか…」
「待ってください。」
今、強く思ったことがある。
先日のリャム様の時もそうだったけど、おそらく私は逆境になると逆に頭が冷えるタイプだ。
血の気が引くというより、余分な血が脳から落ちて逆に脳がフル回転するような。
「リシア様。
何か私に隠していること、ありませんか?」
「えっ…」
「本来なら3週間分の努力をどうにか生かそうと考えるはず。
なのに、その努力をわざわざ捨てて無駄にしようとするのは不自然です。」
リシア様は視線をずらし、お詫びの言葉を繰り返す。
ただ、それは答えになっていない。
(それにしても…分からないのは、何でそんな自ら評価を落とすようなことをするのか…)
今度の評価はペアで出される。
当然内容が稚拙だとリシア様の成績にも跳ね返る。
そして私もリシア様も成績優秀とは言い難いので取れる分はしっかりおさえないと進級に関わる。
もしこれが故意なのだとすれば、必ず動機があるはずだ。
(ただリシア様に恨みを買うような覚えも無いんだよな…)
そもそもリシア様と会ったのも、この学園に来てからだ。
それ以前には接点が無いし、それ以後も何度かペアを組んだだけだ。
少なくとも自らの成績をも犠牲にして私の成績を落とす理由が分からない。
(ペニシフィン子爵家自体もフィッツ男爵家とは怨恨は無いはず…
いや…私が知らないだけで両親や義妹が何かやっているのかも…
あるいは…)
憲兵隊や貴族法廷の調査官はリャム様たちの失踪に私が関与していないと思っている。
実際に関与していないのだから、それを示す証拠が出てくるわけがない。
しかしセイシェル侯爵家など被害者と繋がりの深い人たちがどう思うかは別問題だ。
たとえ理性では分かっていても感情が抑えきれないことは多々ある。
もしセシア様がセイシェル侯爵家かリャム様個人に多大な恩があれば、それは十分な動機になる。
「一つ確認なのですが。
まさかセイシェル侯爵家は関係しませんよね?」
「嘘、そんな…
誰から聞いたのですか!?」
…あぁ、ビンゴだ。
どうしようもないくらい、ビンゴだ。
「リシア様。」
目を見開くリシア様に。
「実は最初からおかしいと思ったんです。
メイドが、仕える主人の勉学に関するものを勝手に処分するわけないでしょう。
もちろん不手際を起こすメイドも中にはいるかもしれません。
でも、王立学院に連れてくるようなメイドがそんな無能なわけがない。」
理由なんて分からない、想像もつかない。
だったら、もう本人に自白してもらう。
こういうのはハッタリだ。
たとえ手にしているのがブタでも、涼しい顔してフルハウスを張っていると思わせれば、後は相手が勝手に降りてくれる。
「理由の内容にもよりますが、最低限の秘密は守ります。
場合によっては課題の変更も飲みましょう。
だから、何もかも正直に答えてください。
もし先ほどみたいに嘘をついて、私がそれを見破ったら。」
完全に怯えるリシア様に、心を鬼にしてダメ押し。
「教官に報告すると共にフィッツ男爵家としてセイシェル侯爵家に抗議します。
その時はリシア様に同行してもらいますから、ご実家にも少なからず影響が出るとお覚悟ください。」
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