とある侯爵家が滅亡するまでの物語

レイちゃん

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第二章:本編

ペニシフィン子爵家のリシア

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「さて皆さん。
 来月は王立学院の設立記念日があります。
 ご存じの通り、国王陛下が皆さんのためにこの学院を設立されたわけですが…
 この御意思に感謝の意を表す日でもあります。」

クラス全員の前で女性教官が夕礼を行う。

「皆さんは日々学問に限らず、ダンスやマナーに至るまで様々な研鑽を重ねています。
 ですので、その成果を示すことが国王陛下への感謝です。
 学院は困難に直面していますが、この様な時だからこそです。」

セイシェル侯爵家のリャム様以下、貴族令嬢5名の失踪事件。
王宮の警備体制に近いとさえ言われる王立学院に不審者が侵入しただけでも大事件なのに、失踪だ。
発生からしばらくの間は大騒動だった。
貴族法廷の調査担当官や国王陛下直属の憲兵隊が入れ替わり立ち代わり。
大勢の近衛兵が警戒任務に派遣され、物々しい雰囲気も緊張に拍車をかけた。

(その割には、あまり取り調べされなかったな…)

おそらくリャム様と最後にトラブルになったのは私だ。
だから第一容疑者になると思ったのに、王宮に連行されるようなことも個室で監視されることも無かった。
取り調べも他の人たちと同じくらい。
もしかすると不審者が侵入した時に近くの部屋にいた方々の方が長く話を聞かれたかもしれない。


ただまぁ結果として。
私に対する周囲の距離は、残念ながら更に広まった気がする。


不祥事を起こし断罪された男爵家の令嬢が、実は男爵家の家督を相続して当主になっていた。
それはまぁ付き合い方にも迷うだろう。

「そういうわけですので、普段のパートナーと共同発表するように。
 共同発表とするのか、どちらかがメインで補助につくのか、形は問いません。
 しかし成績は両名で審査します。
 なお団体競技はチーム全体で審査します。
 当日は教育大臣をはじめ来賓の皆様がお越しです、留意してください。」

夕礼が終わり全員が帰路に就く。
多くがパートナーと方針を決めるべく、学院内や寮のどこで会うか話している。
そして。

「あ、あの…閣下、どうしましょう。」

彼女にとって幸か不幸か、席が近かったためにそうなってしまった私のパートナー。
ペニシフィン子爵家のリシア様。

「あの、リシア様。
 出来れば”閣下”は止めて頂けるとありがたいのですが。」

「ごめんなさい。
 でも閣下…あ…その、私のことも様付けなので…」

性格なのか、雰囲気も発言も気弱なものが多い。
もしかしたら爵位を持つ私の不興を買えば、どんな目に合うかと恐れているのだろうか。

(貴族だからって、そんな権力ないのだけどなぁ…)

侯爵クラスの上級貴族ならともかく、私は公務にも就けない貧乏男爵だ。
魅力もコネも皆無どころかマイナスなので王宮の文官に圧力をかけることもできない。
まぁ狭いながらも領地は持っているので、領地すら持たない男爵よりかは上かもしれないが。

「とりあえず帰りながら考えましょう。」

とはいえ、私もリシア様も運動は得意ではない。
ダンスはどうにか合格、乗馬は追試験でようやく合格、テニスやフェンシングは追試験の常連。
ポロやクロケットといった団体競技は、そもそも選択すらしていない。
私がチームに加わって何かプラスがあるというのか。
なので自然と文科系の個人発表ものになる。

「…何か、研究とか書物の感想や考察、というのはどうでしょうか。」

「あ、いいと思います…」

そして再び沈黙。

「じゃあ、リシア様は学院の図書館で何かいいのがないか見てください。
 ちょうど週末のお休みなので、私は少し知人き心当たりを尋ねてきます。」

「分かりました。」
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