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第一章:再び本編
吸血鬼の従者のパティ
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キャティの鋭い声に先ほどまで令嬢の外見だった一行が飛び出していく。
その直後、廊下から混乱した声が響いてくる。
「いいの?
殺さなくて。」
「あなたでさえ抵抗できない、私の言霊で外見を弄ったのよ?
元の姿に戻せるのは、私以外にはお嬢様しかいないわよ。」
涼しげな笑顔に、冷たい目。
「これは踏み絵よ。
あの国王は、お嬢様と敵対を選ぶのか、それとも静観か。
…そうね。
御前に跪いて靴にキスでもすれば、寛大なお嬢様もリャムとかいう小娘の非礼を許すかもしれないわね。」
「待って。
それ、罰じゃないかも。」
あの深紅の瞳で見つめられ、組んだ足を差し出され、跪き、恭しく両手を添えて足の甲に口づけする。
身も心も支配されているという悦び、首筋に牙を立てられるのと同格の、まるで濃密な甘露のようで。
「…うん、やっぱりそれご褒美じゃないの。」
キャティやスーならともかく、何でそんな甘美なご褒美を国王に与えないといけないのか。
そんな真面目な私に、なぜかキャティは少々呆れた表情で。
「…あなたの主観はともかくとして。
とりあえず今回の一件は、あの小娘が主犯なんでしょ。」
「うん、背後関係なし。
詳細まで知っているのが数名いるけど。」
「で、あれば、よ。
あの小娘が何を喚こうと自力で助かることは叶わず。
いくら自分がリャムだと叫ぼうが、全く違う外見で、誰がそれを信じる?
ま、ひとまずは不審者として投獄でしょうね。」
国の中枢たる貴族家の子女が集う学院だ、その重要度は最高レベル。
そこへ不審者が、それも侯爵家令嬢の部屋から出てきて、しかもその部屋の主は行方不明。
相当厳しい尋問の末、おそらくは極刑か終身刑。
まぁ”お嬢様の従者”に手を出したのだから、妥当な量刑だろう。
「あの小娘が吸血鬼だ何だと騒げば、国王は気が付く。
もし助けるだけの価値があるのなら、知恵を絞って助命するでしょうね。
…もしかしたら、お嬢様はそこまで考えた上で状況を楽しまれているのかもしれないわ。」
「じゃあ、スーには?」
「内緒よ。
このことを知れば、あの小娘の助命を嘆願するかもしれないわ。
そもそもお嬢様の従者なら、私たちが姿を変えていることくらい見破って欲しいわね。
…あと、いくら童貞処女が転がっているからって、あなたも好き勝手に吸っちゃダメよ?」
それほど見境ないわけでは無い。
第一そんなことをすれば、お嬢様の厳しい折檻が待っているだろう。
”お仕置き”はまだしも、”折檻”や”失望”は耐えられない。
「じゃあそろそろヌルの私室に戻ろう。
誰かに見られると面倒だし。」
「そうね。
あぁそうだパティ。」
『転移』しようとする私を呼び止めると、キャティはニッコリと。
「いい加減、今夜あたりエッチしましょうか。」
「…何で。」
天気の挨拶のような軽さのキャティに、呆れが存分に混ざった目つきで返す。
性格なのか生前の職業のせいか、この同僚はスポーツ感覚で私を押し倒そうとする。
「いや、ね。
男子寮の私室から喘ぎ声が全く聞こえないのも少し不審かと思って。」
余程の非常事態を除き、原則として学生寮は異性の立ち入りが厳禁である。
唯一の例外は男子寮におけるそれぞれのお付きのメイドのみ。
いずれにせよ貴族は妊娠しない。
「それに、お嬢様だって時々戯れに性別変換されているでしょう。
あなただってそれほど嫌ではないと思うのだけれど。」
「…それは、まぁ。」
目線をずらし。
「でも、私はお嬢様もキャティも、本当の姿の方が好き。」
一瞬キャティは目をパチクリとさせ。
次の瞬間には腕を掴んでいた。
「何この可愛い生き物!?
もう抱く、めちゃくちゃに抱く!
意識が何回か飛ぶかもしれないけれど、知ったことか!
ほら、部屋のベッドに行くよ!」
「ちょっ、待っ…!」
最初の警備要員が玄関から不審者と押し問答するメイドの元へ駆けつけたのは、メイドが悲鳴を上げた数分後。
突然の事態に混乱する廊下の人込みをかき分け、不審者の姿に剣を抜き。
そして「お嬢様を!」と叫ぶ声に部屋へ飛び込むと。
そこには誰の姿も無かった。
その直後、廊下から混乱した声が響いてくる。
「いいの?
殺さなくて。」
「あなたでさえ抵抗できない、私の言霊で外見を弄ったのよ?
元の姿に戻せるのは、私以外にはお嬢様しかいないわよ。」
涼しげな笑顔に、冷たい目。
「これは踏み絵よ。
あの国王は、お嬢様と敵対を選ぶのか、それとも静観か。
…そうね。
御前に跪いて靴にキスでもすれば、寛大なお嬢様もリャムとかいう小娘の非礼を許すかもしれないわね。」
「待って。
それ、罰じゃないかも。」
あの深紅の瞳で見つめられ、組んだ足を差し出され、跪き、恭しく両手を添えて足の甲に口づけする。
身も心も支配されているという悦び、首筋に牙を立てられるのと同格の、まるで濃密な甘露のようで。
「…うん、やっぱりそれご褒美じゃないの。」
キャティやスーならともかく、何でそんな甘美なご褒美を国王に与えないといけないのか。
そんな真面目な私に、なぜかキャティは少々呆れた表情で。
「…あなたの主観はともかくとして。
とりあえず今回の一件は、あの小娘が主犯なんでしょ。」
「うん、背後関係なし。
詳細まで知っているのが数名いるけど。」
「で、あれば、よ。
あの小娘が何を喚こうと自力で助かることは叶わず。
いくら自分がリャムだと叫ぼうが、全く違う外見で、誰がそれを信じる?
ま、ひとまずは不審者として投獄でしょうね。」
国の中枢たる貴族家の子女が集う学院だ、その重要度は最高レベル。
そこへ不審者が、それも侯爵家令嬢の部屋から出てきて、しかもその部屋の主は行方不明。
相当厳しい尋問の末、おそらくは極刑か終身刑。
まぁ”お嬢様の従者”に手を出したのだから、妥当な量刑だろう。
「あの小娘が吸血鬼だ何だと騒げば、国王は気が付く。
もし助けるだけの価値があるのなら、知恵を絞って助命するでしょうね。
…もしかしたら、お嬢様はそこまで考えた上で状況を楽しまれているのかもしれないわ。」
「じゃあ、スーには?」
「内緒よ。
このことを知れば、あの小娘の助命を嘆願するかもしれないわ。
そもそもお嬢様の従者なら、私たちが姿を変えていることくらい見破って欲しいわね。
…あと、いくら童貞処女が転がっているからって、あなたも好き勝手に吸っちゃダメよ?」
それほど見境ないわけでは無い。
第一そんなことをすれば、お嬢様の厳しい折檻が待っているだろう。
”お仕置き”はまだしも、”折檻”や”失望”は耐えられない。
「じゃあそろそろヌルの私室に戻ろう。
誰かに見られると面倒だし。」
「そうね。
あぁそうだパティ。」
『転移』しようとする私を呼び止めると、キャティはニッコリと。
「いい加減、今夜あたりエッチしましょうか。」
「…何で。」
天気の挨拶のような軽さのキャティに、呆れが存分に混ざった目つきで返す。
性格なのか生前の職業のせいか、この同僚はスポーツ感覚で私を押し倒そうとする。
「いや、ね。
男子寮の私室から喘ぎ声が全く聞こえないのも少し不審かと思って。」
余程の非常事態を除き、原則として学生寮は異性の立ち入りが厳禁である。
唯一の例外は男子寮におけるそれぞれのお付きのメイドのみ。
いずれにせよ貴族は妊娠しない。
「それに、お嬢様だって時々戯れに性別変換されているでしょう。
あなただってそれほど嫌ではないと思うのだけれど。」
「…それは、まぁ。」
目線をずらし。
「でも、私はお嬢様もキャティも、本当の姿の方が好き。」
一瞬キャティは目をパチクリとさせ。
次の瞬間には腕を掴んでいた。
「何この可愛い生き物!?
もう抱く、めちゃくちゃに抱く!
意識が何回か飛ぶかもしれないけれど、知ったことか!
ほら、部屋のベッドに行くよ!」
「ちょっ、待っ…!」
最初の警備要員が玄関から不審者と押し問答するメイドの元へ駆けつけたのは、メイドが悲鳴を上げた数分後。
突然の事態に混乱する廊下の人込みをかき分け、不審者の姿に剣を抜き。
そして「お嬢様を!」と叫ぶ声に部屋へ飛び込むと。
そこには誰の姿も無かった。
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