とある侯爵家が滅亡するまでの物語

レイちゃん

文字の大きさ
上 下
11 / 48
第一章:再び本編

吸血鬼の従者のキャティ

しおりを挟む
「何なの、一体!?」

「そう大きな声を出すものではありませんよ。
 淑女教育で教わりませんでした?
 …もしかしたら今の時代、貴族の常識も変わっているのかしら。」

何かの手品のように、いきなり現れたメイドにいよいよ私たちもパニックとなるが。


「五月蠅い、ちょっと『黙れ』」


もう一人のメイドが呟いた瞬間、部屋が一瞬で沈黙する。
声を上げようとしても、ただ口から空気が漏れるのみ。
まるで見えない手で口をふさがれたように、しゃべり方を忘れたように。

そのメイドは身長が頭一つ分以上も縮み、顔つきは格段に幼くなり、体つきも全く違っている。
そして元々寡黙そうだった雰囲気は、まるで抜き身の剣のように恐ろしくなり。
ヌル様メイドに至っては、もはや性別すら違う。

「ありがとう、パティ。
 さて皆様。
 基本的に、私たちの主はこの王国のことには干渉しません。
 そう、それが例え貴族家当主への詐欺行為であったとしてもね。
 、私たちには関係のないことですもの。」

何が起こっているのか理解できない。
ただ、目の前にいるメイドが超常の存在であることは分かった。
一瞬で声を出せなくした、このメイドたちは。

「それで、殺せばいいの?」

「まぁ待ちなさい。
 せめて言い訳くらい聞いてあげましょう。
 誰か一人、喋られるようにしてあげて。」

「そんな面倒かけなくても、。」

メイドは子爵家のティルーに歩み寄ると、腕を掴んで引き寄せる。
数秒ほど抱き寄せたかと思うと。

「…ふん。」

床に崩れ落ちるティルーを一瞥して。


「想像通り、小遣い銭欲しさに詐欺を仕掛けたみたい。
 発案と大まかな筋書きは、このリャムって女。」


冷ややかな目のまま、口元に一筋の血を垂らしながら。
茫然と床を見ると、ティルーの首筋には一対の小さな噛み跡から血が滲み。


(…吸血鬼!?)


「手間が省けたわね。
 私もそれほど暇ではないから良かったけれど。
 …さて。」

この悪夢のような数分間の、最後の絶望として。

「あなた方に抗うすべが存在しないことは理解できました?
 どんなほら吹きでも、
 そして、私たちはを生み出し、それをと完璧に誤認させることが出来る。
 今こうして手品の種明かしをしたこの瞬間においても、抗議の声も絶望の叫びをあげる権利も奪われ。」

そして、悪魔としか形容できない笑顔で。

「愚かにもスーに、つまり、対し宣戦布告したのですから。」

「死ぬまで後悔しろ、というか速やかに死ね。」

私たちは一体ケンカを売ったというのか。




「ここじゃ目立つから、どこかに飛ばしてから殺す。」

「猪突猛進の突破力は買うけれど、それだけじゃダメだとお嬢様に言われたでしょ?
 スーが従者に加わった以上、こうして貴族と関わる機会も増えるのだから。」

「そう言われても猟犬は狩ることこそが本分だもの。
 殺して晒せば、スーにちょっかいを出そうという愚か者はいなくなる。」

「…あなたは気高きお嬢様に暴君の汚名を着せたいの?」

その名前に、いよいよ私たちの思考が絶望で停止する。
軽く金を巻き上げてやろうと思った相手は爵位を持ち、吸血鬼と関係を持ち。
そして許しを請おうにも、未だに声が出ない。

「見せしめだなんて、ギャングじゃあるまいし。
 お嬢様に伝えたら”つまらない”と、お仕置きされるわよ。」

その言葉に、もしかしたら許されるのかと思ったが。


「直接的な示威行為はダメ。
 悪意を持つ者が漠然とした不安を感じる程度にしなきゃ。」


一抹の希望が再び消える。

「こういうのはどうかしら。
 私は、私を架空の貴族だと誤認させた。
 外見だけでなく、本当に実在するというレベルで。
 …そうね、あなたたち『』」

メイドの指が鳴らされた。
その瞬間、周囲に立つメンバーの姿が変わる。
髪型も、髪の色も、目の色も肌の色も、身長も体型も、何もかも。
こうして一緒にいなければ、同じ貴族令嬢だとは思えないだろう。

そして、目の前の女性友人の表情を見れば、おそらくは私も同様に。

「行っていいわよ。
 パティの言霊この部屋から出れば効力は消える。
 …行きなさい!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

処理中です...