とある侯爵家が滅亡するまでの物語

レイちゃん

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第一章:再び本編

セイシェル侯爵家令嬢リャム

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(どうしてこうなったっ…!)




王立学院の学生寮、私の部屋に派閥メンバーが集まっていた。
派閥には男子生徒もいるものの、さすがに女子寮の敷地には入れない。
奇しくも数日前に食堂でスーに詰め寄ったメンバーばかり。
内容が内容だけに、私の身の回りの世話をするメイドも外させている。

「どうするのですか、リャム様。」

その中心で私は頭を抱えていた。
まさか、あのスーが男爵家の当主だなんて考えてもいなかった。
状況は非常にまずい。

「誰か、他の派閥から良い返事は無かったの?」

その言葉に全員が目をそらす。
私も同じ。




普段から懇意にしている派閥を訪ねたが、相談することすら拒絶された。
唯一、同じ侯爵家の友人が教えてくれた。

「リャムさん…あなた、本当にフィッツ男爵家のフィアンという方に資金を持ち逃げされたの?」

嘘である。
先代の男爵があちこちに娘を売り込んでいたので、フィアという娘と面識はあった。
しかしグループに入れたところで何のメリットも無いので、派閥には加えていない。

その男爵があの不祥事を起こし、その姉が王立学院に入学してくる。

普通なら御家断絶となる大罪だ。
恐らくは遠縁の誰かが家督を継ぎ、高位の貴族に懇願して娘を入学させたのだろう。
そう思ったから、そんな娘から、そう思った。
とはいえ、そんなことを友人に軽々しく話せるわけもなく。

「…そう。」

沈黙する私に、その友人は何かを悟った様子で。

「一つだけ、お教えするわ。
 私も詳細は知らないの。
 ただ私やメンバーの実家からの情報を総合すると、あなたよりは分かっていると思う。」

周囲に誰もいないのに、その友人は声をさらに殺した。

「フィッツ男爵家の家督は、確かにあのスーという子が継いでいるわ。
 そして、その代官はアラヤという人。
 いくつもの貴族家に仕え、最後には破綻寸前だったトロット公爵家の財政をたった2年で立て直した。
 これは父が銀行の人から聞いたそうなのだけれど…
 トロット公爵家の莫大な赤字、それを埋めるだけの額を共和国の先物相場で稼ぎ出したそうよ。
 何も違法では無いけれど、おかげで穀物市場が荒れて共和国は帝国と紛争直前まで行ったって。
 だから共和国の経済界では今でも”王国のガラガラヘビ”と恐れられているそうよ。」




「では、フィッツ男爵家にはトロット公爵家が後ろ盾となっていると!?」

「そういうわけでは、ない…と、思うのだけれど…」

私が聞いた話に全員の顔が真っ青になる。
爵位では侯爵の一つ上とはいえ、公爵とは大きな差がある。
王女降嫁などで血筋としても王族に近く、領地も王家直轄地と遜色ない。

(トロット公爵が肩入れする理由も想像できないけれど…
 だとすれば、貧乏男爵がそんな逸材を代官に使えるのは何故…
 報酬だって高額になるだろうに…)

正直なところ、あのスーという娘に何か恨みがあったわけではない。
少し自由になる”お小遣い”が欲しかっただけだ。

だが貧乏男爵家の小娘と思っていた相手は、ただの令嬢ではなく

それに騙しを仕掛けたのだ。
悪いことに場所は食堂、目撃者も多数、もみ消しは不可能。

状況は非常にまずい。
激怒されることを覚悟でセイシェル侯爵父上に打ち明けて、あのスーという娘に圧力泣き寝入りをとも考えた。
しかし、もし公爵家が絡んでいるのなら、そんな真似は出来ない。
王国に六家しかない公爵家が介入してくれば、最悪侯爵家実家にまで被害が及ぶ。

「とりあえず、つじつまを合わせましょう。
 あの男爵は、妹とは連絡が取れないようだった。
 代官に知られる前に”勘違い”で押し切ってしまいましょう。」

「そうですわね。」


「しかし、それも難しいのでは?」


その声に全員が振り返る。
ドアのそばにはファイ辺境伯家のヌル様がメイドを従えて立っていた。
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