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王都の日常

王都の画廊 2

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「いらっしゃいませ、お客様。
 デューイと申します。」

普段は倉庫番として裏方にいる少年が頭を下げた。
ヒューベアの頭に、熊の耳が小さく揺れる。

「初めまして、デューイ。
 この辺の作家を見せてくれるかしら。」

「かしこまりました。
 お客様、もしお時間を頂けるのでしたら、詳しくお話を願えませんか。」

デューイは改めて熱い紅茶と菓子を差し出し、ゆっくりと話を聞く。
予算、好みの画風、飾りたい場所と要望する大きさ、どういった印象を与えたいか、など。
熱心に話を聞き、メモを取り、好きな画家として画風が特徴的な宮廷画家の名が出たところで。

「その画風でしたら、この作家もいいのですが…
 こちらの作家にもお勧めの作品がございます。
 倉庫に在庫がございますので、お持ちしてもよろしいですか。」

「えぇ、お願いします。」

デューイは倉庫へと戻り、倉庫の奥から在庫を引っ張り出し、次々と台車に載せる。
15分ほどで、台車が戻ってきた。
少女はゆっくりと鑑賞し、いくつか感想を述べた。
買うことに決まった作品と感想を元に、別の作品も持ち出す。

1時間ほどで10枚の作品の購入が決まった。
中には、最初に少女が要望した作家よりも更に安い作品も含まれる。

「お客様、本日お持ち帰りですか?
 それとも、改めて後日に?」

「馬車で来ていますので、積んでくださるかしら。」

「承知いたしました。
 改めて額装を綺麗にさせて頂き、包装させて頂きます。」

「ありがとう。
 えっと、おいくらかしら。」


「定価ですと、2ゴールドと8540シルバーです。」


リストも計算尺も持たずに即答したデューイに、少女は驚く。

「あなた、会計係でも無いのに…頭がいいのね。」

「私は、こちらの商家に雇われている奴隷です。
 倉庫で日々整理をしていれば、だいたいの作品の価格は覚えてしまいますよ。
 あ、端数の40シルバーはサービスさせて頂きます。」

デューイはニコリと笑う。

「もし婚約や結婚のお祝いでしたら、店主のいる時にお越しください。
 ご祝儀として、割引させて頂きますよ。」

「その際には、そうするわね。
 デューイ、ここのお店の在庫は全て頭に入っているの?」

「倉庫番ですからね。
 作家名ごとだけでなく、大きさごと、値段ごと、雰囲気ごと…
 そういった複数の要素でリスト化して覚えれば、そう難しくもないですよ。」

さらりと言うが、難しくないわけがない。
それは少女にだって分かる。
少女は満足そうに微笑み、その表情にデューイも満足を覚える。





「今日はいい買い物をしたわ。
 必ず、また来るわね。」

エントランスホールで少女はデューイに声をかけた。

「お待ちしております。」

デューイも深々と頭を下げる。
それは、いつもの光景だった。
最も、絵画などそう毎日買うようなものではない。
次に少女が来るのは、お互いが忘れた頃になるだろう。
久しぶりに絵画談義が出来て楽しかったが、こればかりは仕方ない。
少女を見送ったデューイは、出納係に販売リストと預かった現金を手渡し、再び倉庫に戻っていった。





それが、普通の、この店も含めた画廊の日常だった。


ところが、その少女は翌日に再び来店したのであった。
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