13 / 23
エピローグ
帝国の
しおりを挟む
「どうしてこうなった…」
帝国ボン伯爵家の当主サーフは、答えの出ない疑問を口にした。
彼こそが王国侵攻軍の現場指揮官である。
これまで何度も侵略を繰り返し、それなりに結果も出してきた。
経費は帝国持ち、奪った物資の半分は侵攻軍の家々で分配、非常においしい仕事であった。
しかも王国内に放った密偵からは、ベガドリア男爵は
”王宮で何か失態をやらかしたが法的な処分等が難しい、そのような貴族を合法的かつ穏便に死罪にする手段”
と報告されていた。
だからこそ、今まで毎回ウォーミングアップ代わりに孤立無援の男爵兵を蹴散らしていた。
「それが今回は何だ…あんな少人数に…
こちらは伯爵家に子爵2家、男爵3家の連合軍1万だぞ。」
進撃ラッパと同時に突撃、蹂躙、いつもと変わらぬ王国との初戦。
なのに開戦と同時に騎兵隊がことごとく死に、地面がさく裂し、歩兵隊が宙を舞い。
絶えず地面が爆発し退路を断たれ。
そして敵陣から、鉄の筒を持った少年兵の集団が現れ。
『武器を捨て跪け!投降しろ!
指揮官は戦闘中止を下命しろ!』
取り囲む人込みから弓兵がボウガンを放ち、少年兵の胸を捉え。
重装歩兵の鎧すら貫く矢を、まるで軽装歩兵のような鎧が弾き飛ばし。
『弓兵だ!2時の方向、距離30!
グレネードランチャー!』
集団の一人が抱えた太めの筒が火を噴き。
矢を放った弓兵のいた一角は、周囲の近衛兵や軍馬も纏めて吹き飛び。
『最終警告!
これ以上の敵対行為には総力で反撃する!
指揮官は投降か虐殺か選べ!』
こう言われて選択の余地などなかった。
逃げようにも、戦闘開始直後から周囲の地面が謎の爆発を起こし続け。
敵前逃亡を図った兵士のほとんどは吹き飛ぶか、雨のごとく降ってきた鉄の矢で走れなくなった。
そして。
連行された先にいた、ベガドリア男爵を名乗る小娘は。
『あなた方は国際法に従い、生存者は私が管理する捕虜となりました。
しかしお恥ずかしいことに、貧しい私は全員を適切に管理できません。
なので負傷者を含め全員を奴隷として売り払います。』
悪魔みたいなことを口にした。
王国と帝国を行き来するアファーム商会に売るらしい。
帝国兵どころか、商会主も愕然としていたが。
ただ徴募兵や一般兵は金貨数枚から十数枚程度らしいので、帝国領に帰れば家族が買い戻すだろう。
蓄えがない者も友人から借金すれば奴隷商に支払って自由になれるだろう。
が。
『は?
貴族は別ですよ。
全員で金貨5万枚、それが身代金です。
侵略のおかげで領土が荒れ果ててしまって、復興にお金がかかるんです。』
「国王に頼めよ、そんなことは!」
男爵の言葉に、サーフは牢で独り叫ぶ。
いや分かっている。
復興に助力してくれるなら、そもそも戦死確定な地へなど送られない。
男爵領に大軍を駐留させ、侵略そのものを防ぐはずだ。
(だが、5万だと…)
払えるわけがない。
経費は帝国持ちとはいえ、死傷者家族への弔慰金や見舞金は貴族の負担だ。
更に領軍に多大な損害が出ており、軍馬や装具の調達から軍再編まで多額の負担がのしかかる。
領内の税率を増やしても赤字覚悟なのに、ここへ金貨5万枚が伸し掛かると地方経済が破綻する。
(そもそも、分かるだろう!
帝国の金貨1枚と王国の1ゴールドは、等価。
5万ゴールドなど公爵か辺境伯の予算だろう!?)
同行の伯爵と男爵の身代金が同額というわけにはいかない、それはメンツが許さない。
サーフの負担は1万枚前後になるだろうが、そんな蓄えなど無い。
『いくらアファーム商会が大手でも、金貨5万枚なんて一度に用立てできないらしいですからね。
ですので、出来るだけ早く直接支払って帰ってください。
家令あたりに伝令させて皇帝陛下にお願いすれば、5万枚くらい立て替えてくれるでしょう。』
サーフが戦った小娘は、悪魔をも超えた何からしい。
帝国ボン伯爵家の当主サーフは、答えの出ない疑問を口にした。
彼こそが王国侵攻軍の現場指揮官である。
これまで何度も侵略を繰り返し、それなりに結果も出してきた。
経費は帝国持ち、奪った物資の半分は侵攻軍の家々で分配、非常においしい仕事であった。
しかも王国内に放った密偵からは、ベガドリア男爵は
”王宮で何か失態をやらかしたが法的な処分等が難しい、そのような貴族を合法的かつ穏便に死罪にする手段”
と報告されていた。
だからこそ、今まで毎回ウォーミングアップ代わりに孤立無援の男爵兵を蹴散らしていた。
「それが今回は何だ…あんな少人数に…
こちらは伯爵家に子爵2家、男爵3家の連合軍1万だぞ。」
進撃ラッパと同時に突撃、蹂躙、いつもと変わらぬ王国との初戦。
なのに開戦と同時に騎兵隊がことごとく死に、地面がさく裂し、歩兵隊が宙を舞い。
絶えず地面が爆発し退路を断たれ。
そして敵陣から、鉄の筒を持った少年兵の集団が現れ。
『武器を捨て跪け!投降しろ!
指揮官は戦闘中止を下命しろ!』
取り囲む人込みから弓兵がボウガンを放ち、少年兵の胸を捉え。
重装歩兵の鎧すら貫く矢を、まるで軽装歩兵のような鎧が弾き飛ばし。
『弓兵だ!2時の方向、距離30!
グレネードランチャー!』
集団の一人が抱えた太めの筒が火を噴き。
矢を放った弓兵のいた一角は、周囲の近衛兵や軍馬も纏めて吹き飛び。
『最終警告!
これ以上の敵対行為には総力で反撃する!
指揮官は投降か虐殺か選べ!』
こう言われて選択の余地などなかった。
逃げようにも、戦闘開始直後から周囲の地面が謎の爆発を起こし続け。
敵前逃亡を図った兵士のほとんどは吹き飛ぶか、雨のごとく降ってきた鉄の矢で走れなくなった。
そして。
連行された先にいた、ベガドリア男爵を名乗る小娘は。
『あなた方は国際法に従い、生存者は私が管理する捕虜となりました。
しかしお恥ずかしいことに、貧しい私は全員を適切に管理できません。
なので負傷者を含め全員を奴隷として売り払います。』
悪魔みたいなことを口にした。
王国と帝国を行き来するアファーム商会に売るらしい。
帝国兵どころか、商会主も愕然としていたが。
ただ徴募兵や一般兵は金貨数枚から十数枚程度らしいので、帝国領に帰れば家族が買い戻すだろう。
蓄えがない者も友人から借金すれば奴隷商に支払って自由になれるだろう。
が。
『は?
貴族は別ですよ。
全員で金貨5万枚、それが身代金です。
侵略のおかげで領土が荒れ果ててしまって、復興にお金がかかるんです。』
「国王に頼めよ、そんなことは!」
男爵の言葉に、サーフは牢で独り叫ぶ。
いや分かっている。
復興に助力してくれるなら、そもそも戦死確定な地へなど送られない。
男爵領に大軍を駐留させ、侵略そのものを防ぐはずだ。
(だが、5万だと…)
払えるわけがない。
経費は帝国持ちとはいえ、死傷者家族への弔慰金や見舞金は貴族の負担だ。
更に領軍に多大な損害が出ており、軍馬や装具の調達から軍再編まで多額の負担がのしかかる。
領内の税率を増やしても赤字覚悟なのに、ここへ金貨5万枚が伸し掛かると地方経済が破綻する。
(そもそも、分かるだろう!
帝国の金貨1枚と王国の1ゴールドは、等価。
5万ゴールドなど公爵か辺境伯の予算だろう!?)
同行の伯爵と男爵の身代金が同額というわけにはいかない、それはメンツが許さない。
サーフの負担は1万枚前後になるだろうが、そんな蓄えなど無い。
『いくらアファーム商会が大手でも、金貨5万枚なんて一度に用立てできないらしいですからね。
ですので、出来るだけ早く直接支払って帰ってください。
家令あたりに伝令させて皇帝陛下にお願いすれば、5万枚くらい立て替えてくれるでしょう。』
サーフが戦った小娘は、悪魔をも超えた何からしい。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
高天神攻略の祝宴でしこたま飲まされた武田勝頼。翌朝、事の顛末を聞いた勝頼が採った行動とは?
俣彦
ファンタジー
高天神城攻略の祝宴が開かれた翌朝。武田勝頼が採った行動により、これまで疎遠となっていた武田四天王との関係が修復。一致団結し向かった先は長篠城。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
スキルシーフで異世界無双
三毛猫
ファンタジー
霧島大翔は会社員から異世界転生した。異世界転生していきなり合コンに参加する羽目になった。
合コンに参加している参加者の職業は勇者、冒険者、魔法使いというハイスペックなメンバーの中、大翔の職業は村人。
馬鹿にされ、追放されて辛すぎる合コンから異世界生活が始まり成り上がる。
※視点がコロコロ変わります
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる