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本編
400人で1万人を打ち倒すと、本気で考えている人が401人います
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「総員、気を付け!
これより男爵閣下より状況の説明がある!」
領館前の広場に奴隷たちが整列していた。
まるで測ったように等間隔、直立不動で、本当に微動だにせず。
ヒトも、ウサギやキツネの耳や尾を持つ亜人も、同じデザインの衣装に身を包み。
ただアレスタ様の言葉を待っていた。
何か月か前、ここにいたのはボロ布を纏った奴隷だったはずなのに。
王宮で見た近衛の儀仗兵だって、2か月3か月でここまで育たない。
「本日、帝国の侵略が確定的との通告を受けた。
おめでとう諸君。
かつて交通の要衝として栄え、帝国との戦争が始まると捨て石とされ。
政争の敗北者は容赦なくベガドリア男爵という肩書を押し付けられ、どっち転んでも死ぬしかない地に放り込まれ。
そんな地獄に放り込まれた諸君、おめでとう。
我々は、そんな地獄に放り込んだ王都の連中に”どちら様”を放り込んだのか教えてやる権利を得た。」
ニヤリと笑い。
「例年通りなら、帝国兵の総数は、およそ1万。
国境近くの諸侯による連合軍だ。
連中の目的は王国への嫌がらせと、あわよくば直轄地での収穫品奪取。
いやはや、連中は山賊か何かか?
…まぁ、1万と聞いてビビっている家令もいることだ。
分かりやすく言おう。」
一拍。
「貧弱な番犬しかいないと油断したオオカミが1万ほど、アホ面下げてやってくる!
奴らに教育してやれ!
犬小屋に詰まっているのはケルベロスだ!」
「はっ!」
奴隷たちが一斉に叫んだ。
「大隊長より一言訓示する!」
そう言ったのは、アレスタ様の隣に立っていた大柄なヒトの男性。
この中では一番数の少ない、黒い色の服を着ている。
(過半数が茶色、続いて深緑と紺が半数ずつくらい、黒は30人程度だ。
おそらく何か意味があるのだろうな。)
「思い出せ、半年前の自分自身を!
死ぬまで重労働でこき使われれば幸せ。
変態どもに凌辱されれば普通。
言葉にも出来ないほど凄惨な目に合わせられればまぁ仕方ない。
そんな我々に男爵閣下は違う未来をくださった!
我々に、ここ以外に死ぬ場所は無いと知れ!」
「あ~大隊長、一言訂正。」
横から割って入るアレスタ様。
「そう難しい話じゃない。
お前たちは私が買った、ならばその命は私のものだ。
だから勝手に死ぬことは許さん。
許可なく死んだバカは、私があの世から引きずり戻して、罰をくれてやる。
諸君もおなじみ、根性直しの腕立て伏せ50回だ!」
「これは死ねませんな。」
大隊長の言葉に、奴隷たちも笑う。
何だこれ。
これから死ぬ者の姿か、これ。
「ともかく、宣戦布告があったものとして説明する。
総員注目!
質問あるものは都度挙手せよ!」
壁に貼られたベガドリア領地の地図の前に進む大隊長。
「帝国兵は、この大街道をまっすぐ南下すると思われる。
おそらくプライドにかけ、ベガドリアを正面からねじ伏せる気だろう。
例年そうだからな。」
「大隊長殿、質問!」
前列から手が挙がる。
ウサギ耳を生やしたヒューラビットの少女だ。
「大街道に王国軍を配置しないのですか?」
「いい質問だ。
知っての通り、男爵閣下は王宮より”死んでも構わない”と扱われている。
従って、助力は無い。
この地図の、ここ。」
棒で領館を指す。
「領館を突破されれば、初めて直轄地に駐留している王国軍が北上する。
要するに、我々をモルモットに帝国軍の編成を知りたいわけだな。
そしてその場合の戦場は、領内南方の、この平野だ。
後は突破されて物資を奪取されるなり、帝国へ押し返すなり、いずれにせよ領内が主戦場となる。」
「あの。」
私も手を挙げる。
「だったら、大街道に見張り所とか柵を作った方がいいんじゃ。
進撃を少しでも抑えられるでしょ。」
「いえ、家令殿。
ベガドリア領は平坦な土地が多いですから。
大街道を通るのはメンツだけの問題で、迂回されればどうにもなりません。」
「どのみち、たかだか400人じゃ話にならん。
一点に集まっているところを一網打尽に叩くしかない。」
口では簡単におっしゃりますがアレスタ様。
そんな一網打尽にできる策があるのですか?
「いずれにせよ、想定接敵地はここ。
総員訓練に励んだ、この平野部である。
概要は以上。
以後は状況に合わせ、随時小隊長へ通達する。」
「最後に一言。」
アレスタ様は、とびきりの笑顔で。
「現時刻を持って、お前たちは奴隷からベガドリア男爵軍兵士に格上げだ。
おめでとう。
戦争ごっこから、戦争に励め。」
これより男爵閣下より状況の説明がある!」
領館前の広場に奴隷たちが整列していた。
まるで測ったように等間隔、直立不動で、本当に微動だにせず。
ヒトも、ウサギやキツネの耳や尾を持つ亜人も、同じデザインの衣装に身を包み。
ただアレスタ様の言葉を待っていた。
何か月か前、ここにいたのはボロ布を纏った奴隷だったはずなのに。
王宮で見た近衛の儀仗兵だって、2か月3か月でここまで育たない。
「本日、帝国の侵略が確定的との通告を受けた。
おめでとう諸君。
かつて交通の要衝として栄え、帝国との戦争が始まると捨て石とされ。
政争の敗北者は容赦なくベガドリア男爵という肩書を押し付けられ、どっち転んでも死ぬしかない地に放り込まれ。
そんな地獄に放り込まれた諸君、おめでとう。
我々は、そんな地獄に放り込んだ王都の連中に”どちら様”を放り込んだのか教えてやる権利を得た。」
ニヤリと笑い。
「例年通りなら、帝国兵の総数は、およそ1万。
国境近くの諸侯による連合軍だ。
連中の目的は王国への嫌がらせと、あわよくば直轄地での収穫品奪取。
いやはや、連中は山賊か何かか?
…まぁ、1万と聞いてビビっている家令もいることだ。
分かりやすく言おう。」
一拍。
「貧弱な番犬しかいないと油断したオオカミが1万ほど、アホ面下げてやってくる!
奴らに教育してやれ!
犬小屋に詰まっているのはケルベロスだ!」
「はっ!」
奴隷たちが一斉に叫んだ。
「大隊長より一言訓示する!」
そう言ったのは、アレスタ様の隣に立っていた大柄なヒトの男性。
この中では一番数の少ない、黒い色の服を着ている。
(過半数が茶色、続いて深緑と紺が半数ずつくらい、黒は30人程度だ。
おそらく何か意味があるのだろうな。)
「思い出せ、半年前の自分自身を!
死ぬまで重労働でこき使われれば幸せ。
変態どもに凌辱されれば普通。
言葉にも出来ないほど凄惨な目に合わせられればまぁ仕方ない。
そんな我々に男爵閣下は違う未来をくださった!
我々に、ここ以外に死ぬ場所は無いと知れ!」
「あ~大隊長、一言訂正。」
横から割って入るアレスタ様。
「そう難しい話じゃない。
お前たちは私が買った、ならばその命は私のものだ。
だから勝手に死ぬことは許さん。
許可なく死んだバカは、私があの世から引きずり戻して、罰をくれてやる。
諸君もおなじみ、根性直しの腕立て伏せ50回だ!」
「これは死ねませんな。」
大隊長の言葉に、奴隷たちも笑う。
何だこれ。
これから死ぬ者の姿か、これ。
「ともかく、宣戦布告があったものとして説明する。
総員注目!
質問あるものは都度挙手せよ!」
壁に貼られたベガドリア領地の地図の前に進む大隊長。
「帝国兵は、この大街道をまっすぐ南下すると思われる。
おそらくプライドにかけ、ベガドリアを正面からねじ伏せる気だろう。
例年そうだからな。」
「大隊長殿、質問!」
前列から手が挙がる。
ウサギ耳を生やしたヒューラビットの少女だ。
「大街道に王国軍を配置しないのですか?」
「いい質問だ。
知っての通り、男爵閣下は王宮より”死んでも構わない”と扱われている。
従って、助力は無い。
この地図の、ここ。」
棒で領館を指す。
「領館を突破されれば、初めて直轄地に駐留している王国軍が北上する。
要するに、我々をモルモットに帝国軍の編成を知りたいわけだな。
そしてその場合の戦場は、領内南方の、この平野だ。
後は突破されて物資を奪取されるなり、帝国へ押し返すなり、いずれにせよ領内が主戦場となる。」
「あの。」
私も手を挙げる。
「だったら、大街道に見張り所とか柵を作った方がいいんじゃ。
進撃を少しでも抑えられるでしょ。」
「いえ、家令殿。
ベガドリア領は平坦な土地が多いですから。
大街道を通るのはメンツだけの問題で、迂回されればどうにもなりません。」
「どのみち、たかだか400人じゃ話にならん。
一点に集まっているところを一網打尽に叩くしかない。」
口では簡単におっしゃりますがアレスタ様。
そんな一網打尽にできる策があるのですか?
「いずれにせよ、想定接敵地はここ。
総員訓練に励んだ、この平野部である。
概要は以上。
以後は状況に合わせ、随時小隊長へ通達する。」
「最後に一言。」
アレスタ様は、とびきりの笑顔で。
「現時刻を持って、お前たちは奴隷からベガドリア男爵軍兵士に格上げだ。
おめでとう。
戦争ごっこから、戦争に励め。」
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