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エピローグ~記すべき、いくつかの話~
そして、アラスタ
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王国と帝国はひとまず停戦で合意したものの、本格的な講和条約は交渉が遅々として進まないらしい。
どうしても権利問題などは複雑で、そう容易く合意できるものではない。
国王陛下も大公も穏健派だが、その辺はノラリクラリとかわしているようだ。
「貴殿の父親、失礼ながら相当のタヌキだぞ!」
そんなシュシャ殿下は、いつも帰路に立ち寄ると愚痴をこぼしていた。
国家間の交渉状況は機密なので一貴族になど語られないが、今回も相当厳しい内容だったらしい。
「まぁ殿下、それが政治ですよ。
心中お察し致します。」
「フン!
まぁ帝国の中枢が戦闘再開を言い出さないだけマシだがな。」
シュシャ殿下は酒をあおる。
彼女のためだけに仕入れた、そこそこいい酒だ。
「戦争にならなければ、私はいいです。」
「当然だろう。
地方貴族の軍では勝ち目無く、帝国軍本体の飛竜騎兵を連れてきたら容赦なく叩き落され。
これで貴殿の軍に再度敗北すれば皇帝陛下の威信に傷がつくわ。
ここにバリスタでも撃ち込めば報復で帝都が吹き飛ぶのだぞ。」
「殿下、私を魔王か何かと誤解していませんか?」
煙草に火をつけ。
「…それに、あの慰霊碑に弓を向けられるわけが無かろうよ。」
紫煙をはく殿下。
そんな殿下が私の前で愚痴を言っている間は。
殿下が帰路に必ず慰霊碑の前で祈りを捧げている間は。
少なくともベガドリアの地に帝国軍が攻め込んでくることは無いだろう。
そう願っている。
「では、すまんが今宵も寝床を借りる。」
「貴賓室の準備は整っておりますので、ご案内いたしましょう。」
王都から駐留している武官の数人が、殿下と近衛を案内する。
「明日の朝食も滞りなくな。」
片付けをする侍女に声をかけ、文官にも部屋に戻るように告げる。
寝室に戻り、机上の書類に目を通す。
生まれた子の名付け親にという嘆願書が数枚。
さすがに亜人の伝統など知らないので、要望してきた者とはじっくり話す必要があるだろう。
(責任重大だよな…)
ベッドを見る。
少し前、ここにはヒューフォックスの姉妹がいて。
キツネッポを愛でて、キツネミミを愛でて、妹の傍で愛し合って。
あの尾の感触を忘れることは出来ないが、いつかまた誰かをモフるのだろう。
少しだけ、乱れたミューの可愛い姿を思い出して。
誰もいないベッドで枕を抱いて、ゆっくりと眠りに落ちた。
どうしても権利問題などは複雑で、そう容易く合意できるものではない。
国王陛下も大公も穏健派だが、その辺はノラリクラリとかわしているようだ。
「貴殿の父親、失礼ながら相当のタヌキだぞ!」
そんなシュシャ殿下は、いつも帰路に立ち寄ると愚痴をこぼしていた。
国家間の交渉状況は機密なので一貴族になど語られないが、今回も相当厳しい内容だったらしい。
「まぁ殿下、それが政治ですよ。
心中お察し致します。」
「フン!
まぁ帝国の中枢が戦闘再開を言い出さないだけマシだがな。」
シュシャ殿下は酒をあおる。
彼女のためだけに仕入れた、そこそこいい酒だ。
「戦争にならなければ、私はいいです。」
「当然だろう。
地方貴族の軍では勝ち目無く、帝国軍本体の飛竜騎兵を連れてきたら容赦なく叩き落され。
これで貴殿の軍に再度敗北すれば皇帝陛下の威信に傷がつくわ。
ここにバリスタでも撃ち込めば報復で帝都が吹き飛ぶのだぞ。」
「殿下、私を魔王か何かと誤解していませんか?」
煙草に火をつけ。
「…それに、あの慰霊碑に弓を向けられるわけが無かろうよ。」
紫煙をはく殿下。
そんな殿下が私の前で愚痴を言っている間は。
殿下が帰路に必ず慰霊碑の前で祈りを捧げている間は。
少なくともベガドリアの地に帝国軍が攻め込んでくることは無いだろう。
そう願っている。
「では、すまんが今宵も寝床を借りる。」
「貴賓室の準備は整っておりますので、ご案内いたしましょう。」
王都から駐留している武官の数人が、殿下と近衛を案内する。
「明日の朝食も滞りなくな。」
片付けをする侍女に声をかけ、文官にも部屋に戻るように告げる。
寝室に戻り、机上の書類に目を通す。
生まれた子の名付け親にという嘆願書が数枚。
さすがに亜人の伝統など知らないので、要望してきた者とはじっくり話す必要があるだろう。
(責任重大だよな…)
ベッドを見る。
少し前、ここにはヒューフォックスの姉妹がいて。
キツネッポを愛でて、キツネミミを愛でて、妹の傍で愛し合って。
あの尾の感触を忘れることは出来ないが、いつかまた誰かをモフるのだろう。
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誰もいないベッドで枕を抱いて、ゆっくりと眠りに落ちた。
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