どうしてこうなった 最終章

レイちゃん

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エピローグ~記すべき、いくつかの話~

ベガドリア

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皇女シュシャに入れ知恵したことが、あっけなくバレた。
交渉会議後の懇親会で「貴国は北方に悪魔を飼っているのか」と、あろうことか国王陛下に直言したらしい。
御前会議に呼び出され、しかも神の加護の内容を誤魔化していたこともバレて、こっぴどく怒られた。
しかし加護はベガドリアに飛ばされて目覚めたことにして、戦争のゴタゴタで届けを失念したと言い切った。
入れ知恵の内容も王国に歯向かう内容では無いし、結果として停戦に繋がった。
そのためか下された処分は「文書による厳重注意」と「当面ベガドリアで頭を冷やせ」という非常に甘いもの。
厳罰になど処したら今度こそ次席公爵派閥が爆発するだろう。

ただ王宮では二度の戦勝に昇爵をという声もあったそうだが、それらも全て吹き飛んだ。
付け加えれば、帝国は”ベガドリア男爵アラスタ”と講和したと言っている。
アラスタがベガドリア男爵でなくなれば、再度侵攻してくるかもしれない。
最も、アラスタにとってはありがたい話だった。
男爵領のまま子爵になれば負担が増えるだけだし、他の領地へ転ぜられて、せっかく育てた環境を手放すのも嫌だった。




それ以上に、アラスタの処分に割く時間が無かったのだろう。
第1王子が戦果を求め裏工作を行っていたことが明るみに出たのだ。
誰しもがマティス公爵の関与を確信したが、確たる証拠は無く、親書を皇女シュシャが示すはずも無かった。
マティス公爵に対し、表向き処分は下されなかった。
しかし降爵こそ免れたものの、王国の主だった役職から外されて閑職へ追いやられた。
派閥に属する貴族も軒並み影響を受け、一気に力をそぎ落とされた。
男爵や子爵といった下位貴族のいくつかは没落したり、責任を押し付けられて取り潰しとなった。
マティス公爵の大公という野望は永遠に失われた。
貴族の信任も得られないし、何よりそれは帝国への宣戦布告になるのだ。
いくら王国とて、そこまでマティス公爵をかばえない。

そして最大の後ろ盾を失った第1王子もまた王太子の夢を失った。
国王は第2王子を王太子に指名し、セージ公爵を大公へと提案した。
セージ公爵は当初固辞したが、国王の私室に呼び出されて説得され、最終的には承諾した。
マティス公爵も断腸の思いで賛成し、出来レースと化した貴族の投票は全員がセージ公爵に投票し。
王太子とセージ大公の誕生が決まり王都は式典準備に大忙しとなった。
娘のアラスタをどうにかして王都へ戻し、20年後くらいに家督を譲って隠居したい、という夢も消えた。
第2王子は次期国王として様々な勉強を詰め込まれ、セージ公爵は芸術やゴルフを楽しむ時間を失った。

そしてアラスタには。
「処分は処分として、ベガドリア男爵の働きは見事であったし、忠義であった。
 これまで貴殿の扱いを軽んじていたことを詫びよう。
 ついては有能な人材を送るゆえ、負担の軽減を図るが良いぞ。」
苦虫を嚙み潰したような表情で、国王の御前にてマティス公爵が告げた。
早い話「放っておくと何するか分からんが潰すことも出来ん以上、とりあえず監視役をつけておこう」ということだった。
文官10名と武官30名が選抜され、アラスタの帰国に合わせ同行することとなった。




王都から来た武官や文官は、最初は腐っていた。
国王の勅命であり、数年後に王都へ戻ればエリートコースに乗れると約束されていても。
駐在武官経由で国庫から給金が支払われても、まともに使う場所も無い。
こんな辺境の地には娼館どころか飲み屋すら無い。
そして国王直属の部下であり、ベガドリア男爵の手助けをする義理も無い。
とはいえ一日中ただ時間を潰すのも苦痛である。
釣り好きの文官も、一週間もすれば飽きてしまった。
結局、文官たちは自発的にフィーナの手伝いを始めた。
「家令殿、この書類は様式が変更になっています。
 この添付書類は省略できます。」
「この申請は、先にこちらへ通せば時間が短縮できます。」
「これは経費を5%くらい水増ししても大丈夫です。
 私の後輩が担当なので、それくらいなら見ぬふりをしてくれます。
 官僚に突っ込まれたら計算間違いで通してください。」
ここには嫌味な上司も、威張り散らす貴族も、足を引っ張るライバルもいない。
衣食住は保証されているので、使い道のない給金は丸々残る。
豪華な料理は無いが、素材本来の味を生かした素朴な料理も健康的で美味い。
帝国との戦争が無いのであれば、この寒い田舎も捨てたものではないのかもしれない。

武官もまた同様である。
自分よりも年下の少年少女と少し遊んでやろうと思ったら、ポンポンと投げ飛ばされ。
徒手格闘では、あっという間に叩きのめされ。
武器を使った模擬戦など、剣と銃では勝負にすらならない。
彼らのプライドはへし折られ。
気が付くと、ベガドリア男爵軍に交じって教練を受けていた。
王宮で「国王の兵士」を自負していた彼らが、亜人の奴隷と共に泥まみれで。
それまで彼らが受けていた訓練は、儀礼や伝統に重きを置いたものだった。
ベガドリアでは実戦と効率と結果を最重視している。
要人警護では、たとえ王族を地面に伏せさせてでも命を守る。
近衛師団でそんなことをすれば不敬罪に問われかねない。
「泥で汚れたくないなどというバカな貴族は、もう暗殺されてしまえ!
 ここでは、たとえ陛下の御顔を泥で汚したとしても、その御命を守ることを優先する。
 そういう考えで行動せよ。
 安心しろ、人間が泥水を被っただけで死んだという話は聞いたことが無い!
 その結果で不敬罪だと陛下が言うならば、私が責任を取って斬られてやる。」
何もかもが正反対で、それなのに反論できるだけの理屈もない世界で、今日も彼らは走る。
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