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第2次ベガドリア戦役(アラスタ視点で)
帝国軍司令
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動ける帝国兵が引き揚げて10分ほど。
貴族旗を掲げた20人ほどの集団が馬で近づいてきた。
「総員警戒、発砲はするな。
第4歩兵小隊、接敵し意図を確認せよ。」
「十分に警戒しろ。
攻撃を受けない限り発砲厳禁。」
『了解。
第4歩兵小隊、接敵します。』
「塹壕より前では無線を使うな。
存在を知られたくない。
手間でも、塹壕の友軍とは口頭で連絡せよ。」
『了解。』
盾を持った兵士を先頭に30人近い集団が駆け寄っていく。
先ほどの火炎を放った兵器ではなく、見慣れたアサルトライフルを持っている。
黒煙のくすぶるエリアを迂回しながら数分で接敵するも、戦闘らしい行動は起きず。
しばらくして3人ほどが塹壕へと走ってくる。
『第5歩兵小隊より作戦本部。
閣下、帝国軍の指揮官を名乗る者が面談を求めています。』
「…いかがしますか?」
大隊長の言葉に、アラスタ様は少し悩み。
「…会おう。」
「危険では?」
「我々ならともかく、帝国軍が本陣から直接攻撃できる手段はないだろう。
もちろん火薬を抱えて自爆とか、飛竜に強襲させるということも考えられるが…
そこまでいくと、もう何も考えられん。
大隊長!」
直立する大隊長。
「これより私は敵の指揮官と会う。
貴様に指揮を任せる。
フィーナも私と来い、おそらく相手は貴族だろう。」
「は、はい!」
近くにいたヒュードッグの少女が、前線の兵士と同じ鎧を着せてくれる。
木製のような軽さなのに、これで至近距離のクロスボウすら防ぐという。
「家令殿の武装はどうしますか?」
「いらん、拳銃もナイフも持たせるな。
教練も積んでいないのに武器など持たせたらパニック時に大惨事になる。」
「はっ、了解です。」
私も、あの拳銃とかアサルトライフルを扱える自信は無い。
ナイフを持ったところで軽くあしらわれるだろう。
私が鎧を着せられている間に、アラスタ様はご自身で手早く装備を整えられて。
「大隊長。
もし私に万が一のことがあれば、直ちに全員を率いて王都を目指せ。
実家のセージ公爵家の別宅は第4支援小隊が知っている。
後はアファームが上手いことやってくれるはずだ。」
「申し訳ありませんが、その様な命令は聞けません。
上官反抗で罰を受けますから、ご無事にお戻りください。」
平然と言う大隊長と、さも当然という表情の周囲の面々。
「…行ってくる。」
「お気をつけて。
第5歩兵小隊から分隊を出してエスコートさせます。」
第5歩兵小隊から3個分隊9人が私たちの周囲を囲み、第4歩兵小隊の集団を目指す。
黒煙はかなり収まってきたが、周囲には黒焦げた死体の山。
「目をそらすなフィーナ。
私が、我々がやった行いだ。」
「は、はぃ…」
凄惨な現実に足を震わせながら、ひたすら小走りを続け。
そして、帝国軍の面々は全員が馬から降りていた。
近衛兵が着るような装飾が施された鎧だ。
「ベガドリア男爵アラスタだ。
要件をお伺いしよう。」
「帝国南方方面軍、ガーグだ。
皇帝陛下より将軍を拝している。
この軍の指揮責任者だ。」
長身で、自然とアラスタ様や私を見下ろす形となる。
歳は、おそらく50前後だろうか。
「御足労をかけ申し訳ない。
礼を申す。」
「いえ将軍、礼を言うのはこちらの方です。
あそこであなたが兵を引いてくれたから双方の被害が抑えられた。
でなければ我々は全滅していた。
あなたが聡明な方で、本当に良かった。」
「ご謙遜を…
そちらの400を殲滅するために、我々は何千の犠牲を払えばよいのだ。
そんな聡明なあなたに、話の前にお願いなのだが…
我々の死傷者を回収してもよろしいだろうか。」
ガーグ将軍の言葉に、アラスタ様も頷く。
帝国の意図を説明するよう兵士数人を塹壕へ走らせる。
ガーグ将軍の部下も旗を大きく振り本陣に合図を送る。
「かたじけない、ベガドリア男爵殿。」
「構いません、ガーグ将軍。
しかし、炎に焼かれた兵は未だ熱く、抱えられないだろう。
差し出がましいのだが、もしよろしければあちらの…」
左手で示す。
「あの廃村の向こうに広い場所がある。
前回の戦いの、残された者たちが眠っている。
今すぐは無理だが、熱が冷めたら隣に葬らせて頂くが。」
「…よろしいのか。」
「衛生的な理由、というのもあるが…
職業軍人にせよ徴募兵にせよ、帝国のために戦った者が野犬に荒らされるのは忍びない。」
アラスタ様はガーグ将軍の顔を見上げる。
「今は時間もないだろうが…将軍。
機が許せば、慰霊碑に献花頂けないだろうか。
異国の戦地で眠る英霊の魂を帝国へ連れ帰って欲しい。」
その言葉に、ガーグ将軍は深々と頭を下げる。
「ご厚意、感謝する。」
「剣や鎧は慣例により当方で処分したが、その際に回収した遺品はお預かりしている。
ガーグ将軍の戦闘中止の判断に敬意を表し、お返ししよう。
…あ、ついでにボン伯爵らも連れ帰ってもらえないか?」
「は?
しかし、人質では?」
アラスタ様はため息をつく。
「失礼ながら、金貨5万枚は吹っ掛け過ぎた。
払える目途もないし、重要な機密を持っている様子もなし。
それなのに食事も手間もかかるのでな…」
「ハハハ!
5万くらいなら立て替えてもよいぞ!」
傍に立っていた帝国軍騎士の一人が、そんな声を出した。
貴族旗を掲げた20人ほどの集団が馬で近づいてきた。
「総員警戒、発砲はするな。
第4歩兵小隊、接敵し意図を確認せよ。」
「十分に警戒しろ。
攻撃を受けない限り発砲厳禁。」
『了解。
第4歩兵小隊、接敵します。』
「塹壕より前では無線を使うな。
存在を知られたくない。
手間でも、塹壕の友軍とは口頭で連絡せよ。」
『了解。』
盾を持った兵士を先頭に30人近い集団が駆け寄っていく。
先ほどの火炎を放った兵器ではなく、見慣れたアサルトライフルを持っている。
黒煙のくすぶるエリアを迂回しながら数分で接敵するも、戦闘らしい行動は起きず。
しばらくして3人ほどが塹壕へと走ってくる。
『第5歩兵小隊より作戦本部。
閣下、帝国軍の指揮官を名乗る者が面談を求めています。』
「…いかがしますか?」
大隊長の言葉に、アラスタ様は少し悩み。
「…会おう。」
「危険では?」
「我々ならともかく、帝国軍が本陣から直接攻撃できる手段はないだろう。
もちろん火薬を抱えて自爆とか、飛竜に強襲させるということも考えられるが…
そこまでいくと、もう何も考えられん。
大隊長!」
直立する大隊長。
「これより私は敵の指揮官と会う。
貴様に指揮を任せる。
フィーナも私と来い、おそらく相手は貴族だろう。」
「は、はい!」
近くにいたヒュードッグの少女が、前線の兵士と同じ鎧を着せてくれる。
木製のような軽さなのに、これで至近距離のクロスボウすら防ぐという。
「家令殿の武装はどうしますか?」
「いらん、拳銃もナイフも持たせるな。
教練も積んでいないのに武器など持たせたらパニック時に大惨事になる。」
「はっ、了解です。」
私も、あの拳銃とかアサルトライフルを扱える自信は無い。
ナイフを持ったところで軽くあしらわれるだろう。
私が鎧を着せられている間に、アラスタ様はご自身で手早く装備を整えられて。
「大隊長。
もし私に万が一のことがあれば、直ちに全員を率いて王都を目指せ。
実家のセージ公爵家の別宅は第4支援小隊が知っている。
後はアファームが上手いことやってくれるはずだ。」
「申し訳ありませんが、その様な命令は聞けません。
上官反抗で罰を受けますから、ご無事にお戻りください。」
平然と言う大隊長と、さも当然という表情の周囲の面々。
「…行ってくる。」
「お気をつけて。
第5歩兵小隊から分隊を出してエスコートさせます。」
第5歩兵小隊から3個分隊9人が私たちの周囲を囲み、第4歩兵小隊の集団を目指す。
黒煙はかなり収まってきたが、周囲には黒焦げた死体の山。
「目をそらすなフィーナ。
私が、我々がやった行いだ。」
「は、はぃ…」
凄惨な現実に足を震わせながら、ひたすら小走りを続け。
そして、帝国軍の面々は全員が馬から降りていた。
近衛兵が着るような装飾が施された鎧だ。
「ベガドリア男爵アラスタだ。
要件をお伺いしよう。」
「帝国南方方面軍、ガーグだ。
皇帝陛下より将軍を拝している。
この軍の指揮責任者だ。」
長身で、自然とアラスタ様や私を見下ろす形となる。
歳は、おそらく50前後だろうか。
「御足労をかけ申し訳ない。
礼を申す。」
「いえ将軍、礼を言うのはこちらの方です。
あそこであなたが兵を引いてくれたから双方の被害が抑えられた。
でなければ我々は全滅していた。
あなたが聡明な方で、本当に良かった。」
「ご謙遜を…
そちらの400を殲滅するために、我々は何千の犠牲を払えばよいのだ。
そんな聡明なあなたに、話の前にお願いなのだが…
我々の死傷者を回収してもよろしいだろうか。」
ガーグ将軍の言葉に、アラスタ様も頷く。
帝国の意図を説明するよう兵士数人を塹壕へ走らせる。
ガーグ将軍の部下も旗を大きく振り本陣に合図を送る。
「かたじけない、ベガドリア男爵殿。」
「構いません、ガーグ将軍。
しかし、炎に焼かれた兵は未だ熱く、抱えられないだろう。
差し出がましいのだが、もしよろしければあちらの…」
左手で示す。
「あの廃村の向こうに広い場所がある。
前回の戦いの、残された者たちが眠っている。
今すぐは無理だが、熱が冷めたら隣に葬らせて頂くが。」
「…よろしいのか。」
「衛生的な理由、というのもあるが…
職業軍人にせよ徴募兵にせよ、帝国のために戦った者が野犬に荒らされるのは忍びない。」
アラスタ様はガーグ将軍の顔を見上げる。
「今は時間もないだろうが…将軍。
機が許せば、慰霊碑に献花頂けないだろうか。
異国の戦地で眠る英霊の魂を帝国へ連れ帰って欲しい。」
その言葉に、ガーグ将軍は深々と頭を下げる。
「ご厚意、感謝する。」
「剣や鎧は慣例により当方で処分したが、その際に回収した遺品はお預かりしている。
ガーグ将軍の戦闘中止の判断に敬意を表し、お返ししよう。
…あ、ついでにボン伯爵らも連れ帰ってもらえないか?」
「は?
しかし、人質では?」
アラスタ様はため息をつく。
「失礼ながら、金貨5万枚は吹っ掛け過ぎた。
払える目途もないし、重要な機密を持っている様子もなし。
それなのに食事も手間もかかるのでな…」
「ハハハ!
5万くらいなら立て替えてもよいぞ!」
傍に立っていた帝国軍騎士の一人が、そんな声を出した。
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