どうしてこうなった 最終章

レイちゃん

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第2次ベガドリア戦役(アラスタ視点で)

アラスタの涙

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「歩兵中隊!近接戦闘用意!
 分隊行動を徹底!」

アラスタ様が叫び、数十秒で兵士が塹壕から出てくる。
戦闘に盾を構えた兵士、その後ろにコートのようなものを着て何かを背負った兵士、最後にアサルトライフルを持った兵士。
盾の陰になるように、3人縦列で小走りで重装歩兵へ迫る。

対する重装歩兵も荷馬車から降り、盾を構えて徒歩で迫ってくる。
その数はこちらの何倍も多く。

「支援小隊、第3から第8!撃ち方止め!撃ち方止め!
 これより歩兵中隊が接敵する!」

『了解、待機します。』

大隊長の命令に、迫撃砲の音が止む。

「歩兵中隊、ポリカー盾は過信するなよ!
 クロスボウくらいなら十分防ぐが、バリスタなら衝撃で吹っ飛ぶぞ!」

『了解!』

双方の距離が50メートルを切り、剣を抜いた重装歩兵が盾を構えたまま駆け出す。

「歩兵中隊!攻撃用意!」

アラスタ様の叫び声に、先頭の盾を持った兵士が後ろへ下がり。
真ん中にいた、何かを背負った兵士の持つ筒の先からチロチロと火が見え。


「火炎放射!攻撃始めっ!」


炎が棒のように飛び、先頭の重装歩兵から順に嘗め尽くす。
鎧が炎に包まれ、赤い炎と黒い煙を上げながら重装歩兵が逃げ惑い、後続の歩兵がどんどん炎に包まれ。

一瞬で地獄になった。

「何あれ…」

「悪魔の兵器だよ…」

アラスタ様が呻くように。

「正直これは使いたくなかった。
 あの炎は水をかけたくらいでは消えん。
 鈍重な重装歩兵じゃ逃げられんから、苦しみながら焼け死ぬことになる…!」

黒煙が立ち込め、一帯は大混乱になっている。
前方で突然炎が巻き起こり、逃げようにも周囲は密集した仲間で身動き取れず。
そこへ前方から火だるまの友軍兵士が叫びながら迫り。
更に手りゅう弾やグレネードランチャーで地面が吹き飛び宙を舞う。

「もうアサルトライフルの方が即死できるだけ人道的だ…
 歩兵中隊、撃ち方止め!火炎放射器の安全装置確認!
 総員、塹壕まで後退!」

アサルトライフルを構えた兵士が殿しんがりで、帝国軍に銃口を向けたまま後ろ向きに歩く。
歩兵中隊の面々が塹壕にたどり着いても、帝国軍の動揺は収まらなかった。
火炎に直撃された重装歩兵で動ける者はほとんど無く、倒れた彼らを乗り越えて進める者もおらず。

「歩兵中隊、両翼に展開中の敵騎兵隊に警戒せよ。
 支援中隊、第1は飛竜に備えスティンガー攻撃用意。
 第2から第4は正面重装歩兵に備えジャベリン攻撃用意。
 第5から第7は迫撃砲攻撃用意、目標変わらず。
 第8は迫撃砲の攻撃目標を敵本陣に設定せよ。
 命令あるまで発砲厳禁!」

アラスタ様の矢継ぎ早の命令に、次々と了解の返信が来る。

「閣下、敵本陣を攻撃するのですか?」

「攻めてくればな…」

前回のように敵の大将を捕縛しないのかという私の言葉に。
アラスタ様は絶望的な表情で、祈るような声で。

「ジャベリンの残弾はおよそ50発。
 戦死覚悟で特攻されたら、とても防ぎきれん。
 騎兵も、後衛の増援とあわせて全周から突撃されたら無理だ。
 そうなると、もう敵本陣を叩いて混乱している間に領館で籠城戦でもするしかない。
 屋上にはミニガンも備え付けているからな。
 とはいえ帝国軍は数千ほど死ぬだろうが、我々も生きてはいまいよ…」

「あの、炎を吐く筒は…」

「あれだけ使えば火炎放射器の燃料は空だ。
 それに、そもそも射程が短い上に扱いが難しい。
 背中のタンクに投げ槍でも直撃したら塹壕内が火の海になるぞ。」

未だに黒煙立ち込める方を双眼鏡で睨みながら。
そんな絶望的な時間が、実際の何倍にも長く感じられた時間の後で、敵陣からラッパの音が聞こえ。
潮が引くように、ゆっくりと帝国軍が後退していく。

「退却ラッパ…?」

「総員、攻撃中止!中止!
 命令あるまで絶対に撃つな!
 現状のまま警戒維持!」

そう叫び終えると、アラスタ様は床に座り込む。

「閣下。」

「助かった…」

アラスタ様は涙目で。

「大隊長、どうやら敵の大将は特攻を命じるほどの阿呆ではないようだぞ。
 兵士の命を度外視されていたら、もうどうしようもなかった。
 それでも今回はきつかった…
 歩兵中隊に近接戦闘を命じるほどに…あいつらが戦死する瀬戸際に…」

「アラスタ様。」

私は膝をつき、横からアラスタ様を抱きしめる。

「それでも、私たちは誰も死なずに、生き残ったんですよ。
 この奇跡はアラスタ様が起こしたんですよ。」

「あぁ…」

アラスタ様は袖で目をぬぐうと、私の腕を振りほどいて立ち上がる。

「総員、警戒維持。
 再度の突撃に備え警戒せよ。」

『了解!』
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