どうしてこうなった 最終章

レイちゃん

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第2次ベガドリア戦役(アラスタ視点で)

ジャベリン、発射始め

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予定より遅れ、帝国軍は5日目に前回と同じ戦場に現れた。
警戒しながらゆっくりと進んだのだろう。
アラスタ様が言うには、目視できる範囲外から攻撃することも可能なのだそうだ。
そうしなかったのは、今回も敵の大将を捕縛したいから。

「前回よりも展開に時間がかかっているようだな。」

「かなり警戒しているのでしょう。
 迫撃砲の理屈は、彼らには分からないはずです。」

机上の大きな地図を見ながらアラスタ様は大隊長と言葉を交わす。

「それで、索敵状況はどうか。」

「変わらずです。
 動きありません。」

大隊長は机上の一点を指す。
そこは戦場を見渡せる場所で木々が生い茂っている。

「どうしたのですか?」

私の声に、アラスタ様は。


「覗き魔だ。」


「は?」

「どこかの組織に属する偵察部隊、と思われます。
 家令殿、帝国軍の反対側…つまり我々の後方から戦場を伺うということは…」

「味方ですか!」

私の言葉にアラスタ様が苦笑する。

「いや、正体不明の5人組だ。
 見た目は平民なのに、不釣り合いな馬に乗っている。
 農耕馬などではなく一級品の軍馬だ。
 なのに所属を示す鎧も旗も確認できない。
 大隊長、駐在武官から偵察隊派遣の通告はあったか?」

「ありません。」

「私も、そんな通告書に受領のサインをした覚えは無い。
 という以上は正体不明だ。
 コールサインをズールーと設定、現在監視中だ。
 他にはいないな?」

「周囲3キロ四方を複数日複数回、目視だけでなく赤外線サーモも含め調査済です。
 ズールー以外に確認できません。」

分からないという顔の私に。

「おそらく王家直轄地から派遣された偵察要員でしょう。
 戦闘が始まり次第、部隊に急報し王国軍が進撃してくるでしょう。
 仮に我々が巻き込まれたとしても関係なく。」

「ただ、こちらに通告していない以上、推測は推測だ。
 大隊長、座標は指示しているな?」

「支援中隊に通達しています。
 第8支援小隊が最も近いです。」

大隊長の言葉にアラスタ様は双眼鏡を手にする。

「結構。
 では、後は我々の仕事をするだけだ。」

前回同様、既にこちらの兵士たちの展開は完了している。
あと1時間もすれば、ここは戦場になるだろう。




帝国軍から進撃ラッパが聞こえてきた瞬間。

「アラスタから支援中隊、現時刻をもってズールーをと断定!
 第8支援小隊、ズールーに対し攻撃始め!」

「大隊長より第8支援小隊、ズールーに対しジャベリン発射始め!」

「ま、待ってください!」

作戦本部に私の叫び声が響く。

「味方じゃないんですか!?」

「その保証は?」

アラスタ様が応えるのと同時に、自軍の一角から猛スピードで鳥みたいなのが複数。
それらは一直線に飛び、地図に印がつけられていた木々を爆炎と共に吹き飛ばす。

もしあそこに誰かいれば、生きてはいまい。

「通告も、所属を示すものも確認できず。
 全領域に戦闘による退避勧告が発令された地で、伺うように数日前から潜んでいる。
 となれば諜報活動中の敵性勢力と判断されても文句は言えん。」

「そんな…」

「残念だったな、フィーナ。
 ここは戦場だ。
 もし彼らが『王国所属で、ベガドリア男爵軍ごと帝国軍を蹂躙するための連絡要員です』と名乗っていれば。
 少なくともジャベリンを撃ち込むことは無かっただろうさ。」

無線機から『全弾命中、目標殲滅と認める』という声が聞こえてきた。
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