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第2次ベガドリア戦役(アラスタ視点で)
軍議
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帝国軍が越境を開始したとの報が早馬からもたらされた。
本来であれば国境を監視する駐在武官の仕事のはずだが、なぜかこの春は監視員が置かれていなかった。
偶然何かの理由で行き違いがあった、などという残念な脳みそを持つ者はアラスタの館にはいない。
何かの圧力が駐在武官にかかっていると考えるのが自然だ。
「閣下の読み通りです、帝国軍の総数は前回より多いです。
楽観的予測で1万7千、悲観的予測で3万です。」
小隊長会議で、帰還した第6歩兵小隊長が発言する。
「編成はどうか。」
「おそらく前回と大差ないと思われます。
ただ同様に、空の荷馬車が多いのが気がかりです。」
「荷馬車が?」
アラスタや大隊長も首をひねる。
前回は収穫期での侵攻で、あわよくば農産物を奪取するために荷馬車を引いていた。
おかげで帝国の死傷者をスムーズに送り返すことが出来た。
ベガドリア男爵の金庫に、何千人もの捕虜や戦傷者を食わせ手当てする金など無い。
「大きさは?」
「小さな荷馬車です。
8人も乗れば満員になりそうなものが多数。」
何に使うのか。
確かに直轄地の倉庫には収穫された小麦などが積まれている。
しかし、それを奪うのであれば6頭立ての大型荷馬車が必要だ。
(まさか荷馬車を現地調達するわけでもあるまい。
そう都合よく荷馬車まで奪取できる保証はないからな。
となると、用途は何だ…?)
アラスタが考え込んだ時、会議室のドアがノックされる。
「閣下、第3歩兵小隊長です。」
「入れろ。」
歩哨と入れ違いに小隊長が入ってくる。
「遅くなり申し訳ありません。
第3歩兵小隊、南方偵察任務より戻りました。」
「ご苦労。
早速だが報告を。」
「はっ!」
アラスタの言葉に、第3歩兵小隊長は机上の地図を示す。
「直轄地の王国軍は既に編成を完了していると思われます。
即時進撃可能というわけではないですが、半日以内に出動できると推測されます。
歩兵がこことここ、軍馬がここに固まっていました。
あと、こちらが掲揚されていた旗のリストです。」
リストを受け取ったアラスタは目を見開く。
「待て!
これは間違いないのだな!?」
「複数名で複数回確認しました。
相違ありません。」
「閣下?」
信じられないという表情でリストを見つめるアラスタに、周囲の小隊長たちが声をかける。
「第1王子が来ている…」
「王子が!?」
リストの筆頭に王国旗、その次の欄に第1王子の紋章旗が書き込まれている。
「…マティスだ。」
アラスタの脳内で、今回の不自然な侵攻のあらすじが見えてきた。
「マティス筆頭公爵だ。
あれは第1王子の婚約者の実父、言うまでもなく後ろ盾だ。
そういえばバズル男爵もマティス公爵の派閥だったな。」
「では、今回の侵攻は。」
「絵を描いているのはマティスだ。
先日、国王陛下の健康問題が持ち上がったらしい。
となると王太子と大公の問題が出てきてもおかしくない。」
王都から遠く離れたベガドリアに、王宮内での出来事など伝わらない。
父親のセージ公爵を通じて情報収集をしていなかったことが悔やまれる。
が、過ぎたことを悔やんでも帝国軍は止まらない。
「完全な私の推測だと断っておく。
おそらく第1王子が次期国王として貴族を黙らせるために、何らかの結果が欲しいのだろう。
だから何らかの方法で帝国を焚きつけた。
そしてホイホイ乗せられた帝国軍を、第1王子が撃破すれば…」
「では!」
「いつものように、ベガドリア男爵軍をダシに様子見などという悠長なことはしまい。
我々とぶつかり疲弊した帝国軍を殲滅し『強い第1王子』をアピールするはずだ。
下手すると我々ごとな。」
第1王子もマティス公爵も、アラスタが死んだところで微塵も悲しくない。
むしろ1万の帝国軍に圧勝できるベガドリア男爵の軍勢が消えてくれれば、どちらかというと安心だろう。
両名ともアラスタやフィーナの恨みを買っている、何らかの理由で自分たちと敵対すれば枕を高くして寝られない。
敵対自体が不敬罪や国家反逆罪になる第1王子はともかく。
「我々は、背中に注意しつつ眼前の帝国軍を撃破せねばならない。
帝国も何らかの対策を講じているはずだしな。
前回とは比較にならない、決死の作戦だ!
歯車一つ、一瞬でも狂えば即座に全てが瓦解する!
諸君!練度は十分か!?」
「はい閣下!」
「死ねとは言わん!
絶対に勝ち残る覚悟は十分か!?」
「はい閣下!」
「では。
諸君らの命は私が預かる。
私の命、責任をもって諸君らが預かれ。」
本来であれば国境を監視する駐在武官の仕事のはずだが、なぜかこの春は監視員が置かれていなかった。
偶然何かの理由で行き違いがあった、などという残念な脳みそを持つ者はアラスタの館にはいない。
何かの圧力が駐在武官にかかっていると考えるのが自然だ。
「閣下の読み通りです、帝国軍の総数は前回より多いです。
楽観的予測で1万7千、悲観的予測で3万です。」
小隊長会議で、帰還した第6歩兵小隊長が発言する。
「編成はどうか。」
「おそらく前回と大差ないと思われます。
ただ同様に、空の荷馬車が多いのが気がかりです。」
「荷馬車が?」
アラスタや大隊長も首をひねる。
前回は収穫期での侵攻で、あわよくば農産物を奪取するために荷馬車を引いていた。
おかげで帝国の死傷者をスムーズに送り返すことが出来た。
ベガドリア男爵の金庫に、何千人もの捕虜や戦傷者を食わせ手当てする金など無い。
「大きさは?」
「小さな荷馬車です。
8人も乗れば満員になりそうなものが多数。」
何に使うのか。
確かに直轄地の倉庫には収穫された小麦などが積まれている。
しかし、それを奪うのであれば6頭立ての大型荷馬車が必要だ。
(まさか荷馬車を現地調達するわけでもあるまい。
そう都合よく荷馬車まで奪取できる保証はないからな。
となると、用途は何だ…?)
アラスタが考え込んだ時、会議室のドアがノックされる。
「閣下、第3歩兵小隊長です。」
「入れろ。」
歩哨と入れ違いに小隊長が入ってくる。
「遅くなり申し訳ありません。
第3歩兵小隊、南方偵察任務より戻りました。」
「ご苦労。
早速だが報告を。」
「はっ!」
アラスタの言葉に、第3歩兵小隊長は机上の地図を示す。
「直轄地の王国軍は既に編成を完了していると思われます。
即時進撃可能というわけではないですが、半日以内に出動できると推測されます。
歩兵がこことここ、軍馬がここに固まっていました。
あと、こちらが掲揚されていた旗のリストです。」
リストを受け取ったアラスタは目を見開く。
「待て!
これは間違いないのだな!?」
「複数名で複数回確認しました。
相違ありません。」
「閣下?」
信じられないという表情でリストを見つめるアラスタに、周囲の小隊長たちが声をかける。
「第1王子が来ている…」
「王子が!?」
リストの筆頭に王国旗、その次の欄に第1王子の紋章旗が書き込まれている。
「…マティスだ。」
アラスタの脳内で、今回の不自然な侵攻のあらすじが見えてきた。
「マティス筆頭公爵だ。
あれは第1王子の婚約者の実父、言うまでもなく後ろ盾だ。
そういえばバズル男爵もマティス公爵の派閥だったな。」
「では、今回の侵攻は。」
「絵を描いているのはマティスだ。
先日、国王陛下の健康問題が持ち上がったらしい。
となると王太子と大公の問題が出てきてもおかしくない。」
王都から遠く離れたベガドリアに、王宮内での出来事など伝わらない。
父親のセージ公爵を通じて情報収集をしていなかったことが悔やまれる。
が、過ぎたことを悔やんでも帝国軍は止まらない。
「完全な私の推測だと断っておく。
おそらく第1王子が次期国王として貴族を黙らせるために、何らかの結果が欲しいのだろう。
だから何らかの方法で帝国を焚きつけた。
そしてホイホイ乗せられた帝国軍を、第1王子が撃破すれば…」
「では!」
「いつものように、ベガドリア男爵軍をダシに様子見などという悠長なことはしまい。
我々とぶつかり疲弊した帝国軍を殲滅し『強い第1王子』をアピールするはずだ。
下手すると我々ごとな。」
第1王子もマティス公爵も、アラスタが死んだところで微塵も悲しくない。
むしろ1万の帝国軍に圧勝できるベガドリア男爵の軍勢が消えてくれれば、どちらかというと安心だろう。
両名ともアラスタやフィーナの恨みを買っている、何らかの理由で自分たちと敵対すれば枕を高くして寝られない。
敵対自体が不敬罪や国家反逆罪になる第1王子はともかく。
「我々は、背中に注意しつつ眼前の帝国軍を撃破せねばならない。
帝国も何らかの対策を講じているはずだしな。
前回とは比較にならない、決死の作戦だ!
歯車一つ、一瞬でも狂えば即座に全てが瓦解する!
諸君!練度は十分か!?」
「はい閣下!」
「死ねとは言わん!
絶対に勝ち残る覚悟は十分か!?」
「はい閣下!」
「では。
諸君らの命は私が預かる。
私の命、責任をもって諸君らが預かれ。」
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