どうしてこうなった 最終章

レイちゃん

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プロローグ

帝国の決断

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「どうしたものか…」

帝国の第3皇女シュシャは腕を組んでいた。
周囲にいる武官や文官も悩んでいる。
目の前にあるのは、王国の男爵を名乗る者が持参した手紙。

「皇女殿下…この内容、信じられますか?」

「信じられるか?
 破天荒過ぎる内容、ではあるんだがなぁ…」

欺瞞ぎまん文書と切り捨てるのは容易だ。
しかし、そう言いきれない要因も、また複数ある。

封蝋の押印が王家のもの、というのが一つ。
帝国もそうだが、王国も王家の紋章を偽造などすれば死刑だろう。
精巧な偽造が出来る組織か、それとも王家が絡んでいるのか。

「あの男…バズル男爵と言ったか?」

「確かに、王国に実在する家名です。」

持参した男が名乗った素性、持っていた男爵家の紋章印、どれも密偵の調査と一致する。

「平民だと信じがたい、高位の貴族でも信じがたい。
 絶妙なんだよなぁ…使者が男爵というのも。」

腕を組んだまま天を仰ぐ。

「いかがしますか?」

「…本当に王国の男爵だった場合、捕えたら後が面倒だ。
 とりあえず丁重にお帰り頂け。」

シュシャの言葉に、文官の一人が頭を下げる。

「ともあれ、前回は手ひどくやられたそうだからな。
 ボン伯爵らは帰還したのか?」

「いえ、まだ捕らわれたままです。」

「身代金が金貨5万枚だったか?
 払える額ではないな。」

帝国の後ろ盾があるとはいえ、王国への侵略はボン伯爵が責任を持って行ったのだ。
であれば結果は帝国ではなく伯爵家が負うべきだ。
既に伯爵家では帰還を諦め、当主を子へ次ぐことも検討されているらしい。

「…ガーグ将軍。」

「はっ。」

「私の権限で動かせるのは、駐留の兵2万だ。
 飛竜騎兵もつける。
 やれるか?」

「やれと命じられるならば、ただそうするだけです。」

ガーグ将軍は元々貴族であったわけではない。
帝国の軍学校を卒業後、数々の戦果を挙げ男爵に叙せられた叩き上げだ。
自前の領地も領館も持たないが、帝国の貴族社会においては男爵相当として扱われる。

「では殿下、この言葉に乗ると?」

ガーグの視線の先には、王国からの手紙があった。

「乗る、というわけではないのだがな…」

シュシャが欺瞞を疑いながらも、切り捨てられない最大の理由。

帝国の喉元に突き付けられたベガドリア男爵というナイフ。
400の兵で1万の敵を押し返した悪魔。
これが越境してきた場合、ボン伯爵領どころか近隣の辺境伯領まで蹂躙じゅうりんされる恐れがある。
あそこには大きな銀山がある、奪われるわけにはいかない。

「我々は手ひどく殴られたのだ。
 殴られた以上は、殴り返さねばなるまい。
 …ガーグ将軍!」

「はっ!」

「貴官に指揮権をゆだねる、必要な物資のリストを提出しろ。
 他の者は将軍をサポートしろ。
 私は急ぎ帝都へ向かい、皇帝陛下のお許しを頂く。
 さぁ諸君、戦争の時間だ!」
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