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プロローグ
マティス公爵の悪だくみ
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夜更け、マティス公爵は酒を嗜んでいた。
王宮で第1王子の無理難題に頭を痛めていた。
目を付けた侍女でも抱かなければ気が収まらない。
執事長がグラスに酒を注ぐ。
「少々お荒れのご様子、いかがなさいましたか?」
「あの王子の阿呆加減には少々うんざりだ。」
ため息をつく。
マティス公爵も若い頃から相当の女好きだ。
だが、その若い頃に、そうとは知らず夫のいる侍女を手篭めにし大騒動になった。
幸いにも領館内でのことだったので醜聞は外に漏れなかったが、さすがのマティス公爵にも後味が悪かった。
それからというもの、マティス公爵が手を出す女性は、金か権力で十分解決できる場合だけとなった。
黙っていても取り入りたい下級貴族が差し出してくるし、抱かれたいと願う侍女も少なからずいる。
抱かれる側にもそれなりの見返りはあるし、それを望まない者をマティス公爵は絶対に抱かなかった。
そういう意味では、公爵令嬢と婚約していながら他家の公爵令嬢に手を出した第1王子の行為は。
例えるなら『臣下でありながら自国の王女を手篭めにする』程度に愚かな行為と言えた。
しかもその行為自体に酔っているのだから始末に負えない。
第1王子でなければ斬るところだが、適度に阿呆なので、将来操ればいいと思って怒りを抑えているのだ。
「恐れながら閣下。
第1王子が残念なのは、もうどうしようもないかと。」
「阿呆なのは仕方がないわ。
せめて大公になれば、国王とて適当な理由を付けて飼殺せるのだがな。
いくら筆頭公爵といえど、権威では大公には遠く及ばんよ。」
酒をあおる。
「ただ、大公は難しい。
30歳未満の王子を王太子にするなら、大公は必須だ。
第1王子でも成人前、30歳まで10年以上ある。
陛下の健康不安説が出ている今がタイミングとしては最適なのだがな…」
執事長にグラスを持たせると、自ら酒を注ぐ。
こういった機密を含む話は気軽に話せない。
王家に対する愚痴など政敵に聞かれたら、それこそ侮辱だと揚げ足を取られかねない。
老獪な執事長は、マティス公爵が心を許せる数少ない相手であった。
「次席公爵派閥をはじめ、他の派閥や中立派を黙らせるだけの結果、ですか…」
「それがあればセージを屈服させられる。
セージが下れば、後はドミノ倒しだ。」
だが次席公爵が屈服するほどの何か、など思い浮かばない。
セージ公爵家も王国創建の頃から仕える名家だ。
しばし、ため息と酒をあおる音が支配し。
「恐れながら閣下。
このような手法はいかがでしょうか。」
執事長の話す内容に、マティス公爵の目が見開く。
「よく思いついた!
早速、明日にでも詳細を詰めるぞ!」
マティス公爵は一気に酒をあおると、立ち上がり侍女を呼ぶ。
数分もしないうちに部屋へ訪れ、頭を下げる侍女の手を掴み。
「すまんな、今夜はもう一度相手をしろ。」
そのままソファへ押し倒し、服を剥く。
「では閣下、私はこれで。」
執事長は恭しく頭を下げると、部屋を辞した。
バズル男爵は、内心焦っていた。
任用を約束してくれたマティス公爵は何も言ってこない。
そして派閥の子爵や男爵も妙によそよそしい。
派閥中枢の伯爵や侯爵など、気軽に話しかけられるほど気安くない。
この前の、ベガドリア男爵が帰還した舞踏会の後くらいからだ。
正直思い当たることがない。
しかし重要な役職に就けなければ、借り入れている金の返済にも窮する。
なので、マティス公爵の館へ呼ばれたバズル男爵は飛んでいき。
そして重要任務だと告げられた時には天にも昇る思いだった。
「わ、私が帝国への使者ですか!」
「そうとも、バズル男爵殿。
我が国も帝国といつまでも戦争するわけにはいかん。
終戦と講和に関する会議の、その呼びかけは必要だろう。」
マティス公爵から封緘された親書を出される。
その封蝋に押されたのは、王家の紋章。
「この大役を無事に果たされたならば、バズル男爵殿の名は陛下の御心にも強く残るでしょうな。」
「陛下の…!」
余程のことがない限り、御声すらかからない貧乏男爵だ。
将来が約束されたのも同義、もしかすると子爵への昇爵すらあり得るかもしれない。
「危険な任務ではあるが、期待しても?」
「おまかせください閣下!
この名にかけ、大役果たしてみせます!」
王宮で第1王子の無理難題に頭を痛めていた。
目を付けた侍女でも抱かなければ気が収まらない。
執事長がグラスに酒を注ぐ。
「少々お荒れのご様子、いかがなさいましたか?」
「あの王子の阿呆加減には少々うんざりだ。」
ため息をつく。
マティス公爵も若い頃から相当の女好きだ。
だが、その若い頃に、そうとは知らず夫のいる侍女を手篭めにし大騒動になった。
幸いにも領館内でのことだったので醜聞は外に漏れなかったが、さすがのマティス公爵にも後味が悪かった。
それからというもの、マティス公爵が手を出す女性は、金か権力で十分解決できる場合だけとなった。
黙っていても取り入りたい下級貴族が差し出してくるし、抱かれたいと願う侍女も少なからずいる。
抱かれる側にもそれなりの見返りはあるし、それを望まない者をマティス公爵は絶対に抱かなかった。
そういう意味では、公爵令嬢と婚約していながら他家の公爵令嬢に手を出した第1王子の行為は。
例えるなら『臣下でありながら自国の王女を手篭めにする』程度に愚かな行為と言えた。
しかもその行為自体に酔っているのだから始末に負えない。
第1王子でなければ斬るところだが、適度に阿呆なので、将来操ればいいと思って怒りを抑えているのだ。
「恐れながら閣下。
第1王子が残念なのは、もうどうしようもないかと。」
「阿呆なのは仕方がないわ。
せめて大公になれば、国王とて適当な理由を付けて飼殺せるのだがな。
いくら筆頭公爵といえど、権威では大公には遠く及ばんよ。」
酒をあおる。
「ただ、大公は難しい。
30歳未満の王子を王太子にするなら、大公は必須だ。
第1王子でも成人前、30歳まで10年以上ある。
陛下の健康不安説が出ている今がタイミングとしては最適なのだがな…」
執事長にグラスを持たせると、自ら酒を注ぐ。
こういった機密を含む話は気軽に話せない。
王家に対する愚痴など政敵に聞かれたら、それこそ侮辱だと揚げ足を取られかねない。
老獪な執事長は、マティス公爵が心を許せる数少ない相手であった。
「次席公爵派閥をはじめ、他の派閥や中立派を黙らせるだけの結果、ですか…」
「それがあればセージを屈服させられる。
セージが下れば、後はドミノ倒しだ。」
だが次席公爵が屈服するほどの何か、など思い浮かばない。
セージ公爵家も王国創建の頃から仕える名家だ。
しばし、ため息と酒をあおる音が支配し。
「恐れながら閣下。
このような手法はいかがでしょうか。」
執事長の話す内容に、マティス公爵の目が見開く。
「よく思いついた!
早速、明日にでも詳細を詰めるぞ!」
マティス公爵は一気に酒をあおると、立ち上がり侍女を呼ぶ。
数分もしないうちに部屋へ訪れ、頭を下げる侍女の手を掴み。
「すまんな、今夜はもう一度相手をしろ。」
そのままソファへ押し倒し、服を剥く。
「では閣下、私はこれで。」
執事長は恭しく頭を下げると、部屋を辞した。
バズル男爵は、内心焦っていた。
任用を約束してくれたマティス公爵は何も言ってこない。
そして派閥の子爵や男爵も妙によそよそしい。
派閥中枢の伯爵や侯爵など、気軽に話しかけられるほど気安くない。
この前の、ベガドリア男爵が帰還した舞踏会の後くらいからだ。
正直思い当たることがない。
しかし重要な役職に就けなければ、借り入れている金の返済にも窮する。
なので、マティス公爵の館へ呼ばれたバズル男爵は飛んでいき。
そして重要任務だと告げられた時には天にも昇る思いだった。
「わ、私が帝国への使者ですか!」
「そうとも、バズル男爵殿。
我が国も帝国といつまでも戦争するわけにはいかん。
終戦と講和に関する会議の、その呼びかけは必要だろう。」
マティス公爵から封緘された親書を出される。
その封蝋に押されたのは、王家の紋章。
「この大役を無事に果たされたならば、バズル男爵殿の名は陛下の御心にも強く残るでしょうな。」
「陛下の…!」
余程のことがない限り、御声すらかからない貧乏男爵だ。
将来が約束されたのも同義、もしかすると子爵への昇爵すらあり得るかもしれない。
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