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スーの日常

サロンの一角で

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そして、そのどれにも当てはまらない生徒も存在する。




「う~ん、私は帰省しないかなぁ…」

夏休み前の定期試験、在校生全員がひとまず無事に及第点をパスした王立学院。
まだ生徒の多くが残っており、仲の良いグループがサロンのテーブルを囲んでいる。
その一角にセシアとスーの姿があった。
昨夜の雨も上がり庭の木々は雫で輝いているが、その分湿度が不快だ。

「多分、王都の邸宅と学院の寮を行き来するかな。
 いくつか遅れている科目もあるし。」

「そうなの?
 せっかくだから帰省すればいいのに。
 ペニシフィン子爵領は涼しいでしょう。」

「この国の最果て、北方の山岳地帯よ。
 避暑にはいいけど、往復するだけで夏休みが終わっちゃうと思う。
 それに、カイも王都にいるそうだし。」

そう言いながら汗の浮かぶ額にハンカチをあてるセシア、その指には純銀の指輪が光る。
それは王宮に認められた者だけが許される特権である。

「カイ様は学業の関係で?」

「いいえ、カイは優秀よ。
 経営学と乗馬は常にトップ争いをしているわ。
 ヴァルト子爵家の次期当主でなければ近衛師団に推挙すると教官が言っていたわ。」

同じ子爵家とはいっても、婚約者カイ様のヴァルト家の方が格上。
セシアの性格もあって様付けで呼んでいたのだが、婚約者なのに余所余所しいと本人から不満を言われたらしい。
まぁセシアも幸せそうだし、それはスーの口出すことではない。

「正式に婚約したから、ご挨拶しないといけない場所がたくさんあるの。
 仲の良い貴族家はもちろんだし、チーズの組合とか有力な販売店も行かないと。」

「販売店?
 平民のお店にわざわざ挨拶に行くの?」

貴族が平民に頭を下げるというのは、想像しても違和感がある。
普通は生産している貴族の元へ、販売させて頂いている平民が訪ねてくるものだ。
軽く驚くスーにセシアは笑う。

「人間関係は重要よ。
 例えば目立つ場所に商品を置いてもらったりとか、迷っている顧客に勧めてもらったり。
 そういうのって、最後は店員や責任者の判断だもの。」

あまり卑屈になり過ぎるのも問題だけどね、と付け加える。
セシアのペニシフィン子爵家を含め、北方の下級貴族の多くが放牧を主な収益源としている。
彼らの感覚は貴族よりも商人に近いのかもしれない。
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