上 下
26 / 29
エピローグ

割と大変だったパティの過去 1

しおりを挟む
思い出せる最古の記憶、その頃から私は馬車に乗せられていた。
実の両親は知らない、あと名前も無い。
ただ、30人くらいいる集団の、最下層だというのは分かっていた。
読み書きを習う前に、自分の腰くらいもある袋を担がされていた。
そうしなければたれたし、食事も貰えなかったので。

行商人の原理は意外と分かりやすい。
ある地域で商品を仕入れ、それを高値で売れる場所へ持っていく。
その土地で別の商品を仕入れ、また違う場所へ持っていく。
上手くいけば転売益を得られるし、失敗すれば損をする。
他にも色々な要素はあるのだろうけれど、それを理解できるほどの脳みそは無かった。
そういうのは主人家族とか偉い人が考えるものだ。
私は、ただ言われるがままに雑用をこなし、粗末な食事にありつき、ボロ布に包まって寝る。
それが基本だった。




そういった生活を何年送ったか。
思えば、その日はおかしかったと思う。
普段なら移動の際にはベテランの護衛を10人近く雇う。
それなのに、その日に雇ったのは若い新人ばかり数人だった。

嫌な予感は当たるもので、移動の中間あたりの森で襲われた。
森の中で速度が出せない中、いきなり弓矢で護衛の半分が攻撃を受け行動不能。
更にやぶから飛び出した野盗の剣で、残りも含め護衛全員が死亡。
彼らは無駄なく黙々と使用人を馬車から引きずり下ろすと、次々と斬り殺していった。
私も足を掴んで引きずり下ろされ、斬られて刺された。
幸か不幸か急所が外れていたらしく、即死ではなかった。
ただ声を上げることも出来ず、先に斬られた仲間の隣で横たわっていた。

「上手くいったな。」

それは、主人の声だった。

「一体いくらの保険金をかけたんだ?」

「お前さんたちの報酬よりかは多いさ。
 油は持ってきてくれたよな?
 さぁ、とっとと焼いてしまおう。」

野盗と主人の会話を聞いて、全てを理解した。
グルだ。
つまり、私たちは殺されるのだ。
お金のためだけに。

畜生。




「何をしておる?」

…女性?

「…何でこんな森の中に?」

「おい、ついでだ。
 メイドと一緒に攫ってしまえ。
 そのガキの実家から金が取れるぞ。」

「そっちのメイドは色々とだ。」

「森を焼く?攫う?楽しむ?
 ほう。」

「とりあえず『死になさい』、豚ども。」

数々の倒れる音。
そして、静寂。

「お嬢様。
 この娘はまだ生きています。
 死にかけてはいますが、いかが取り計らいましょうか。」

「ふむ…
 雑用は出来そうかの。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

決して戻らない記憶

菜花
ファンタジー
恋人だった二人が事故によって引き離され、その間に起こった出来事によって片方は愛情が消えうせてしまう。カクヨム様でも公開しています。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

処理中です...