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王都の日常で非日常
フィッツ男爵の誘拐(ある意味もはや日常)
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貴族界とは権力闘争の世界である。
そして貴族の集う王都には様々な非合法の組織があった。
貴族法廷も存在するが、貴族間の紛議を何もかも公平中立に裁けるわけではない。
上下関係が存在する以上、例えば公務などを通じて合法的に下級貴族家に圧力をかけることも可能だ。
それに対抗するとなると、どうしても下級貴族は非合法な手段を検討せざるを得ない。
そのための実力組織は必然であった。
自らの信義に従う者もあれば、報酬次第でどんな仕事でも請け負う者もある。
そして王都において連続殺人と吸血鬼の噂に関わっている者達は、その後者であった。
若い女性を拉致し殺害、バラバラ死体にして路地裏へ置くという仕事。
しかも貧民街に限るという条件付き。
貧民街は王政に対する反感が比較的強い。
一種の自治組織のようなものが複数あり、協力と対立によって複雑なパワーバランスが成り立っている。
そのため行政や警務官が思ったような活動が出来ず、それが治安の悪化を招き、更に犯罪者が流入するという悪循環であった。
しかし、今回彼らに破格の報酬と共に要求されたのは、貴族の拉致。
事前に馬車の通るルートも調べられており、計画は迅速に実行された。
人目の少ない場所で御者を斬り殺し馬車ごと奪取、倉庫街にあるアジトに連行して、今に至る。
「妙だな…」
「あぁ、全くです。」
とある貴族家で衛兵を務めていた過去もある彼らは、ノウハウも場数もある。
だから、違和感は気づく。
誘拐された令嬢は極度に混乱し、取り乱すか怯えて震えるか、この二択の場合がほとんどだ。
実際のところ余程のことがない限り令嬢が殺されることはない。
殺すのが目的なら襲撃現場で殺せば手間が省ける、誘拐するのは何らかの交渉を行うからだ。
そして多くの場合、令嬢は無事に解放される。
もちろん、そんなこと誘拐された令嬢は知る由もない。
なのに、だ。
連れてきたフィッツ男爵家のスーは、ただ静かにこちらを見つめている。
怯えて声も出ないのとは全く違う。
まるで、この状況を観察し、分析し、思考し、対策するかのように。
(そもそもだ。
貴族家の当主が護衛もつけず単独で、それも借り上げ馬車で動くって何だ。
おまけに、この肝のすわり様…)
何らかの罠かとさえ思う。
ただ彼らとてプロである以上、フィッツ男爵家については十分に調査している。
スーという当主が実在することも、男爵の中でも極貧に位置することも一応は。
「全く気味が悪い。
とっとと仕事を終わらせて飲みに行くぞ。」
「了解です。
で、アイツはここで殺すんで?」
「いや、移送だ。
貧民ならともかく、貴族だからな…雇い主様もタイミングを考えているんだろうさ。
連絡要員がもう少しで来るはずなんだが。」
暗殺するだけなら殺すだけでいい、示威行為なら死体を玄関先か人目に付くところに捨てればいい。
だが生きた人間を運ぶというのは、いくら小娘でも意外と難しいものだ。
とはいえ一応プロなのだから、前金と情報を受け取っておいて「無理でした」は通じない。
なのだが。
何とも気味が悪い、何もかもがしっくりこない。
そして貴族の集う王都には様々な非合法の組織があった。
貴族法廷も存在するが、貴族間の紛議を何もかも公平中立に裁けるわけではない。
上下関係が存在する以上、例えば公務などを通じて合法的に下級貴族家に圧力をかけることも可能だ。
それに対抗するとなると、どうしても下級貴族は非合法な手段を検討せざるを得ない。
そのための実力組織は必然であった。
自らの信義に従う者もあれば、報酬次第でどんな仕事でも請け負う者もある。
そして王都において連続殺人と吸血鬼の噂に関わっている者達は、その後者であった。
若い女性を拉致し殺害、バラバラ死体にして路地裏へ置くという仕事。
しかも貧民街に限るという条件付き。
貧民街は王政に対する反感が比較的強い。
一種の自治組織のようなものが複数あり、協力と対立によって複雑なパワーバランスが成り立っている。
そのため行政や警務官が思ったような活動が出来ず、それが治安の悪化を招き、更に犯罪者が流入するという悪循環であった。
しかし、今回彼らに破格の報酬と共に要求されたのは、貴族の拉致。
事前に馬車の通るルートも調べられており、計画は迅速に実行された。
人目の少ない場所で御者を斬り殺し馬車ごと奪取、倉庫街にあるアジトに連行して、今に至る。
「妙だな…」
「あぁ、全くです。」
とある貴族家で衛兵を務めていた過去もある彼らは、ノウハウも場数もある。
だから、違和感は気づく。
誘拐された令嬢は極度に混乱し、取り乱すか怯えて震えるか、この二択の場合がほとんどだ。
実際のところ余程のことがない限り令嬢が殺されることはない。
殺すのが目的なら襲撃現場で殺せば手間が省ける、誘拐するのは何らかの交渉を行うからだ。
そして多くの場合、令嬢は無事に解放される。
もちろん、そんなこと誘拐された令嬢は知る由もない。
なのに、だ。
連れてきたフィッツ男爵家のスーは、ただ静かにこちらを見つめている。
怯えて声も出ないのとは全く違う。
まるで、この状況を観察し、分析し、思考し、対策するかのように。
(そもそもだ。
貴族家の当主が護衛もつけず単独で、それも借り上げ馬車で動くって何だ。
おまけに、この肝のすわり様…)
何らかの罠かとさえ思う。
ただ彼らとてプロである以上、フィッツ男爵家については十分に調査している。
スーという当主が実在することも、男爵の中でも極貧に位置することも一応は。
「全く気味が悪い。
とっとと仕事を終わらせて飲みに行くぞ。」
「了解です。
で、アイツはここで殺すんで?」
「いや、移送だ。
貧民ならともかく、貴族だからな…雇い主様もタイミングを考えているんだろうさ。
連絡要員がもう少しで来るはずなんだが。」
暗殺するだけなら殺すだけでいい、示威行為なら死体を玄関先か人目に付くところに捨てればいい。
だが生きた人間を運ぶというのは、いくら小娘でも意外と難しいものだ。
とはいえ一応プロなのだから、前金と情報を受け取っておいて「無理でした」は通じない。
なのだが。
何とも気味が悪い、何もかもがしっくりこない。
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