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燃ゆる炎に夢染めますか?
燃ゆる炎に夢染めますか?①
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半開きになったカーテンから朝日が差し込む。夏のように日が高い訳ではなく冬のように低い訳でもない。
それはベッドで眠る自分の顔に当たり、今日は優雅な朝になると伝えようとしているようだった。しかし、時枝は布団を被る事でそれを回避する。
今日は文化祭二日目。本来であれば昨日と同じように早朝に学校へ出向き、各々の準備を進めなければならない。しかし、今日は自分に真面な仕事はない。
というのは昨日のうちにクラスの出し物のシフトは終えてしまい、写真部のシフトも午後だけだからだ。周囲との温度差を感じかねないため流石に昼くらいには学校に向かう予定だが、逆に言えば朝から学校に向かうつもりもなかった。
……姉に起こされるまでは。
太陽と人間では普通に考えて太陽の方が圧倒的なはずだが少なくとも今日に関しては姉の方が上手なようだ。
「起きろー!」
そう言って姉は布団ごと捲りあげる。
「えっ! なんだ!?」
半目の状態で起き上がる。夢現の状態にいた自分からすれば、突然夢の世界が崩壊し現実に引き戻されたような感覚だ。
しかし周囲を見渡して姉の仕業だとわかると一気に怒りが込み上げてくる。元々寝起きは悪くないため大抵の事では怒らないのだが、流石に意味もなく叩き起こされれば誰でも機嫌は悪くなるだろう。
「姉貴。何するんだよ」
「起こしてあげたのよ。寝坊しそうだったから」
あっけらかんとした表情で姉は言う。しかし、それに対してすぐさま反論する。
「いや、だから明日は昼から学校に行くから起こすなって昨日ちゃんと言ったよな?」
姉は考える素振りを見せる。しかし、それが演技である事を隠す素振りすら見せない。
つまり、全く悪い事をしているつもりはないのだろう。そういう時は何を言っても無駄だ。
そう判断して小さく溜息を付きながら再び布団の中へと潜る。
「あ、こら。翔! 起きなさい」
そういう姉を睨むように布団から顔だけを出す。
「いや、だから昼から行くんだってば」
「何言っているのよ。折角の文化祭なんだから別に仕事があろうとなかろうと学校に行って楽しまないと」
そう言って姉は布団をもう一度捲る。
頑張って抵抗はしてみるが、姉の力はかなり強い。自分ごと捲りあげる勢いで布団は持ち上げられてしまう。
ぼさぼさの髪のまま姉を睨む。しかし、睨まれ慣れた姉にそれは効果がないようで、むしろ堂々と正面に立ち続けていた。
「そんなに行きたいなら一人で行ってくればいいだろ。少なくとも自分には関係ない」
「関係ない事はないでしょうに」
姉は小さく溜息を付く。
「いいの? 友達とも喧嘩して更にボッチ生活に片足を突っ込んでも」
「……別に。それなりにやっているし」
素っ気なくそう返し、ベッドから立ち上がる。
「もう寝る気もなくした」
姉を一瞥した後にその言葉だけを溢して部屋を出る。その様子を見守るように部屋には少し悲しそうな表情をした姉だけが取り残されていた。
朝と言っても普段学校へ向かう時間よりは遅い。当然両親も仕事へと向かっており、リビングには誰もいなかった。無人のリビングを通過してキッチンに向かい、冷蔵庫の一番下の段を開ける。そこにはいつものようにお茶の入ったピッチャーを取り出す。それをガラスのグラスに入れて一気に飲み干す。
「ふう」
溜息に似た息を吐き出し、見慣れた景色をぼんやりと眺める。しかしそれも数秒の事で、気分を入れ替えるために大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。
「よし。やるか」
未だ寝ていたいと駄々をこねる身体を無理矢理動かして朝の支度を始めた。
いつもよりも遅く起き、いつもよりものんびりと準備していたとはいえ今の時間は午前十時。予定していた時刻よりはかなり早い。
やはり行くべきか、まだ行かないべきか。
制服にまで着替えてから悩む事ではないが、それでもそんな事をふと考える。もう自分を監視している姉も部屋に引き籠っており、何をしようと見つかる事はない。
やはり部屋に戻ろうか。
そう思って自室に足を向けた時、来訪者を示す家のチャイムが鳴った。
面倒くさいな。そんな事を思いながらリビングに向かい、インターフォンの画面を確認する事なく応答ボタンを押した。
「はい。時枝ですけど」
「……あっ、もしかしてその声は時枝かな?」
「…………!? んなっ、その声は!」
聞き馴染みのある声が馴染みのない場所で聞こえた事に驚きながら、慌ててインターフォンのカメラ越しに家の前に立つ人の姿を確認する。
声色からしてもその立ち姿からしても見間違えることはない。
……花山だ。
久しぶりに会えた嬉しさと突然の出来事に胸が跳ね上がる。しかし、それと同時に喧嘩中である事も思い出す。
そんな感情の板挟みを感じながらカメラ越しに再度花山を見る。
花山は自分からの返事を待っているようでインターフォンの前で暇を潰しているようだ。それを確認して玄関へと向かう。
何を思って自宅に来たのだろうか?
何か重要な話でもあるのだろうか?
今喧嘩中である事を忘れているのだろうか?
……そもそも何故自宅を知っているのだろうか?
イレギュラーな朝を迎えて質問が尽きぬほど溢れていた。
一方で突然の出来事に気味悪さが心に突っ掛かる。本来であれば少し対応を考える時間が欲しい所だが、インターフォンで返事をしてしまった以上居留守は使えない。当然出るしかないのはわかっていたが、玄関の扉の前に来てもなお葛藤を抱えていた。
玄関の扉に手を掛けて、……そこで立ち止まる。高鳴る心臓を抑えるように数秒程呼吸を落ち着けてから様子を伺うようにしてゆっくりと家の扉を開けた。
花山はその音に気が付いたのか携帯電話に落としていた目線をこちらに向ける。そしてその音の発生源を見て微かに笑った。
「久しぶりだね。時枝」
その笑顔はいつもと変わらないように見える。しかし、久々にその姿を見ると何処かいつもと違う花山のようにも見えた。
「……そうだな」
まだ扉から身体は出さず顔だけ花山に向けてそう答える。その様子を見て花山は少し寂しそうな表情をしながら声を掛けてくる。
「やっぱりここだと思った」
「やっぱりって?」
訝しむようにそう尋ね返す。
「いや、東雲さんからクラスのシフト表を貰った時から、今日時枝は遅れていくんだろうなってね」
相変わらず鋭い。だがそこで素直に屈するのも気分が悪い。
「半分は間違っていない。……が、丁度今家を出る所だったんだ。後数分遅れていたらすれ違いだったな」
それを聞いた花山は小さく噴き出すように笑う。
「確かに。それもそうだね。でも、結果的に間に合って良かったよ」
「…………」
「折角だから一緒に学校に行かないか? 丁度家を出る所だったんだよね?」
口元は笑っているもののいつにも増して真面目な顔つきをしている。その事が偶然ではなく何かしらの意思と覚悟を持って家にまで来たのだと感じさせた。
どういった考えを持って行動しているのかわからない。しかし、自分としても花山とはしっかり話さないといけないと考えていたし、丁度いい機会なのかもしれない。
「……ちょっと待っていろ」
「はいはい」
花山の返事は聞く事なく急いで自室に向かい、部屋に乱雑に置かれた鞄を手に持つ。
鞄と言っても特別な何か入っている訳ではない。カメラと鍵、それとなけなしのお金が入った財布くらいだろうか。
しかし確かな重みを持つそれは自分の腕にしっかりと負荷をかけた。
外へ出ると花山は地面に置いていた鞄を肩に掛けて待っていた。同じように支度を済ませた自分を見て、花山は、「じゃあ、行こうか」と一声掛ける。
それに無言で頷き、花山の隣へ並んだ。
それはベッドで眠る自分の顔に当たり、今日は優雅な朝になると伝えようとしているようだった。しかし、時枝は布団を被る事でそれを回避する。
今日は文化祭二日目。本来であれば昨日と同じように早朝に学校へ出向き、各々の準備を進めなければならない。しかし、今日は自分に真面な仕事はない。
というのは昨日のうちにクラスの出し物のシフトは終えてしまい、写真部のシフトも午後だけだからだ。周囲との温度差を感じかねないため流石に昼くらいには学校に向かう予定だが、逆に言えば朝から学校に向かうつもりもなかった。
……姉に起こされるまでは。
太陽と人間では普通に考えて太陽の方が圧倒的なはずだが少なくとも今日に関しては姉の方が上手なようだ。
「起きろー!」
そう言って姉は布団ごと捲りあげる。
「えっ! なんだ!?」
半目の状態で起き上がる。夢現の状態にいた自分からすれば、突然夢の世界が崩壊し現実に引き戻されたような感覚だ。
しかし周囲を見渡して姉の仕業だとわかると一気に怒りが込み上げてくる。元々寝起きは悪くないため大抵の事では怒らないのだが、流石に意味もなく叩き起こされれば誰でも機嫌は悪くなるだろう。
「姉貴。何するんだよ」
「起こしてあげたのよ。寝坊しそうだったから」
あっけらかんとした表情で姉は言う。しかし、それに対してすぐさま反論する。
「いや、だから明日は昼から学校に行くから起こすなって昨日ちゃんと言ったよな?」
姉は考える素振りを見せる。しかし、それが演技である事を隠す素振りすら見せない。
つまり、全く悪い事をしているつもりはないのだろう。そういう時は何を言っても無駄だ。
そう判断して小さく溜息を付きながら再び布団の中へと潜る。
「あ、こら。翔! 起きなさい」
そういう姉を睨むように布団から顔だけを出す。
「いや、だから昼から行くんだってば」
「何言っているのよ。折角の文化祭なんだから別に仕事があろうとなかろうと学校に行って楽しまないと」
そう言って姉は布団をもう一度捲る。
頑張って抵抗はしてみるが、姉の力はかなり強い。自分ごと捲りあげる勢いで布団は持ち上げられてしまう。
ぼさぼさの髪のまま姉を睨む。しかし、睨まれ慣れた姉にそれは効果がないようで、むしろ堂々と正面に立ち続けていた。
「そんなに行きたいなら一人で行ってくればいいだろ。少なくとも自分には関係ない」
「関係ない事はないでしょうに」
姉は小さく溜息を付く。
「いいの? 友達とも喧嘩して更にボッチ生活に片足を突っ込んでも」
「……別に。それなりにやっているし」
素っ気なくそう返し、ベッドから立ち上がる。
「もう寝る気もなくした」
姉を一瞥した後にその言葉だけを溢して部屋を出る。その様子を見守るように部屋には少し悲しそうな表情をした姉だけが取り残されていた。
朝と言っても普段学校へ向かう時間よりは遅い。当然両親も仕事へと向かっており、リビングには誰もいなかった。無人のリビングを通過してキッチンに向かい、冷蔵庫の一番下の段を開ける。そこにはいつものようにお茶の入ったピッチャーを取り出す。それをガラスのグラスに入れて一気に飲み干す。
「ふう」
溜息に似た息を吐き出し、見慣れた景色をぼんやりと眺める。しかしそれも数秒の事で、気分を入れ替えるために大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。
「よし。やるか」
未だ寝ていたいと駄々をこねる身体を無理矢理動かして朝の支度を始めた。
いつもよりも遅く起き、いつもよりものんびりと準備していたとはいえ今の時間は午前十時。予定していた時刻よりはかなり早い。
やはり行くべきか、まだ行かないべきか。
制服にまで着替えてから悩む事ではないが、それでもそんな事をふと考える。もう自分を監視している姉も部屋に引き籠っており、何をしようと見つかる事はない。
やはり部屋に戻ろうか。
そう思って自室に足を向けた時、来訪者を示す家のチャイムが鳴った。
面倒くさいな。そんな事を思いながらリビングに向かい、インターフォンの画面を確認する事なく応答ボタンを押した。
「はい。時枝ですけど」
「……あっ、もしかしてその声は時枝かな?」
「…………!? んなっ、その声は!」
聞き馴染みのある声が馴染みのない場所で聞こえた事に驚きながら、慌ててインターフォンのカメラ越しに家の前に立つ人の姿を確認する。
声色からしてもその立ち姿からしても見間違えることはない。
……花山だ。
久しぶりに会えた嬉しさと突然の出来事に胸が跳ね上がる。しかし、それと同時に喧嘩中である事も思い出す。
そんな感情の板挟みを感じながらカメラ越しに再度花山を見る。
花山は自分からの返事を待っているようでインターフォンの前で暇を潰しているようだ。それを確認して玄関へと向かう。
何を思って自宅に来たのだろうか?
何か重要な話でもあるのだろうか?
今喧嘩中である事を忘れているのだろうか?
……そもそも何故自宅を知っているのだろうか?
イレギュラーな朝を迎えて質問が尽きぬほど溢れていた。
一方で突然の出来事に気味悪さが心に突っ掛かる。本来であれば少し対応を考える時間が欲しい所だが、インターフォンで返事をしてしまった以上居留守は使えない。当然出るしかないのはわかっていたが、玄関の扉の前に来てもなお葛藤を抱えていた。
玄関の扉に手を掛けて、……そこで立ち止まる。高鳴る心臓を抑えるように数秒程呼吸を落ち着けてから様子を伺うようにしてゆっくりと家の扉を開けた。
花山はその音に気が付いたのか携帯電話に落としていた目線をこちらに向ける。そしてその音の発生源を見て微かに笑った。
「久しぶりだね。時枝」
その笑顔はいつもと変わらないように見える。しかし、久々にその姿を見ると何処かいつもと違う花山のようにも見えた。
「……そうだな」
まだ扉から身体は出さず顔だけ花山に向けてそう答える。その様子を見て花山は少し寂しそうな表情をしながら声を掛けてくる。
「やっぱりここだと思った」
「やっぱりって?」
訝しむようにそう尋ね返す。
「いや、東雲さんからクラスのシフト表を貰った時から、今日時枝は遅れていくんだろうなってね」
相変わらず鋭い。だがそこで素直に屈するのも気分が悪い。
「半分は間違っていない。……が、丁度今家を出る所だったんだ。後数分遅れていたらすれ違いだったな」
それを聞いた花山は小さく噴き出すように笑う。
「確かに。それもそうだね。でも、結果的に間に合って良かったよ」
「…………」
「折角だから一緒に学校に行かないか? 丁度家を出る所だったんだよね?」
口元は笑っているもののいつにも増して真面目な顔つきをしている。その事が偶然ではなく何かしらの意思と覚悟を持って家にまで来たのだと感じさせた。
どういった考えを持って行動しているのかわからない。しかし、自分としても花山とはしっかり話さないといけないと考えていたし、丁度いい機会なのかもしれない。
「……ちょっと待っていろ」
「はいはい」
花山の返事は聞く事なく急いで自室に向かい、部屋に乱雑に置かれた鞄を手に持つ。
鞄と言っても特別な何か入っている訳ではない。カメラと鍵、それとなけなしのお金が入った財布くらいだろうか。
しかし確かな重みを持つそれは自分の腕にしっかりと負荷をかけた。
外へ出ると花山は地面に置いていた鞄を肩に掛けて待っていた。同じように支度を済ませた自分を見て、花山は、「じゃあ、行こうか」と一声掛ける。
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