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燃ゆる炎に夢見てますか?
燃ゆる炎に夢見てますか?②
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部室の扉を開けて中に入ると待っていましたと言わんばかりに山吹が出迎える。
「あ! 二人ともおはよう」
部長も見るからに楽しみにしているようだ。
自分はそもそもあまり緊張しないタイプなので人の事を言えないのだが、文化祭前の写真部には緊張という概念が存在しないのだろうか?
それならそれでいいがクラスの様子と比較すると対極で逆に不安に感じる。そんな無意味な心配をしている自分の隣で山吹と東雲が楽しそうに会話している。
「そう言えば東雲さんのクラスって何をするの?」
「私達のクラスは抹茶喫茶をする予定なんです」
「抹茶! いいよね、抹茶」
「山吹先輩は抹茶がお好きなんですか?」
「そうなのよ。写真部の仕事の合間に行ってみようかしら。そういう意味でもフリータイムを確保しやすい出し物にしたし」
なるほど。それでフリー写真撮影か。
つまり、程よく写真部としての仕事を楽しみつつ、文化祭も楽しみたいという事だろう。
確かに高校生活最後の文化祭と考えるとそう言った楽しみ方もいいかもしれない。
そこまで考えていた所で部室の扉が開く。
「おはようございます!」
この声は間違いなく海老根だ。
「あ、凛さん。おはようございます」
「海老根さんおはよう」
東雲と山吹もそれぞれ挨拶をする。その中に、「おはよう」という言葉を潜り込ます。
海老根は三人がいる中で自分の方を見る。
「やっぱりイベント事の時はテンション低いね」
「それ、自分に言っているのか?」
「他に誰がいるのよ」
海老根は呆れた表情を見せる。
「それもそうか。それを言うなら別にそんな事はない。あくまでいつも通りだ」
「そのいつも通りがイベント事の時は浮く原因になるのよ?」
「別にいいんだよ。仕事はしっかりこなすし」
「もう……。その仕事って言い方がいかにもやる気なしって感じよね」
「そう言うつもりじゃないんだが……」
「流石幼馴染。仲がいいのね」
そう言ってニコニコと笑顔を見せながら山吹は自分の方を見る。
「いや、別に……」
「そうなんですよ。これでも結構仲良しなんですよ」
自分の言葉を遮って海老根は山吹の意見を肯定する。
別に仲が悪い訳でもないしそれでもかまわないのだがこういった場面でそう言われるのは気恥ずかしい。
このまま放っておけばいくらでも話し出してしまいそうな海老根の会話を遮るために山吹に話しかける。
「それよりも先輩。もう時間ですよ」
指摘された山吹は部室に掛けられた時計を確認する。いつの間にか八時半を過ぎていたようで、もうすぐ四十分になろうとしていた。
「あっ、ごめんなさい。話過ぎたみたいね。それじゃあこれから本日の予定の最終確認をしていきたいと思います」
そう周囲に呼びかける。
それに対して、「はい」と声を上げたり、頷いたりと各々の返事をする。それを確認した山吹はミーティングを開始した。
ミーティングは十数分かけて再度それぞれの担当時間と場所を確認し合った。
とはいっても前回配られた資料とはほとんど一緒であり、異なる点と言えば花山が休む事は自分が知るよりも前に部活のメンバーが知っていたという点だろうか。
それをもとに花山の予定を少し作り変えた事だけを追加で知らされた。
自分の担当は今日の午後。厳密にいえばクラスの出し物の店番が終わったその後だ。
これだと昼ご飯を食べるタイミングがないなとミーティング中に気付いたがそればかりは仕方がない。
この時間になったのも部活のミーティングをサボったからだし、クラスの出し物の店番が昼時になってしまったのもクラスのミーティングをサボったからだ。
一度何処かでサボれば必ずその見返りが返ってくる事を示す良い例だろう。
その代わりに今日一日乗り切れば明日はかなり楽になる。当面の目標を明日まで無事生き残る事に設定し覚悟を決める。
そんな面持ちで文化祭開始の合図を待機していると隣にいた海老根が話しかけてくる。
「なんだか少しやる気が出てきたみたいね」
やる気と言うには少し本来目標とすべき所がみんなとずれている気がするが、その事をいちいち言う必要もない。
「凛にはそう見えるか?」
「うん。見える。何年一緒に過ごしてきたと思っているのよ」
「まあそうか」
そう軽く返事をしてから実際に何年一緒にいるのかを考える。
中学三年生の時はほとんど会えていなかったが、そこも含めてしまうならもう十年近くだろうか。
「そうだ。翔はこの後暇?」
確か仕事は十時からだ。それまでは暇と言えるだろう。
「十時から仕事はあるがそれまでなら暇だな」
「そう……。あの、それなら少しだけ一緒に見て回らない?」
少し照れたような表情を見せながら海老根はそう提案する。その様子に少し身体が緊張するのを感じる。
そして海老根から少し目線を逸らして、「まあ、別にいいよ」と返した。
今日は九時から始まり十七時に終わる事になっている。長いように見えるがその為の準備の時間を考えると割には合わない。
それでも多くの人にとって何度とない時間を楽しむためにこの文化祭と言うイベントの準備をしてきた。
ふと時計を見る。
そのイベントが始まるまで残り数秒となっている。それのカウントダウンを告げるかのように時計の針の音がいつもよりも響いて感じた。
そしてその針が十二の数字を指した時、
「……第七十五回、花宮高校文化祭を開始致します」
と言う合図が校内放送から響き渡った。
それを聞き終わらないうちに部室の扉を海老根が開ける。
「さっ! 早く行こう!」
その声は嬉しそうで楽しそうでまるで子供のような無邪気な表情を浮かべていた。
「おいおい。そんなに急ぐなよ」
そう言いながらもやはり久しぶりに見るその無邪気な笑顔に懐かしさと嬉しさを感じている自分がいた。
「あ! 二人ともおはよう」
部長も見るからに楽しみにしているようだ。
自分はそもそもあまり緊張しないタイプなので人の事を言えないのだが、文化祭前の写真部には緊張という概念が存在しないのだろうか?
それならそれでいいがクラスの様子と比較すると対極で逆に不安に感じる。そんな無意味な心配をしている自分の隣で山吹と東雲が楽しそうに会話している。
「そう言えば東雲さんのクラスって何をするの?」
「私達のクラスは抹茶喫茶をする予定なんです」
「抹茶! いいよね、抹茶」
「山吹先輩は抹茶がお好きなんですか?」
「そうなのよ。写真部の仕事の合間に行ってみようかしら。そういう意味でもフリータイムを確保しやすい出し物にしたし」
なるほど。それでフリー写真撮影か。
つまり、程よく写真部としての仕事を楽しみつつ、文化祭も楽しみたいという事だろう。
確かに高校生活最後の文化祭と考えるとそう言った楽しみ方もいいかもしれない。
そこまで考えていた所で部室の扉が開く。
「おはようございます!」
この声は間違いなく海老根だ。
「あ、凛さん。おはようございます」
「海老根さんおはよう」
東雲と山吹もそれぞれ挨拶をする。その中に、「おはよう」という言葉を潜り込ます。
海老根は三人がいる中で自分の方を見る。
「やっぱりイベント事の時はテンション低いね」
「それ、自分に言っているのか?」
「他に誰がいるのよ」
海老根は呆れた表情を見せる。
「それもそうか。それを言うなら別にそんな事はない。あくまでいつも通りだ」
「そのいつも通りがイベント事の時は浮く原因になるのよ?」
「別にいいんだよ。仕事はしっかりこなすし」
「もう……。その仕事って言い方がいかにもやる気なしって感じよね」
「そう言うつもりじゃないんだが……」
「流石幼馴染。仲がいいのね」
そう言ってニコニコと笑顔を見せながら山吹は自分の方を見る。
「いや、別に……」
「そうなんですよ。これでも結構仲良しなんですよ」
自分の言葉を遮って海老根は山吹の意見を肯定する。
別に仲が悪い訳でもないしそれでもかまわないのだがこういった場面でそう言われるのは気恥ずかしい。
このまま放っておけばいくらでも話し出してしまいそうな海老根の会話を遮るために山吹に話しかける。
「それよりも先輩。もう時間ですよ」
指摘された山吹は部室に掛けられた時計を確認する。いつの間にか八時半を過ぎていたようで、もうすぐ四十分になろうとしていた。
「あっ、ごめんなさい。話過ぎたみたいね。それじゃあこれから本日の予定の最終確認をしていきたいと思います」
そう周囲に呼びかける。
それに対して、「はい」と声を上げたり、頷いたりと各々の返事をする。それを確認した山吹はミーティングを開始した。
ミーティングは十数分かけて再度それぞれの担当時間と場所を確認し合った。
とはいっても前回配られた資料とはほとんど一緒であり、異なる点と言えば花山が休む事は自分が知るよりも前に部活のメンバーが知っていたという点だろうか。
それをもとに花山の予定を少し作り変えた事だけを追加で知らされた。
自分の担当は今日の午後。厳密にいえばクラスの出し物の店番が終わったその後だ。
これだと昼ご飯を食べるタイミングがないなとミーティング中に気付いたがそればかりは仕方がない。
この時間になったのも部活のミーティングをサボったからだし、クラスの出し物の店番が昼時になってしまったのもクラスのミーティングをサボったからだ。
一度何処かでサボれば必ずその見返りが返ってくる事を示す良い例だろう。
その代わりに今日一日乗り切れば明日はかなり楽になる。当面の目標を明日まで無事生き残る事に設定し覚悟を決める。
そんな面持ちで文化祭開始の合図を待機していると隣にいた海老根が話しかけてくる。
「なんだか少しやる気が出てきたみたいね」
やる気と言うには少し本来目標とすべき所がみんなとずれている気がするが、その事をいちいち言う必要もない。
「凛にはそう見えるか?」
「うん。見える。何年一緒に過ごしてきたと思っているのよ」
「まあそうか」
そう軽く返事をしてから実際に何年一緒にいるのかを考える。
中学三年生の時はほとんど会えていなかったが、そこも含めてしまうならもう十年近くだろうか。
「そうだ。翔はこの後暇?」
確か仕事は十時からだ。それまでは暇と言えるだろう。
「十時から仕事はあるがそれまでなら暇だな」
「そう……。あの、それなら少しだけ一緒に見て回らない?」
少し照れたような表情を見せながら海老根はそう提案する。その様子に少し身体が緊張するのを感じる。
そして海老根から少し目線を逸らして、「まあ、別にいいよ」と返した。
今日は九時から始まり十七時に終わる事になっている。長いように見えるがその為の準備の時間を考えると割には合わない。
それでも多くの人にとって何度とない時間を楽しむためにこの文化祭と言うイベントの準備をしてきた。
ふと時計を見る。
そのイベントが始まるまで残り数秒となっている。それのカウントダウンを告げるかのように時計の針の音がいつもよりも響いて感じた。
そしてその針が十二の数字を指した時、
「……第七十五回、花宮高校文化祭を開始致します」
と言う合図が校内放送から響き渡った。
それを聞き終わらないうちに部室の扉を海老根が開ける。
「さっ! 早く行こう!」
その声は嬉しそうで楽しそうでまるで子供のような無邪気な表情を浮かべていた。
「おいおい。そんなに急ぐなよ」
そう言いながらもやはり久しぶりに見るその無邪気な笑顔に懐かしさと嬉しさを感じている自分がいた。
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