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燃ゆる炎に心見ますか?
燃ゆる炎に心見ますか?③
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意味深な電話の翌日。
教室に入るとまるで昨日は何もなかったかのように花山は静かに椅子に腰かけていた。
その様子に一瞬話しかけるかを躊躇う。
「お、おはよう、花山」
「時枝じゃないか。おはよう。今日はいつもよりも遅かったね」
「それは偶々だ」
「それは良かった。昨日の電話のせいで寝込んでいるのかと思ったよ」
「勝手に病気にするな」
「まあまあ。元気に来たのならそれで十分じゃないか」
「そうだけどな」
この調子ならば尋ねても問題なさそうだ。
そう考えて朝の挨拶もそこそこに本題に入る。
「それと昨日言っていた他のやり方ってなんだ?」
「……気になるのかい?」
「まあな」
そもそも気にするなという方が難しい。
自分は東雲と約束しているため東雲との約束は果たさなければならない。そう考えると東雲の正体について勘ぐっている花山の動向を抑えておきたいというのは当然だろう。
花山はじっと自分を見て何かを考え付いたのか口を開く。
「今一つ思いついた」
「…………?」
「今日の放課後に東雲さんに直接聞きに行く事にするよ」
今日の放課後!?
それはあまりこちらにとって良くない。昨日は上手に追及を逃れていたが一対一では東雲が心配だ。
その気持ちを隠して話を取り繕う。
「……そうか。まあ、その努力は無駄になるんだろうがな」
「そうかな?」
「さあ。自分の知るところではないな」
「そうだろうね。でも僕には奥の手があるからきっと言ってくれるよ」
奥の手とやらが非常に気になる。
やはり放課後までに何とかしないと。
「まあ、検討を祈る」
それだけを言い残し自分の机へと向かう。昨日の電話と今日の会話を聞く限りまだ確信を持っている訳ではなさそうだ。
そのことに少しだけ安堵しながらも、東雲にこの事は伝えておかないといけないなと感じた。
東雲の席をちらりと見る。まだ、東雲は登校していない。普段だったらとっくに登校している時間のはずなのに、登校していないことを不思議に思いながら荷物の整理を始めた。
悩み事をしていると午前の授業が過ぎ去るのは一瞬だ。その代わりにその内容は一切頭に入っていない。
そろそろ自身に弊害が出る前に行動しなければならない。そんな事を考えながら椅子に座ってじっと考え事をしていると誰かに声をかけられる。
「時枝。一緒にご飯を食べよう」
その声を聞いて顔を上げると花山がコンビニ袋を手に提げてこちらに歩いて来ていた。
「ああ、そう、だな。一緒に食べよう」
たどたどしくそう返して鞄から弁当を取り出そうとする。そうしながら横目で東雲を見る。珍しく始業時間ギリギリに登校した東雲は何処か眠たそうだ。
今はいつかのショッピングモールで出会ったメンバーで机を並べている。
どちらにせよ今話しに行くのは難しいな。そう思いながら机の上に弁当箱を広げた。
てっきり昼食中も何か東雲に関係する事を尋ねられるのかと思っていたが特にそれに付随した話は聞かれない。
相変わらず授業の事や最近のニュースについてだ。
やはり自分に尋ねなくても東雲から聞き出す事の出来る奥の手が存在しているのだろうか?
その事に安心感と不安感を抱きながら通過障害を起こしている食べ物を無理やり飲み込む。
それでもいつもより三割増しくらい早く昼食を取り終え席から立ちあがる。
「あれ? 今日はいつもより早いね」
「ああ、少し先生に呼ばれていてな」
もちろん嘘だ。
「それは大変だね。怒られないように頑張って」
そう言いながらもにやにやと笑っている。その笑みに対して睨みながら、「ああ、頑張るさ」と返した。
教室を出て校舎と会館の渡り廊下に歩を進める。周囲を経過して周りを見渡すがここには人が一人もいない。それを確認したうえで東雲の携帯電話にメッセージを送信する。
時枝:東雲。今連絡大丈夫か?
時枝:少し急ぎの用事だ
そう送って様子を見る。すると食事を終えていたのかすぐに返信が返ってくる。
東雲:どうかしましたか?
それに対して少し考えて返信する。
時枝:ああ、少し厄介なことになった
時枝:花山が今日の放課後東雲に星野志乃について尋ねるらしい
東雲:それは困ります。
東雲:どうしましょうか。
東雲:今日は忙しいですと言って避けてみましょうか?
時枝:いや、それは意味がない
時枝:それだったら明日尋ねればいいだけだ
東雲:それもそうですね。
そこで一度指を止める。
じゃあどうすればいいのか。それが全く思いつかない。
その時に東雲から再び連絡が入る。
東雲:あの、会って話しませんか? このままだと時間があっという間に過ぎてしまいます。
そう言われて携帯電話の時計を見る。
十三時を少し過ぎた所だ。
この高校は十三時二十分から五時間目が始まる。ゆえにこの残された昼休みを逃せば東雲は何の準備もせずに花山の質問に応じなければならない。
それはかなりまずいだろう。
しかし一方でもう一つの葛藤もある。もし自分と東雲が会って話をしていたら花山からしたら怪しさしかない。
また、普通の会話っぽくするために教室で会話するにしても他の生徒に聞かれてしまう可能性がある。
花山にばれる可能性。他の生徒にばれる可能性の二つを考えて、
時枝:わかった
時枝:今は会館前にいる
時枝:ばれないように来てくれ
と返信した。
教室に入るとまるで昨日は何もなかったかのように花山は静かに椅子に腰かけていた。
その様子に一瞬話しかけるかを躊躇う。
「お、おはよう、花山」
「時枝じゃないか。おはよう。今日はいつもよりも遅かったね」
「それは偶々だ」
「それは良かった。昨日の電話のせいで寝込んでいるのかと思ったよ」
「勝手に病気にするな」
「まあまあ。元気に来たのならそれで十分じゃないか」
「そうだけどな」
この調子ならば尋ねても問題なさそうだ。
そう考えて朝の挨拶もそこそこに本題に入る。
「それと昨日言っていた他のやり方ってなんだ?」
「……気になるのかい?」
「まあな」
そもそも気にするなという方が難しい。
自分は東雲と約束しているため東雲との約束は果たさなければならない。そう考えると東雲の正体について勘ぐっている花山の動向を抑えておきたいというのは当然だろう。
花山はじっと自分を見て何かを考え付いたのか口を開く。
「今一つ思いついた」
「…………?」
「今日の放課後に東雲さんに直接聞きに行く事にするよ」
今日の放課後!?
それはあまりこちらにとって良くない。昨日は上手に追及を逃れていたが一対一では東雲が心配だ。
その気持ちを隠して話を取り繕う。
「……そうか。まあ、その努力は無駄になるんだろうがな」
「そうかな?」
「さあ。自分の知るところではないな」
「そうだろうね。でも僕には奥の手があるからきっと言ってくれるよ」
奥の手とやらが非常に気になる。
やはり放課後までに何とかしないと。
「まあ、検討を祈る」
それだけを言い残し自分の机へと向かう。昨日の電話と今日の会話を聞く限りまだ確信を持っている訳ではなさそうだ。
そのことに少しだけ安堵しながらも、東雲にこの事は伝えておかないといけないなと感じた。
東雲の席をちらりと見る。まだ、東雲は登校していない。普段だったらとっくに登校している時間のはずなのに、登校していないことを不思議に思いながら荷物の整理を始めた。
悩み事をしていると午前の授業が過ぎ去るのは一瞬だ。その代わりにその内容は一切頭に入っていない。
そろそろ自身に弊害が出る前に行動しなければならない。そんな事を考えながら椅子に座ってじっと考え事をしていると誰かに声をかけられる。
「時枝。一緒にご飯を食べよう」
その声を聞いて顔を上げると花山がコンビニ袋を手に提げてこちらに歩いて来ていた。
「ああ、そう、だな。一緒に食べよう」
たどたどしくそう返して鞄から弁当を取り出そうとする。そうしながら横目で東雲を見る。珍しく始業時間ギリギリに登校した東雲は何処か眠たそうだ。
今はいつかのショッピングモールで出会ったメンバーで机を並べている。
どちらにせよ今話しに行くのは難しいな。そう思いながら机の上に弁当箱を広げた。
てっきり昼食中も何か東雲に関係する事を尋ねられるのかと思っていたが特にそれに付随した話は聞かれない。
相変わらず授業の事や最近のニュースについてだ。
やはり自分に尋ねなくても東雲から聞き出す事の出来る奥の手が存在しているのだろうか?
その事に安心感と不安感を抱きながら通過障害を起こしている食べ物を無理やり飲み込む。
それでもいつもより三割増しくらい早く昼食を取り終え席から立ちあがる。
「あれ? 今日はいつもより早いね」
「ああ、少し先生に呼ばれていてな」
もちろん嘘だ。
「それは大変だね。怒られないように頑張って」
そう言いながらもにやにやと笑っている。その笑みに対して睨みながら、「ああ、頑張るさ」と返した。
教室を出て校舎と会館の渡り廊下に歩を進める。周囲を経過して周りを見渡すがここには人が一人もいない。それを確認したうえで東雲の携帯電話にメッセージを送信する。
時枝:東雲。今連絡大丈夫か?
時枝:少し急ぎの用事だ
そう送って様子を見る。すると食事を終えていたのかすぐに返信が返ってくる。
東雲:どうかしましたか?
それに対して少し考えて返信する。
時枝:ああ、少し厄介なことになった
時枝:花山が今日の放課後東雲に星野志乃について尋ねるらしい
東雲:それは困ります。
東雲:どうしましょうか。
東雲:今日は忙しいですと言って避けてみましょうか?
時枝:いや、それは意味がない
時枝:それだったら明日尋ねればいいだけだ
東雲:それもそうですね。
そこで一度指を止める。
じゃあどうすればいいのか。それが全く思いつかない。
その時に東雲から再び連絡が入る。
東雲:あの、会って話しませんか? このままだと時間があっという間に過ぎてしまいます。
そう言われて携帯電話の時計を見る。
十三時を少し過ぎた所だ。
この高校は十三時二十分から五時間目が始まる。ゆえにこの残された昼休みを逃せば東雲は何の準備もせずに花山の質問に応じなければならない。
それはかなりまずいだろう。
しかし一方でもう一つの葛藤もある。もし自分と東雲が会って話をしていたら花山からしたら怪しさしかない。
また、普通の会話っぽくするために教室で会話するにしても他の生徒に聞かれてしまう可能性がある。
花山にばれる可能性。他の生徒にばれる可能性の二つを考えて、
時枝:わかった
時枝:今は会館前にいる
時枝:ばれないように来てくれ
と返信した。
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