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燃ゆる炎に心見ますか?
燃ゆる炎に心見ますか?②
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「ところでさ。花山」
「なんだい?」
四人で帰宅している途中に一つ気になる事を尋ねる。
「フリー写真撮影ってなんだ?」
それを聞いて驚いた表情を花山は浮かべる。
「えっ? それを知らないで話を参加していたのかい? というか海老根さんが一度説明していたよね」
「まあそうなんだが……。海老根の言う事が採用されるとは思っていなくてちゃんと聞いてなかった」
「ちょっとそれどういう事よ!」
そう言うと前方で東雲と並んで歩いていた海老根が振り返る。そこには怒りの形相を浮かべていた。
その様子に東雲も苦笑いしている。
花山も少しため息を付きながら、仕方ないなと説明を始める。
「要は文化祭の様子を撮影しに行くって事さ。その合間に文化祭を楽しめばいいし、クラスの出し物も手伝えばいい。結構自由度は高いね」
「つまり一日中写真部の仕事があると言う訳だな」
「確かにそういう捉え方も出来るか」
花山は苦笑いしている。
「でも、文化祭で写真部の権限を使って自由に写真を撮る事が出来るのはありがたくありませんか?」
「確かにそうね。だって軽音部やダンス部が舞台に立っている時に、本当は座席順の所を無視出来るって事でしょ?」
「まあそうだが……。何だか卑しいね」
花山は苦笑いを通り越して困った顔をしている。特にそれが事実であるがより彼を困らしているのだろう。
「じゃあ、次のミーティングではその時間帯なんかを相談するのか? と言ってもその日は文化祭が始まる週だが」
「そうだね。ある程度何処で何が行われるかを共有しておかないといけないし。後は誰をそこに割り当てるか、だね」
「そういうのもあるのか」
「少なくとも今回はね。生徒会にそういう風に申請するわけだし何もしないわけにはいかないでしょ」
「まあ、確かに」
相変わらずよく知っているなと思いながら花山の顔を見る。
恐らく自分達の知らない所で山吹に会っているのだろう。いくら周りをよく見えている花山とは言え、見えないものは見ようがないのだから。
文化祭の話が終わり一瞬の間が空く。その隙間を縫うように花山が口を開く。
「あ、そう言えば僕も一つ聞きたい事があったんだった」
花山が? 珍しい事もあるものだ。
「なんだ?」
「あ、時枝じゃなくてね」
そう断った後、
「東雲さん。星野志乃って知っているかな?」
と東雲に問いかけた。
触れられたくない所を当然触れてきたのにも関わらず先程と表情が一切変わらない花山に気味悪さすら感じる。それに話題を急に変えて尋ねている事が妙に引っかかる。
しかし東雲はそれに臆する事なく堂々として答える。
「はい。知っていますよ。確かタレントか何かしている方ですよね?」
「そうそう。前、山吹先輩と話をしていた時に東雲さんが星野志乃に似ているねって話になってね」
「確かに合宿の時に山吹先輩にそう言われましたが……。流石に私はあそこまで可愛くないですよ」
そう言って東雲は悄然として見せる。その様子を否定するように花山は首を横に振る。
「そんな事ないよ。最初は気付かなかったけど、改めて見ると確かに似ているかもとは思ったんだ。時枝もそう思わないかい?」
突然質問を振られて思考が定まらない。しかし動揺だけはしないように気を付けながらゆっくりと心を落ち着かせて花山の質問に答える。
「悪いが星野志乃はあんまり知らないな」
「そう言えばそうだったね」
入学式の時の事でも思い出しているのか微笑を浮かべてそう返した。
「さて、駅に着いたね」
そう言って花山はいつの間にか正面に現れていた駅を見上げる。
駅の登場に話が遮られた事に安堵の息を漏らす。
「じゃあ花山はここまでか?」
「そうだね。楽しかったけど今日はここまでだね」
そう言って花山は周りにいる三人を見る。
「うん。バイバイ」
「はい。お気を付けて」
海老根と東雲も花山をそう言って送り出す。
それを聞いた花山は小さく手を挙げて、「じゃあね」と一言置いて駅へと向かい始めた。
それを見送った後、
「じゃあ行くか」
と言って海老根と東雲に声を掛ける。
「そうね」
「はい」
海老根と東雲は各々返事をする。
先程花山が話した内容には誰も触れない。話した所でどうしようも出来ないのは二人ともわかっているからだろう。
花山が残した置き土産に心残りを感じながらもそれを表に出さないようにしながら三人は歩き始めた。
自宅に到着して約四時間。
夕食や入浴などを済ませてある意味本日最後の自由時間を迎える。
宿題は帰宅後すぐに手を付けたためもう終えているのだが、やはりというかいつもよりも進みが遅かった。
そして現在も楽しみにしていた小説を片手にしているのだが先程から一ページも進んでいない。その理由は明らかだ。
……花山が東雲を怪しんでいる。
そう考えると悩まずにはいられなかった。何故二学期になって怪しみ始めたのかはよくわからない。しかし、そう疑わせる何かが花山に影響を与えたのではないか、など想像力を働かせて思考していた。
そんな悩みを一瞬忘れさせるように机の上に置いていた携帯電話が軽快な音を立てて鳴り始めた。
久しぶりの携帯電話の着信音に少し驚きながら液晶画面に表示された名前を見る。
そこには花山晴頼と記載されていた。
それを見て少し警戒しながら電話に出る。
「……もしもし?」
「あ、もしもし。花山です。時枝かな?」
「そうだ。なんだこんな時間に?」
「こんな時間って言ってもまだ九時を過ぎた頃じゃないか」
「九時だったら十分夜だろ。まあそんな事はどうでもいい。なんで急に電話なんかかけてきたんだ?」
あえて不機嫌そうに聞き返す。
「……時枝って最近海老根さんとか東雲さんと仲良いよね? どっちかに気があるんじゃないかって思ってね」
それを聞いて気恥ずかしいような気持ちになる。
「いや、別にそんなんじゃない。そもそも高校生の時にそういうのはいらない」
「そうは言っているけど気になっているんじゃないの?」
「べ、別に高校生で恋愛なんてしても仕方ないだろ。一時の関係なんて虚しいだけだ」
柄にもなくムキになって言い返す。
「純情だね」
「……モテる人は違うな」
皮肉を練りこんだ言葉を投げかける。
「別に僕はモテているわけじゃないよ?」
「でもクラスじゃ評判良いらしいじゃないか」
「ま、それなりにね」
花山はそこで妥協する。
その事実を肯定しても嫌味っぽく聞こえないのは花山だからだろう。その辺りは男女ともに好かれる花山ならではだ。
しかし、花山が聞きたいのは本当にこんな事なのだろうか?
何というか、要領を得ない。そう漠然とした違和感を信じ花山に質問を投げかける。
「なあ花山」
「どうしたんだい?」
「聞きたいのは本当にそんな事か? 何か他にあるんだろ」
そう尋ねると少しの沈黙の後、携帯電話越しに小さくため息が聞こえる。
「……じゃあ本題に入ろう」
一瞬の沈黙。
「東雲美咲は星野志乃か?」
やはりこの質問か。となれば答えは決まっている。
「知らないな」
「本当かい? ……実はある人に東雲美咲は星野志乃なんじゃないかという相談を受けてね。今日までに星野志乃が出演した作品を何作か見ていたんだ。すると驚いたことにそっくりなんだよ。東雲美咲と星野志乃が」
「…………」
「もし嘘だと思うなら一度見てみてくれ。まあそれで今日は答え合わせをしようって訳さ。で、実際の所どうなんだい?」
「……変わらずだ。そもそも自分にそれを言って何になる?」
「……まあ、そうなるよね。それを言ったら隠れて登校している意味はないし」
電話越しで明らかに落胆したような声を発する。これが本音なのか演技なのかは電話越しではよくわからない。
「一応言っておくが花山が尋ねている事はいきなり、花山は好きな人がいるだろ? って尋ねるくらい突拍子もない事だぞ」
「じゃあもしいるって答えたら教えてくれるのかい?」
「…………え?」
「嘘だよ」
「だよな」
「ああ、それは嘘だ」
花山はもう一度その言葉を強く言った。
「もう用事は終わりか?」
「そう、だね。東雲美咲と星野志乃の関係を聞けなかったからとりあえず今日はここまでかな」
「また聞くつもりか?」
「まあ、そうだね。でも今度は別の方法で探るよ」
「……諦めた方がいいと思うけどな」
「ご忠告どうも。じゃあ、切るね」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ」
花山はそう言って電話を切った。
「なんだい?」
四人で帰宅している途中に一つ気になる事を尋ねる。
「フリー写真撮影ってなんだ?」
それを聞いて驚いた表情を花山は浮かべる。
「えっ? それを知らないで話を参加していたのかい? というか海老根さんが一度説明していたよね」
「まあそうなんだが……。海老根の言う事が採用されるとは思っていなくてちゃんと聞いてなかった」
「ちょっとそれどういう事よ!」
そう言うと前方で東雲と並んで歩いていた海老根が振り返る。そこには怒りの形相を浮かべていた。
その様子に東雲も苦笑いしている。
花山も少しため息を付きながら、仕方ないなと説明を始める。
「要は文化祭の様子を撮影しに行くって事さ。その合間に文化祭を楽しめばいいし、クラスの出し物も手伝えばいい。結構自由度は高いね」
「つまり一日中写真部の仕事があると言う訳だな」
「確かにそういう捉え方も出来るか」
花山は苦笑いしている。
「でも、文化祭で写真部の権限を使って自由に写真を撮る事が出来るのはありがたくありませんか?」
「確かにそうね。だって軽音部やダンス部が舞台に立っている時に、本当は座席順の所を無視出来るって事でしょ?」
「まあそうだが……。何だか卑しいね」
花山は苦笑いを通り越して困った顔をしている。特にそれが事実であるがより彼を困らしているのだろう。
「じゃあ、次のミーティングではその時間帯なんかを相談するのか? と言ってもその日は文化祭が始まる週だが」
「そうだね。ある程度何処で何が行われるかを共有しておかないといけないし。後は誰をそこに割り当てるか、だね」
「そういうのもあるのか」
「少なくとも今回はね。生徒会にそういう風に申請するわけだし何もしないわけにはいかないでしょ」
「まあ、確かに」
相変わらずよく知っているなと思いながら花山の顔を見る。
恐らく自分達の知らない所で山吹に会っているのだろう。いくら周りをよく見えている花山とは言え、見えないものは見ようがないのだから。
文化祭の話が終わり一瞬の間が空く。その隙間を縫うように花山が口を開く。
「あ、そう言えば僕も一つ聞きたい事があったんだった」
花山が? 珍しい事もあるものだ。
「なんだ?」
「あ、時枝じゃなくてね」
そう断った後、
「東雲さん。星野志乃って知っているかな?」
と東雲に問いかけた。
触れられたくない所を当然触れてきたのにも関わらず先程と表情が一切変わらない花山に気味悪さすら感じる。それに話題を急に変えて尋ねている事が妙に引っかかる。
しかし東雲はそれに臆する事なく堂々として答える。
「はい。知っていますよ。確かタレントか何かしている方ですよね?」
「そうそう。前、山吹先輩と話をしていた時に東雲さんが星野志乃に似ているねって話になってね」
「確かに合宿の時に山吹先輩にそう言われましたが……。流石に私はあそこまで可愛くないですよ」
そう言って東雲は悄然として見せる。その様子を否定するように花山は首を横に振る。
「そんな事ないよ。最初は気付かなかったけど、改めて見ると確かに似ているかもとは思ったんだ。時枝もそう思わないかい?」
突然質問を振られて思考が定まらない。しかし動揺だけはしないように気を付けながらゆっくりと心を落ち着かせて花山の質問に答える。
「悪いが星野志乃はあんまり知らないな」
「そう言えばそうだったね」
入学式の時の事でも思い出しているのか微笑を浮かべてそう返した。
「さて、駅に着いたね」
そう言って花山はいつの間にか正面に現れていた駅を見上げる。
駅の登場に話が遮られた事に安堵の息を漏らす。
「じゃあ花山はここまでか?」
「そうだね。楽しかったけど今日はここまでだね」
そう言って花山は周りにいる三人を見る。
「うん。バイバイ」
「はい。お気を付けて」
海老根と東雲も花山をそう言って送り出す。
それを聞いた花山は小さく手を挙げて、「じゃあね」と一言置いて駅へと向かい始めた。
それを見送った後、
「じゃあ行くか」
と言って海老根と東雲に声を掛ける。
「そうね」
「はい」
海老根と東雲は各々返事をする。
先程花山が話した内容には誰も触れない。話した所でどうしようも出来ないのは二人ともわかっているからだろう。
花山が残した置き土産に心残りを感じながらもそれを表に出さないようにしながら三人は歩き始めた。
自宅に到着して約四時間。
夕食や入浴などを済ませてある意味本日最後の自由時間を迎える。
宿題は帰宅後すぐに手を付けたためもう終えているのだが、やはりというかいつもよりも進みが遅かった。
そして現在も楽しみにしていた小説を片手にしているのだが先程から一ページも進んでいない。その理由は明らかだ。
……花山が東雲を怪しんでいる。
そう考えると悩まずにはいられなかった。何故二学期になって怪しみ始めたのかはよくわからない。しかし、そう疑わせる何かが花山に影響を与えたのではないか、など想像力を働かせて思考していた。
そんな悩みを一瞬忘れさせるように机の上に置いていた携帯電話が軽快な音を立てて鳴り始めた。
久しぶりの携帯電話の着信音に少し驚きながら液晶画面に表示された名前を見る。
そこには花山晴頼と記載されていた。
それを見て少し警戒しながら電話に出る。
「……もしもし?」
「あ、もしもし。花山です。時枝かな?」
「そうだ。なんだこんな時間に?」
「こんな時間って言ってもまだ九時を過ぎた頃じゃないか」
「九時だったら十分夜だろ。まあそんな事はどうでもいい。なんで急に電話なんかかけてきたんだ?」
あえて不機嫌そうに聞き返す。
「……時枝って最近海老根さんとか東雲さんと仲良いよね? どっちかに気があるんじゃないかって思ってね」
それを聞いて気恥ずかしいような気持ちになる。
「いや、別にそんなんじゃない。そもそも高校生の時にそういうのはいらない」
「そうは言っているけど気になっているんじゃないの?」
「べ、別に高校生で恋愛なんてしても仕方ないだろ。一時の関係なんて虚しいだけだ」
柄にもなくムキになって言い返す。
「純情だね」
「……モテる人は違うな」
皮肉を練りこんだ言葉を投げかける。
「別に僕はモテているわけじゃないよ?」
「でもクラスじゃ評判良いらしいじゃないか」
「ま、それなりにね」
花山はそこで妥協する。
その事実を肯定しても嫌味っぽく聞こえないのは花山だからだろう。その辺りは男女ともに好かれる花山ならではだ。
しかし、花山が聞きたいのは本当にこんな事なのだろうか?
何というか、要領を得ない。そう漠然とした違和感を信じ花山に質問を投げかける。
「なあ花山」
「どうしたんだい?」
「聞きたいのは本当にそんな事か? 何か他にあるんだろ」
そう尋ねると少しの沈黙の後、携帯電話越しに小さくため息が聞こえる。
「……じゃあ本題に入ろう」
一瞬の沈黙。
「東雲美咲は星野志乃か?」
やはりこの質問か。となれば答えは決まっている。
「知らないな」
「本当かい? ……実はある人に東雲美咲は星野志乃なんじゃないかという相談を受けてね。今日までに星野志乃が出演した作品を何作か見ていたんだ。すると驚いたことにそっくりなんだよ。東雲美咲と星野志乃が」
「…………」
「もし嘘だと思うなら一度見てみてくれ。まあそれで今日は答え合わせをしようって訳さ。で、実際の所どうなんだい?」
「……変わらずだ。そもそも自分にそれを言って何になる?」
「……まあ、そうなるよね。それを言ったら隠れて登校している意味はないし」
電話越しで明らかに落胆したような声を発する。これが本音なのか演技なのかは電話越しではよくわからない。
「一応言っておくが花山が尋ねている事はいきなり、花山は好きな人がいるだろ? って尋ねるくらい突拍子もない事だぞ」
「じゃあもしいるって答えたら教えてくれるのかい?」
「…………え?」
「嘘だよ」
「だよな」
「ああ、それは嘘だ」
花山はもう一度その言葉を強く言った。
「もう用事は終わりか?」
「そう、だね。東雲美咲と星野志乃の関係を聞けなかったからとりあえず今日はここまでかな」
「また聞くつもりか?」
「まあ、そうだね。でも今度は別の方法で探るよ」
「……諦めた方がいいと思うけどな」
「ご忠告どうも。じゃあ、切るね」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ」
花山はそう言って電話を切った。
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