6 / 42
空舞う花に思いを込めて
空舞う花に想いを込めて⑤
しおりを挟む
これがフィナーレだろう。
そう思わせる程大きな花火が空に咲く。その花火の光が、音が遠く離れたこの場所まで終わりの合図を届けた。
空に残る花火の余韻を楽しむ東雲に声を掛ける。
「そろそろ行くか」
「はい!」
もう少しこの空気を楽しみたいと言うかと思ったが、想像よりも満足そうな表情を浮かべてこちらに向く。
「凄かったですね。花火を見たのが久しぶりで感動しました」
普段は仕事で見る間もなかったのだろうか。
そんなに喜んでくれるにならば来た甲斐もあったというものだ。
神社の電気が再度付く。
今度は自分達を送り出す光だろう。
神社の光によって道が照らされたことで、周囲の状況が明らかになる。
周りにいた人達も続々と神社を後にしているようだ。特に追っているわけではないが、そんな彼らの後を歩く。
「そう言えば、後一週間で学校が始まりますね」
この高校の夏休みは約一ヵ月。
多くもなく少なくもなく、満足をしたかと聞かれれば「した」と答える。
しかし、後一週間と言われるとどうも少なく感じてしまう。
「そういえばそうだった。忘れるようにしていたんだが」
冗談で言ったつもりなのだが、驚いたような表情をして、
「それだと始業式に遅刻してしまいますよ!?」
なんて言っている。
「冗談だよ。二十四日だろ? わかっているさ」
このままだと始業式の前日と当日に電話がかかってきそうなので、しっかり把握している事をアピールする。
「それなら良かったです」
他人事のはずだが、まるで別人自分の事のように胸を撫で下ろす。
「そういう東雲は残り一週間どう過ごすんだ?」
そう聞くと、
「残りの一週間で溜まった宿題を片付けないといけません。仕事の合間に取り組んではいたのですが想像以上に多かったです」
と少し残念そうな表情をする。
しかし、すぐに表情をいつもの笑顔に切り替えると、
「でも、夏休みも有意義に過ごしましたので満足です」
と宣言した。
「そうか、何だかんだで楽しそうに過ごしていて良かったよ」
そこでふと自分自身の表情の変化に気が付く。
意図したわけではないが少し笑顔になっている気がした。
その時、東雲はふと何かを思い出したように、
「あの、少しお聞きしたいのですが」
と尋ねられる。
「なんだ?」
そう聞き返すが、そのまま少し考えた後、
「……いえ、やっぱり何でもありません」
と首を横に振った。
一体何だったのだろうか?
気になる所ではあるが、どうやら別れの時間が来たようだ。
「着いたな」
「ここは……」
東雲は周りを見渡す。その中の一つ(恐らく合田商店)を見て自分の位置を把握する。
「もうこんな所まで。時枝さん、今日はありがとうございました。花火凄く楽しかったです」
「そうか。それなら良かったよ。東雲も気をつけてな」
「はい! 私の家はすぐそこなのでお気になさらず。時枝さんこそお気を付けて」
そう言って東雲は笑顔を見せる。
それに対し、小さく口元を緩ませた後、
「自分は生粋の枝垂町民だ」
と返した。
東雲と別れた後の帰り道。
東雲の懐中電灯と比較すると光量の弱い懐中電灯が道の先を照らす。
この光が人としての光というならば納得だ、なんて思いながらぶらぶらと歩いていると、懐中電灯は道の真ん中に落ちている何かを照らす。
普段なら特に気にする事はなく通り過ぎるのだが、気分が高揚しており、気持ちがおおらかになっていたのか地面に落ちていた物を拾い上げる。
それはどうやら何かの袋のようだ。
神社へと向かう時にはこのような物は落ちていなかったため、神社へと向かった誰かが落としたのだろう。
開けるのは忍びないが、持ち主を特定するためだと自分に言い聞かせて袋を開ける。
その中には主に化粧品などが入っているため女性の所持品だろう。
しかし、暗い上に化粧品以外に目ぼしいものがないためそれ以外の手掛かりが見つからない。
「明日、警察に届けるか」
暫く考えていたが、結局警察に届けることが一番の解決策だろうと思い、探すのを諦めて袋を閉じる。
その時、その袋に名前のシールが貼られているのに気付く。
ここに書いているじゃないか、と思いながらその名前を見ると、
『海老根凛』
と書かれていた。
そう思わせる程大きな花火が空に咲く。その花火の光が、音が遠く離れたこの場所まで終わりの合図を届けた。
空に残る花火の余韻を楽しむ東雲に声を掛ける。
「そろそろ行くか」
「はい!」
もう少しこの空気を楽しみたいと言うかと思ったが、想像よりも満足そうな表情を浮かべてこちらに向く。
「凄かったですね。花火を見たのが久しぶりで感動しました」
普段は仕事で見る間もなかったのだろうか。
そんなに喜んでくれるにならば来た甲斐もあったというものだ。
神社の電気が再度付く。
今度は自分達を送り出す光だろう。
神社の光によって道が照らされたことで、周囲の状況が明らかになる。
周りにいた人達も続々と神社を後にしているようだ。特に追っているわけではないが、そんな彼らの後を歩く。
「そう言えば、後一週間で学校が始まりますね」
この高校の夏休みは約一ヵ月。
多くもなく少なくもなく、満足をしたかと聞かれれば「した」と答える。
しかし、後一週間と言われるとどうも少なく感じてしまう。
「そういえばそうだった。忘れるようにしていたんだが」
冗談で言ったつもりなのだが、驚いたような表情をして、
「それだと始業式に遅刻してしまいますよ!?」
なんて言っている。
「冗談だよ。二十四日だろ? わかっているさ」
このままだと始業式の前日と当日に電話がかかってきそうなので、しっかり把握している事をアピールする。
「それなら良かったです」
他人事のはずだが、まるで別人自分の事のように胸を撫で下ろす。
「そういう東雲は残り一週間どう過ごすんだ?」
そう聞くと、
「残りの一週間で溜まった宿題を片付けないといけません。仕事の合間に取り組んではいたのですが想像以上に多かったです」
と少し残念そうな表情をする。
しかし、すぐに表情をいつもの笑顔に切り替えると、
「でも、夏休みも有意義に過ごしましたので満足です」
と宣言した。
「そうか、何だかんだで楽しそうに過ごしていて良かったよ」
そこでふと自分自身の表情の変化に気が付く。
意図したわけではないが少し笑顔になっている気がした。
その時、東雲はふと何かを思い出したように、
「あの、少しお聞きしたいのですが」
と尋ねられる。
「なんだ?」
そう聞き返すが、そのまま少し考えた後、
「……いえ、やっぱり何でもありません」
と首を横に振った。
一体何だったのだろうか?
気になる所ではあるが、どうやら別れの時間が来たようだ。
「着いたな」
「ここは……」
東雲は周りを見渡す。その中の一つ(恐らく合田商店)を見て自分の位置を把握する。
「もうこんな所まで。時枝さん、今日はありがとうございました。花火凄く楽しかったです」
「そうか。それなら良かったよ。東雲も気をつけてな」
「はい! 私の家はすぐそこなのでお気になさらず。時枝さんこそお気を付けて」
そう言って東雲は笑顔を見せる。
それに対し、小さく口元を緩ませた後、
「自分は生粋の枝垂町民だ」
と返した。
東雲と別れた後の帰り道。
東雲の懐中電灯と比較すると光量の弱い懐中電灯が道の先を照らす。
この光が人としての光というならば納得だ、なんて思いながらぶらぶらと歩いていると、懐中電灯は道の真ん中に落ちている何かを照らす。
普段なら特に気にする事はなく通り過ぎるのだが、気分が高揚しており、気持ちがおおらかになっていたのか地面に落ちていた物を拾い上げる。
それはどうやら何かの袋のようだ。
神社へと向かう時にはこのような物は落ちていなかったため、神社へと向かった誰かが落としたのだろう。
開けるのは忍びないが、持ち主を特定するためだと自分に言い聞かせて袋を開ける。
その中には主に化粧品などが入っているため女性の所持品だろう。
しかし、暗い上に化粧品以外に目ぼしいものがないためそれ以外の手掛かりが見つからない。
「明日、警察に届けるか」
暫く考えていたが、結局警察に届けることが一番の解決策だろうと思い、探すのを諦めて袋を閉じる。
その時、その袋に名前のシールが貼られているのに気付く。
ここに書いているじゃないか、と思いながらその名前を見ると、
『海老根凛』
と書かれていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
ゆめまち日記
三ツ木 紘
青春
人それぞれ隠したいこと、知られたくないことがある。
一般的にそれを――秘密という――
ごく普通の一般高校生・時枝翔は少し変わった秘密を持つ彼女らと出会う。
二つの名前に縛られる者。
過去に後悔した者
とある噂の真相を待ち続ける者。
秘密がゆえに苦労しながらも高校生活を楽しむ彼ら彼女らの青春ストーリー。
『日記』シリーズ第一作!
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣の優等生は、デブ活に命を捧げたいっ
椎名 富比路
青春
女子高生の尾村いすゞは、実家が大衆食堂をやっている。
クラスの隣の席の優等生細江《ほそえ》 桃亜《ももあ》が、「デブ活がしたい」と言ってきた。
桃亜は学生の身でありながら、アプリ制作会社で就職前提のバイトをしている。
だが、連日の学業と激務によって、常に腹を減らしていた。
料理の腕を磨くため、いすゞは桃亜に協力をする。
M性に目覚めた若かりしころの思い出
kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
燦歌を乗せて
河島アドミ
青春
「燦歌彩月第六作――」その先の言葉は夜に消える。
久慈家の名家である天才画家・久慈色助は大学にも通わず怠惰な毎日をダラダラと過ごす。ある日、久慈家を勘当されホームレス生活がスタートすると、心を奪われる被写体・田中ゆかりに出会う。
第六作を描く。そう心に誓った色助は、己の未熟とホームレス生活を満喫しながら作品へ向き合っていく。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる