はなぞら日記

三ツ木 紘

文字の大きさ
上 下
4 / 42
空舞う花に思いを込めて

空舞う花に想いを込めて③

しおりを挟む
##########

 飛行場から出発してからどのくらい時間が経っているのでしょうか。

 そう思い、窓の外をちらりと見る。
 どうやら高速道路を走っているようで具体的な場所は分からないが、辛うじてマンションや大手スーパーマーケットが見える。

 まだ、枝下町には遠いだろう。

 すると私が目を覚ましたのに気付いたのか車を運転しているマネージャー――淡雪あわゆきえりかは優しく声を掛ける。

「まだ寝ていても大丈夫よ。まだまだ先だから」
「あ、いえ。申し訳ありません。車に乗るなり寝てしまって」

 そう言って身体を起こす。

「いえいえ。そんなことは気にしないで。最近忙しかったものね」

 確かにえりかさんの言うように最近は撮影などで全国に飛び回っている。
 いや、飛び回っているというと言いすぎな気もするが、実際にそれくらい忙しい。

 約一週間前に友達と遊びに行けたのは本当に運が良かったのだと改めて感じる。

「えりかさんは体調大丈夫ですか?」
「あら、私を気遣ってくれるの? 面白い子ね」
「え、私何か変な事を言いましたか?」

 少し困惑する。

「いえいえ。優しいねと思っただけよ」
「それなら良かったです」

 何かおかしな事をした訳でないと判明して胸を撫で下ろす。

「それと、私の体調は気にしなくても大丈夫よ。これでもかなり体力はある方だし、美咲ちゃんが撮影している時は休憩しているからね」

 えりかさんはそう言うが、実際は撮影の合間にも様々な準備をしたり、挨拶回りをしたりと忙しい事は知っている。それでも隠すのならば私も知らないふりをして、その力を仕事に生かせればいいな、と考えている。

 昨晩はあまり眠れていなかったせいで、まだ眠気を感じる。
 えりかさんには申し訳ないと思いつつも再度眠りについた。



 あれから約一時間。
 合計約二時間のドライブを経てようやく枝垂町に着く。

「相変わらずここは自然が多いわね」

 車を自宅の前に止めて伸びをしながら言う。

「ええ、凄く良い所ですよ」

 車から自身の荷物を取り出した後、そう言う。しかし、えりかさんは渋い顔をする。

「うーん。私はもうちょい都会に住みたいかな。だって、ここコンビニも何もないじゃない」
「でも、商店はありますよ」
「あー、あのお店ね。見た目が暗くて少し入りにくいのよね」
「確かにそこは否定できませんが」

 苦笑いする。

「まあ、いいです。では、私は仕事に戻るね」

 そう言って車に乗り込もうとする。

「あ、待ってください」

 そう制止し、
「少し家で休憩しませんか?」
 と提案する。

 しかし、すぐに首を横に振る。

「本当はそうしたい所だけど、今は仕事が少し立て込んでいるからまた次に来た時にお願いしようかしら」
「分かりました。では、準備しておきますね」
「ええ、楽しみにしているわ」

 そう言ってえりかさんは笑った後、車に乗り込んだ。
 そして運転席から手を振った後、そのまま発進し山を降りていく。その姿が見えなくなるまで見送り、そして自宅に帰った。

 外はまだ少し太陽の光が残っており昼の名残を感じさせたが、家の中に入ると玄関や廊下がかなり暗い。そのことがもう夜と言われる時間になっていることを感じさせる。

 手洗いを済ませ、居間に入る。
 そこの壁に掛けられた時計を見ると七という数字を指していた。

 この時間だとやはりみんなの集合時間には間に合わなかったでしょう。断っておいて正解だったみたいです。

 その言葉を頭の中で復唱し自身を納得させる。

 何か飲み物を飲もうと台所に向かうと、そこでおばあちゃんは夕食の準備をしていた。

「おばあちゃん、ただいま帰りました」
「美咲お帰り。今日の撮影どうだった?」
「はい。問題なく終了しました」

 そうしてピースサインをする。
 おばあちゃんはそれを見て、「そうかい。それは良かったよ」と言った後、嬉しそうな表情を浮かべて料理を再開する。

 そのおばあちゃんの後ろを通って冷蔵庫の方へと向かう。

「そう言えばおじいちゃんはどこですか?」
「ああ、今お使いを頼んでいるよ」
「そうなんですね」

 冷蔵庫を開けると、冷やされていた麦茶が見つかる。食器棚からグラスを取り出して、麦茶を注ぐ。

「美咲は花火を見に行かなくてもいいのかい?」
「ええ。もう時間ですし。間に合いません」

 おばあちゃんから目線を逸らし、麦茶を飲んだ。

「確かに隣町まで行くと間に合わないが、別に電車に乗って行かなくてもよく見える場所があるよ」
「本当ですか!?」

 おばあちゃんの方を見る。

「勿論。一度友達に声をかけたらどうだい? もしかすると、まだこの町に残っているかもよ」
「そうでしょうか?」

 少し集中して考える。花火に誘えるくらいの間柄で、かつ今も花火に見に行ってなさそうな人……。

「あ!」

 無意識のうちにその言葉がこぼれた。

「心当たりあるみたいだね」
「はい! ダメもとで連絡を取ってみますね」

 そう言って携帯の連絡用のアプリを立ち上げる。
 そしてタ行の欄に並ぶ連絡先の一つを選択した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ゆめまち日記

三ツ木 紘
青春
人それぞれ隠したいこと、知られたくないことがある。 一般的にそれを――秘密という―― ごく普通の一般高校生・時枝翔は少し変わった秘密を持つ彼女らと出会う。 二つの名前に縛られる者。 過去に後悔した者 とある噂の真相を待ち続ける者。 秘密がゆえに苦労しながらも高校生活を楽しむ彼ら彼女らの青春ストーリー。 『日記』シリーズ第一作!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

処理中です...