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二つのクロスワード
二つのクロスワード①
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ゴールデンウィークも明け、学校が始まる事に憂鬱な気分になる学生は少なくないはずだ。
学校や勉強自体が嫌いでない自分でさえ、家を出るのが面倒だと感じてしまうほどなのだから学校や勉強が嫌いな学生からすれば、連休明けの学校程気分の落ち込むものもそうはないだろう。
実際この教室にいる人達の会話を聞いていても、学校が面倒だのもっと休みが欲しいかったなどの会話が嫌でも聞こえてくる。
その一方で、ゴールデンウィーク中もずっと部活をしていた人達は肌が見違えるほど黒く日に焼けており、文字通り一皮剥けたという感じだった。
そう言った人達は毎日学校に来ていたためか、そこまで学校が始まることに関して抵抗がないように感じる。
席に座って本を読んでいると視界が突然暗転する。こんな事をするのは知っている限り二人だ。しかし、一人は別クラスだ。
「花山、何の用だ?」
「久しぶり。ちょっと用があってさ」
顔を上げると微かにだが、日に焼けた花山が立っている。
「久しぶりって……。最後に会ってから一週間も経ってないと思うが」
「細かいことは気にしなくていいんだよ。それでなんだけど今時間は……大丈夫そうだね」
本を読む姿を一瞥して大丈夫だと判断したようだ。
勝手に判断されるのは癪だが実際暇である以上何も言い返せない。
「写真部の活動についてどうするか山吹先輩と話していたんだけどね、次のテストの後に泊まりで少し遠い所へ写真を撮りに行こうかっていう話になったんだ。
それでいつ予定が空いているかってわかるかな? 別にきっちりわからなくてもいいからさ」
この学校の写真部は泊まりで写真を取りに行く程、熱心な部活だっただろうかと首を少し捻る。
「大体空いているし多分問題は無いが……。どうして遠くまで写真を撮りに行く必要があるんだ? 近場だってまだまだ行っていない所があるのに」
「んー。……僕も詳しく知らされてないんだよね」
時枝の疑問に珍しく花山の言葉が詰まる。
「後で先輩に会った時に聞いておくよ」
そう言って携帯電話を取り出し素早く何かを打ち込んでいる。
それをササっと打ち終えると、それはそうといった感じで花山から質問が飛んでくる。
「ところで今日東雲さんは見なかった?」
「えっ、来てないのか?」
時計を見るともうすぐ予鈴が鳴る時間だ。遅刻とは無縁の東雲にしては珍しい。周りを見渡してもその姿は見えない。
「五月病……になるような性格ではなさそうだけど」
「まあ、今すぐでなくても東雲が来たら話せばいいんじゃないか?」
「まぁ、そうだね」
花山がそう言い終えたタイミングで予鈴が鳴る。
用事が済んだのかそれ以上花山は突っ込んで聞くことなく自分の席に着く。
それにしても東雲が来ないなんて珍しいこともあるものだと思いながら、横目で教室の扉を見る。
教室外に出ていた生徒、もしくは何とか間に合ったといったような遅刻ギリギリの生徒の姿は見えるが自分の探し人が入って来る事はなかった。
東雲が来なくなって一週間が経つ。
風邪を引いたにしても少し長い気がする。いや、風邪くらいなら無理をしてでも来そうなことを考えるとよりひどい病気か、もしくは別の事が原因だろうか。
そんなことを考えながら帰り支度をしていると
「時枝。今から山吹先輩の所に話を聞きに行くんだが一緒に行かないか」
花山が話しかけてくる。
「いや、いい」
「そうか……時枝も何か先輩に聞きたいことがあるんじゃないかって思ったんだが」
「自分が気になっていることは全部花山が聞いてくるだろ?」
「重いね」
くすくす笑う。
「にしても、よく時間の都合が合ったな」
「偶々だよ」
軽く返しているが、直接会って話をするとなると予定を合わせるのは大変だろう。
三年生で、さらに特進コースの先輩とは一年で一般コースの自分達とは時間割がかなり異なる。
聞いた話によると授業後も自習時間という名の強制的な授業があるらしくそのせいで中々会う事が出来ないらしい。
「というか今更なんだがメールで聞かなかったのか?」
「始めはメールでやり取りしていたんだけどね。細かい所を合わせるとなると直接会って話した方がいいね、ということになってね」
ちらりと教室の時計を見た花山は
「じゃあそろそろ時間だし行くよ、じゃあまた明日」
と言いながら軽く手を上げる。
「ああ」
と返すと、こちらを向くことなくそのまま教室を出ていった。
それを見送った後、自分も教室を出た。
今思えば、だが、うちの写真部の活動は月曜日の週一回と月一回のフィールドワークしかない。それを考えると普段の活動という観点で見ればかなり少ない。
もちろんイベントがあるとかなり忙しいらしいが、次のイベントとなると体育祭くらいだろう。
さらに、先輩自身普段は授業が忙しいために、週一回の活動日も来られない日が多く、それを考えると本格的に受験勉強が始まる前に遠出したいという気持ちもわからなくはない。
最後の高校生活の思い出に、だろうか。
聞いた話によると、先輩の一年生の時は先輩以外に幽霊部員が二人、二年生の時は先輩だけだったらしく真面目に写真部として活動するのは今年が初めてのようで、それも関係しているのだろう。
東雲の件といい、色々と考え事をすることが多い。
普段面倒事を避けようとしてきた時枝としては疲労が蓄積してきている気がした。
学校や勉強自体が嫌いでない自分でさえ、家を出るのが面倒だと感じてしまうほどなのだから学校や勉強が嫌いな学生からすれば、連休明けの学校程気分の落ち込むものもそうはないだろう。
実際この教室にいる人達の会話を聞いていても、学校が面倒だのもっと休みが欲しいかったなどの会話が嫌でも聞こえてくる。
その一方で、ゴールデンウィーク中もずっと部活をしていた人達は肌が見違えるほど黒く日に焼けており、文字通り一皮剥けたという感じだった。
そう言った人達は毎日学校に来ていたためか、そこまで学校が始まることに関して抵抗がないように感じる。
席に座って本を読んでいると視界が突然暗転する。こんな事をするのは知っている限り二人だ。しかし、一人は別クラスだ。
「花山、何の用だ?」
「久しぶり。ちょっと用があってさ」
顔を上げると微かにだが、日に焼けた花山が立っている。
「久しぶりって……。最後に会ってから一週間も経ってないと思うが」
「細かいことは気にしなくていいんだよ。それでなんだけど今時間は……大丈夫そうだね」
本を読む姿を一瞥して大丈夫だと判断したようだ。
勝手に判断されるのは癪だが実際暇である以上何も言い返せない。
「写真部の活動についてどうするか山吹先輩と話していたんだけどね、次のテストの後に泊まりで少し遠い所へ写真を撮りに行こうかっていう話になったんだ。
それでいつ予定が空いているかってわかるかな? 別にきっちりわからなくてもいいからさ」
この学校の写真部は泊まりで写真を取りに行く程、熱心な部活だっただろうかと首を少し捻る。
「大体空いているし多分問題は無いが……。どうして遠くまで写真を撮りに行く必要があるんだ? 近場だってまだまだ行っていない所があるのに」
「んー。……僕も詳しく知らされてないんだよね」
時枝の疑問に珍しく花山の言葉が詰まる。
「後で先輩に会った時に聞いておくよ」
そう言って携帯電話を取り出し素早く何かを打ち込んでいる。
それをササっと打ち終えると、それはそうといった感じで花山から質問が飛んでくる。
「ところで今日東雲さんは見なかった?」
「えっ、来てないのか?」
時計を見るともうすぐ予鈴が鳴る時間だ。遅刻とは無縁の東雲にしては珍しい。周りを見渡してもその姿は見えない。
「五月病……になるような性格ではなさそうだけど」
「まあ、今すぐでなくても東雲が来たら話せばいいんじゃないか?」
「まぁ、そうだね」
花山がそう言い終えたタイミングで予鈴が鳴る。
用事が済んだのかそれ以上花山は突っ込んで聞くことなく自分の席に着く。
それにしても東雲が来ないなんて珍しいこともあるものだと思いながら、横目で教室の扉を見る。
教室外に出ていた生徒、もしくは何とか間に合ったといったような遅刻ギリギリの生徒の姿は見えるが自分の探し人が入って来る事はなかった。
東雲が来なくなって一週間が経つ。
風邪を引いたにしても少し長い気がする。いや、風邪くらいなら無理をしてでも来そうなことを考えるとよりひどい病気か、もしくは別の事が原因だろうか。
そんなことを考えながら帰り支度をしていると
「時枝。今から山吹先輩の所に話を聞きに行くんだが一緒に行かないか」
花山が話しかけてくる。
「いや、いい」
「そうか……時枝も何か先輩に聞きたいことがあるんじゃないかって思ったんだが」
「自分が気になっていることは全部花山が聞いてくるだろ?」
「重いね」
くすくす笑う。
「にしても、よく時間の都合が合ったな」
「偶々だよ」
軽く返しているが、直接会って話をするとなると予定を合わせるのは大変だろう。
三年生で、さらに特進コースの先輩とは一年で一般コースの自分達とは時間割がかなり異なる。
聞いた話によると授業後も自習時間という名の強制的な授業があるらしくそのせいで中々会う事が出来ないらしい。
「というか今更なんだがメールで聞かなかったのか?」
「始めはメールでやり取りしていたんだけどね。細かい所を合わせるとなると直接会って話した方がいいね、ということになってね」
ちらりと教室の時計を見た花山は
「じゃあそろそろ時間だし行くよ、じゃあまた明日」
と言いながら軽く手を上げる。
「ああ」
と返すと、こちらを向くことなくそのまま教室を出ていった。
それを見送った後、自分も教室を出た。
今思えば、だが、うちの写真部の活動は月曜日の週一回と月一回のフィールドワークしかない。それを考えると普段の活動という観点で見ればかなり少ない。
もちろんイベントがあるとかなり忙しいらしいが、次のイベントとなると体育祭くらいだろう。
さらに、先輩自身普段は授業が忙しいために、週一回の活動日も来られない日が多く、それを考えると本格的に受験勉強が始まる前に遠出したいという気持ちもわからなくはない。
最後の高校生活の思い出に、だろうか。
聞いた話によると、先輩の一年生の時は先輩以外に幽霊部員が二人、二年生の時は先輩だけだったらしく真面目に写真部として活動するのは今年が初めてのようで、それも関係しているのだろう。
東雲の件といい、色々と考え事をすることが多い。
普段面倒事を避けようとしてきた時枝としては疲労が蓄積してきている気がした。
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