3 / 10
3話 君には選ぶ権利がある。俺の妃になるか、祖国の破滅か
しおりを挟むその後、結婚の話はとんとん拍子に進んでいった。
ちょいちょい、私たちの結婚を押した倉森の曾祖父が口を挟んでくるが、苦笑いで流す。
一度、お見舞いに行ったが、ベッドの上で寝たきりになっていた。
まあ、百歳を過ぎればそうなってもおかしくない。
「宣利さんと結婚する、羽島花琳です。
よろしくお願いします」
「……ふん」
曾祖父は挨拶をした私を一瞥だけして、すぐにそっぽを向いてしまった。
……いや、あなたに望まれたから結婚するんですが?
笑顔が引き攣らないか気を遣う。
「……あの人はいつもああなんだ。
気にするな」
こっそり宣利さんが耳打ちしてくれたが、それでも少し、傷ついた。
結婚式は贅を尽くした絢爛豪華なものだったが、酷く素っ気なかった。
周囲は私たちが政略結婚だと知っているので、仕方ない。
それでもうちの両親はもちろん、倉森のご両親も私を気遣ってくれて嬉しかった。
――ただ。
「……お金目当て」
宣利さんの姉、典子さんに睨まれたのは怖かった。
披露宴で隣に座る宣利さんをちらり。
結婚式でもそうだったが、にこりとも笑わない。
おかげで誓いのキスはマネキンとでもしているようで、乗り切れた。
この結婚が彼にとっても不本意なものなのはもう承知しているが、一応結婚式なんだから少しくらい笑ったっていいんじゃない?
……などと形ばかりの祝辞を聞きながら心の中で愚痴ってみる。
「なにか?」
スピーチが終わり、拍手が途絶えたタイミングで宣利さんが視線に気づいたのかこちらを見た。
「い、いえ!」
瞬間、目を逸らしてビシッと姿勢を正していた。
かけている銀縁眼鏡と相まって彼の冷たい視線は凍えるようだ。
そうか、これからはこれに付き合っていかなきゃいけないのか……。
いまさらながら、結婚を後悔した。
でも、まあ、そんなに長い期間ではないと言っていたし、我慢しよう。
披露宴のあとはそれらしく、そのまま会場だったホテルに泊まった。
ちなみに、新婚旅行は省略だ。
行ったところでこんな宣利さんとふたりっきりなんて耐えられないので、よかったと思う。
ベッドに座り、隣のベッドを睨む。
……〝夜〟はどうするんだろう?
形だけの結婚だから、初夜とかない気がする。
いやしかし、相手は仮にも男なんだし、くだんの曾祖父からは跡取りを早くと望まれていた。
もう処女でもないし、義務だと思えば割り切れる……かな?
しかしそんな私の気持ちを知らず、あとからやってきた宣利さんはさっさとベッドに入って眼鏡を置き、布団に潜って目を閉じた。
「あ、えと」
しないのかと聞くのもあれだし、聞くと催促しているようで言い出しにくい。
「なんだ?」
不満そうに彼の目が開く。
「その」
私が言いたいことをなかなか言わないからか、彼は若干苛ついているように見えた。
「ああ」
それでもすぐに察してくれたらしい。
「僕は君を抱かない。
どうせすぐに離婚するんだからな。
じゃあ、僕は寝る。
邪魔をしないでくれ」
再び彼は体勢を整え、目を閉じた。
「あ、はい。
おやすみな、さい」
気が抜けてすぐに寝息を立てだした宣利さんを見ていた。
……しないんだ。
しないのならしないほうがいい。
私だって好きでもない人間に抱かれるなんて嫌だし。
それでももしかして私は女として魅力がないんじゃないかと少し、落ち込んだ。
ちょいちょい、私たちの結婚を押した倉森の曾祖父が口を挟んでくるが、苦笑いで流す。
一度、お見舞いに行ったが、ベッドの上で寝たきりになっていた。
まあ、百歳を過ぎればそうなってもおかしくない。
「宣利さんと結婚する、羽島花琳です。
よろしくお願いします」
「……ふん」
曾祖父は挨拶をした私を一瞥だけして、すぐにそっぽを向いてしまった。
……いや、あなたに望まれたから結婚するんですが?
笑顔が引き攣らないか気を遣う。
「……あの人はいつもああなんだ。
気にするな」
こっそり宣利さんが耳打ちしてくれたが、それでも少し、傷ついた。
結婚式は贅を尽くした絢爛豪華なものだったが、酷く素っ気なかった。
周囲は私たちが政略結婚だと知っているので、仕方ない。
それでもうちの両親はもちろん、倉森のご両親も私を気遣ってくれて嬉しかった。
――ただ。
「……お金目当て」
宣利さんの姉、典子さんに睨まれたのは怖かった。
披露宴で隣に座る宣利さんをちらり。
結婚式でもそうだったが、にこりとも笑わない。
おかげで誓いのキスはマネキンとでもしているようで、乗り切れた。
この結婚が彼にとっても不本意なものなのはもう承知しているが、一応結婚式なんだから少しくらい笑ったっていいんじゃない?
……などと形ばかりの祝辞を聞きながら心の中で愚痴ってみる。
「なにか?」
スピーチが終わり、拍手が途絶えたタイミングで宣利さんが視線に気づいたのかこちらを見た。
「い、いえ!」
瞬間、目を逸らしてビシッと姿勢を正していた。
かけている銀縁眼鏡と相まって彼の冷たい視線は凍えるようだ。
そうか、これからはこれに付き合っていかなきゃいけないのか……。
いまさらながら、結婚を後悔した。
でも、まあ、そんなに長い期間ではないと言っていたし、我慢しよう。
披露宴のあとはそれらしく、そのまま会場だったホテルに泊まった。
ちなみに、新婚旅行は省略だ。
行ったところでこんな宣利さんとふたりっきりなんて耐えられないので、よかったと思う。
ベッドに座り、隣のベッドを睨む。
……〝夜〟はどうするんだろう?
形だけの結婚だから、初夜とかない気がする。
いやしかし、相手は仮にも男なんだし、くだんの曾祖父からは跡取りを早くと望まれていた。
もう処女でもないし、義務だと思えば割り切れる……かな?
しかしそんな私の気持ちを知らず、あとからやってきた宣利さんはさっさとベッドに入って眼鏡を置き、布団に潜って目を閉じた。
「あ、えと」
しないのかと聞くのもあれだし、聞くと催促しているようで言い出しにくい。
「なんだ?」
不満そうに彼の目が開く。
「その」
私が言いたいことをなかなか言わないからか、彼は若干苛ついているように見えた。
「ああ」
それでもすぐに察してくれたらしい。
「僕は君を抱かない。
どうせすぐに離婚するんだからな。
じゃあ、僕は寝る。
邪魔をしないでくれ」
再び彼は体勢を整え、目を閉じた。
「あ、はい。
おやすみな、さい」
気が抜けてすぐに寝息を立てだした宣利さんを見ていた。
……しないんだ。
しないのならしないほうがいい。
私だって好きでもない人間に抱かれるなんて嫌だし。
それでももしかして私は女として魅力がないんじゃないかと少し、落ち込んだ。
0
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
転生令嬢は婚約者を聖女に奪われた結果、ヤンデレに捕まりました
高瀬ゆみ
恋愛
侯爵令嬢のフィーネは、八歳の年に父から義弟を紹介された。その瞬間、前世の記憶を思い出す。
どうやら自分が転生したのは、大好きだった『救国の聖女』というマンガの世界。
このままでは救国の聖女として召喚されたマンガのヒロインに、婚約者を奪われてしまう。
その事実に気付いたフィーネが、婚約破棄されないために奮闘する話。
タイトルがネタバレになっている疑惑ですが、深く考えずにお読みください。
※本編完結済み。番外編も完結済みです。
※小説家になろうでも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
執着系皇子に捕まってる場合じゃないんです!聖女はシークレットベビーをこっそり子育て中
鶴れり
恋愛
◆シークレットベビーを守りたい聖女×絶対に逃さない執着強めな皇子◆
ビアト帝国の九人目の聖女クララは、虐げられながらも懸命に聖女として務めを果たしていた。
濡れ衣を着せられ、罪人にさせられたクララの前に現れたのは、初恋の第二皇子ライオネル殿下。
執拗に求めてくる殿下に、憧れと恋心を抱いていたクララは体を繋げてしまう。執着心むき出しの包囲網から何とか逃げることに成功したけれど、赤ちゃんを身ごもっていることに気づく。
しかし聖女と皇族が結ばれることはないため、極秘出産をすることに……。
六年後。五歳になった愛息子とクララは、隣国へ逃亡することを決意する。しかしライオネルが追ってきて逃げられなくて──?!
何故か異様に執着してくるライオネルに、子どもの存在を隠しながら必死に攻防戦を繰り広げる聖女クララの物語──。
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞に選んでいただきました。ありがとうございます!】
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる