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ランプの魔人Ⅰ
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大好きだった祖母が亡くなった数日後、貴方なら良い使い方をしてくれるでしょうからと生前の祖母の一言と共に渡されたのは古ぼけてはいるものの物はいいのだろう、すらりと優美な線を描く一つのランプだった。
子どもの時分であれば彼のアニメ映画を思い出して一擦りしてしまいそうな趣のあるそれは、手のひらの上で蛍光灯に照らされ淡く金色の曲線を輝かせて見た目相応の重さと自分の熱を吸ってほのかに温まったなんとも言えない暖かさを伝えてくる。
ランプの使い方に良いも悪いもないと思うのだが、穏やかな気質で常に笑顔を絶やさず実家から幼子の足で徒歩十分程度の距離を毎日足繁く通う自分を可愛がってくれた祖母の遺言を無碍にすることもできず、また家族を困らせるわけにもいかずと受け取りはしたものの、さてどうしたものかと頭を悩ませた。
悩みの元凶たるランプの表面をよくよく見てみれば蔦のような模様が透かし彫りされていることに気がついた。
細部をもう少し見てみたくなり、なぞるように指で曇る表面を拭ったときだった。
ぼふり、となんとも間の抜けた音とともに煙が巻き起こり、視界が晴れたと思った途端に目の前に現れた見覚えのない人影はこう宣った。
「はじめましてこんにちは。
僕はランプの魔人。貴方の願いを三つ、叶えてあげましょひょわあっ!?」
避けやがったこいつ。
顔面を狙った右ストレートを辛くも飛び退ることで躱した変質者はこちらを化け物でも見るかのような目つきで見やり、絶妙な距離をとりながらも同じ言葉を繰り返した。
「出てけ変質者。」
「現実を見てもらってもいいですか?
君が手にしているのは魔法のランプ。
繰り返すけれど僕はランプの魔人で、僕を喚び出した人間のお願いを三つ叶える不思議な……まぁ妖精のようなものだよ。」
三度繰り返される口上に未だに握ったままだったランプに視線を落とす。
一人暮らしをはじめて早五年、築十数年の木造アパートの一室で聞くにはなんとも不似合いな言葉だと思い、元凶となったのであろうランプを後生大事に抱えているものでもないなと祖母への申し訳なさを感じつつも目の前の自称ランプの魔人へと投げ渡した。
それは過たずランプの魔人へと当たる軌道だったのだが、その身体をすり抜けたランプは緩いカーブを描きながら床へと落ちがらんがらんと派手な音を立てた。
「あんまり雑に扱ってほしくないんだよねぇ。
悪いのだけど、拾って適当なところに置いてもらえるかな?
制約みたいなものでね、僕は本体であるランプに触れることができないんだ。」
ほら、この通り。と振り向きながら床の上に転がったランプを拾おうとしてすり抜ける手を見せながら男は笑う。
何がおかしいのかわからないし意味もわからない。
ただ、今まで信じてきた日常ががらがらと音を立てて崩れ去っていくのはこんな心地なのかと他人事のようにそう思った。
子どもの時分であれば彼のアニメ映画を思い出して一擦りしてしまいそうな趣のあるそれは、手のひらの上で蛍光灯に照らされ淡く金色の曲線を輝かせて見た目相応の重さと自分の熱を吸ってほのかに温まったなんとも言えない暖かさを伝えてくる。
ランプの使い方に良いも悪いもないと思うのだが、穏やかな気質で常に笑顔を絶やさず実家から幼子の足で徒歩十分程度の距離を毎日足繁く通う自分を可愛がってくれた祖母の遺言を無碍にすることもできず、また家族を困らせるわけにもいかずと受け取りはしたものの、さてどうしたものかと頭を悩ませた。
悩みの元凶たるランプの表面をよくよく見てみれば蔦のような模様が透かし彫りされていることに気がついた。
細部をもう少し見てみたくなり、なぞるように指で曇る表面を拭ったときだった。
ぼふり、となんとも間の抜けた音とともに煙が巻き起こり、視界が晴れたと思った途端に目の前に現れた見覚えのない人影はこう宣った。
「はじめましてこんにちは。
僕はランプの魔人。貴方の願いを三つ、叶えてあげましょひょわあっ!?」
避けやがったこいつ。
顔面を狙った右ストレートを辛くも飛び退ることで躱した変質者はこちらを化け物でも見るかのような目つきで見やり、絶妙な距離をとりながらも同じ言葉を繰り返した。
「出てけ変質者。」
「現実を見てもらってもいいですか?
君が手にしているのは魔法のランプ。
繰り返すけれど僕はランプの魔人で、僕を喚び出した人間のお願いを三つ叶える不思議な……まぁ妖精のようなものだよ。」
三度繰り返される口上に未だに握ったままだったランプに視線を落とす。
一人暮らしをはじめて早五年、築十数年の木造アパートの一室で聞くにはなんとも不似合いな言葉だと思い、元凶となったのであろうランプを後生大事に抱えているものでもないなと祖母への申し訳なさを感じつつも目の前の自称ランプの魔人へと投げ渡した。
それは過たずランプの魔人へと当たる軌道だったのだが、その身体をすり抜けたランプは緩いカーブを描きながら床へと落ちがらんがらんと派手な音を立てた。
「あんまり雑に扱ってほしくないんだよねぇ。
悪いのだけど、拾って適当なところに置いてもらえるかな?
制約みたいなものでね、僕は本体であるランプに触れることができないんだ。」
ほら、この通り。と振り向きながら床の上に転がったランプを拾おうとしてすり抜ける手を見せながら男は笑う。
何がおかしいのかわからないし意味もわからない。
ただ、今まで信じてきた日常ががらがらと音を立てて崩れ去っていくのはこんな心地なのかと他人事のようにそう思った。
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