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第一章
第16話 告白**
しおりを挟む深くて激しいキスから、だんだん短く触れるようなキスになって、やがてシリルが顔を離した。
同時にシリルのものが引き抜かれ、俺のナカから温かいものがこぽりと漏れだし、シーツを汚した。
まだ離れがたくて、俺は腕を伸ばしたけれど、シリルは止めるようにそっと手を添え、首を振った。
「君は……」
と、ひと言発したきり黙ってしまったシリルの、その表情がとてもつらそうに見えて、俺は目を瞬いた。
「殿下、」
「僕には、君が分からない」
そう言ってシリルは、俺の手を取り、指を絡ませた。
「馬車の時も、舞踏会での事も……やっと僕の想いが通じた、と思ったら、君はすぐ離れてしまう」
俺を見つめるシリルの瞳が、ゆらゆらと揺れている。
「もう関わるなって言われた時、僕は君に嫌われたんだと思った。君のためにも、この想いは諦めるべきだと。それなのに、さっきの君の言動はまるで……」
シリルの指に、ぎゅ、と力が入る。
「――今回も、そうなのかい?また君は、離れていってしまうの?」
ぐ、と悩ましげに眉を寄せたシリルは、俺の手をベッドに縫い付け、額に唇をつけた。
「ロジェ。もう一度、はっきり言うよ……僕は、君が好きだ。愛しくて、たまらない。悲しい顔の君を見るのはつらいし、笑顔の君を見れば、それだけで僕は幸せな気持ちになる。君がそばにずっといてくれたなら、僕は世界で一番幸福な男になるだろう」
シリルの声が、掠れている。
「君がもし、万が一、嫌でないのなら……少しでも僕へ好意を抱いてくれているのなら――どうか、この気持ちを、受け入れてもらえないだろうか」
それは、シリルのまごうことなき告白だった。
(殿下が、俺を……好きだと)
俺は、混乱していた。
確かに、今までのシリルの行動は、俺への好意をひしひしと感じさせるものだった。
だが、だからこそ余計に、エレーヌとの事がショックで、彼を信じきることができなかったのだ。
(エレーヌ、といえば)
俺は、先程のカールの言葉を思い出していた。
『――平民上がりの賎しい女が、シリル殿下にベタベタくっついて……まぁ、あのあと殿下自身にはっきり拒否されていたのは痛快だったけどな』
――そうだ、噂があてにならないことなんて、自分でもよく知っているじゃないか。
シリルに拒絶の言葉をぶつけたあの日。
屋敷でローズに実際の事を聞かされ、心から後悔した時、思い込みで突っ走るのはもうやめようと、何度も反省した。
憶測を、憶測のままにしてはいけない。
「殿下。あの時の無礼を謝罪いたします」
俺の言葉に、構わないと言う風にシリルが首を振った。
「大変申し訳ございませんでした。あの時俺は――殿下に、とても失礼な勘違いをしていたのです」
「勘違い?」
シリルは、体を少し離して俺の顔を覗き込んだ。
「殿下がローズの取り調べをあの男に任せていたことを知らず、妹の髪を必要以上に切り取ったのは、全て殿下の指示だと思い込んでいたのです。エレーヌ嬢を傷つけられたことへの、殿下の報復だと」
シリルの顔に、困惑の表情が浮かんだ。
「エレーヌ嬢……? 報復? ロジェ、なぜそこで彼女の名が出るんだい?」
俺は、目を逸らした。
「殿下が、陛下の薦めでエレーヌ嬢と婚約される、と風の噂で耳にしておりました。実際、お二人を見て、俺はあなた達が浅からぬ仲だと思ったのです」
シリルは、あれか――という風に、顎を上げて一瞬目を閉じた。
やがて大きく深呼吸をすると、ゆっくりと口を開いた。
「陛下が、僕とアレを婚約をさせたがっているのは事実だ。理由は、分かるかい」
「ええと……教会との、強固な繋がりが欲しいとか、民心を、なんとか……」
もはやうろ覚えになったアレクの言葉を思い出しながら、俺は答えた。
シリルは真面目な顔で頷く。
「そう。完全なる、政治的思惑だ。陛下には何度も断っているのに、未だに諦めてもらえない。彼女は彼女で、別の目的があるように見えるが」
きっぱり言うと、シリルは苦々しげに続けた。
「よりによってあの瞬間を君に見られたからには、何を言っても弁解としか思われないだろうけど……あの日、君が想像するような事は、一切なかった。どうか、普段のあの女の振る舞いを思い出して欲しい」
シリルが、真摯にこちらを見つめている。
その目を見て、俺は彼が嘘などついていない事を何となく感じ取った。
(ああ、やっぱり)
「俺は勘違いばかりですね。妹からも、そそっかしいとよく怒られます」
思わず苦笑がこぼれる。
「殿下、俺からも、あなたにずっと伝えたいことがありました」
腕を少し動かそうとすると、抑えていた手をシリルが慌てて放した。
「伝えたいこと、とは」
シリルの瞳が、まだ不安げに揺れている。
俺は、もうだいぶ自由に動く体を起こした。
再度シリルの手を取り、今度は俺から指を絡ませる。
「ちょっと前まで、俺の世界には妹しかいなかったのに……最近の俺は、気づけばすぐ殿下の事を考えています」
俺は顔を上げ、しっかりと正面からシリルの顔を見据えた。
シリルの目に、光が浮いた。
「俺を見つめる、その優しい目が好きです。あたたかくて大きな、この手が好きです。近くにいるだけでこんなにドキドキするのは……あなたが初めてです」
俺は腕を伸ばし、その愛しい頬に触れる。
シリルの肩に手を置き、俺がぐいっと引き寄せるのを、彼はされるがままに従った。
至近距離で俺を見つめる蒼の瞳が、大きな感情に耐えるかのように細められた。
「ロジェ」
その声は、弱々しく揺れていた。
何でもそつなくこなし、王族らしい堂々とした振る舞いで皆から尊敬を集める第二王子、シリル。
彼のそんな様子が、妙にかわいくて、愛しくて……俺はつい、微笑んだ。
「俺もお慕いしております、シリル殿下。あなたが、好きです」
そして、俺は自分の唇を、シリルの唇へ重ねたのだった。
――――
「ん……っ……ぁんっ……ふか、い……」
四つん這いになった俺に、再び膨張したシリルのモノが挿入される。
これまでとは違う角度で侵入してきたそれが、今まで刺激されたことのない場所に触れて、俺は少しこわくなった。
「殿下、まって、これ、」
「ロジェ、僕たち恋人になったんだよ。名前で呼んでくれないか」
いっぱいいっぱいな俺に比べて、シリルは随分と余裕そうに言った。
「……シリル殿下」
「んー、違う」
ぐりぐりと、奥に鬼頭が押し付けられる。
「っあぁ! や、そこ、だめぇ……」
「ロジェ?」
深々と突き刺さった肉棒が、俺のナカでぴくぴくと上下した。
その焦らすような動きにも、俺の体は律儀に快感を拾っていた。
「っ……シリル! シリル、待ってぇ……っ」
「いいね」
嬉しそうな声でそう言うと、シリルは己をずる、と引き抜いた。
まだ奥に残っていた先程の残滓が掻き出され、俺の太ももに垂れる。
「あぁぁっ! な、んで……抜……」
思わず振り向くと、シリルは愉しそうに口の端を上げた。
「ねぇ、ロジェ。前立腺って知ってる?」
――知らない。
俺が素直に首を振ると、シリルはいっそう笑みを深めた。
「君がもっと気持ち良くなる場所のことだよ」
そう言うと、シリルは俺の後孔へ先端だけを挿れた。
そのまま、俺の浅いところを探るように、ちゅぽちゅぽと抽挿を始める。
「ん……っ、はぁ……っぁん……」
ゆるゆるとした刺激に、思わず腰が揺れた。
「たぶん……ここ、かな」
と、シリルの先がある一点を突いた瞬間、電流が走るような、強い快感が身を襲った。
「ひゃぁあっ!?」
びゅ、と俺の先端から僅かに透明な液体が飛ぶ。
「正解みたい。気持ちいい? ロジェ、ここが前立腺だよ」
ぐにぐにと、シリルの剛直が俺の前立腺とやらを責め立てる。
背中を駆け上がる熱に、俺はシーツを必死に掴んで喘ぐしかできなかった。
「そこ、だめ、ぁあっ……!」
また絶頂に達したのに、もう俺の先からは何も出てこなかった。
続け様の快楽でさすがに腕に力が入らなくなって、俺はベッドに突っ伏した。
「またイッたの?かわいいね、ロジェ」
高々と突き出される形になった俺の尻を、するりと撫でる。
そのまま腰を抑えたシリルは、一気に怒張をねじ込み、俺に息つく暇を与えないまま、激しく奥を犯し始めた。
シリルの楔が、俺のナカを擦り上げる。
その大きなモノが、ついさっきまで苛められていた場所を通る度、俺の脳はびりびりとした甘い痺れを感じ取っていた。
「あっ、んぁっ、も、むり、ぃ……!」
結合部からはじゅくじゅくとはしたない音が響いていた。
その淫猥な音に耳まで犯されたような気になって、いたたまれなさに俺は顔を覆った。
「ロジェ、顔を見せて」
また自身を引き抜いて、あっという間に俺をひっくり返したシリルは、俺と目を合わせてにこりと笑った。
(かっこいいな)
シリルに好みの顔かと聞かれて、深く考えないまま頷いたあの時の記憶が、頭をよぎった。
あれから1ヶ月も経っていないのに、俺の心境は随分と変わってしまった。
今同じ質問をされたら、俺は心からそうだ、と頷けるだろう。
「ん……っ」
体液でぐずぐずの後孔に、シリルの昂りが難なく納められる。体内を圧迫するこの重みすら、愛しく感じた。
「……っシリル、ね、シリル……」
「何だい?」
シリルが、髪を払うように俺の額をなぞった。
「……好き、好きだよ、シリル」
言葉に出すと、余計にその想いがじんと胸に染みる。
次の瞬間、俺のナカに挿れたままのシリルのソレが、いきなり質量を増した。
「あれ、ひ……っ!」
みちり、と入り口が今まで以上に拡げられる。
思わず目の前の肩に縋ると、シリルはどこか恍惚とした表情で俺を見下ろした。
「っ……! ああ、僕も、僕もだよ」
その妖しく光る瞳をみて、本能的にヤバイと判断した俺は、ぱっと手を放した。
「好きだ、大好きだ。愛している。ロジェ……」
離れた腕を、シリルの両手が捕らえる。
「シ、シリル、」
「君は、僕を煽るのが本当に上手だね。わざとやっているの?」
シリルの言っていることが良く分からないが、この雰囲気はかなりまずい気がする。
とりあえず俺は、ぶんぶんと首を横に振り回した。
「ふぅん、まぁどっちでもいいよ。無意識だろうと、僕をその気にさせたんだから、きちんと責任、取らなきゃね」
シリルは今日イチのニッコリ顔だ。
しかし、笑みを向けられた側の俺は、冷や汗がとまらない。
「シリル、一旦話そう。ちょっと待っ、」
「待たない」
「いや落ち着、あっ……あぁっ――――」
――この後俺は、スイッチの入ったシリルによって、ぐちゃぐちゃになるまで抱き潰された。
窓から差し込む夕陽を浴びながら、ベッドの上でぼろ雑巾のように転がった俺に、シリルはつやつやとした顔で「泊まっていくよね?」と告げたのだった。
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