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第一章
第15話 懇願**
しおりを挟むシリルが何をしたのかは分からないが、カールは部屋の隅まで吹っ飛び、いまや完全にのびていた。
「ロジェ、動けないのか?あの男に一体何を……いや、とりあえずこれを」
カールを憎々しげに一瞥したシリルは、素早く自分のジャケットを脱ぎ、俺の上に被せる。
狭い部屋に続々と警備兵が入ってきていたので、その配慮は非常にありがたかった。
気絶したカールを、屈強な男たちが縄でキツく縛り上げている。
「な、んで……殿下が」
俺は状況を掴めずに、目を白黒させた。
同時に、腰の疼きは限界を迎えていた。
(もう、ヤバいかも)
相変わらず、媚薬の効果は俺の体の中で猛威を奮っている。
頭の奥で、目の前の男に縋れと囁く声が聞こえたような気がした。
ああ、間近に見えるシリルの唇が、この上ないほど美味しそうに見える。
「シリル殿下。これを」
警備兵の一人が、ローズの闇魔法適性の検査結果を差し出した。
しかし、シリルはそれをチラとも見ずに首を横に振った。
「後にしてくれ。今はロジェの保護が優先だ」
媚薬にすっかり思考を奪われかけていた俺は、その紙を見て一気に現実へ引き戻された。
同時に、思わずシリルをバカヤローと怒鳴りつけそうになった。
俺の方こそ、後回しにするべきなのだ。
大臣がこの騒ぎを察知したら、今すぐにでも逃げ出すだろう。
そして、そのままシナリオ通りに行けばローズも拐われ、取り返しのつかないことになってしまうのだ。
「殿下、ローズが……うちの妹が、」
妹の危機を伝えたいのに、呼吸が荒れて、舌がうまく動かない。
まず、どこから説明したらいいものか……
どうにか気付いてほしくて、必死に喋ろうとする俺の口を、シリルは指で軽くおさえた。
「……っ!」
シリルに触れられた事によって再び沸き上がったはしたない思いを、俺はどうにか抑え込む。
「落ち着いて。安心しなさい。大臣の手の者から君の妹を保護するため、既に屋敷へ兵を送ってある」
「どうして、それを……」
目を見開いた俺に、シリルは優しく囁いた。
「あの時……妹の事で君がかなり怒っていたから、何か変だと思って。色々調べたら芋づる式に出るわ出るわ……」
シリルが一瞬遠い目をしたのを俺は見逃さなかった。
大臣の国家転覆計画まで暴いたってことだろうか。
さぞ胃の痛い内容だったに違いない。
それなら、こんな事態になる前にどうにか阻止してほしかったところだが……まぁ、立場上あまり自由には動けなかったのだろう。
「第二王子殿下、」
そこら中を調べ回るゴツい警備兵らでいっぱいいっぱいの部屋に、さらに物騒な顔をした騎士が顔を出した。
さすがに中へは入れなくて、文字通り顔だけをこちらへ覗かせている。
「ヴァンドーム家へ送った者から、報告が」
騎士の言葉に、俺とシリルに緊張が走った。
「どうだった」
シリルが素早く聞き返す。
「屋敷を見張っていた大臣の子飼い兵士と鉢合わせ、戦闘になったようですが……全て制圧し、侯爵家の人間は、全員無事とのことです」
「そうか……ご苦労だった。引き続き警戒せよと伝えてくれ」
は、と短い返事をのこして、騎士は顔を引っ込めた。
「良かった……良かった……!」
ローズは無事だ。胸の中に安堵感が広がる。
「ほら、安心しなさいって言っただろう?」
シリルはどこか得意気だった。
「それより、自身の心配をしなさい。……あの男の、君に対する許されざる行為はどうやら未遂のようだが、こんなに苦しそうに、ぐったりして……何があったんだ?」
言いながら、シリルは俺の真っ赤な頬に手を添えた。
その僅かな接触で、妹の危機で忘れていたはずの体の熱が待ってましたとばかりに戻ってきて、俺は頭を抱えたくなった。
その通り、こっちはまだ解決していないのだ。
――もう、俺に正気を保つ気力は残っていなかった。
「殿下、俺、もう……」
懇願するような、情けない声が出た。
頭をどうにか動かし、シリルの暖かい手の平へ頬を擦り寄せる。
「ロジェ?何か辛いのか?どう辛い?」
シリルは、困惑した様子だった。
「つらい……辛いよ、殿下。触って……ね、お願い。俺、おかしくなっちゃうよ……っ」
「な、触っ……!? ロジェ……?」
部屋の中が、しん、と静かになった。
それからすぐ、ガチャガチャと無意味な物音が、部屋中あちこちからあがった。警備兵達が気を遣っている。
シリルは、一気に俺に負けないくらい赤くなった。
頬に触れたままの手が、アワアワと奮えている。
同じく頬を染めた警備兵のひとりがそろりと近付いてきて、気まずそうに目を逸らしながらシリルに耳打ちした。
「発言をお許しください、殿下」
「なんだ」
シリルは、苛立たしそうに短く答えた。
警備兵は、例の紅茶が入っていたカップを手にしている。
「このカップ、かすかにカナンガの香りが残っております。ロジェ様は恐らく……」
「カナンガ……? それはつまり……! 何て事だ、解毒剤は」
目を見開いたシリルが、警備兵の顔を見据えた。
警備兵は、無念そうに首を振る。
「たしか、まだ開発されておりません。未許可の解毒剤は市井に出回っているようですが、副作用が酷く、とても使えたものではないと」
シリルは額に手を当て、天を仰いだ。
警備兵は目を伏せたまま、すす、と退がった。
その二人のやり取りは俺にも聞こえていたが、何を話しているかはどうでも良かった。
部屋にいる警備兵達のことすら、頭から吹っ飛んでいた。
もうシリルしか見えない。
はやく、この熱を何とかしてほしい。
「殿下ぁ……っ」
俺の切羽詰まった声を聞いて、シリルは意を決した様に頷いた。
「――僕が、対処しよう」
警備兵達のガチャガチャ音は、一層強まった。
――――
シリルは俺を横抱きにかかえ、どこかへ運ぼうとしていた。
一方俺は、服越しの温もりやら運ばれる振動やらで刺激され、気が狂う寸前だった。
「……っ、もう、無理ぃ」
「大丈夫、もうすぐだ……ほら、ついたよ」
先程とは打って変わって、かなり広い部屋だった。
二間続きの奥の部屋の、これまた大きなベッドへ、シリルは俺をそっと下ろした。
「君があの男に盛られた、カナンガ薬の対処方法は、知っているかい?」
シリルの質問に、僅かに頷く。
よーく知っている。飲ませた本人に聞いたからな。
「残念ながら解毒薬がないし、君の様子からして時間もないので僕がその……処置、をする。誰か他に希望があるなら……」
「殿下、殿下がいい、お願い……っ」
俺は必死に懇願した。
こちとら童貞を卒業しないまま処女を捨てた身だ。
この期に及んで、説明とか合意とかどうでもいい。
過去2度、俺の意思を確認しないまま組み敷いてきたくせに、この男は今更何を言っているんだ。
まじで早く助けてくれ。
「っ……君はまた、思わせぶりな事を」
手早く俺の服を全て脱がせたシリルは、足の間に膝を進め、俺の太股をつかんで大きく開かせた。
そして、剥き出しになった後孔へ唾液を絡ませた指を侵入させ、性急に拓き始めた。
「ぁ……っ! だめ、だめ……っ出ちゃう……!」
シリルのもう片方の手で緩く刺激されていた俺の屹立から、耐える間もなくびゅる、と精が吐き出される。
「ロジェ、もう……挿れるよ」
俺の腹に垂れる白濁液を掬って、後孔へ念入りに塗り込んだシリルは、己自身を取り出し、間髪いれずにソコへねじ挿れた。
「あぁぁぁっ……! おっき、のきたぁ……っ」
待ち望んだ質量に、俺の肉壁はその太い杭をきゅぅと食い締める。
「っ……これは……」
さらに硬度を増したシリルの怒張が、俺のナカを抉った。
あまりの快感に、俺の視界にばちばちと火花が散る。
「きもちい、よぉっ……んっ……でんかぁ、もっと、ちょうだい…………ぁっ」
「ロジェ、ロジェ……っ」
媚びるようにうねる腸壁に、シリルの屹立もすぐに限界を迎えた。
腰をぐっと押し付け、びゅるる、と大量に注ぎ込まれるシリルの欲を、俺のナカはいやらしく奮えながら受け入れた。
「はぁ……んっ……はぁ、いっぱい、きた……ぁ……」
体の奥の熱はまだ強く燻ったままだが、処置の効き目がもう出たのか、俺の手足は再び力を取り戻した。
「殿下、」
腕を上げ、俺の上に覆い被さるシリルの、そのさらさらとした青い髪にそっと触れた。
顔を上げたシリルの双瞼が、まっすぐ俺の瞳を捉える。
俺は、シリルに言いたいこと、伝えたいことが、沢山あった。
その全てが頭のなかでぐるぐると回って、どこから言い出したものか分からない。
とうとう諦めて、俺は目を閉じ、誘うように顎を上げた。
シリルが、僅かに身動ぎをする気配がした。
熱い吐息が、近付く――
そして、俺たちは、深く口付けを交わした。
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