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第一章

プロローグ

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 気がついたら、ファンタジーの世界だった。
 
 じゃあその前はどこにいたのかというと、それはよく覚えていない。

 目が覚めて、いつもとなんか違うな?と首をかしげて、でもどう違うのかがうまく言葉にできない。
  
 昨日の朝もここで目覚めた気がするし、その前も、これまたその前も……生まれてからずっとここで暮らしている記憶はあるのに、なんだかもっと近代的で現実的な世界に住んでいた気もするのだ。

 自分の名前もちゃんと分かっている。ロジェ・ヴァンドームだ。
 ヴァンドーム侯爵家の第二子。歳は18でエルノー学園へ通っている。昨日まで中等部に通っていたが、今日からは高等部へ進級することになっている。
 家族構成は、父、母、兄、そして双子の妹。

 ここまではっきり覚えているのに、目が覚める前は違う家族がいて、違う学校に通っていた気がしてならないのだ。
  
 寝起きの洗顔セットを載せたカートがひとりでに部屋にはいってきたりだとか、窓の外を光る妖精が飛びまわっているのが見えるだとか……
 目に入ったそれらをすごくファンタジーだなぁと感じる、ということは、やはり俺はファンタジーではない世界を知っているのだろう。

 たぶん。

 まあ何でもいっかと顔を洗い、カートを部屋の外へ出してやってから、高等部の制服に着替える。

 部屋の姿見をのぞくと、金髪蒼眼、薔薇色の頬をした美少年がこちらを見ていた。やっぱり、俺じゃない気がする。
 しげしげと眺めながら、ピンクの唇をなぞる。少なくともこんなに血色は良くなかったな。
 
「ロジェ!起きた?」

 ノックもせずに飛び込んできたのは、双子の妹ローズだ。

「あら!その制服お似合いね。天使が降りてきたかと思ったわ!」
「ローズ、君の方が似合っているじゃないか!女神があらわれたかと思ったよ」

 ローズは冗談ぽく言って笑っていたが、俺は本気で彼女を女神だと思った。
 ああ、可愛いローズ。俺とおんなじ輝くような金髪で、瞳の色は俺と違って煌めく金色だ。
  
 肩元をふんわりと膨らませた白いブラウスが彼女の可憐さを引き立たせ、黒を基調としたベストは輝く長い髪をはっきり際立たせている。パニエでふわふわと揺れるスカートは……あれ。
 
「スカート、ちょっと短いんじゃないか。ローズ。その綺麗な脚に有象無象どもが群がってきたらどうするつもりだい」

 俺の発言に、ローズは一気に渋い顔をした。そんな顔もまた可愛い。

「まぁたその話?あんまり長いと、野暮ったいって陰で笑われてしまうの。これがベストの長さなんです」

 ぴしゃりと言い放つと、では失礼いたしますわオニイサマ、とローズは明らかにしらけた様子で出ていった。
 やれやれ、思春期の妹は扱いが難しいんだから……

 ともあれ、あれは確実に短いと思う。

 年を重ねる毎に、ローズの美しさは磨きがかかっている。
 どうもあいつは脇が甘いところがあるので、ここは悪い虫が付かないよう、兄であるこの俺がしっかり見張る必要がある。
 誇り高き侯爵家の、世紀の美少女たるローズがそのへんのじゃがいも男なんかに引っ掛りなんかしたら、世界の損失なのだ。

 そのとき、俺はひらめいた。
 ――悪い虫が付く前に、良い虫をつければいいのでは?
 
 高等部からは、外部から優秀な学生も入ってくる。
 噂では、普段最高レベルの家庭教師チューターがついていて学校に行く必要なんかない王族も、社会勉強の一環として学園に入ることかあるようだ。

 そこで、ひらいめたこの作戦。
 俺が、ローズに見合う男を選別してあげればいいのだ。
 家柄、才能や品性に恵まれた男に目星をつけ、仲良くなって、ローズを紹介する。よし、この流れでいただきだ。
 
 超絶美少女のローズを好きにならない男なんてこの世にはいないのだ。あとはローズ次第だろう。
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