ポンコツαの初恋事情

京夜灯

文字の大きさ
上 下
35 / 49
帳先輩と、ヒマワリ園デート

ポンコツαの初恋事情 35

しおりを挟む
晴天の土曜日、二人は朝早く起き、それぞれ待ち合わせの駅へと向かい、合流すると、目的地行きの電車の到着を待っていた。
「今日、晴れて良かったですね」
帳は日向の言葉ににこりと微笑むと
「うん。日向くん、今日は楽しもうね!」
と声を弾ませ日向に向かってピースサインを送った。
「うっ‥‥‥‥!」 
帳にとっては何気なくとった仕草であったが、彼を溺愛してやまない日向にはクリティカルヒットした。
(うっわ可愛い!だ、だめだ‥‥今この瞬間から帳先輩の写真を撮りまくりたい。でも、携帯電話の写真で良いんだろうか。あぁ、なんで俺、今日までに一眼レフを買っておかなかったんだろう。決めた!次の休みに帳先輩にカメラ選びに付き合ってもらおう。)
「日向くん?急に固まっちゃって、どうかしたの?」
(初めから上手く撮影できる訳がないから、そこは練習を‥‥練習?それを口実に帳先輩の写真を沢山撮らせて貰おうかな)
「ねぇ、日向くん、おーい、聞こえてる?」
(帳先輩専用一眼レフを買ったその日から、俺は帳先輩専属カメラマンになるん!) 
「日向くん、電車きたから乗るよっ。段差気を付けてね?」
帳は、自身の言葉に反応を示さず口を半開きにしてあー、うー、と声を漏らす日向の背中を軽く押した。
「こーらっ、考え事?」
帳が優しくの背中を押すと、日向はふと我に返り
「あっ、済みません。考え事をしてました」
と、謝罪の言葉を口にした。
電車に乗り込むと、静かに流れる風景を眺めながら、目的地に到着するのを待ちわびた。
今回は有名なヒマワリ園に行くために、少し遠出しようと、二人で相談して計画を立てていたのだ。
電車を乗り継ぎ、少しずつ景色が変わってゆく。
ビル群が姿を消し、緑豊かな田園風景が広がる中、二人の気持ちも次第に穏やかになっていった。
「雑誌で見た時から凄く楽しみにしてたから、ワクワクするよ」
「俺も帳先輩とここに来るの、楽しみにしてましたよ」
二人は顔を見合わせると、額をあわせ、微笑みあった。
最寄りの駅に着くと、二人はタクシーに乗り込み
「済みません、ヒマワリ園までお願いします」
日向が目的地を伝えると、初老の運転手がバックミラー越しに微笑んだ。
「お二人はこれからヒマワリ園デートをなさるんですか?」
「えっ‥と‥‥」
突然の問いかけに帳が戸惑っていると
「はい、そうなんですよ!」
と、日向があっさりと肯定した。
「ちょっと、日向くんっ‥‥!」
帳が慌てふためいていると
「私は今まで沢山のお客様を乗せてきましたから、お二人の様子を見ているとわかるんですよ」
運転手は優しげな声で二人にそう告げた。
「えっと‥‥僕達そんなにわかりやすいですか?」
「えぇ。背の高いお兄さん、タクシーに乗り込んでからずっとお客さんのことを愛しげに見つめてらっしゃいましたから」
「えっ、ちょっと、日向くんっ!」
帳は恥ずかしさで耳まで真っ赤に染めたが
「あはは、俺って見ていてそんなにわかりやすいんですね」
と、日向は笑いながら答えた。
「お二方はとてもお似合いですね。ご結婚なさっているんですか?」
「いえ、今はまだ結婚していませんが、近いうちに入籍を考えています」
「ちょっと、日向くん、何言ってるのさ!」
「ははは、なんとも微笑ましいですねぇ」
運転手は非常に親切で、それからヒマワリ園の見どころをいくつか教えてくれた。
タクシーが目的地に到着すると、二人は運転手にお礼を言って降り立ち、仲良く手を繋いでヒマワリ園へと続く道を歩き始めた。
園に到着すると、広大なヒマワリ園が、夏の日差しを一面に受けて黄金色に輝いていた。
真夏の太陽が降り注ぐ中、広大なヒマワリが一面に広がる丘の上には、色鮮やかな黄色い花々が一斉に咲き誇っている。
青い空に向かって真っ直ぐに伸びるヒマワリは、どこまでも続くかのようで、その景色を見た二人は、自然と笑顔になる。
「わぁ、絶景ですね」
日向がそう言うと、帳は頷き、あたり一面を眺める。
「うん、すっごく綺麗だね」
ヒマワリ園には多くの親子連れが訪れており、幼い子供達は、背の高いヒマワリに囲まれて駆け回り、その無邪気な笑い声が風に乗って響いている。
母親たちは、子供たちの後を追いかけながら、カメラを構えてその瞬間を逃さないようにと一生懸命だ。
父親たちは、時折立ち止まり、ヒマワリの向こうに見える景色を眺めながら、ゆったりとした時間を楽しんでいる。
「微笑ましい光景だね。僕、子供好きなんだぁ」
「こっ‥‥子供が好き‥‥‥!!」
(これは、はやく結婚して子供を授かりたいっていうアピールだよな。帳先輩、俺も同じ気持ちです!)
「日向くんは子供、好き?」
「はい、大好きです。俺たちも早く授かりたいですね。俺と帳先輩の子供なら男の子でも女の子でも可愛いに決まってるじゃないですか。帳先輩もそう思いますよね?」
「君、何言ってるのさ‥‥‥」
呆れた顔をした帳に対し、一人勝手に盛り上がっている日向は、彼に弾けんばかりの笑顔を向けた。
ヒマワリ園の端には、小さなドッグランが設けられており、そこでは、元気いっぱいの犬たちが思いっきり走り回っていた。
飼い主達はベンチに座り、互いに会話を楽しみながら、愛犬が楽しそうに遊ぶ様子を微笑ましく見守っている。
犬たちは自由に駆け回り、時にはヒマワリの茂みの中に顔を突っ込んでみたり、他の犬とじゃれ合ったりしていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺

高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【続編】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

処理中です...