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些細なすれ違い
ポンコツαの初恋 25
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その日から、日向は勤務時間以外で帳を見かける事が、なくなった。
電話にも出て貰えず、留守番電話サービスに繋がる度に、涙が日向の頬を伝う。
『ちゃんと顔を見て話がしたい』
そう送ったメッセージにも既読はついたが、返信はなかった。
休憩時間に帳を探すも、彼の姿はどこにも見当たらず、日向は誤解されたまま避けられていることよりも、そうさせるまでに帳を傷付けたという事実に酷く心を痛ませた。
そんな状態が二週間も続き、流石の日向も精神的に参ってしまう。
(あの時、勇気を出してキスをしていたら、繊細なあの人を悲しませずに済んだのに)
今更自責の念に囚われても遅い。
とにかく今は、彼と話がしたい。
日向がぼんやりと外を眺めていると、空が黒く曇り、大粒の雨がバタバタと窓硝子を叩く音が、静かな部署内に響き渡った。
(あぁ、疲れた。疲れたなぁ‥‥今日はもう帰ろう)
日向がエレベーターを下り、傘を広げようと左右を確認したその時
(見つけた!)
そこには泣いている様な雨垂れに両手をかざし、空を眺める帳の姿があった。
透き通った瞳からとめどなく流れる涙は白い頬を伝い落ち、ポタポタと滴る水滴と混じり合い、地面へと落ちてゆく。
その横顔が美しくも儚げで、日向の目には今にも消えてしまいそうに映った。
日向は彼にそっと駆け寄ると、彼の身体を背後から強く抱き締めた。
「帳先輩、逃げないで‥‥‥」
日向が必死に哀願すると、帳がゆっくりと振り返った。
彼の身体は冷たく、日向に向けられた瞳は、頼りなげに揺れている。
日向は、身体を小刻みに震わせ、傷付きたくないと全身で訴えてくる帳の瞳を真っ直ぐに見つめ
「ごめんなさい。もう、絶対に、傷付けないから」
たからどこにもいかないで。
そう告げた日向の唇もまた震えており、縋る様な声色を滲ませていた。
「傘を忘れてしまったんだ」
そう言って寂しげに笑う彼を濡らさぬ様に、日向は自身の大きな傘をそっと帳の方へと傾けた。
そうして二人、無言で帳のマンションへと歩きながら
ー相合い傘、惚れたれた方が、濡れているー
とはよく言ったものだと、日向はぼんやりとそんなことを思った。
だんだん強く振り荒び、声をかき消すような大雨に変わり、日向の肩はぐっしょりと水気を含み、布地が肌に張り付いた。
それでも帳が濡れてしまわぬ様にと細心の注意を払い、彼の身体を守っていると
「日向くん、今日、僕の家に寄っていかない?」
と、彼の方から誘いを掛けられ、日向は無言のまま、真剣な顔で頷いた。
電車の中でも重苦しい沈黙が続き、窓の外を流れる景色は、ただ無機質に過ぎ去ってゆく。
車内にはまばらな乗客が座り、皆、それぞれの思考に沈んでいる。
日向の隣に座った帳は正面を向いたまま、日向を見ようともしない。
その無言の時間が、二人の間の空気をますます重くしていた。
電話にも出て貰えず、留守番電話サービスに繋がる度に、涙が日向の頬を伝う。
『ちゃんと顔を見て話がしたい』
そう送ったメッセージにも既読はついたが、返信はなかった。
休憩時間に帳を探すも、彼の姿はどこにも見当たらず、日向は誤解されたまま避けられていることよりも、そうさせるまでに帳を傷付けたという事実に酷く心を痛ませた。
そんな状態が二週間も続き、流石の日向も精神的に参ってしまう。
(あの時、勇気を出してキスをしていたら、繊細なあの人を悲しませずに済んだのに)
今更自責の念に囚われても遅い。
とにかく今は、彼と話がしたい。
日向がぼんやりと外を眺めていると、空が黒く曇り、大粒の雨がバタバタと窓硝子を叩く音が、静かな部署内に響き渡った。
(あぁ、疲れた。疲れたなぁ‥‥今日はもう帰ろう)
日向がエレベーターを下り、傘を広げようと左右を確認したその時
(見つけた!)
そこには泣いている様な雨垂れに両手をかざし、空を眺める帳の姿があった。
透き通った瞳からとめどなく流れる涙は白い頬を伝い落ち、ポタポタと滴る水滴と混じり合い、地面へと落ちてゆく。
その横顔が美しくも儚げで、日向の目には今にも消えてしまいそうに映った。
日向は彼にそっと駆け寄ると、彼の身体を背後から強く抱き締めた。
「帳先輩、逃げないで‥‥‥」
日向が必死に哀願すると、帳がゆっくりと振り返った。
彼の身体は冷たく、日向に向けられた瞳は、頼りなげに揺れている。
日向は、身体を小刻みに震わせ、傷付きたくないと全身で訴えてくる帳の瞳を真っ直ぐに見つめ
「ごめんなさい。もう、絶対に、傷付けないから」
たからどこにもいかないで。
そう告げた日向の唇もまた震えており、縋る様な声色を滲ませていた。
「傘を忘れてしまったんだ」
そう言って寂しげに笑う彼を濡らさぬ様に、日向は自身の大きな傘をそっと帳の方へと傾けた。
そうして二人、無言で帳のマンションへと歩きながら
ー相合い傘、惚れたれた方が、濡れているー
とはよく言ったものだと、日向はぼんやりとそんなことを思った。
だんだん強く振り荒び、声をかき消すような大雨に変わり、日向の肩はぐっしょりと水気を含み、布地が肌に張り付いた。
それでも帳が濡れてしまわぬ様にと細心の注意を払い、彼の身体を守っていると
「日向くん、今日、僕の家に寄っていかない?」
と、彼の方から誘いを掛けられ、日向は無言のまま、真剣な顔で頷いた。
電車の中でも重苦しい沈黙が続き、窓の外を流れる景色は、ただ無機質に過ぎ去ってゆく。
車内にはまばらな乗客が座り、皆、それぞれの思考に沈んでいる。
日向の隣に座った帳は正面を向いたまま、日向を見ようともしない。
その無言の時間が、二人の間の空気をますます重くしていた。
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