ポンコツαの初恋事情

京夜灯

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些細なすれ違い

ポンコツαの初恋事情 24

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翌日、まだ朝方にも関わらず、空はどんよりと暗く、空気は雨を孕み、踏みしめた地面は水気を含んで柔らかかった。

日向はじめじめとした蒸し暑さを感じながら、まとわりつく様な汗を手の甲で拭う。

しかし、職場へ一歩足を踏み入むと、そこには凛とした顔で業務をこなし、後輩達に的確な指示を出す帳の姿を見れて、その姿が日向には格好良く映った。

日向の前でのみ見せる優しい笑顔や、自身の身体にすっぽりと収まり、抱き心地の良い猫の様に密着して甘える姿とのギャップに、日向はすっかり骨抜きにされる。

その場その時の状況に合わせて様々な顔を見せる帳に対し、日向は毎日新鮮な気持ちで恋に落とされる。

(我ながら重症だな)

日向は心の中で呟くと、自身のデスクのパソコンを起動させ、業務に集中し始めた。

ここ数週間、帳のほうが忙しいのか、二人は、休憩室で食事をとることもなくなっていた。

(帳先輩と、昨日も一緒にご飯食べられなかったな)

日向は重い溜め息をつくと

(このままじゃダメだ!勇気を出すんだ俺!)

と、自身を鼓舞し

「帳先輩、今日のお昼は久しぶりに休憩室で過ごしませんか?」

と、勇気を出して、帳を誘う事に成功した。

久しぶりに帳と二人、休憩室で過ごし、数日ぶりにハンドクリームを帳の肌に滑らせると、彼は未だにその感覚に慣れない様で

「あっ‥‥んっ、はぁっ‥‥」

と悩ましげに喘ぎ、吐息と共に漏れ出る色香溢れる声色に、日向は初めて彼を抱いた日の艶かしさを思いだし、目眩がするような心地になった。

(俺、今はギリギリ理性を保っているけど、これ以上はまずい)

日向はそう感じながらも、久々に触れる帳の肌の滑らかさとぬくもりを感じていたくて、柔い肌に丁寧にハンドクリームを塗りこんでいく。

「‥‥はぁっ、ねぇ、日向くん」

名前を呼ばれ、日向が慌てて返事をする前に、帳が日向にぴったりと身を寄せた。

「僕達、あれからキス、してないよね」

潤んだ瞳で至近距離で見つめられ、日向は頬を紅潮させて余裕のない声で答えた。

「あっ、あの‥‥そのっ‥‥‥どどどどうしたんですか?急に‥‥」

そんな日向の様子に構うことなく、帳は彼の顔にゆっくりと自身の顔を近づける。

「久しぶりに、キス、しよ?」

甘えを含んだ声で誘いをかけられ、日向の心臓がドクドクと、煩い位に波を打つ。

日向が華奢な身体に腕をまわすと、帳が嬉しそうに目を細め、日向に向かってはにかんだ。

「日向くん、大好きだよ」

恋情を告げるその唇が、甘く蕩けた瞳が、裸で抱き合った時間や行為を、日向に鮮明に思い出させた。

(帳先輩を、今すぐ押し倒したい。この抱き心地の良い肌を撫で回して、全身舐めまわして、全てを暴きたい)

だが、日向は邪な思いをかき消す様に、ブンブンと首を横に振ると、帳に対して酷いことをしてしまうのが怖くて、日向は彼の両肩を掴み、グイッと押し返した。

「ダメです。俺から離れてください」

帳は一瞬、何を言われたか分からないといった表情で日向を見つめた。

だが、状況を理解した途端、今にも泣き出しそうな、悲痛な表情を浮かべ

「やっぱり、そうだよね‥‥もう、いいよ」

と消え入りそうな声でポツリと告げると、日向が引き留める前に

「じゃあ、僕は仕事に戻るね」

と、逃げる様に休憩室を後にし、そこには呆然と立ち尽くす日向たけが残された。

日向が帳を傷付けたこと、悲しげな顔をした彼を抱き締められなかった事を、深く後悔したのは、彼の後ろ姿が見えなくなってからだった。
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