上 下
17 / 49
勇気を出して‥‥

ポンコツαの初恋事情 17

しおりを挟む
そうこうしているうちに、辺りはすっかり暗くなり、次々に屋台の灯りがともりはじめた。
「日向くん、食べたいものはある?」
「んー、昼にぜんざいを食べたから、あまりお腹がすいてないんですよね」
「僕もそうなんだよ。じゅあ、たこ焼きを買って、二人で分けけあわない?」
「はい、半分こにして食べましょう」
「じゃあ僕、買ってくるから、日向くんはそこで待っててね」
そう言って帳は人で賑わう屋台通りの中を歩いていった。
帳の背中を見送った日向は、喧騒から離れた広場で夜風に混じって香るソースの香りに心を踊らせながら、ひやりとした石段に腰を下ろした。
(帳先輩、たこ焼きもフーフーを繰り返して食べるのかな?帳先輩の食事姿、可愛いからもっと見たいなぁ)
そんな事を考え、日向が胸を踊らせていると
「日向くんお待たせ!」
と、待ち焦がれていた明るい声が聞こえてきた。
声を耳にした日向は、勢いよく立ち上がり
「あっ‥‥全然待ってな‥‥」
と、言いかけ、眼前の光景に息を飲んだ。
そこには、ライトアップされて優しく光る桜を背景に、ビニール袋を持った帳が、日向を見つめて楽しそうに微笑む姿があった。
日向が帳の姿を見つめていると、突然強い夜風が桜吹雪を舞いあげ、二人を包み込んだ。
肌寒さを気きする様子もなく、帳は日向に向けた微笑みを、絶えず輝かせ続けている。
風に揺らめくピンクブラウンの髪は、陶器の様に白い肌をより強調し、グラデーションがかった眼鏡のレンズの奥の瞳は優しく日向を見つめていた。
その光景は、初めて出会った時と同じく、日向を釘付けにした。
(あの時も、俺は桜を背景に無邪気に笑う、この人に魅了されたんだった)
髪や肩に舞い降りる桜の魔法は、二人が出会った時間へと日向の意識を巻き戻させていった。
(どうしよう。好きが溢れて止まらない) 
日向がいっそ苦しい位に胸を高鳴らせていると、帳が日向の目の前までやってきて
「冷めちゃわないうちに、たこ焼き、食べよ?」
と、袋を差し人し、日向に手渡した。
初めて会ったあの時より歩み寄った距離感が、日向の意識を現実へと呼び戻す。
頭をのぼせさせた日向は、真っな顔で帳から袋を受け取ると、コクコクと頷くだけで精一杯だった。
「屋台で買って食べるたこ焼きってさ、特別おいしく感じない?」
「分かります。屋台を見て歩くのも、楽しいですよね」
石段で仲睦まじくたこ焼きを分けあい、食べ終わった二人は、満足感のなか、再び手を繋いで歩きだした。
屋台に浮かれている帳と恋人繋ぎで歩いていると、帳が突然手を離し、子供の様にとてとてと走って行ったかと思うと、真っ赤に輝く林檎飴を片手に、キラキラと目を輝かせながら日向のほうへと戻ってきた。
(んんん、時折見せる子供っぽい表情が、愛らしくて仕方がないんだよなぁ)
再び手を繋ぎなおし、帳に手を引かれるままに歩き、屋台通りを抜けると、そこには沢山の桜の木々が、あたり一面に咲き誇っていた。
優しい光でライトアッブされた花々は、まるで空に広がる淡いピンクの絨毯の様に輝いており、あまりの絶景に日向は息を飲んだ。
「この美しい景色を、日向くんと一緒に見たかったんだ。付き合ってくれて、有り難うね」
「帳先輩‥‥」
帳の言葉が嬉しすぎて、日向が目に涙を滲ませ、彼を見つめていると 
「溶けちゃわないうちに、これも食べちゃわないとね」  
帳は先ほど買った林檎飴に口をつけ、小さな口でかぷりとかじると、表面の飴をゆっくりと舐めはじめた。
表面を舌先でなぞり、吸い付き、絡めとる様な仕草は、日向の目には卑猥にうつり、あらぬ妄想をかきたてられる。
(落ち着け、俺の息子!)
日向はなんとか下半身の熱を抑えようと心の中で念仏をとなえ、煩悩をかき消そうとした。
欲望にのまれまいと戦いながらも日向が帳から目を離せずにいると、日向の視線に気付いた帳が、林檎飴を差し出しだした。
「日向くんも、食べる?」
帳は紅い飴の色素に染まり、艶を帯びた唇で問いかけると、上目遣いで日向を見つめた。
そんな姿が、自分を誘惑しているか様に日向の目には映る。
(これは素でやっている。解ってる。解っているんだけど、帳先輩を今すぐ食べてしまいたい!もう我慢できない!)
「‥‥っ、帳先輩!」
日向は、本能に突き動かされる形で差し出された腕を引くと、強く帳を抱き締めた。
「あの、日向くん‥‥硬いものが当たってるんだけど‥‥」
帳の声は困惑に満ちていたが、日向は帳の腰を更に引き寄せ「好きです」と、思いの丈を口にした。
「えぇっ、このタイミングで言うの?」
「俺、帳先輩が好きです。俺と付き合って下さい」
いつもの童貞くささはどこへやら、日向は真剣な目をして帳の瞳をじっと見つめ、告白の言葉を口にした。
「嬉しいな。僕も日向くんの事が好きだよ」
日向は帳の返事に感極まり、泣き出すと
「それはLIKEですか?LOVEですか?」
と嗚咽混じりに問いかけた。
「勿論、LOVEのほうの"好き"だ
よ」
(あぁ、俺、今この瞬間死んでも良い)
日向は一瞬、本気でそう思ったが、帳に告白を受け入れて貰ったからには、彼と幸せになりたいと、気持ちを改めた。
「有り難うございます。俺、生きていて良かったって、今、心の底から思っています」
日向は幸福を噛みしめると、より一層帳を強く抱き締めた。
「日向くん、一つだけ質問しても良いかな?」
「何でもどうぞ」
「僕は日向君の運命の相手なの?」 
そう問いかた帳の顔は、日向からは見えない。
だが、その声はどこか真剣さを帯びており
「運命だとか、そんなの問題じゃないんです。ただただ、俺は貴方の事が好きなんです!」
日向は帳に対し、精一杯彼への想いを伝えた。
だが、その言葉を聞いた帳はどこか悲しげに「そっか‥‥」と消えいりそうな声で呟いた。
帳の反応に対し、告白を受け入れられ、舞い上がっている日向は気付く事もなく
「俺、帳先輩のこと、一生大切にします!」 
と、決意表明をするなり、白くて滑らかな帳のうなじに噛み付こうとしたのだが
「それは駄目だよ」
と、帳に優しく咎められてしまい、日向はお預けをくらった犬の様に項垂れた。
「それよりキス、しなくて良いの?」
帳に問いかけられ、日向は
「して良いんですか?それでは慎んでいただきます」
と、真剣な顔で帳の腰を引いたまま、顔を向かい合わせた。
「あはは、何それ。日向君は本当に面白い子だね」 
そう言うと、帳の方から日向の首に両腕をまわし、軽く触れ合うだけの口付けをした。
(俺のファーストキス!帳先輩、大人の階段を上らせてくれて、有り難う!)
その瞬間、日向の脳内でレベルアップのファンファーレが鳴り響いた。
日向が先程のキスの余韻に浸っていると、突然帳が驚きの声をあげ
「ごめん、日向くんの服に林檎飴つけちゃった!洗って返すよ」
と慌てて離れようとしたが、日向は彼の腰を更に強く引き寄せた。
「すぐ洗ったら落ちますよ。ここから俺の家まで遠くないんで」
だから、俺の家に来てくれませんか?
日向がそう尋ねると、帳は意を決した様に
「うん」
と返事を返し、二人は来た道を戻りはじめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

君は俺の光

もものみ
BL
【オメガバースの創作BL小説です】 ヤンデレです。 受けが不憫です。 虐待、いじめ等の描写を含むので苦手な方はお気をつけください。  もともと実家で虐待まがいの扱いを受けておりそれによって暗い性格になった優月(ゆづき)はさらに学校ではいじめにあっていた。  ある日、そんなΩの優月を優秀でお金もあってイケメンのαでモテていた陽仁(はると)が学生時代にいじめから救い出し、さらに告白をしてくる。そして陽仁と仲良くなってから優月はいじめられなくなり、最終的には付き合うことにまでなってしまう。  結局関係はずるずる続き二人は同棲まですることになるが、優月は陽仁が親切心から自分を助けてくれただけなので早く解放してあげなければならないと思い悩む。離れなければ、そう思いはするものの既に優月は陽仁のことを好きになっており、離れ難く思っている。離れなければ、だけれど離れたくない…そんな思いが続くある日、優月は美女と並んで歩く陽仁を見つけてしまう。さらにここで優月にとっては衝撃的なあることが発覚する。そして、ついに優月は決意する。陽仁のもとから、離れることを――――― 明るくて優しい光属性っぽいα×自分に自信のないいじめられっ子の闇属性っぽいΩの二人が、運命をかけて追いかけっこする、謎解き要素ありのお話です。

極道アルファは極上オメガに転生して、愛に啼く

夏芽玉
BL
オレは八剱斗環(やつるぎとわ)──八剱組の跡取りアルファだ。 だけど、目が覚めたら何故かオメガになっていた。それも、同じ組のライバルである相神崇春(あいがみたかはる)に売った、処女オメガの琴宮睦和(ことみやとわ)にだ。 ラブホテルでセクシーランジェリーを着ていたので、今から客を取らされるのかと身構えていたら、そこにやってきたのは何故か相神で…… 【ド執着アルファ】×【超強気オメガ(元アルファ)】 第11回BL小説大賞に参加します。よろしくお願いします! 表紙イラスト:律富様

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

薫る薔薇に盲目の愛を

不来方しい
BL
代々医師の家系で育った宮野蓮は、受験と親からのプレッシャーに耐えられず、ストレスから目の機能が低下し見えなくなってしまう。 目には包帯を巻かれ、外を遮断された世界にいた蓮の前に現れたのは「かずと先生」だった。 爽やかな声と暖かな気持ちで接してくれる彼に惹かれていく。勇気を出して告白した蓮だが、彼と気持ちが通じ合うことはなかった。 彼が残してくれたものを胸に秘め、蓮は大学生になった。偶然にも駅前でかずとらしき声を聞き、蓮は追いかけていく。かずとは蓮の顔を見るや驚き、目が見える人との差を突きつけられた。 うまく話せない蓮は帰り道、かずとへ文化祭の誘いをする。「必ず行くよ」とあの頃と変わらない優しさを向けるかずとに、振られた過去を引きずりながら想いを募らせていく。  色のある世界で紡いでいく、小さな暖かい恋──。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...