ポンコツαの初恋事情

京夜灯

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帳先輩と夜桜デート

ポンコツαの初恋事情 16

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花見の待ち合わせ当日、日向は帳に買って貰ったカットソーを選ぶと、浮き足立って、かなり早めに家を出た。

すると、待ち合わせ場所には一時間も早く到着してしまい、一分一秒でも早く帳に会いたい一心でいたものの、周囲に時間を潰せるものは特になく、日向は手をこまねいた。

雑に選んだカットソーは季節を先取りし過ぎてしまい、冷たい春風が肌をさす。

「少し早く着きすぎてしまいましたので、時間を潰して待っていますね。帳先輩はゆっくり来てくださいね」

日向が帳にメッセージを送ると、逆に彼に気を遣わせてしまった。

「いや、流石に早過ぎるよ!急いでそっちに向かうから、待っててね」

そうして、メッセージのやりとりから20分程で到着した帳は、日向に向かって申し訳なさそうに眉を下げた。

「待たせてしまってごめんね」

全く悪くない帳に謝罪をさせてしまう形となり、日向は申し訳なさから深く頭を下げた。

「こちらこそ、急かす様な形になってまって、ごめんなさい」 

「まぁ、流石に一時間前はねぇ」

帳は呆れ返ると、薄手の服一枚の日向を心配そうに見つめる。

「それよりその格好‥‥絶対寒いでしょ。途中でカフェオレを買ってきたから、これを飲んで」  

「あっ、有り難うございます」

帳に手渡されたそれは、一口飲む度に日向の身体の芯から心までを温めた。

(ああ、このぬくもりと優しい味わいは、まるで帳先輩の心そのものだ。俺、一時間早く来て良かったぁ)

帳は、クリーム色のオフショルダーの厚手のニットに淡い色のジーンズと、暖かそうな服装をしている。

(帳先輩、フワフワのウサギさんみたいで可愛いなぁ)

帳の愛らしい服装に、日向はまた一段と心が暖まるのを感じた。

「この階段を上った先に、お茶屋さんがあるから、そこで温かいものでもどう?」

そう言って、帳が日向の手を取ると、日向は笑顔で帳の温かな手を握り返した。

「はい、お願いします」

二人は手を繋ぎ、何気ない会話を交わしながら、階段を登って行く。

登りきった所には、いかにも個人経営といったお茶屋さんがポツリと立っており、二人がのれんを潜って座席につくと、温かな緑茶が運ばれてきた。

帳はお品書きを開くと、日向に向かい、説明を始める。

「ここの甘酒は、有名な酒蔵から酒粕を卸して貰っているらしくて、美味しいんだよ」

「そうなんですね。飲んでみようかなぁ」

「それに、お抹茶には、ねりきりがついてくるし、ぜんざいも甘すぎず、食べやすいよ」

「えーっ、それ、めちゃくちゃ迷うじゃないですか」

「それじゃあ今回は、一緒にぜんざいを食べよっか」

「はい、そうしましょう」

そうしてぜんざいを二つ注文し、二人が緑茶で身体を温めていると、すぐさま黒塗りの器が彼らの元へと運ばれてきた。

机の上にならべられた椀からは、甘い香りとともに湯気が立ちのぼっている。

「「いただきます」」

二人は手を合わせると、揃って匙で白玉を掬いフーフーと、息を吹きかけ、柔らかくとろけたそれを、ぱくりと口にいれる。

「ん~、おいしい!」 

「はぁ、うまいし温まる!」

二人は声を弾ませ、満足げに顔を見合わせた。

二口めに小豆を冷ましている帳の愛くるしい姿に、日向が目を奪われていると

「なんか僕、穴があきそうな位見られてない?」

と、帳に気付かれてしまい、日向は慌てて問いかえす。

「えっ、俺そんなに見てました?」 

「うん。お匙が止まってるよ。ふふっ、なんだかオムライス屋さんの時みたい」

「いや、きっ、気のせいじゃないですかね!?」

そんなやりとりを繰り返しながら、二人はぜんざいを完食し

「ごちそうさまでした。美味しかったです」

と、店員に礼を言い、会計を済ませると、笑顔で店を後にした。

観光地である寺には様々な催しが用意されており、桜のライトアップまで、神社巡りをする事を決めた二人はそこで、よく当たると評判のおみくじを引くことにした。

「大吉だぁっ!」

大吉を引き当てて喜ぶ帳を尻目に、日向が自分自身のおみくじに目をやると
そこには【恋愛 今の人が最上、迷うな】

と書かれており

(神様有り難う!これから沢山お賽銭投をげます)

と、日向は斜め上の感謝を天に向けた。

「どう、日向くんも良い結果だった?」

「はい、俺にとっては最高の結果でした!」

「じゃあ、次はあれをやってみようか」

帳が指さしたのは、石に願をかけて的に投げる占いであり、帳の投げた石は、美しい抛物線を描いて見事的へと当たった。

「やったぁ、今日は絶好調だね!」

そう言ってはしゃぐ帳を見つめると、日向は

(帳先輩とお付き合いをして、結婚をして、番になって‥‥この人の全てを手に入れられます様に)

と、あまりに重すぎる願いを込めて、石を投げた。

だが、高く放り投げられた石は、日向の願いの重圧に負け、彼の手前にポトリと落ちてしまった。

絶望のあまり日向が膝から崩れ落ち、はおいおいと泣きはじめると、その姿を見た帳は

「まぁ、気にしない、気にしない」
と、苦笑いしながらも、彼の背中を優しくさすった。
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