ポンコツαの初恋事情

京夜灯

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帳先輩とショッピングデート

ポンコツαの初恋事情 14

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そうして迎えた帳とのショッピングデート当日。

日向は睦月に教わったのを思い出しながらワックスで髪を整えた。

【明日は14時に大きなイルカ時計の前でよろしくね】

帳から送られてきたメッセージを何度を反芻すると

【古着屋さんだから、気負わずに来てね】

という帳の言葉を信じて、前日にアイロンがけをして多少マシにしたつもりの、首もとの伸びた黒のTシャツに、所々ほつれてダボついたジーンズをあわせ、高校の入学祝いに母から貰った皮財布を乱暴に尻ポケットに突っ込むと、携帯片手に待ち合わせの場所へと向かった。

日向が約束の場所へ到着すると、まだ30分前だというのに、既に帳が到着しており、彼は日向を見つけるなり、足音を立てながら近付いてきた。

「実はね、今日があまりに楽しみすぎて、物凄く早起きしちゃったんだ」

「おっ、俺も今日が楽しみで仕方がなくて、早くに目が覚めました」

日向が帳と手を繋ぎたくて、手を伸ばしては引っ込めを繰り返していると、帳のほうから日向の手を取り、日向に向かって笑いかけた。

「僕、日向くんと手を繋いで歩きたいな」

差し出された帳の手を取ると、滑らかな肌触りと温かさが日向に伝わり、彼は記憶の中で嗅いだハンドクリームの香りを思い出しながら、帳の隣を歩いた。

土曜日というのも相まって、ショッピングモールはワイワイ、ガヤガヤと、多くの人で賑わっている。

日向は、ズラリと立ち並ぶブランドショップや、洒落たメンズ店、レディース店が立ち並ぶ場所を通るだけでも苦痛を感じるのだが、好きな人と手を繋いで歩いているこの状況に勇気をもらい、次第に周囲が気にならなくなっていった。

「ここが僕の行きつけのお店だよ。入りやすそうでしょ?」

「いやいやいや、嘘でしょ、帳先輩」

ガラスの向こうには、暗めの照明に照らされた幾時代を生き抜いた、猛者とも言える服達が立ち並んでいる。

ここが、いわゆるヴィンテージショップという店である事に気づいた日向は、激しく困惑した。

「帳先輩、ここ、【古着屋さん】とはいわないと思うんですが‥‥」

「えっ、じゃあ、なんて言うの?」

帳は不思議そうに問いかけると、日向の手を引き、鼻唄を歌いながら、上機嫌に店内へと入っていった。

日向が恐る恐るといった様子で店内を見回すと、膝下まであるチェックの服を纏った男や、近代美術のような柄のパッチワークを付いたワンピースを身に纏った女性が、呪文にすら聞こえる服飾用語を話していた。

(完全に場違いだ‥‥お洒落達の視線が痛い)

日向がファッショニスタに石を投げられる妄想を膨らませ、涙目になっていると、「日向くーん」と帳の呼び声が日向の耳に届いた。

「あっ、いたいた。日向くん、まだそんな所にいたんだ、こっちにおいでよ」

「あっ、はいっ!」

「日向くん、服はこのサイズで合ってるかな?」

「多分大丈夫だと思います」

「じゃあ、いくつか合わせてみよっか」

自身の身体に服をあてがい、楽しそうに選んでいく帳の姿が愛らしくて、先程の気まずさも忘れ、日向はだらしなく顔を綻ばせた。

日向くんはモード系が特に似合いそうだね。でも、綺麗目系も合うかも知れない」  

帳はスキニーデニムにカットソーにと次々に選ぶと、買い物籠へと入れていった。

「ねぇ、日向くん、念のために試着しておいでよ」

「えっ‥‥」

帳が試着室を指差した瞬間、日向は一瞬にして固まった。

「お客様、ご自由にお使い下さい」

店員にまで勧められてしまい、日向は
(このまま店員のセールストークが始まったら、俺は間違いなく泣く)

ならばと、日向はドカンと音を立て、買い籠をレジへと置いた。

「あの、これ全部買います!」

「えっ、試着は!?」

ヤケクソ気味にそう口にした日向は、一度も革の手入れをしたこのない、所々色がくすみ、よれて両端が裂け、ペッタンコになった財布を取り出した。

その財布を見た帳は慌てた様子で

「ここのお会計はぼっ、僕が出すよ!就職祝いのプレゼントって事で!!」

と、日向が口を挟む前にカードで支払いを済ませてしまった。

「帳先輩、かえって気を遣わせてしまって、ごめんなさい」

日向が申し訳なさから肩を落としていると、帳は日向の肩を叩き、元気付ける様にニッコリと微笑みかける。

「気なんて遣ってないから大丈夫だよ。僕が君に着て欲しくて選んだ服なんだから、ねっ?」

「あっ、有り難うございます」

日向は帳に感謝の言葉を伝えると、ショップ店員から、ずしりと重たい紙袋を受け取った。

帳にぶつからない様に、日向が両手いっぱいの紙袋を外側にむけて歩いていると

「片方持つから、手を繋いで帰ろっか」

と、帳が日向に声を掛ける

「えっ、良いんですか?」

「うん。だから、片方持たせて」

そう言って、彼は片方の紙袋を引き受け取ると、再び日向に向けて手を伸ばした。

「帳先輩、普通に手を繋ぐんじゃなくて、俺と恋人繋ぎしてくれませんか?」

日向は帳の眼鏡の奥の瞳を真っ直ぐと見据えて願いを口にした。

「えっ、恋人繋ぎ‥‥したいの?僕と?」

「はい。誰でも良い訳ではなく、帳先輩と、恋人繋ぎをして歩きたいんです」

日向が実直に思いの丈をぶつけると

「そう言って貰えるのはうれしいんだけど‥‥なんだかむず痒いなぁ」

帳は頬を染め、恥ずかしそう日向の手を取ると、細くて形の良い指を絡め、軽くギュッと握りしめた。 

(くぅ~っ、照れている帳先輩が可愛い!可愛すぎる!!それに、手と手の密着感がやばい)

日向が子供の様に目を輝かせ

「有り難うございます。俺、今すっごく幸せです」 

と、笑顔を向けると、帳は困った様な、だが、優しげな顔で「その笑顔は反則だよ」と、ぽつりと呟いた。

そうして、仲睦まじいでこぼこの影が、アーケードの喧騒にふわりと滲んでいった。
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