ポンコツαの初恋事情

京夜灯

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美容院Acid

ポンコツαの初恋事情 9

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「美味しかったね」

「また行きたいですね」

食事を終えた二人は会話を楽しみながら、帳のお勧めの美容院へと向かった。

キラキラと輝き、ガヤガヤと楽しげな声が飛び交う繁華街を通り抜け、少し歩くと帳が立ち止まり、指を差した。

「ここの地下のビルの通路を入った所だよ」

そこには鉄板で出来た看板が掲げられており、日向が階段を下りていくと、求愛する孔雀が己の翼を競いあっている様な、極彩色の髪色のポスターが貼られていた。

(俺は今からこんな髪色にされるのか!?)

日向の心情も知らず、帳は鼻歌交じりに階段を駆け下りていった。

ガラスのドアを引いて中に入るなり

「やっほー!睦月くんお久ー!!」

と、帳が大声で呼び掛けると、黒いカーテンとは対称的に、淡い紫のオーロラのような、虹色の髪をした店員が顔を覗かせた。

「わぁ、帳くん、おひさ!」

睦月と呼ばれた男がイスやラックをよけながら、嬉しそうに帳へと駆け寄ってきて、帳に抱きつき、帳も楽しそうに彼の髪を撫でている。

(あ~っ!友達と戯れてる姿も愛らし過ぎる!ずっと見ていられる。尊い)

日向が脳内で鼻血を撒き散らしながらくるくると回っていると、アシスタントとおぼしき若い男性が姿を表した。

睦月とは対照的に、彼はダークブラウンの髪に、切れ長の二重、スッと通った鼻筋をしており、背丈は高く、落ち着いた雰囲気を纏っている。

「こんばんは。今日もシャンプーとトリートメント、よろしく。睦月くんには、この子‥‥日向くんって言うんだけど、彼のカットとカラーをお願いするね」

(えっ、カラーも!?) 

日向が困惑するのをよそに

「咲哉くん、今日もシャンプー宜しくね」

と、帳が咲哉に向かってニコリと微笑みかけた。

「いつもご利用有り難うございます」

彼は丁寧にお辞儀をし、ゆっくりと帳の座る椅子を傾け、彼の髪に触れた。

(帳先輩のサラサラな髪、俺が洗ってあげたいのになぁ)

日向はそんな事を考え、少し拗ねたが

「君もカットとカラーの前にシャンプーするから、帳くんが終わるまで少し待っててね」

睦月に声をかけられ、雑誌が並べられている椅子へと案内されると、キョロキョロと店内を見渡した。

白と黒を基調とした店内の壁にはおそらく店長の趣味であろう、書体の古いヴィジュアル系とおぼしきのフライヤーがベタベタと貼られており、天井の大きなシャンデリアがキラキラと照明を反射している。

日向が店内を見わたしていると、睦月が彼に向かって微笑みかけた。

「日向くん、どう?このお店、気に入った?」

睦月は上向きなまつげに灰色の瞳をしており、たれ目がちな大きな目が彼の愛らしさを強調しており、改めて見た髪型は、夢の世界を凝縮させたような髪色をしていた。

日向が睦月を見つめていると、日向の視線に気づいた睦月が

「あぁ、この髪色ね。見ての通り、虹色に染めてるんだ。ユニコーンカラーって言うんだよ。大丈夫、日向くんの髪色はこんな風にしたりしないから」

そう言って、彼は悪戯っぽく微笑んだ。

「あ、帳先輩に似てるかも」

「えっ、日向くんも思った?いろんな人に言われるんだ」

「全体的な雰囲気が似てると思います。笑ったときの口元なんかは特に。でも、目元が違います。睦月さんは帳先輩より少しだけ垂れ目なんですよ」

日向がキッパリ言いきると

「へぇ、目元が違うんだね、よく見てるなぁ」

睦月がニヤニヤと笑みを浮かべ

「君、帳くんの事好きでしょ」

「えっ、へっ、はっ!?」

いとも簡単に帳への好意を言い当てた。

「なっ、なっ、なななっ、なんでそう思うんですか?」

日向が動揺を隠せぬまま問いかけると

「んー、わかりやすい人だなぁ」 

と、楽しそうにクスクスと笑われてしまった。

「なっ、なんで‥‥」

「みんな人の顔なんて大雑把にしか見ないから、僕と帳くんの事、よく似てるって言うんだけど、君は本当にわかりやすいねぇ」

と、からかい混じりに笑い続けた。

日向が否定出来ずに真っ赤な顔で黙り込んでいると

「帳さんのトリートメント、終わりました」 

低く落ち着いたトーンの咲夜の声が店内を通った。

「日向くん、また後でね」

睦月は日向の肩を優しく叩き、トリートメント終わりの帳を席へと案内すると、彼と楽しげに会話を交わしながら髪を乾かしはじめた。

「次、日向さん、こちらへどうぞ」

「あっ、ハイ」

日向は言われるがままにシャンプー台へと座った。

ゆっくりと傾いていく椅子に背中を委ね、日向が目を閉じると、美しくも骨ばった男の手からは想像もつかない繊細な動きでシャンプーを塗られたかと思うと、その指で柔らかな泡の音を奏ではじめた。

そのまま頭皮マッサージを施され、あまりの気持ち良さから眠気の波にのまれかけていた日向であったが、咲夜の

「終わりました」

という一言で、夢の世界から呼び戻され、ゆっくりと目を開いた。

日向がシャンプーを終え、頭にタオルを巻かれたまま椅子から立ち上がると、睦月のもとへ行く道すがら、帳の影を探した。

すると、店内のすみに設置されているふかふかのソファーの上で丸くなり、気持ち良さそうに寝息をたてる帳の姿が目に入った。

(こんなに無防備だと心配になるなぁ‥‥でも、帳先輩の寝顔を覗き込みたい!あわよくば洗いたてのサラサラの髪を触りたい!!)

日向が帳の方をガン見していると

「今日は君達だけだから、特別に帳くんをソファーで寝かせてあげてるんだ」

「この人、普段はトリートメントが終わるとそこに座って寝てしまうんですよ」

「髪を乾かす前に見てきたら?待っててあげる」

「睦月さんがそう言ってますから、どうぞ」

睦月と咲哉に言われ、それでは遠慮なくと、日向はソファーへと向かい、愛しい人の寝顔を覗き込んだ。

赤みの差した柔らかな頬、唾液で湿り、潤んだ唇、伏せられた長い睫毛は絵画の様に美しい。

苺を彷彿とさせるピンクブラウンの髪からは、その色にふさわしい、とろける様な香りがした。

乾かしたての髪は肩にかかり、白い素肌をより強調している。

日向は起こさない様にそっと髪を撫で、曲線をなぞるようにジーンズに目をすべらせ、視線を爪先にたどり着かせる。

帳のソックスの隙間からは、くるぶしが覗いていた。

その全てが艶っぽく映り、日向はゴクリと口内に溜まった唾を飲み込んだ。
帳を前にすると、この心臓は休まる事を知らないらしい。

視線をゆっくりと顔に戻し、そのまま帳の額にキスをしようとした日向であったが

「三、二、一‥‥はーい、そこまでーっ!!」

睦月の声に驚かされ

「今からドライヤーで髪を乾かして、カラーとカットをするからこっちに来てねー」

と、手招きをされ、日向は渋々といった様子でゆっくりと帳から離れた。
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