ポンコツαの初恋事情

京夜灯

文字の大きさ
上 下
6 / 49
帳先輩と初デート!?

ポンコツαの初恋事情 6

しおりを挟む
翌日、日向が目を覚ますと、時計の針は昼間の十一時半を指していた。

日向はベッドから上体を起こすと、身体をほぐす様にゆっくりと首を回す。

全身に怠さを感じた日向は、風呂を沸かし、湯船に浸かりながら再び首や肩をまわして全身に血を巡らせた。

日向は幾分か怠さがマシになった身体で寝室へと戻ると、枕元に置きっぱなしにしていた携帯を確認した。

すると、病院から連絡を受けて心配したのであろう両親と、職場の上司である武元、そして、帳からメッセージが届いていた。

日向は他のメッセージに既読スルーを決め込むと、帳からのメッセージのみをじっくりと確認する。

『おはよう、日向くん。あれから身体の調子はどうかな?昨日ゆっくりと休めていると良いんだけど』

そこには、日向の体調を気遣う内容が綴られており

「あぁ、俺にはやっぱりこの人しか居ない!」

日向は何度目になるかわからない愛の誓いを口にし、帳からのメッセージに返信をした。

『おはようございます。昨日は格好悪い所を見せてしまい、申し訳ございませんでした。ご迷惑でなければ、電話しても宜しいでしょうか?帳先輩の声が聞きたいです』

日向は想いの丈をメッセージに込めて送信ボタンを押してから

(ちょっと待てよ!?『帳先輩の声が聞きたいです』って、いくらなんでもぐいぐい行きすぎだろ。気持ち悪がられたらどうするんだ、俺!)

と、またもや脳内反省会を開きはじめた。

そうしていると、手に握りしめている携帯がブルブルと震えだし、日向は表示されている名前を見るや、瞬く間に笑顔になり、浮き立った気持ちで電話に出た。

『もしもし、メッセージ有り難う。今休憩時間中だから、僕の方から電話しちゃった。どうしたの?』

帳の甘く爽やかな声が日向の鼓膜を揺らすし、日向はうっとりとその美声に酔いしれる。

(あぁ、朝から幸せだなぁ)

だが、『声が聞きたい』とメッセージを打ったものの、話のネタを持ち合わせていなかった日向は、咄嗟に

「あの、帳先輩から言われた通り、身なりを整える為に美容院に行きたいんですが、おすすめのお店とかありますか?」

と、帳に向かって問いかけた。

『僕のお勧めはAcidっていう美容院かなぁ。僕の担当の子、物凄く腕が良いんだ。少し変わってはいるけど、話しやすくて良い人だよ』

帳は明るいトーンで美容室の話を広げる。

『僕もそろそろシャンプーとコンディショナーをそこに買いに行きたいと思っていたから、今日の仕事帰りで良ければ、一緒に行かない?』

帳からの突然のお誘いに、日向は食い気味に答えた。

「行きます!行きたいです!」

『オッケー。じゃあ、定時で上がれる様に頑張るよ。お店の受付は二十四時までで、閉店時間が二十五時なんだ』

「そんなに遅くまでやっている美容院があるんですね」

『うん。夜職の子のヘアセットとか、仕事が忙しくて時間を作れない人の為に、夜も営業してるみたい』

「ありがたいですね」

『それで、日向くんさえ良ければ、僕の仕事終わりに合流して、先にご飯を食べに行かない?』

「えっ、良いんですか?」

『うん。日向くんは、アレルギーとか、好き嫌いとかある?僕は特にないから日向くんの食べたいものを食べに行こうよ』

(んんんっ!このさりげない気配り!帳先輩はこの世に舞い降りた天使に違いない)

日向は心の中で帳を拝みたおすと

「特にないです。それに、帳先輩と一緒ならなんでも美味しく頂けます!」

と堂々と言いきった。

『あははっ、ありがとう。そんな事、初めて言われたよ』

嬉しいなぁ。と、弾んだ声で返された言葉に、日向は堪らず悶絶したのだが

『日向くんのおすすめのお店とか、今日食べたいものとかある?』

と尋ねられ、日向は一瞬にして固まった。

普段の外食を牛丼メインのチェーン店や、行きつけの定食屋、立ち食い蕎麦位にと、ジャージにクロックスでも、気軽に入れる場所で済ませていた日向は、好意を寄せている相手と行ける様な店など知るよしもなかった。

日向が頭を抱え、黙り込んでいると、何かを察したのであろう帳が

「んー、じゃあ、日向くんはカレーとオムライスなら、どっちが良いかな?僕の好みで申し訳ないんだけど」

と、日向に対し、助け船を出した。

(つくづく気を遣わせて、心苦しいなぁ)

そう思いつつも、帳がスプーンでオムライスを口にはこぶ姿が見たくて

「オムライスでお願いします。先輩との食事、楽しみにしていますね!」

と、元気に答えた。

『了解。僕も楽しみしてるよ。じゃあ、就業時間は十六時から十七時までになると思うから、終わったらまた連絡するよ。じゃあ、また後でね』

「はい、今日は宜しくお願いします!」

『はーい』

そう言って通話が終了した後も、日向は先程までの会話の余韻に浸り、携帯電話に頬擦りを繰り返した。

(やったぁ!帳先輩との初デートだっっっ!!帳先輩、また手を繋いでくれるかな?二人で並んで歩きたいなぁ)

日向はだらしのない顔で空想を繰り広げ

「グフフッ」

と不気味な笑みをこぼした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺

高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【続編】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

処理中です...