ポンコツαの初恋事情

京夜灯

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運命の出会い

ポンコツαの初恋事情 1

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この世界には第一の性別である男女の他に、第二の性別であるバース性と呼ばれる、α、β、Ωの性別が存在する。

αは支配の性と呼ばれ、人口割合はとても少ないながらも生まれつき優れた遺伝子を持ち、その殆どが社会的職業的に高い地位にいるとされている。

Ωは繁殖の性と呼ばれ、人口割合はα以上に少なく、子を成すために特化した身体構造をしている。

βは標準の性と呼ばれ、人口の大多数がこの性別であり、性の部分に特質はない。

周期的に訪れるヒートのせいで、Ωはその特性から産むだけが能の最底辺だと虐げられていた時代もあった。

Ωはヒートを自身で抑えることができない。

本格的なヒートを起こしてしまうと、Ωは繁殖以外のことを考えられなくなり、Ωが撒き散らすフェロモンは、より良い遺伝子を残すためにとαから理性を奪い強制的に発情させてしまう効果があるのだ。

それが二、三ヶ月に一度、一週間程、Ωの身に起こる。

そのヒートの対処方法は、時間経過のみ。

これでは生活もままならない。

故に、社会で爪弾きにされてしまうのもやむを得なかった。

しかし近年では各国の政府がΩの地位向上を掲げて社会制度を充実させて法律を整備し、α、Ωの抑制や、薬の開発に尽力し、Ωの社会的進出を可能にすると同時に、Ωに対する産むだけの性、と言った偏見を払拭するための働きかけもあり、Ωへの差別意識は薄れていった。

αとΩとの間では「運命の相手」というものが存在し、出会える確率は非常に低いながらも、α、Ωだけではなく、今やβからも運命の相手と出会い、番となったカップルや夫婦を羨む声があがり、そんなαとΩのドラマティックなドラマや映画がヒットする時代となった。




春は出会いの季節だなんて、一体誰が言い出したのだろうか。

照井日向は小学校、中学校、高校と出会いという出会いもなく、また、その過程で自身がかなりの人見知りであり、人とのコミュニケーションが不得手ある事を自覚してからは、まともな人間関係をサボり尽くしてきた。

学校の成績だけは良かった為、せめてもの親孝行にと、国立の薬学部へと進学し、そこからは授業にテスト、レポート提出に研究にと遊ぶ時間もない程に勉学に追われる日々を過ごした。

国家試験に合格すると、大学院へと進み、研究やグループ発表に論文提出と平行しながら就職活動へと励んだ。

その後、博士課程を経て受けた企業の面接はボロボロであったが、学歴面では非の打ち所のない程に優秀であり、筆記試験も満点に近かった日向は、それが幸いして、卒業と共に大手と呼ばれるオウドウ製薬の研究開発部署へと就職が決まった。

特にこれといった趣味もなく、青春と呼ばれる日々を勉学に費やしてきた日向は、代わり映えのない日常にどこか物足りなさを感じていた。

(まぁ、俺なんか平々凡々なβ性なんだし、仕方がないよなぁ)

己の人生に何の希望も抱いていない日向は、自分はこのまま社会の歯車となり、やがては一人寂しく朽ちていくのであろうと考えていた。

日向はハァ、と重たい溜め息をつくと、ろくにアイロンもかけずに部屋の片隅に放置していた、ヨレたリクルートスーツに袖を通すと、自身の部屋を後にした。

学生の頃、面接の為だけに髪を切りに行ったきり、美容院での会話が苦手で髪を切るのを先延ばしにしていた日向の前髪は視界を遮る様に両目にかかっている。
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