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闇と光の狭間で…
心の闇が少し晴れた花音…しかし、悪い悪夢は続けて起きようとしていた。
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その日の仕事も半ばとなり、休憩時間に入った花音。まだ多少の不安はあるものの悠人に限ってそんなことはないと、信じようとしていた。ふと形態を開くと、その当の本人である悠人から連絡が入っていた。
『花音様、明後日お休みでございますね。明後日ですが、旦那様と矢野様が一時帰国されます。日程は2日との事でございます。しかしながら残念な事に奥様と廉様はご帰国なされません。一旦ご報告まで』
そのメールを見た花音は嬉しくて仕方がなかった。休憩中にもかかわらず悠人に電話を掛ける。
『もしもし、花音様。いかがなさいましたか?』
「何かって!パパ帰ってくるの?」
『2日間だけでございますが。』
「よかった!矢野さんも一緒なのね!」
『えぇ、その様でございます」
「ありがとう!教えてくれて!」
そういうと花音は嬉しさを隠しきれぬまま、午後の仕事にも精を出し、仕事が終わりこそすれば一目散に職場を後にして帰宅した。
「ただいま!悠人!悠人?!」
「こちらに、どうされたのですか?珍しいですね」
「だって!パパに会えるんだもん。ママと廉に会えないのは残念だけど…」
「きっと、時間も出来た事でしょうから、今後の話でもしに来られるのはないでしょうか。」
「今後?」
「えぇ。方針、ではないでしょうけれども、打ち合わせとでも言いましょうか。」
「そう…なんだ」
「時田様の時にも行っていたはずではございませんか?」
「…知らなかった。」
少ししょぼんと落ち込んだ様子の花音に対して、悠人はそれでも会えるのですからと切り返した。
「明後日よね!明後日の夕飯!私が作るわ!」
「ご無理なさいませぬよう…」
「大丈夫!悠人は話し合いで忙しいんだから!」
そうしてその日から何を作ろうか、どんなのにしようか…と迷い始めていた。
楽しみにしている時間は早く、父が帰ってくる日の当日。朝から花音は嬉しくて仕方ない様子だった。時計を見ては今どの辺りだろうと模索してみたりしてた。
「悠人が迎えに行くの?」
「えぇ、そういう手筈になっております。」
「何時着の便?」
「予定では約14時ころの便とお伺いしております。」
「じゃぁ私は…お買いものしてくる!」
「一緒にお迎えには行かれないと?」
「うん!私お買いものしてパパと矢野さんにちゃんと作るんだから」
「花音様…本当にご無理はなさいませぬよう…」
「大丈夫だもん!」
「何をお作りに?」
「悠人に話したらパパ達に言っちゃうでしょ?」
「えぇ、まぁ」
「だからダメ!」
しかしどれほどかぶりに嬉しそうな花音を目の当たりにしていた悠人。これはやはり、あの夜のことは解らないのでないか…そう感じていた。
「本当にお気をつけくださいませ。」
「解ったよ、悠人も気を付けてね?」
「ありがとうございます。」
そうして、2人はほぼ同時に屋敷を後にした。花音は良く行くショッピングモール、悠人は羽田空港へと車を走らせる。食品売り場で見て回り、買い物を済ませ、少し一休みをとカフェに入った花音。その時だった…
「あれ、花音?」
そう声のする方を見た花音は会釈をする。そこに居たのは、綾だった。
「今日は悠人さん居ないの?」
「はい、ちょっと離れて行動してるの。」
「そうなんだ。そういえば、悠人さんって恋人いるのかしら」
「どうしてそんな事?」
「私、悠人さんの事初めて会った時から気に入っちゃって…それで…ね?」
「…ッ」
そうこう話していると徐に携帯を見る綾。少しした時だった。花音に声をかける。
「花音、久我が『もしよければお送りしますよ』って。どうする?」
「でも忙しいんじゃない?」
「大丈夫よ、悠人さん居ないなら送るわ。行きましょ」
そう言い綾は花音を連れ出した。その後をついていく花音。その間も話題はなぜか悠人の事だった。地下の駐車場に着くと『こっち!』と誘われながらついていく。その時だった。花音の後ろからスッと口許にハンカチを当てられ耳元で低い男の声がした。
「黙ってろ」
「ンン…!?」
くいっと車に押し込められた花音。大の男に押さえられ抵抗するも力不足だった。車の外では綾と男が話している。封筒を受けとる男。嫌な予感が花音の頭をよぎる…しかし両手首を縛られる…口も布紐で塞がれる…
ハ メ ラ レ タ …・・・
しかしもう時はすでに遅かった…誰を恨むべきか。それすら解らなかった。
一方の悠人は空港に時期着こうかと言うときだった。空港のパーキングに入れるのに時間がかかったものの、まだ飛行機の着には時間の余裕があった。しかしどうも嫌な予感ばかりがする…
『花音様、ちゃんと買い物済みましたでしょうか?』
バカだと思いながらも、過保護すぎるとわかってはいたが、問わずにはいられなかった。しかし返事か返ってこない。
「…おかしいな。」
電話を掛けてみるも繋がらない。どうしたものか。花音の父たちがやって来る飛行機まで、あと30分ほど。今から戻って…等と言うことは出来ない。ショッピングモールへ行くと言っていた。だとしたら人の雑踏で着信音に気付かないだけかもしれない。
「クソ…なんだこの気持ちは…」
そんなモヤモヤを抱えながらも、悠人は待っていた。時間通りに予定の便は到着。ゲートから二人の姿が見えた。
「お帰りなさいませ。」
「あぁ、黒羽。…おや、花音は一緒じゃないのか。」
「えぇ。」
「…悠人。何かございましたか?」
「矢野様…」
悠人の様子がおかしいと気付いた矢野。違和感は頭主にもあったが、あえて触れなかったのだ。
「どうかしたのか?」
「いえ、まだどうという訳では…」
「…まぁ、移動しながら話を聞こうか?」
そうして花音の父の荷物を持ち、3人で悠人の持ってきた車に乗り込んだ。なんだか落ち着きのない様子の悠人に疑問さえも持ち始めていた。
「…それで?」
「花音様と…連絡が取れません。」
「どういう事だ?」
「本日頭首と矢野様がお見えになるという事で、夕食を花音様がお作りすると…その食材の買い出しに行かれたのですが…」
「それなら着信に気づかれていないだけという事はございませんか?」
「そうだと…いいんですが…」
「思い当たる節でも?」
「それは無いのですが…どうも嫌な…」
そう言いながらもすでに帰宅している事を願いながら車を急がせた。行き道よりも道路は空いており、するりと帰宅の路に着いた3人。そんな時だ、屋敷の前に1台の車が止まっていた。
「…弘也?」
そう、その車は新崎の物だった。屋敷に不在だったため帰ろうとしていた時だったのだろう、車から降りてきた。
「悠人?居なかったから…」
「花音様もか?」
「いや、それはわかんねぇけど…あ。こんにちは、ご無沙汰しています。」
「新崎くんか、よければあがっていくか?」
「いえ、今日は大丈夫です、急ぎという訳でもなかったし。」
そんな事を話していると、悠人の携帯が鳴った。着信元は花音だった。
「もしもし、花音様っ!?今どちらにおいでですか?」
『…お前か?』
「…誰だ」
一気に声が変わった悠人。それを聞いた新崎も足が止まった。
『ククク…花音って言ったか?いい体してるなぁ、おい…』
『ヒャヒャ…!!電話の向こうにも聞かせてやれよ!』
「貴様…誰だと聞いている。」
『そんな怖いこと言うなよ、おまえにもいい物見せてやるからよ!』
それだけ聞こえるとプツリと電話は切れた。折り返すものの電話にはさっきの声の主すら出なかった。少しして悠人の携帯にラインが入ってくる。何度も何度も鳴り続ける…
「…ふざけやがって…」
そう呟く悠人。目付きはすでに執事の目では無くなっている。言うなればNDLとしての目に近かった。
「悠人?」
「退け…」
「待てって!どうした?」
「花音が捕われた。」
「落ち着け!なんだって…」
「知るかよ!ぶっ殺してやる…」
「悠人っ!」
「…弘也、退け」
そういいながらも冷たい目で新崎までをも睨んだ悠人。屈することなく新崎の右手は悠人の頬を軽々と捉えた。
パンッ!!
「…何しやがる」
「行き場所すらわかんねぇのにどこに行くつもりだ?」
「ッ…」
「追うなら場所を特定してからでも遅くねぇだろうが、バカ」
そういわれた悠人はそのままどこかへ電話をかけだした。
「陣か?」
『どうした?』
「今からいう番号の所在…検索してくれ」
『なんだよ、いきなり』
「いいから!」
そう言われ番号を読み上げる悠人。
『少し待て?』
「早くしろ…頼むから…」
『解った…』
場所を伝える陣。その場所は花音が行ってくるといい向かったショッピングモールからほど近い空きビルだった。帰って来たばかりの車に乗り込み悠人はエンジンをかける。その場に頭首が居る事も、矢野が来て居る事さえも忘れてしまったかのように…新崎も車に急いで乗り込む。
「邪魔だけはするな…」
「フ…俺だって死にたくねぇよ」
そうこうしながらも悠人は何もいう事なく車を出してしまった。その場に残った花音の父と矢野は待つかのように屋敷の中に入っていく。
「旦那様、悠人だけで行かせてよろしいのでしょうか?」
「何、あいつも愚かじゃない。それに新崎、彼も一緒だ。まず間違いは起こらないだろう。」
「それにしても…悠人も変わりましたね。」
「あぁ…」
そう話しながら屋敷のリビングでパソコンを開き、悠人の行き先を辿る。電話を掛けるでもなく、ただ行き先を見ていた。場所もすぐに特定できた花音の父は、ただ、悠人からの連絡を待つ事とした。
その頃の花音はというと…無残にも服を開かれ、涙と男たちの体液で塗れ、写真を撮られていた。
「お嬢様からヤってもいいけど中には出すなって言ったけど…たんねェな…」
「でも中出しはまずいだろ、バレたら…」
「チ…仕方ねぇなぁ…でも…」
そう言いながら男たちはくたりと力を失っている花音の体に、まだ足りないと言わんばかりに舌を這わせる。力も失い声を上げる事すら出来なくなった花音。その口元から布紐を解くと、男たちは体中を襲い、声を出させる。
「ほら、もっと可愛く啼いてみろよ…しっかりと撮ってやるから」
「ァ…ン…いやぁ…ァ」
「嫌じゃないだろ?気持ちぃ癖に…」
「そうそう、嫌って割に相当感じてるじゃねぇの」
ヒヒヒっと笑う男たち。この数時間で花音の体は男たちに支配されようとしていた。嫌だと…気持ち悪いと思いながらも初めての事に体は感じ、鼓動を高ぶらせる…そんな時だった…ブレーキ音と同時に車の扉を閉める音がする。
「おい、やばくねぇか?」
「…だけどここがバレるには早くねぇ?」
「だよな…」
そう言いながらも男たちはまだも、花音の体を弄ぶ…バタバタと…そんな音が近付いてきた…
ガンッッッ!!!!
一枚のマット…埃と転がるガラクタ…中途半端に脱いでいる男たち…そこら中から漂ってくる精液の臭い…それを物がるかの様に撒かれる精液…服を剥ぎ取られ、下着すらも取られ、弱り切った花音…・・・
悠人の目の前の光景は、その怒りを爆発させるのに数秒もかからない程の物だった。
「やっべぇぞ…」
逃げようとする男たちに対し、何も言わずに眼鏡を取り払うと悠人の右手の拳が止まる事はなかった。
独特の臭いの中に血の臭いも混じり始め、男たちも気を失いかけた時だ…新崎は悠人を止めた。
「悠人、いい加減にしろ。死ぬぞっ!」
「死ねばいい…」
「悠人ッッッ!!!!」
「チ…」
ドサリと腕を離した時、悠人は退いて花音の元に向かう。ガタガタと震え、何も考えられない程になっていた花音の肩に悠人は自身のタキシードの上着を着せようとする。
「嫌!!触らないで…ぇ……イヤ…」
「花音様、私です。」
「嫌…やめて…悠人…ユウ…嫌ぁ…」
「花音様」
「嫌だ…嫌…やめて…」
「花音!」
恐怖から拒もうとし、悠人だと、見えない程パニックになっている花音をそのままきつく悠人は抱き締めた。
「落ち着け…花音…俺だよ…」
「嫌…やめて…はなして…ユ…ウトぉ!」
「花音…俺だ…遅くなって悪い…花音…花音…」
何度も名前を呼びながら悠人は花音を抱きしめる腕を緩めようとはしなかった。
「悠…人……」
直後に花音はフッと力が抜け、悠人の腕の中にズルリと体を寄せる。近くに置いてあった携帯の回収をして男たちはそのまま放置をし、花音を抱き上げた悠人は新崎の運転で帰宅をした。
「悪い…」
「なんてことねぇさ、じゃぁな…頭首に宜しく」
「あぁ」
そうして新崎も屋敷の前に置いてある自身の車に乗り換えて帰って行った。屋敷に入ると真っ先に矢野が出迎える。
「悠人、花音様は…っ!」
「すみません…すぐ戻ります…」
そういい花音を部屋に連れて行く悠人。ただどうしようもない様子で服を着替えさせてベッドに寝かせると部屋を出た。その足でリビングに向かう。
「どうだった?」
「…ッ」
頭首を目の前にし、悠人は床に座り込み頭を付けるかの如くに土下座をした。
「申し訳ございません…」
「顔を上げろ、黒羽が悪いわけじゃない。」
「いえ…私の落ち度でございます…守りきれませんでした。」
「黒羽…」
「…・・・ッ」
守りきれなかったという思いが悠人を襲う…どれほど怖かっただろう…なぜ自分は着いて行かなかった…自責の念に駆られ、同時に悔しさがこみあげてくるのだった。
「黒羽…君が悪いわけじゃない…その男の後ろに居るものが必ず居るはずだ。」
「…しかし…」
「追及、及び花音のケア…頼んでいいか?」
「…しかし頭首…!!」
そんな時だ、2階から激しい物音が聞こえた。その音に反応した悠人は一目散に階段を駆け上がっていく。
「花音様…!」
「いや…入ってこないで…」
「花音様…お屋敷でございます」
「嫌…悠人…来ないで…嫌…」
そんな錯乱状態になり始めた花音の元に悠人は歩み寄った……・・・
『花音様、明後日お休みでございますね。明後日ですが、旦那様と矢野様が一時帰国されます。日程は2日との事でございます。しかしながら残念な事に奥様と廉様はご帰国なされません。一旦ご報告まで』
そのメールを見た花音は嬉しくて仕方がなかった。休憩中にもかかわらず悠人に電話を掛ける。
『もしもし、花音様。いかがなさいましたか?』
「何かって!パパ帰ってくるの?」
『2日間だけでございますが。』
「よかった!矢野さんも一緒なのね!」
『えぇ、その様でございます」
「ありがとう!教えてくれて!」
そういうと花音は嬉しさを隠しきれぬまま、午後の仕事にも精を出し、仕事が終わりこそすれば一目散に職場を後にして帰宅した。
「ただいま!悠人!悠人?!」
「こちらに、どうされたのですか?珍しいですね」
「だって!パパに会えるんだもん。ママと廉に会えないのは残念だけど…」
「きっと、時間も出来た事でしょうから、今後の話でもしに来られるのはないでしょうか。」
「今後?」
「えぇ。方針、ではないでしょうけれども、打ち合わせとでも言いましょうか。」
「そう…なんだ」
「時田様の時にも行っていたはずではございませんか?」
「…知らなかった。」
少ししょぼんと落ち込んだ様子の花音に対して、悠人はそれでも会えるのですからと切り返した。
「明後日よね!明後日の夕飯!私が作るわ!」
「ご無理なさいませぬよう…」
「大丈夫!悠人は話し合いで忙しいんだから!」
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楽しみにしている時間は早く、父が帰ってくる日の当日。朝から花音は嬉しくて仕方ない様子だった。時計を見ては今どの辺りだろうと模索してみたりしてた。
「悠人が迎えに行くの?」
「えぇ、そういう手筈になっております。」
「何時着の便?」
「予定では約14時ころの便とお伺いしております。」
「じゃぁ私は…お買いものしてくる!」
「一緒にお迎えには行かれないと?」
「うん!私お買いものしてパパと矢野さんにちゃんと作るんだから」
「花音様…本当にご無理はなさいませぬよう…」
「大丈夫だもん!」
「何をお作りに?」
「悠人に話したらパパ達に言っちゃうでしょ?」
「えぇ、まぁ」
「だからダメ!」
しかしどれほどかぶりに嬉しそうな花音を目の当たりにしていた悠人。これはやはり、あの夜のことは解らないのでないか…そう感じていた。
「本当にお気をつけくださいませ。」
「解ったよ、悠人も気を付けてね?」
「ありがとうございます。」
そうして、2人はほぼ同時に屋敷を後にした。花音は良く行くショッピングモール、悠人は羽田空港へと車を走らせる。食品売り場で見て回り、買い物を済ませ、少し一休みをとカフェに入った花音。その時だった…
「あれ、花音?」
そう声のする方を見た花音は会釈をする。そこに居たのは、綾だった。
「今日は悠人さん居ないの?」
「はい、ちょっと離れて行動してるの。」
「そうなんだ。そういえば、悠人さんって恋人いるのかしら」
「どうしてそんな事?」
「私、悠人さんの事初めて会った時から気に入っちゃって…それで…ね?」
「…ッ」
そうこう話していると徐に携帯を見る綾。少しした時だった。花音に声をかける。
「花音、久我が『もしよければお送りしますよ』って。どうする?」
「でも忙しいんじゃない?」
「大丈夫よ、悠人さん居ないなら送るわ。行きましょ」
そう言い綾は花音を連れ出した。その後をついていく花音。その間も話題はなぜか悠人の事だった。地下の駐車場に着くと『こっち!』と誘われながらついていく。その時だった。花音の後ろからスッと口許にハンカチを当てられ耳元で低い男の声がした。
「黙ってろ」
「ンン…!?」
くいっと車に押し込められた花音。大の男に押さえられ抵抗するも力不足だった。車の外では綾と男が話している。封筒を受けとる男。嫌な予感が花音の頭をよぎる…しかし両手首を縛られる…口も布紐で塞がれる…
ハ メ ラ レ タ …・・・
しかしもう時はすでに遅かった…誰を恨むべきか。それすら解らなかった。
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『花音様、ちゃんと買い物済みましたでしょうか?』
バカだと思いながらも、過保護すぎるとわかってはいたが、問わずにはいられなかった。しかし返事か返ってこない。
「…おかしいな。」
電話を掛けてみるも繋がらない。どうしたものか。花音の父たちがやって来る飛行機まで、あと30分ほど。今から戻って…等と言うことは出来ない。ショッピングモールへ行くと言っていた。だとしたら人の雑踏で着信音に気付かないだけかもしれない。
「クソ…なんだこの気持ちは…」
そんなモヤモヤを抱えながらも、悠人は待っていた。時間通りに予定の便は到着。ゲートから二人の姿が見えた。
「お帰りなさいませ。」
「あぁ、黒羽。…おや、花音は一緒じゃないのか。」
「えぇ。」
「…悠人。何かございましたか?」
「矢野様…」
悠人の様子がおかしいと気付いた矢野。違和感は頭主にもあったが、あえて触れなかったのだ。
「どうかしたのか?」
「いえ、まだどうという訳では…」
「…まぁ、移動しながら話を聞こうか?」
そうして花音の父の荷物を持ち、3人で悠人の持ってきた車に乗り込んだ。なんだか落ち着きのない様子の悠人に疑問さえも持ち始めていた。
「…それで?」
「花音様と…連絡が取れません。」
「どういう事だ?」
「本日頭首と矢野様がお見えになるという事で、夕食を花音様がお作りすると…その食材の買い出しに行かれたのですが…」
「それなら着信に気づかれていないだけという事はございませんか?」
「そうだと…いいんですが…」
「思い当たる節でも?」
「それは無いのですが…どうも嫌な…」
そう言いながらもすでに帰宅している事を願いながら車を急がせた。行き道よりも道路は空いており、するりと帰宅の路に着いた3人。そんな時だ、屋敷の前に1台の車が止まっていた。
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「花音様もか?」
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「いえ、今日は大丈夫です、急ぎという訳でもなかったし。」
そんな事を話していると、悠人の携帯が鳴った。着信元は花音だった。
「もしもし、花音様っ!?今どちらにおいでですか?」
『…お前か?』
「…誰だ」
一気に声が変わった悠人。それを聞いた新崎も足が止まった。
『ククク…花音って言ったか?いい体してるなぁ、おい…』
『ヒャヒャ…!!電話の向こうにも聞かせてやれよ!』
「貴様…誰だと聞いている。」
『そんな怖いこと言うなよ、おまえにもいい物見せてやるからよ!』
それだけ聞こえるとプツリと電話は切れた。折り返すものの電話にはさっきの声の主すら出なかった。少しして悠人の携帯にラインが入ってくる。何度も何度も鳴り続ける…
「…ふざけやがって…」
そう呟く悠人。目付きはすでに執事の目では無くなっている。言うなればNDLとしての目に近かった。
「悠人?」
「退け…」
「待てって!どうした?」
「花音が捕われた。」
「落ち着け!なんだって…」
「知るかよ!ぶっ殺してやる…」
「悠人っ!」
「…弘也、退け」
そういいながらも冷たい目で新崎までをも睨んだ悠人。屈することなく新崎の右手は悠人の頬を軽々と捉えた。
パンッ!!
「…何しやがる」
「行き場所すらわかんねぇのにどこに行くつもりだ?」
「ッ…」
「追うなら場所を特定してからでも遅くねぇだろうが、バカ」
そういわれた悠人はそのままどこかへ電話をかけだした。
「陣か?」
『どうした?』
「今からいう番号の所在…検索してくれ」
『なんだよ、いきなり』
「いいから!」
そう言われ番号を読み上げる悠人。
『少し待て?』
「早くしろ…頼むから…」
『解った…』
場所を伝える陣。その場所は花音が行ってくるといい向かったショッピングモールからほど近い空きビルだった。帰って来たばかりの車に乗り込み悠人はエンジンをかける。その場に頭首が居る事も、矢野が来て居る事さえも忘れてしまったかのように…新崎も車に急いで乗り込む。
「邪魔だけはするな…」
「フ…俺だって死にたくねぇよ」
そうこうしながらも悠人は何もいう事なく車を出してしまった。その場に残った花音の父と矢野は待つかのように屋敷の中に入っていく。
「旦那様、悠人だけで行かせてよろしいのでしょうか?」
「何、あいつも愚かじゃない。それに新崎、彼も一緒だ。まず間違いは起こらないだろう。」
「それにしても…悠人も変わりましたね。」
「あぁ…」
そう話しながら屋敷のリビングでパソコンを開き、悠人の行き先を辿る。電話を掛けるでもなく、ただ行き先を見ていた。場所もすぐに特定できた花音の父は、ただ、悠人からの連絡を待つ事とした。
その頃の花音はというと…無残にも服を開かれ、涙と男たちの体液で塗れ、写真を撮られていた。
「お嬢様からヤってもいいけど中には出すなって言ったけど…たんねェな…」
「でも中出しはまずいだろ、バレたら…」
「チ…仕方ねぇなぁ…でも…」
そう言いながら男たちはくたりと力を失っている花音の体に、まだ足りないと言わんばかりに舌を這わせる。力も失い声を上げる事すら出来なくなった花音。その口元から布紐を解くと、男たちは体中を襲い、声を出させる。
「ほら、もっと可愛く啼いてみろよ…しっかりと撮ってやるから」
「ァ…ン…いやぁ…ァ」
「嫌じゃないだろ?気持ちぃ癖に…」
「そうそう、嫌って割に相当感じてるじゃねぇの」
ヒヒヒっと笑う男たち。この数時間で花音の体は男たちに支配されようとしていた。嫌だと…気持ち悪いと思いながらも初めての事に体は感じ、鼓動を高ぶらせる…そんな時だった…ブレーキ音と同時に車の扉を閉める音がする。
「おい、やばくねぇか?」
「…だけどここがバレるには早くねぇ?」
「だよな…」
そう言いながらも男たちはまだも、花音の体を弄ぶ…バタバタと…そんな音が近付いてきた…
ガンッッッ!!!!
一枚のマット…埃と転がるガラクタ…中途半端に脱いでいる男たち…そこら中から漂ってくる精液の臭い…それを物がるかの様に撒かれる精液…服を剥ぎ取られ、下着すらも取られ、弱り切った花音…・・・
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「やっべぇぞ…」
逃げようとする男たちに対し、何も言わずに眼鏡を取り払うと悠人の右手の拳が止まる事はなかった。
独特の臭いの中に血の臭いも混じり始め、男たちも気を失いかけた時だ…新崎は悠人を止めた。
「悠人、いい加減にしろ。死ぬぞっ!」
「死ねばいい…」
「悠人ッッッ!!!!」
「チ…」
ドサリと腕を離した時、悠人は退いて花音の元に向かう。ガタガタと震え、何も考えられない程になっていた花音の肩に悠人は自身のタキシードの上着を着せようとする。
「嫌!!触らないで…ぇ……イヤ…」
「花音様、私です。」
「嫌…やめて…悠人…ユウ…嫌ぁ…」
「花音様」
「嫌だ…嫌…やめて…」
「花音!」
恐怖から拒もうとし、悠人だと、見えない程パニックになっている花音をそのままきつく悠人は抱き締めた。
「落ち着け…花音…俺だよ…」
「嫌…やめて…はなして…ユ…ウトぉ!」
「花音…俺だ…遅くなって悪い…花音…花音…」
何度も名前を呼びながら悠人は花音を抱きしめる腕を緩めようとはしなかった。
「悠…人……」
直後に花音はフッと力が抜け、悠人の腕の中にズルリと体を寄せる。近くに置いてあった携帯の回収をして男たちはそのまま放置をし、花音を抱き上げた悠人は新崎の運転で帰宅をした。
「悪い…」
「なんてことねぇさ、じゃぁな…頭首に宜しく」
「あぁ」
そうして新崎も屋敷の前に置いてある自身の車に乗り換えて帰って行った。屋敷に入ると真っ先に矢野が出迎える。
「悠人、花音様は…っ!」
「すみません…すぐ戻ります…」
そういい花音を部屋に連れて行く悠人。ただどうしようもない様子で服を着替えさせてベッドに寝かせると部屋を出た。その足でリビングに向かう。
「どうだった?」
「…ッ」
頭首を目の前にし、悠人は床に座り込み頭を付けるかの如くに土下座をした。
「申し訳ございません…」
「顔を上げろ、黒羽が悪いわけじゃない。」
「いえ…私の落ち度でございます…守りきれませんでした。」
「黒羽…」
「…・・・ッ」
守りきれなかったという思いが悠人を襲う…どれほど怖かっただろう…なぜ自分は着いて行かなかった…自責の念に駆られ、同時に悔しさがこみあげてくるのだった。
「黒羽…君が悪いわけじゃない…その男の後ろに居るものが必ず居るはずだ。」
「…しかし…」
「追及、及び花音のケア…頼んでいいか?」
「…しかし頭首…!!」
そんな時だ、2階から激しい物音が聞こえた。その音に反応した悠人は一目散に階段を駆け上がっていく。
「花音様…!」
「いや…入ってこないで…」
「花音様…お屋敷でございます」
「嫌…悠人…来ないで…嫌…」
そんな錯乱状態になり始めた花音の元に悠人は歩み寄った……・・・
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※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
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