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水族館、新たな出会い。
突如舞い込んだ水族館のペアチケット。花音は悠人と行く事にする。そこで会ったのは…
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「ねぇ!夏目さんって彼居たっけ?」
「えっ…なんですか…突然…」
こう突然聞かれたのは、花音が働く雑貨屋での一場面だった。お客様もまばらになってくる時間帯のある一幕での会話だ。
「もし良かったらこのチケット、誰か一緒に行く人居たら使って?」
「でも悪いですよ…そんな…」
「いいのいいの!!本当は彼と行くはずだったんだけど、最近別れちゃって。思い出整理してたら行こうって言ってたそのチケット出てきてね。誰かと行く気にもならないし。そんな形でのチケットで良かったらどうかなって思って。」
「いいんですか?」
「もちろん!!」
そう言って花音は職場の仲間から、水族館のチケットを貰った。そして数時間後、勤務を終えた花音は急いで自宅へと帰ろうとしていた時だった。店内を通って帰る為、再度戻った時ふと目に飛び込んできたのは悠人だった。
「ちょっ…悠人?どうしたの?」
「花音様、お仕事お疲れ様でございます。近くまで来て用事を済ませました所、丁度お仕事が終わられる頃合かと思い立ち寄らせて頂きました。」
そんな二人にとっては何気ない会話も何故か小声になっている。何故なら初めに悠人を呼ぶ時の花音の声からして小声だったためだ。
「それじゃぁ、お先に失礼します」
「お疲れ様ぁ!」
いつも通りに挨拶を済ませ、見送られる。そんな普段の光景と違うとすれば、悠人が居て、丁寧に会釈をして、店を出ていくということだった。車に乗り込み、気付くとふぅ…とため息を吐いた花音に悠人は申し訳なさそうに問いかけた。
「もしかしてとは思いますが、ご迷惑でしたでしょうか。」
「ううん、そんな事ないよ?ただ聞いてなかったからびっくりしちゃっただけで…来てくれてありがとう。」
「それでしたら宜しいのですが。もしご迷惑であったのならば差し控えなくてはと思いまして。」
「そんな事ないよ!…本当に嬉しかったよ?」
ニコリと笑いかけた花音をバックミラー越しに目をやると、悠人もまた穏やかに笑っていた。
「そうだ、悠人に相談があるの。」
「はい、何でございましょう?」
「あの…あのね?」
「はい?」
「今度、お休みの日に…一緒に…その…」
「…クス…水族館でしたらお付き合いいたしますが?」
突然先手を打たれた花音。驚いたあまりに言葉が止まらなくなった。
「なんで水族館だって知ってるの?」
「なぜって?先程、花音様をお待ちしております時にスタッフの方々のお話が聞こえて参りまして。チケットを譲ったとか何とかまで…そして、今の花音様からの言葉の端端よりそうではないかと。正解だったようで一安心いたしました。もし違うと言われたら、そのチケットの行く先は別の方となる訳ですから。」
「…うん。もし悠人さえ嫌じゃなかったら…なんだけど…」
「そんな、滅相もございません。ぜひ、喜んでお付き合い致します。」
そんな悠人の答えを聞いた花音はホッと胸を撫で下ろした。
それから2日後の予定日。空はあいにくのどんよりとした曇天だった。今にも雨が降りそうな…そんな天気だったものの、花音の心は晴天そのものだった。軽く朝食を済ませ、2人揃って支度を終えた。…はずだった。
「お待たせいたしました。」
そう言い出て来た悠人はいつも通りのタキシード姿だったのだ。それを見た花音はあからさまにほほを膨らませていた。
「花音様?如何なさいましたか?」
「何でそのいつものタキシードなの?」
「何かお気に召しませんでしょうか。」
「お気に召しません!!!私服!普通の服装で行こうよ!」
「普通の…と申しましても…」
「もしかしてタキシードしかないってことはないでしょ?」
「確かに…そういう訳ではございませんが、なかなか着慣れない故、落ち着かず…」
「平気だよ、堅苦しくはやめて、楽しみに行こう?」
そう促されて悠人は着替えのやり直しを命じられた。嬉しそうに、わくわくとある意味緊張して待っている花音の元に10分位した時か。悠人は部屋から出て花音の元にやってきた。その恰好は、悠人本人が言うほどおかしい訳もなく、普通にカッコいいと言われる位の出で立ちだった。言葉を飲んでしまっている花音に対して悠人は目の前にまで行き、じっと見つめながら聞いた。
「やはりおかしいでしょうか?」
「そんな事ない!すっごくいい!素敵!」
「それは…有難うございます、それでは参りましょうか。」
そうして車に乗り込むとエンジンをかけた悠人に花音は追い打ちをかけるように言葉を発した。
「後ね、水族館着いたら…言葉、普通に話して?」
「言葉でございますか?」
「そうそれ、そういうのじゃなくて、この間綾の誕生日の時に言ってくれたような…あんな風に話して欲しいなって…」
「しかしそれでは、私は執事であり仕える身。」
「今日はそれ無しにしよ?だめかな…」
しょぼんと俯く花音を見て悠人は逆に問いかけた。
「では、私は本日、花音様の事を何とお呼びしたら宜しいのでしょうか?」
「花音でいいよ?…なんで?私だって悠人って呼んでるのに。」
「かしこまりました。ではこのエンジンを掛けたら、そう致しましょう。」
そう言うと悠人は車のエンジンをかけるべくキーを捻る。心地よいエンジン音が響いて来る中、ゆっくりと車は前進して目的地に向かっていく。30分程走った頃か、駐車場に着き、車を停めた悠人。車を降りるのは花音のが早かったが運転席から降りてきた悠人を見て、また花音は驚いた。
「悠人…眼鏡…」
「ん?眼鏡がどうした?」
「あ…えっと…」
「…あぁ、見るのは初めてか。」
「眼鏡無くても見えるの?」
「伊達眼鏡だよ。ただの飾り。」
「伊達ならしなくてもいいのに。」
「執事としての はく の問題だな、行くぞ?」
そうして、入場ゲートに向かう二人。何も…誰もこの二人が普段は侍従関係にあるなど、気付きもしないほどに自然な空気のまま入場していく。受付を通り、少し歩みを進めるともうすぐそこには巨大な水槽と様々な魚たちが待ち受けていた。水槽近くにぴたりとくっつくとキラキラとした様子の花音を見つめながらも楽しく時間を過ごしている。
「キレー…うわぁ!すごいおっきいね!」
「だな。あれ、鮫だな。」
「さ…鮫?」
「だろうなぁ。」
真顔になりながら、それでも楽しそうに悠人も花音と一緒に見ている。ゆっくりと見ながらルート通りに進んでいくと、それはそれで色とりどりの様々な種類が居る。その度に「うわぁ!」「すごぉい!」と声を上げる花音に小さく笑いながらも悠人は後ろを着いて行きながらも楽しく過ごしていた。
「…ッ!」
「どうした?」
「…ペンギンコーナー…」
一気に様子が変わった花音に、まさかと思いながらも悠人は問いかけた。
「まさかと思うが…ペンギン…好き?」
「んっんっ!!!!」
「クスクス…じゃぁ、行くか。」
それまでとはうって代わり足早に進み一直線な花音に置いてかれぬ様に悠人もまた歩を早めた。ペンギン水槽の前に立てばもう微動だに動かなくなった花音。目の前に一羽のペンギンがやってこようものなら必死で写メを撮っている。
「悠人!見て見て!ペンギンさん撮れたよ!ほら!」
「ほんとだ、きれいに撮れてる。」
何枚も何枚も、ペンギンだけでどれだけの時間とシャッター数を費やしたか…そろそろ時間もいい頃になり昼食をと促す悠人に、なぜか一生分のバイバイをその水槽に向けた花音。
「何食べたい?」
「えっと。。」
「ピザ、イタリアン、ラーメン、定食、ハンバーガー…」
「じゃぁ…ここにしてみる?」
そう言い選んだのは定食等のあるお店だった。悠人が作っていくと言ったものの花音が断ったのだ。入店、注文と進んで、他愛もない会話をしながら待つ二人。少しして順番に運ばれてくると食べ始める。そんな時だ。じっと花音は悠人を見つめていた。
「どうかした?」
「悠人がご飯食べてるの…初めて見た」
「俺だって食べるさ。食べずに過ごしてるわけないよ。」
「そうなんだけど…ヘヘ」
「嬉しそうだな。」
「嬉しいよ!初めて見ることばっかなんだもん。」
「それもそうだな。」
それにしても、悠人もまた、箸の持ち方・所作…すべてがきれいだった。食事もすみ、時計を見ると小さく笑う悠人。
「イルカショーが後少しで始まるな。天気も持ちそうだし、どうする?」
「行く!」
そうして次の行き先もすぐに決まりそのプールへと向かう。後ろの方に座り、待つ事およそ10分程か。音楽もなり始め、トレーナーもやって来てショーが始まった子供のようにはしゃぐ花音の隣で悠人もまた、久しぶりに笑顔になる。楽しいショーも30分で終わり、思い切り称賛の拍手を送る花音。楽しかった、すごかったと月並みともいえるような言葉だったが、それがまた悠人の耳には素直に聞こえてきた。
ショープールからほど近いところに売店がある。目を光らせてどれがいいか迷っている花音。それもまた、ペンギンの物ばかりだった。
「悠人!見て!!キーホルダーの中にペンギンの羽根が入ってる!」
「珍しいな、…へぇ」
「えっと…んー…」
そうして羽根違いを2つ買い、満面の笑みで戻ってくる花音。悠人の前にそっと差し出した。
「悠人はアデリーさんね!」
「俺に?」
「ん!あ、それか悠人…コウテイさんのが良かった?」
「大丈夫。ありがとう」
そうして受け取った悠人。鞄にしまうと『あれ?』と声を掛けられた。
「ユウ?」
「…?弘也…なんでこんな所に…」
「いや、ちょっとな。…ところでそちらは?」
「夏目花音。」
「あ…すみません、夏目といいます。」
「初めまして、俺は新崎弘也。悠人とは幼馴染です。宜しく」
「いえ、こちらこそ。悠人…っ黒羽さんには私の方こそ…悠人、私ちょっとお手洗い…」
「ごゆっくり」
そうして花音は一時その場を離れる。残った二人は笑い合いながら会話をしている。
「花音って…頭首の?」
「あぁ、お嬢様だ。」
「…かわいい子なんだな」
「弘也っ!?」
「解ってる、言わないよ。知れたら俺が何言われるか。でも俺らが幼馴染は間違ってないだろ?」
「腐れ縁だな」
「たくっ…クス じゃぁ。そういえば陣から今日連絡入ると思う。」
「じゃぁお前がここに来たってのは…」
「そりゃ、別件だ。ここには何にも関係ねぇ。」
そうこうしていると花音の姿が遠くに見えた。
「じゃぁ、俺そろそろ行くな?」
「気を付けて帰れよ?」
「何にだよ」
「サメに食われないようにだよ!」
「放っとけ!」
そうして弘也はその場を離れた。花音と悠人もそろそろ帰るか…と車へと向かっていった。
「えっ…なんですか…突然…」
こう突然聞かれたのは、花音が働く雑貨屋での一場面だった。お客様もまばらになってくる時間帯のある一幕での会話だ。
「もし良かったらこのチケット、誰か一緒に行く人居たら使って?」
「でも悪いですよ…そんな…」
「いいのいいの!!本当は彼と行くはずだったんだけど、最近別れちゃって。思い出整理してたら行こうって言ってたそのチケット出てきてね。誰かと行く気にもならないし。そんな形でのチケットで良かったらどうかなって思って。」
「いいんですか?」
「もちろん!!」
そう言って花音は職場の仲間から、水族館のチケットを貰った。そして数時間後、勤務を終えた花音は急いで自宅へと帰ろうとしていた時だった。店内を通って帰る為、再度戻った時ふと目に飛び込んできたのは悠人だった。
「ちょっ…悠人?どうしたの?」
「花音様、お仕事お疲れ様でございます。近くまで来て用事を済ませました所、丁度お仕事が終わられる頃合かと思い立ち寄らせて頂きました。」
そんな二人にとっては何気ない会話も何故か小声になっている。何故なら初めに悠人を呼ぶ時の花音の声からして小声だったためだ。
「それじゃぁ、お先に失礼します」
「お疲れ様ぁ!」
いつも通りに挨拶を済ませ、見送られる。そんな普段の光景と違うとすれば、悠人が居て、丁寧に会釈をして、店を出ていくということだった。車に乗り込み、気付くとふぅ…とため息を吐いた花音に悠人は申し訳なさそうに問いかけた。
「もしかしてとは思いますが、ご迷惑でしたでしょうか。」
「ううん、そんな事ないよ?ただ聞いてなかったからびっくりしちゃっただけで…来てくれてありがとう。」
「それでしたら宜しいのですが。もしご迷惑であったのならば差し控えなくてはと思いまして。」
「そんな事ないよ!…本当に嬉しかったよ?」
ニコリと笑いかけた花音をバックミラー越しに目をやると、悠人もまた穏やかに笑っていた。
「そうだ、悠人に相談があるの。」
「はい、何でございましょう?」
「あの…あのね?」
「はい?」
「今度、お休みの日に…一緒に…その…」
「…クス…水族館でしたらお付き合いいたしますが?」
突然先手を打たれた花音。驚いたあまりに言葉が止まらなくなった。
「なんで水族館だって知ってるの?」
「なぜって?先程、花音様をお待ちしております時にスタッフの方々のお話が聞こえて参りまして。チケットを譲ったとか何とかまで…そして、今の花音様からの言葉の端端よりそうではないかと。正解だったようで一安心いたしました。もし違うと言われたら、そのチケットの行く先は別の方となる訳ですから。」
「…うん。もし悠人さえ嫌じゃなかったら…なんだけど…」
「そんな、滅相もございません。ぜひ、喜んでお付き合い致します。」
そんな悠人の答えを聞いた花音はホッと胸を撫で下ろした。
それから2日後の予定日。空はあいにくのどんよりとした曇天だった。今にも雨が降りそうな…そんな天気だったものの、花音の心は晴天そのものだった。軽く朝食を済ませ、2人揃って支度を終えた。…はずだった。
「お待たせいたしました。」
そう言い出て来た悠人はいつも通りのタキシード姿だったのだ。それを見た花音はあからさまにほほを膨らませていた。
「花音様?如何なさいましたか?」
「何でそのいつものタキシードなの?」
「何かお気に召しませんでしょうか。」
「お気に召しません!!!私服!普通の服装で行こうよ!」
「普通の…と申しましても…」
「もしかしてタキシードしかないってことはないでしょ?」
「確かに…そういう訳ではございませんが、なかなか着慣れない故、落ち着かず…」
「平気だよ、堅苦しくはやめて、楽しみに行こう?」
そう促されて悠人は着替えのやり直しを命じられた。嬉しそうに、わくわくとある意味緊張して待っている花音の元に10分位した時か。悠人は部屋から出て花音の元にやってきた。その恰好は、悠人本人が言うほどおかしい訳もなく、普通にカッコいいと言われる位の出で立ちだった。言葉を飲んでしまっている花音に対して悠人は目の前にまで行き、じっと見つめながら聞いた。
「やはりおかしいでしょうか?」
「そんな事ない!すっごくいい!素敵!」
「それは…有難うございます、それでは参りましょうか。」
そうして車に乗り込むとエンジンをかけた悠人に花音は追い打ちをかけるように言葉を発した。
「後ね、水族館着いたら…言葉、普通に話して?」
「言葉でございますか?」
「そうそれ、そういうのじゃなくて、この間綾の誕生日の時に言ってくれたような…あんな風に話して欲しいなって…」
「しかしそれでは、私は執事であり仕える身。」
「今日はそれ無しにしよ?だめかな…」
しょぼんと俯く花音を見て悠人は逆に問いかけた。
「では、私は本日、花音様の事を何とお呼びしたら宜しいのでしょうか?」
「花音でいいよ?…なんで?私だって悠人って呼んでるのに。」
「かしこまりました。ではこのエンジンを掛けたら、そう致しましょう。」
そう言うと悠人は車のエンジンをかけるべくキーを捻る。心地よいエンジン音が響いて来る中、ゆっくりと車は前進して目的地に向かっていく。30分程走った頃か、駐車場に着き、車を停めた悠人。車を降りるのは花音のが早かったが運転席から降りてきた悠人を見て、また花音は驚いた。
「悠人…眼鏡…」
「ん?眼鏡がどうした?」
「あ…えっと…」
「…あぁ、見るのは初めてか。」
「眼鏡無くても見えるの?」
「伊達眼鏡だよ。ただの飾り。」
「伊達ならしなくてもいいのに。」
「執事としての はく の問題だな、行くぞ?」
そうして、入場ゲートに向かう二人。何も…誰もこの二人が普段は侍従関係にあるなど、気付きもしないほどに自然な空気のまま入場していく。受付を通り、少し歩みを進めるともうすぐそこには巨大な水槽と様々な魚たちが待ち受けていた。水槽近くにぴたりとくっつくとキラキラとした様子の花音を見つめながらも楽しく時間を過ごしている。
「キレー…うわぁ!すごいおっきいね!」
「だな。あれ、鮫だな。」
「さ…鮫?」
「だろうなぁ。」
真顔になりながら、それでも楽しそうに悠人も花音と一緒に見ている。ゆっくりと見ながらルート通りに進んでいくと、それはそれで色とりどりの様々な種類が居る。その度に「うわぁ!」「すごぉい!」と声を上げる花音に小さく笑いながらも悠人は後ろを着いて行きながらも楽しく過ごしていた。
「…ッ!」
「どうした?」
「…ペンギンコーナー…」
一気に様子が変わった花音に、まさかと思いながらも悠人は問いかけた。
「まさかと思うが…ペンギン…好き?」
「んっんっ!!!!」
「クスクス…じゃぁ、行くか。」
それまでとはうって代わり足早に進み一直線な花音に置いてかれぬ様に悠人もまた歩を早めた。ペンギン水槽の前に立てばもう微動だに動かなくなった花音。目の前に一羽のペンギンがやってこようものなら必死で写メを撮っている。
「悠人!見て見て!ペンギンさん撮れたよ!ほら!」
「ほんとだ、きれいに撮れてる。」
何枚も何枚も、ペンギンだけでどれだけの時間とシャッター数を費やしたか…そろそろ時間もいい頃になり昼食をと促す悠人に、なぜか一生分のバイバイをその水槽に向けた花音。
「何食べたい?」
「えっと。。」
「ピザ、イタリアン、ラーメン、定食、ハンバーガー…」
「じゃぁ…ここにしてみる?」
そう言い選んだのは定食等のあるお店だった。悠人が作っていくと言ったものの花音が断ったのだ。入店、注文と進んで、他愛もない会話をしながら待つ二人。少しして順番に運ばれてくると食べ始める。そんな時だ。じっと花音は悠人を見つめていた。
「どうかした?」
「悠人がご飯食べてるの…初めて見た」
「俺だって食べるさ。食べずに過ごしてるわけないよ。」
「そうなんだけど…ヘヘ」
「嬉しそうだな。」
「嬉しいよ!初めて見ることばっかなんだもん。」
「それもそうだな。」
それにしても、悠人もまた、箸の持ち方・所作…すべてがきれいだった。食事もすみ、時計を見ると小さく笑う悠人。
「イルカショーが後少しで始まるな。天気も持ちそうだし、どうする?」
「行く!」
そうして次の行き先もすぐに決まりそのプールへと向かう。後ろの方に座り、待つ事およそ10分程か。音楽もなり始め、トレーナーもやって来てショーが始まった子供のようにはしゃぐ花音の隣で悠人もまた、久しぶりに笑顔になる。楽しいショーも30分で終わり、思い切り称賛の拍手を送る花音。楽しかった、すごかったと月並みともいえるような言葉だったが、それがまた悠人の耳には素直に聞こえてきた。
ショープールからほど近いところに売店がある。目を光らせてどれがいいか迷っている花音。それもまた、ペンギンの物ばかりだった。
「悠人!見て!!キーホルダーの中にペンギンの羽根が入ってる!」
「珍しいな、…へぇ」
「えっと…んー…」
そうして羽根違いを2つ買い、満面の笑みで戻ってくる花音。悠人の前にそっと差し出した。
「悠人はアデリーさんね!」
「俺に?」
「ん!あ、それか悠人…コウテイさんのが良かった?」
「大丈夫。ありがとう」
そうして受け取った悠人。鞄にしまうと『あれ?』と声を掛けられた。
「ユウ?」
「…?弘也…なんでこんな所に…」
「いや、ちょっとな。…ところでそちらは?」
「夏目花音。」
「あ…すみません、夏目といいます。」
「初めまして、俺は新崎弘也。悠人とは幼馴染です。宜しく」
「いえ、こちらこそ。悠人…っ黒羽さんには私の方こそ…悠人、私ちょっとお手洗い…」
「ごゆっくり」
そうして花音は一時その場を離れる。残った二人は笑い合いながら会話をしている。
「花音って…頭首の?」
「あぁ、お嬢様だ。」
「…かわいい子なんだな」
「弘也っ!?」
「解ってる、言わないよ。知れたら俺が何言われるか。でも俺らが幼馴染は間違ってないだろ?」
「腐れ縁だな」
「たくっ…クス じゃぁ。そういえば陣から今日連絡入ると思う。」
「じゃぁお前がここに来たってのは…」
「そりゃ、別件だ。ここには何にも関係ねぇ。」
そうこうしていると花音の姿が遠くに見えた。
「じゃぁ、俺そろそろ行くな?」
「気を付けて帰れよ?」
「何にだよ」
「サメに食われないようにだよ!」
「放っとけ!」
そうして弘也はその場を離れた。花音と悠人もそろそろ帰るか…と車へと向かっていった。
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