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battle70…涙
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貧血も治まってきた頃、横になれと言う悟浄の言い分も聞かずに三蔵は雅に付きっきりだった。
コンコン
しかしそのノックに答えることもしないまま三蔵はただ眠る雅を見つめていた。するとそっと戸が開くと、悟空が入ってくる。
「…三蔵?」
「……悟空か…」
「ごめんな…三蔵」
「何で悟空が謝ってんだ」
「だって……俺…一番近くにあの時居たのに…」
グッとてを握り締めたまま悟空は俯いて話し出す。そんな悟空に対して三蔵は、雅から目を離すと悟空に向き合った。
「誰もお前の事責めてねえよ」
「…でも!!」
「悟空…」
「……」
「雅が怪我したのはお前のせいじゃねえよ…」
「…でも…ごめん…」
そういいながらその場を動けずにいた。ひとつため息を吐きながら三蔵は椅子から立ち上がり悟空の前にスッと立つ。
「あのなぁ。お前のせいだって言うなら、その前に俺の責任だろうが…」
「…なんで…三蔵…?」
「あの女の目的は、俺だった。だから雅がターゲットになった。それ以上でも以下でもねえ…だからお前が気にやむ必要はねえんだよ」
「……ッッ…」
「それでも気になるって言うなら、雅が目覚めた時にお前の分の飯を少し分けてやるんだな」
「…それじゃぁ…!」
「そうだろ、早く体力戻すにはそれが一番だろうが…」
「…うん…解った。八戒にも言ってくる…!」
そういって悟空はようやく顔をあげて部屋を後にしようとした。出る時に丁度、宿主に会った。
「あ……」
「すみません…今よろしいでしょうか…」
「後にしてくれ」
「ですが…」
「いいから…後にしろ」
そういい、三蔵は怜音の父親を近寄らせることはなかった。それから数時間立っても雅が目を覚ますことはなかった。
コンコン
「…三蔵?入りますよ?」
「…八戒か…」
「少しは休んでください?交代します」
「…断る」
「雅が目を覚ました時に一番に居たいのも解りますが…食事も摂らずに居るのは行けません。」
「…放っておいてくれ…」
「そうは行きませんよ」
「……八戒…」
「なんですか?」
「何でだろうな…」
「何がですか?」
「雅の事守るって言ったって…結局は死にかけさせた…妖怪から守るだけじゃねえのも解ってたが…それでも『三蔵?』……なんだ」
「弱音なら聞きたくありませんよ?」
「…ッッ」
「あなたがそんなに弱音はいて……それを雅が望んでると思いますか?」
「……」
「弱音をはくのは勝手ですが…雅や僕らの居ない所で、にしてください」
「……悪い…」
「全く…女性関係に関して不馴れなのは存じてますけど、もう少し自分がモテるって自覚してください?」
「必要ねえだろ…」
「そりゃあなた的には雅が居てくれたら良いのかも知れませんが……」
「……ン…」
「雅…?」
「……あ…れ…?ここ……」
「あぁ、良かった気付いたんですね?!」
「私……なん…で?」
「全く…」
「三蔵……フフ…今度はタバコ吸いに行ってなかった…」
「さっきから行ってねえよ」
雅が目覚めたことを伝えてくると八戒は部屋を後にした。
「三蔵……ごめん…ね?」
「何…謝ってんだ…」
「だって……」
「…ッ…」
そっと頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めた雅。
「傷は…?痛むか?」
「ううん……八戒が塞いでくれたから…」
「めまいとかは…」
「大丈夫…」
「ならいい……」
そんなときだ。バタバタと走る音がするとバンッと扉が開かれる。
「雅!!!」
「…悟空…」
「もう少し静かに入れよ、猿」
「そうですねぇ、目覚めたばかりですし」
「…三蔵!!雅…!」
「ごめんね?心配かけて…」
「そんな……俺こそ…一番近くにいたのに……」
「そんな事…無いよ?」
「雅、傷口は?」
「大丈夫……ありがとう、八戒…」
「……顔色も悪くねえな」
「悟浄……ありがとうね?」
「腹へったら言えよな?」
「…クスクス…ありがとう。」
「……ほしいものは?」
「今は……あ、そうだ…」
「どうかしましたか?」
「怜音さん……いるかな…」
「…何の用だ」
「いるかと思いますが……」
「会いたい…」
「何のために」
「……三蔵?」
「今あいつに会うのは俺は賛成できん。」
「今回ばかりは僕も三蔵に賛成です」
「でも……お願い…話したいことある…話さなきゃ…いけない」
「…どうしても、ですか?」
「ん……」
そういう返事を聞いた八戒は『解りました』といい、部屋を出ようとする。
「八戒、行く必要ねえよ」
「しかし」
「会わせられねえ」
「…三蔵、お願い…」
「あいつがお前に何したか解ってんだろうが!」
「……わかってる…でも…」
「ダメだ」
「お願い…」
「三蔵……皆居ることを条件でもダメですか?」
「……」
「私はそれでいい…」
「……連れて来ますね?」
そういって三蔵の反対を押しきって八戒は部屋を後にした。少しして父親と一緒に怜音は部屋にやってきた。
「…怜音…さん…」
「……ッッ…」
「怜音!謝りなさい…!!」
「…嫌よ…」
「てめえは……」
「三蔵…まって…?」
きゅっと三蔵の手を引いて雅は止めた。
「私ね…怜音さんに言わないといけないことがあるの」
「聞きたくないわ!どうせ直ぐに旅に出るとかって言うんでしょ?!」
「うん。そうなんだけど……それよりも大事なこと…」
「……」
「あなたに三蔵は渡せない…」
「嫌よ!!」
「怜音!!いい加減にしないか!」
「ご主人、落ち着いてください?」
「…しかし…」
「あのね……私、三蔵の事大好きなの。誰にも渡せれ無い…」
「私の運命の人よ!」
「…でもそれよりも前に私が出会ってる…運命だとか、一生ものの恋とか…すごく自信もって言えるのはすごいけど……」
そういいかけて起きようとする雅に手を貸す三蔵。
「私にとって三蔵は譲れない一歩なの。」
「そんな…そんなの!!」
「なぁ、雅、めんどくせえから言えよ」
「悟浄さん…?」
「あのさ?怜音ちゃん?こいつら結婚して夫婦なのよ」
「……嘘!!」
「嘘じゃねえよ!!悟浄の言う通り!三蔵と雅、結婚してんだ!」
「……連呼するな…」
「だからさ、放っておいてやってくんねえかな、こいつらの事」
「……そんな…じゃぁ…私…私の運命は?」
「きっと他にあると思うよ…」
「…見下さないで…」
「…怜音!!」
そういうと宿主はパンッと頬を叩いた。
「お…とうさ…ん?」
「いい加減にしないか…謝りもせずに…自分の我だけを通そうとするんじゃない…」
「…ッッ…!!」
言葉を無くして怜音は部屋を出ていってしまった。父親である宿主は深々と頭を下げていた。
「本当に申し訳無い…謝ってすむことではないのですが…」
「本当だな…」
「三蔵…?」
「ギリギリのところで一命を取り留めたからいいが…もし…こいつが……雅が死んでいたら…あの女も同じ様に死んでたぞ…?」
「…それは……」
「それともなんだ、大事なものを失うのは俺らだけか?それにな、体を安売りするような奴、興味もねえし、吐き気がする。同じ目にあわされなかっただけいいと思ってほしいもんだな…」
「しかし、……三蔵法師様でしたら殺生はなさらないと聞いたことが『うるせえよ』……ッッ」
「言っておくが、俺はこいつの為なら三蔵何ざ興味ねえんだよ。」
「それに相当殺ってるしな」
「…そーそー」
「今さらってカンジ?」
「そうですね、今さらって感じ…」
「……本当に申し訳なかった…」
「ね……三蔵も…皆、もういいから…」
「良くねえだろ!?雅死にかけたんだぞ?」
「でも…今生きてる。」
そういった雅の一言でその場が一瞬シン…とした。
「生きてるよ?私。『もしも』の話で死んだりとか、そういう話はしちゃダメ…」
「……てめ」
「ね?」
「ね、じゃねぇよ」
そういわれ、宿主も部屋を出ていった。残された一行は雅の方に視線をやる。
「甘いなぁ…本当にうちの雅は…」
「甘くないよ……」
「…でも…マジで殺しかねないだろうな…雅殺されたら…」
「や、だから生きてるってば…」
「……ッッ…」
珍しく、皆がいる前で三蔵はふわりと雅を抱き寄せた。
「…さ…んぞ?」
「悪かった…」
「…謝らないで…?ありがとう…」
「三蔵?雅、傷に響くといけないので…ほどほどにしてください?」
「……」
そういう八戒の言葉でゆっくりと離れた三蔵。ふわりと笑う雅の笑顔を見てフッと笑うと頭を撫でた。
「…ごめん…少し眠い…」
「ゆっくりと寝てろ…」
「ん…」
そういってベッドに寝かせるとすぅ…っと眠りについていった。
「まったく、何つうか……雅だねぇ」
「本当に……」
「でも…三蔵があんなこと言うとは…」
「俺だって許せねえけどさ!!」
「…どうでもいい…もうあの女の話はするな。胸クソ悪い…」
「……でもまぁ、雅がいてくれて良かったですね」
「だな!!」
そうして何をするでも無く、ようやく三蔵も食事を摂り、雅の回復を待つことにした。
三日後…
時おり八戒に気を送って貰い、食事もある程度しっかりと摂れるようになった雅。
「回復早えな」
「八戒のお陰だよ…毎日少しずつ気送ってくれたから……」
「そんなこと無いですよ。雅がイイコにしてるから、ですよ」
「いい子って……」
「おや?ご不満ですか?」
「…少し…」
「まぁ、そうは言っても雅がおとなしくしていてくれたからには間違いないのですが…?」
「……むぅ…」
そう話していた。そんな時だ。バタバタと走ってくる音がした。
バンッ!!
「雅!!」
「え?どうかした?悟空…」
「今…聞いたんだけど……!!」
「え、何を?」
そう、悟空が聞いたと言うのは怜音の処分についてだった。
「ちょっと!どう言うこと?」
「わかんねえけど!」
「雅、どうするつもりですか?」
「行ってくる」
「待ってください。それが得策ですか?」
「得とか損とか…そんなの関係ない!」
そういうと雅は悟空に頼んでその話を聞いた場所に向かっていった。八戒も着いていく。するとその場には悟浄と三蔵もいた。
「…やっぱり来たか…」
「三蔵!どう言うこと?」
「俺に聞くな。ここの街の人間じゃねえよ」
「…それで…」
その時、丁度数人に連れられて建物から出てきた怜音に会った。
「怜音さん!」
「……」
「まって!どう言うことですか?」
「…街の人間じゃないあなた達には関係の無いことです。」
「関係ある!当事者だよ?!」
「…それでも、口出しは無用です」
「…信じられない…」
「雅……」
「おかしいよ…なんで?」
「そこを退きなさい」
「嫌だ!」
「あなた達も退いてください?」
「いや…雅が退きたくねえって言ってるから…」
「退けないですね…」
「右に同じ!!」
「……フン…」
「だからって……流刑何ておかしいよ!!」
「彼女は人を殺そうとしたんです。同等の罰が必要でしょう」
「……おかしいって言ってるでしょ!!」
そう声を大にしていい放つ雅。その声で、怜音と、彼女を連れた人々の足がピタリと止まった。
「流刑とか…おかしいよ…なんでそんな重い刑なの?ご両親と離れて…たった一人で…!!」
「この街では昔からそう決まっています。生きていられるだけ十分でしょう?」
「そんなの生きてるなんて言わない…!大事な人と笑って…楽しく過ごすのが生きてるって言うの!!その中での苦しい事もちゃんと向き合って……そういうのが…!」
「だからといって彼女だけ特別扱いは出来ません」
「……ッッ…なんで…」
「あなた自身、この人に殺されかけたのですよ?」
「何度も言わせないで…私は生きてる…死んでない!」
「でも殺人未遂です」
「未遂じゃないですか!」
「もういい!!」
今度はずっと黙っていた怜音が声をあげた。
「連れていって下さい…」
「待って!」
「最後までそんないい人ぶらないで……出来た女だって言いたいの?」
「…違う…!」
「あわれな女だって思ってるんでしょ?!」
その言葉を聞いた雅はツカツカっと近寄るとパンッとひっぱたいた。
「何する…ッ!」
その直後にぎゅっと抱き締めた。
「離れなさい!!」
「三蔵の事…好きなだけなんでしょ?」
「……」
「私だって好きだもん…解るよ…」
「……ッッ…」
「ただ、譲れない人が一緒だっただけ…あわれな女性だなんて思ってない……私の方が甘えてた…言いたいことはっきり言えてれば…こんなことにならなかったかも知れないのに…ごめんなさい…」
「……ッ…ヒック……」
「どうしても流刑が変えられないって言うなら…この街の人間じゃない私にはとめられない…でも…誰かを想う気持ちの強さまで…否定しないで…怜音さんの強い意思まで…否定しないで……」
「……なん…で……」
「…同じ女…だから…三蔵に恋して…愛おしいって想える相手が同じ……女だから……」
「……ヒック…」
「もういいだろう、離れなさい!」
強引に引き離された雅。そのまま怜音は連れていかれた。
「自分を殺そうとした相手に良くもまぁあんな甘いこと言ってられるな…」
「だって…三蔵の事好きだって想いは一緒だから…」
「……同じじゃねえよ…」
「…でも…矛先がちょっと間違えただけで、三蔵を好きだってことは同じだよ」
「それってかなり大きな差じゃねぇの?」
「そうだと思う…」
「紙一重かもしれないけど…」
「……そういうもん?」
「んーー、まぁ、雅がそうだって言うならそうなんか?」
「三蔵も身が持ちませんね」
「まったくだ…」
「……雅?…気にするなとは言えませんが…あなたは三蔵の奥さまなんですから…自信もってください?」
「…八戒…」
「その慰め方もどうかと思うけど?」
「でも事実ですし?」
「……それじゃぁ荷物まとめて出るぞ」
「そうですね」
「…おい、雅」
「何?」
「…もう少し自分に自信持て……」
「え?」
「それに、今回みたいなことが次あっても俺はもう嫌だからな…」
「…嫌って……」
「あーー、菩薩とちゅうしたもんな…」
「言うな!!」
「…え?」
「輸血変わりに、三蔵の血気を移し変えてくれたんですよ。菩薩さんが来て」
「……そうだったんだ…」
「その時にゃ死にそうな位フラッフラしてたよな…」
「貴様は少し黙ってらんねえのか!」
「…でも、すげえかっこいいよな…神様…すげえ事出きるんだもん」
「キラキラした目で見てたよな。猿」
「猿って言うな!!!」
「ほら、行きますよ?」
そうして長居したこの街をようやく後にすることになったのだった。
コンコン
しかしそのノックに答えることもしないまま三蔵はただ眠る雅を見つめていた。するとそっと戸が開くと、悟空が入ってくる。
「…三蔵?」
「……悟空か…」
「ごめんな…三蔵」
「何で悟空が謝ってんだ」
「だって……俺…一番近くにあの時居たのに…」
グッとてを握り締めたまま悟空は俯いて話し出す。そんな悟空に対して三蔵は、雅から目を離すと悟空に向き合った。
「誰もお前の事責めてねえよ」
「…でも!!」
「悟空…」
「……」
「雅が怪我したのはお前のせいじゃねえよ…」
「…でも…ごめん…」
そういいながらその場を動けずにいた。ひとつため息を吐きながら三蔵は椅子から立ち上がり悟空の前にスッと立つ。
「あのなぁ。お前のせいだって言うなら、その前に俺の責任だろうが…」
「…なんで…三蔵…?」
「あの女の目的は、俺だった。だから雅がターゲットになった。それ以上でも以下でもねえ…だからお前が気にやむ必要はねえんだよ」
「……ッッ…」
「それでも気になるって言うなら、雅が目覚めた時にお前の分の飯を少し分けてやるんだな」
「…それじゃぁ…!」
「そうだろ、早く体力戻すにはそれが一番だろうが…」
「…うん…解った。八戒にも言ってくる…!」
そういって悟空はようやく顔をあげて部屋を後にしようとした。出る時に丁度、宿主に会った。
「あ……」
「すみません…今よろしいでしょうか…」
「後にしてくれ」
「ですが…」
「いいから…後にしろ」
そういい、三蔵は怜音の父親を近寄らせることはなかった。それから数時間立っても雅が目を覚ますことはなかった。
コンコン
「…三蔵?入りますよ?」
「…八戒か…」
「少しは休んでください?交代します」
「…断る」
「雅が目を覚ました時に一番に居たいのも解りますが…食事も摂らずに居るのは行けません。」
「…放っておいてくれ…」
「そうは行きませんよ」
「……八戒…」
「なんですか?」
「何でだろうな…」
「何がですか?」
「雅の事守るって言ったって…結局は死にかけさせた…妖怪から守るだけじゃねえのも解ってたが…それでも『三蔵?』……なんだ」
「弱音なら聞きたくありませんよ?」
「…ッッ」
「あなたがそんなに弱音はいて……それを雅が望んでると思いますか?」
「……」
「弱音をはくのは勝手ですが…雅や僕らの居ない所で、にしてください」
「……悪い…」
「全く…女性関係に関して不馴れなのは存じてますけど、もう少し自分がモテるって自覚してください?」
「必要ねえだろ…」
「そりゃあなた的には雅が居てくれたら良いのかも知れませんが……」
「……ン…」
「雅…?」
「……あ…れ…?ここ……」
「あぁ、良かった気付いたんですね?!」
「私……なん…で?」
「全く…」
「三蔵……フフ…今度はタバコ吸いに行ってなかった…」
「さっきから行ってねえよ」
雅が目覚めたことを伝えてくると八戒は部屋を後にした。
「三蔵……ごめん…ね?」
「何…謝ってんだ…」
「だって……」
「…ッ…」
そっと頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めた雅。
「傷は…?痛むか?」
「ううん……八戒が塞いでくれたから…」
「めまいとかは…」
「大丈夫…」
「ならいい……」
そんなときだ。バタバタと走る音がするとバンッと扉が開かれる。
「雅!!!」
「…悟空…」
「もう少し静かに入れよ、猿」
「そうですねぇ、目覚めたばかりですし」
「…三蔵!!雅…!」
「ごめんね?心配かけて…」
「そんな……俺こそ…一番近くにいたのに……」
「そんな事…無いよ?」
「雅、傷口は?」
「大丈夫……ありがとう、八戒…」
「……顔色も悪くねえな」
「悟浄……ありがとうね?」
「腹へったら言えよな?」
「…クスクス…ありがとう。」
「……ほしいものは?」
「今は……あ、そうだ…」
「どうかしましたか?」
「怜音さん……いるかな…」
「…何の用だ」
「いるかと思いますが……」
「会いたい…」
「何のために」
「……三蔵?」
「今あいつに会うのは俺は賛成できん。」
「今回ばかりは僕も三蔵に賛成です」
「でも……お願い…話したいことある…話さなきゃ…いけない」
「…どうしても、ですか?」
「ん……」
そういう返事を聞いた八戒は『解りました』といい、部屋を出ようとする。
「八戒、行く必要ねえよ」
「しかし」
「会わせられねえ」
「…三蔵、お願い…」
「あいつがお前に何したか解ってんだろうが!」
「……わかってる…でも…」
「ダメだ」
「お願い…」
「三蔵……皆居ることを条件でもダメですか?」
「……」
「私はそれでいい…」
「……連れて来ますね?」
そういって三蔵の反対を押しきって八戒は部屋を後にした。少しして父親と一緒に怜音は部屋にやってきた。
「…怜音…さん…」
「……ッッ…」
「怜音!謝りなさい…!!」
「…嫌よ…」
「てめえは……」
「三蔵…まって…?」
きゅっと三蔵の手を引いて雅は止めた。
「私ね…怜音さんに言わないといけないことがあるの」
「聞きたくないわ!どうせ直ぐに旅に出るとかって言うんでしょ?!」
「うん。そうなんだけど……それよりも大事なこと…」
「……」
「あなたに三蔵は渡せない…」
「嫌よ!!」
「怜音!!いい加減にしないか!」
「ご主人、落ち着いてください?」
「…しかし…」
「あのね……私、三蔵の事大好きなの。誰にも渡せれ無い…」
「私の運命の人よ!」
「…でもそれよりも前に私が出会ってる…運命だとか、一生ものの恋とか…すごく自信もって言えるのはすごいけど……」
そういいかけて起きようとする雅に手を貸す三蔵。
「私にとって三蔵は譲れない一歩なの。」
「そんな…そんなの!!」
「なぁ、雅、めんどくせえから言えよ」
「悟浄さん…?」
「あのさ?怜音ちゃん?こいつら結婚して夫婦なのよ」
「……嘘!!」
「嘘じゃねえよ!!悟浄の言う通り!三蔵と雅、結婚してんだ!」
「……連呼するな…」
「だからさ、放っておいてやってくんねえかな、こいつらの事」
「……そんな…じゃぁ…私…私の運命は?」
「きっと他にあると思うよ…」
「…見下さないで…」
「…怜音!!」
そういうと宿主はパンッと頬を叩いた。
「お…とうさ…ん?」
「いい加減にしないか…謝りもせずに…自分の我だけを通そうとするんじゃない…」
「…ッッ…!!」
言葉を無くして怜音は部屋を出ていってしまった。父親である宿主は深々と頭を下げていた。
「本当に申し訳無い…謝ってすむことではないのですが…」
「本当だな…」
「三蔵…?」
「ギリギリのところで一命を取り留めたからいいが…もし…こいつが……雅が死んでいたら…あの女も同じ様に死んでたぞ…?」
「…それは……」
「それともなんだ、大事なものを失うのは俺らだけか?それにな、体を安売りするような奴、興味もねえし、吐き気がする。同じ目にあわされなかっただけいいと思ってほしいもんだな…」
「しかし、……三蔵法師様でしたら殺生はなさらないと聞いたことが『うるせえよ』……ッッ」
「言っておくが、俺はこいつの為なら三蔵何ざ興味ねえんだよ。」
「それに相当殺ってるしな」
「…そーそー」
「今さらってカンジ?」
「そうですね、今さらって感じ…」
「……本当に申し訳なかった…」
「ね……三蔵も…皆、もういいから…」
「良くねえだろ!?雅死にかけたんだぞ?」
「でも…今生きてる。」
そういった雅の一言でその場が一瞬シン…とした。
「生きてるよ?私。『もしも』の話で死んだりとか、そういう話はしちゃダメ…」
「……てめ」
「ね?」
「ね、じゃねぇよ」
そういわれ、宿主も部屋を出ていった。残された一行は雅の方に視線をやる。
「甘いなぁ…本当にうちの雅は…」
「甘くないよ……」
「…でも…マジで殺しかねないだろうな…雅殺されたら…」
「や、だから生きてるってば…」
「……ッッ…」
珍しく、皆がいる前で三蔵はふわりと雅を抱き寄せた。
「…さ…んぞ?」
「悪かった…」
「…謝らないで…?ありがとう…」
「三蔵?雅、傷に響くといけないので…ほどほどにしてください?」
「……」
そういう八戒の言葉でゆっくりと離れた三蔵。ふわりと笑う雅の笑顔を見てフッと笑うと頭を撫でた。
「…ごめん…少し眠い…」
「ゆっくりと寝てろ…」
「ん…」
そういってベッドに寝かせるとすぅ…っと眠りについていった。
「まったく、何つうか……雅だねぇ」
「本当に……」
「でも…三蔵があんなこと言うとは…」
「俺だって許せねえけどさ!!」
「…どうでもいい…もうあの女の話はするな。胸クソ悪い…」
「……でもまぁ、雅がいてくれて良かったですね」
「だな!!」
そうして何をするでも無く、ようやく三蔵も食事を摂り、雅の回復を待つことにした。
三日後…
時おり八戒に気を送って貰い、食事もある程度しっかりと摂れるようになった雅。
「回復早えな」
「八戒のお陰だよ…毎日少しずつ気送ってくれたから……」
「そんなこと無いですよ。雅がイイコにしてるから、ですよ」
「いい子って……」
「おや?ご不満ですか?」
「…少し…」
「まぁ、そうは言っても雅がおとなしくしていてくれたからには間違いないのですが…?」
「……むぅ…」
そう話していた。そんな時だ。バタバタと走ってくる音がした。
バンッ!!
「雅!!」
「え?どうかした?悟空…」
「今…聞いたんだけど……!!」
「え、何を?」
そう、悟空が聞いたと言うのは怜音の処分についてだった。
「ちょっと!どう言うこと?」
「わかんねえけど!」
「雅、どうするつもりですか?」
「行ってくる」
「待ってください。それが得策ですか?」
「得とか損とか…そんなの関係ない!」
そういうと雅は悟空に頼んでその話を聞いた場所に向かっていった。八戒も着いていく。するとその場には悟浄と三蔵もいた。
「…やっぱり来たか…」
「三蔵!どう言うこと?」
「俺に聞くな。ここの街の人間じゃねえよ」
「…それで…」
その時、丁度数人に連れられて建物から出てきた怜音に会った。
「怜音さん!」
「……」
「まって!どう言うことですか?」
「…街の人間じゃないあなた達には関係の無いことです。」
「関係ある!当事者だよ?!」
「…それでも、口出しは無用です」
「…信じられない…」
「雅……」
「おかしいよ…なんで?」
「そこを退きなさい」
「嫌だ!」
「あなた達も退いてください?」
「いや…雅が退きたくねえって言ってるから…」
「退けないですね…」
「右に同じ!!」
「……フン…」
「だからって……流刑何ておかしいよ!!」
「彼女は人を殺そうとしたんです。同等の罰が必要でしょう」
「……おかしいって言ってるでしょ!!」
そう声を大にしていい放つ雅。その声で、怜音と、彼女を連れた人々の足がピタリと止まった。
「流刑とか…おかしいよ…なんでそんな重い刑なの?ご両親と離れて…たった一人で…!!」
「この街では昔からそう決まっています。生きていられるだけ十分でしょう?」
「そんなの生きてるなんて言わない…!大事な人と笑って…楽しく過ごすのが生きてるって言うの!!その中での苦しい事もちゃんと向き合って……そういうのが…!」
「だからといって彼女だけ特別扱いは出来ません」
「……ッッ…なんで…」
「あなた自身、この人に殺されかけたのですよ?」
「何度も言わせないで…私は生きてる…死んでない!」
「でも殺人未遂です」
「未遂じゃないですか!」
「もういい!!」
今度はずっと黙っていた怜音が声をあげた。
「連れていって下さい…」
「待って!」
「最後までそんないい人ぶらないで……出来た女だって言いたいの?」
「…違う…!」
「あわれな女だって思ってるんでしょ?!」
その言葉を聞いた雅はツカツカっと近寄るとパンッとひっぱたいた。
「何する…ッ!」
その直後にぎゅっと抱き締めた。
「離れなさい!!」
「三蔵の事…好きなだけなんでしょ?」
「……」
「私だって好きだもん…解るよ…」
「……ッッ…」
「ただ、譲れない人が一緒だっただけ…あわれな女性だなんて思ってない……私の方が甘えてた…言いたいことはっきり言えてれば…こんなことにならなかったかも知れないのに…ごめんなさい…」
「……ッ…ヒック……」
「どうしても流刑が変えられないって言うなら…この街の人間じゃない私にはとめられない…でも…誰かを想う気持ちの強さまで…否定しないで…怜音さんの強い意思まで…否定しないで……」
「……なん…で……」
「…同じ女…だから…三蔵に恋して…愛おしいって想える相手が同じ……女だから……」
「……ヒック…」
「もういいだろう、離れなさい!」
強引に引き離された雅。そのまま怜音は連れていかれた。
「自分を殺そうとした相手に良くもまぁあんな甘いこと言ってられるな…」
「だって…三蔵の事好きだって想いは一緒だから…」
「……同じじゃねえよ…」
「…でも…矛先がちょっと間違えただけで、三蔵を好きだってことは同じだよ」
「それってかなり大きな差じゃねぇの?」
「そうだと思う…」
「紙一重かもしれないけど…」
「……そういうもん?」
「んーー、まぁ、雅がそうだって言うならそうなんか?」
「三蔵も身が持ちませんね」
「まったくだ…」
「……雅?…気にするなとは言えませんが…あなたは三蔵の奥さまなんですから…自信もってください?」
「…八戒…」
「その慰め方もどうかと思うけど?」
「でも事実ですし?」
「……それじゃぁ荷物まとめて出るぞ」
「そうですね」
「…おい、雅」
「何?」
「…もう少し自分に自信持て……」
「え?」
「それに、今回みたいなことが次あっても俺はもう嫌だからな…」
「…嫌って……」
「あーー、菩薩とちゅうしたもんな…」
「言うな!!」
「…え?」
「輸血変わりに、三蔵の血気を移し変えてくれたんですよ。菩薩さんが来て」
「……そうだったんだ…」
「その時にゃ死にそうな位フラッフラしてたよな…」
「貴様は少し黙ってらんねえのか!」
「…でも、すげえかっこいいよな…神様…すげえ事出きるんだもん」
「キラキラした目で見てたよな。猿」
「猿って言うな!!!」
「ほら、行きますよ?」
そうして長居したこの街をようやく後にすることになったのだった。
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「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
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