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battle56…優しいバースディ
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それからいくつかの街を過ぎ、三蔵と雅のバースデイを翌日に控えたその日。
「……本当にすみません…」
「仕方ねえだろうが……」
「大丈夫だよ!!もしかりに野宿だとしても……問題無いし!」
「…何か…本と…」
「気にしないで?ほら!お宿いこうよ!!お部屋無くなっちゃう!!」
そう、二人の誕生日にも関わらず、待ちに着く事も無く、着いた先は少し大きめの村だった。
「あ!!ねえね!!すごくきれいな宿屋さん!!」
「飯うまいかな!!」
「美味しいと良いね!」
「いらっしゃい、ええと、五名様ですね?」
「はい!!」
「申し訳ございません…少し足りなくて……」
「いくつあるんですか?」
「二部屋、ベッドは四台なんですが…」
「…どうします?三蔵」
「良いだろ、それだけありゃ」
「…お願いします」
「予備のお布団とかも本来ならご用意あるんですが…ちょうど団体のお客様も重なっておりまして……ご用意できるのが無いのですが……よろしいですか?」
「あ、はい」
「かしこまりました。
そうして二部屋を借りた。
「部屋割…どうしますか?」
「あーー、八戒、俺悟空と一緒でもいいわ」
「え、俺悟浄と一緒な部屋?」
「…そういうこと、ですか…」
「どうしよっか……」
「俺はどうでも構わんが…」
「……じゃぁ、僕と三蔵と雅が一緒の部屋で良いですか?」
「……ふえ?」
「ご不満ですか?」
「…や、そうじゃなくて私も一緒で良いの?」
「そうでなきゃ雅のベッド、ありませんよ?」
「……あ」
「そういうわけだ…」
「…で?お前は俺と一緒だと不満って訳か?」
「そんなこといってないけど…」
「それじゃぁ、決まりですね」
そうして部屋割も決まった。
「そういえば団体さんっていってたけど、なにかあるのかな…」
「さぁな」
「でも、本当にすみません……お二人の誕生日も明日だと言うのに……」
「問題ねえよ。野宿よりよっぽど良い」
「そうでしょうか……」
「違うのか?」
「私は嬉しいよ?」
「だそうだ」
「……なにか美味しいもの、作りましょうね」
「本と?」
「えぇ、ですから雅?あなたはこの間の服来て三蔵とデートでもしてきてください?」
「……でも…!」
「明日、何したいか考えとけよ」
「……三蔵…ッ…」
「良かったですね!」
そうして嬉しそうに笑って『ん』と答えた雅だった。
しかしその翌日……
「…なんか…本当にすみません…」
「何昨日から謝りっぱなしなんだ!」
「…それに雨なのは八戒のせいじゃないし…」
「そうだな」
「…そうは言っても…」
「ま、誕生日だからどうこうってもんでもねえし…」
「そうだね!」
「それじゃぁ、僕、買い出しに行ってきますから。あ、悟空と悟浄も連れていくので。のんびりしていてください?」
「…ありがと、気をつけてね?」
「えぇ」
そうして八戒は部屋を後にした。ひらっとしたワンピースを着ている雅をみながら三蔵はコーヒーを飲んでいる。
「あ、三蔵?」
「なんだ」
「……」
「なんだ?」
首にきゅっと巻き付くと雅は少し恥ずかしそうに耳元でささやいた。
「…三蔵、お誕生日おめでとう」
「…それは雅もだろ…」
「…ん……それでね?」
「んぁ?」
「……私、三蔵にお誕生日のプレゼント何が良いかなって思ってて」
「要らねえよ」
「そういうわけにはいかないじゃん?」
「……別に要らねえ」
「……でも…あ、じゃぁ、何かしてほしいことは?」
メガネを外し、そっと腰を抱き寄せ、下から見上げる三蔵。
「お前がここに居る。それだけで十分だ」
「…三蔵…」
「ま、それでも雅が物足りないってならそうだな、何してもらおうか…」
「…三蔵?……」
「二言は無いな?」
「…えっと……三蔵様?」
「それとも口先だけか?」
「それは……ッッ…」
「クス、コーヒー」
「……え?」
「コーヒー、おかわり」
「……あ…うん」
「なんだ」
「……別に……」
「何期待してんだ」
「何も!三蔵のエッチ!!」
「コーヒー寄越せって言うのが何がエッチだ、バカじゃねえのか…?」
「もういい…ですよぉだ……」
そうして勘違いをしていた自分に恥ずかしくなりながらも三蔵のサイドテーブルからマグカップを取ると小さなキッチンに向かった。
「……でも、お宿もきれいだし…部屋も広いし。こうして小さくてもキッチンもある……ッッ」
「……」
「三蔵?」
後ろから抱き締める三蔵。きゅっと両腕に収まる雅はドクンと胸が高鳴った。
「せっかく八戒が気を利かせてくれてんだ。」
「だって……さっき三蔵がコーヒーって……」
「冗談に決まってんだろうが…」
「解りにくい」
「…どれだけ一緒に居るんだ」
「…そうは言っても……」
「こんな雨の日で、この時間だ。悟空や悟浄も連れていったとなれば昼飯もすませてくるだろ」
「…三蔵」
「ただでさえ…夜には抱けねえんだ……」
「…さん……ぞ」
カチンとコンロの火を切り抱き締める腕に力が入る。そっと右手は胸元へと上がっていく。
「…ン…」
「やっぱこれ…短けえよ…」
そういうとふわりと抱き上げた三蔵。ベッドに下ろすとそっと唇を重ねた。
「…ン…」
「舌…出せ」
「…でも…」
「良いから…」
そういわれ、ゆっくりと舌先を出す雅。くっと吸い上げられ、絡め取られた。
酸素を求める間もなく唇は離れることはない。
クチュ……チュ…チュク……
唾液の混じる音が厭らしくも部屋に響く。そのままふっと離れるととろんとした目で見上げている雅。
「三蔵…ぉ」
「なんだ」
「……フフ…もっと…」
「…ッ…欲しがるな…」
そう言いぐいっと抱き寄せると座らせ、唇を重ねる。てはゆっくりと背中のファスナーにかかり、ジッとおろしていく。
「三蔵……」
パサッと袖から腕を出し、脱がしていく。
「隠さなくて良い…」
「だって」
「…手、退けろ」
「……ッッ…」
「…きれいだ」
そう言われ慣れないことを不意に言われた雅。ゆっくりと取り払われた手も三蔵の腕に絡め、きゅっとつかむ。
「…三蔵…」
「ん?」
「…焦らさ…ないで…」
「ほぅ…?何も焦らしてるつもりはねえんだがな…」
「さ…んぞ…」
ゆっくりと下腹部に移動していく三蔵の手に雅はピクリと反応する。
「…ッッ…三蔵…ぉ」
そんな時だ。バタバタと音が鳴る。
「三蔵!!」
バンっと扉を開ける悟空。
「……ッッ?!?!?」
「あ……えっと……」
「…チッ…」
シーツをかき寄せる雅。明らかに不機嫌な三蔵。法衣を脱いだままツカツカと悟空のもとに向かう。
「…おい、何しに来た」
「…は……八戒が……忘れ物って……」
「その八戒はどこに居る」
「宿の…外…」
ツカツカと部屋を出る三蔵。
「てめえも来い!!」
そう言って悟空を連れ出す。
「おい…八戒…」
「あ…三蔵…」
「何してんだ、てめえら」
「…すみません。止めたんですが…聞こえる前に…」
「そんなのはどうでもいい」
「まさか…三蔵、お前……こんな昼間っから…?」
「それで忘れものってなんだ」
「いえ、ですからあったんですよ…」
「で、てめえは何しに来た悟空」
「…だって…!呼んだか?八戒」
「えぇ、一応…」
「……マジ?」
「えぇ、マジです」
「……つまりはお前達の勘違いだったって訳か?」
「…すみません…お邪魔してしまって…」
「ハァ…」
三蔵はゆっくりと背中を向けて部屋に戻っていく。
「もしかして…すっげぇ邪魔しちゃったかも知んない…俺」
「…マジ?」
「だって…雅……」
「雅がどうしたんですか……?」
「…いや、やっぱいい!!俺…見間違えたかも知れないし…」
「…あーー、多分見間違えじゃねえわ」
「…本当に困りましたね…ハァ…」
「てか、昼間っからヤってる方もどうかじゃねえ?」
「でも、今じゃないと、ほら。今回は僕も一緒ですし…」
「……まぁ、そういわれちゃうとなぁ…」
「でもさ!俺達でパーティー準備してさ!」
「…そうですね」
そう話して居た。
一方の雅は恥ずかしさのあまりにシーツから出てこれなくなっていた。
「おい、いい加減に出てこい…」
「だって……」
「…買い物に戻った。」
「…三蔵…」
「たく……邪魔しやがって…」
「三蔵…」
「なんだ、さっきから」
「少しだけ……こうしてていい?」
そういうと背中から巻き付いた雅。
「…ハァ…まず服着ろ…」
「……ヤダ…」
「…嫌じゃねえよ…また帰ってくるかも知れねえだろ…」
「…ほんの少しでいいから…」
そういう雅の手をそっと包み込むように手を重ねる三蔵。そのままきゅっと指を絡める
「…全く…」
「三蔵…」
「なんだ」
「……なんでも…ない」
「無い訳ねえだろ」
「三蔵の温度だけでもいい…」
「俺はどうなる…」
「え…?」
ゆっくりと腕を緩めると三蔵は体の向きを変えてゆったりと抱き寄せた。
「俺は抱くことも出来ずに、抱き締めることも出来ねえのか」
「……それは…」
「ゆっくりと誕生日だなんて祝ったこともねえから…どうでもいいと思っては居たが…」
「三蔵?」
「こうして雅と過ごす誕生日なら…悪くないのかも知れん…」
「…ん。」
そうしてゆっくりと体を離す雅。
「ねえ三蔵?」
「なんだ」
「こんなに人って、誰かを好きになれるんだね…」
「…なんだ急に…」
「ううん…ただふと思ったの。あの時三蔵が来てくれなかったら…三蔵が連れ出してくれなかったら…私は今頃どうしてるのかなって…あの生まれた村でまだ生きてるのか…それともとっくに死んでるのか…解らない…でも…」
「……でも?」
「今はね、三蔵とこうして居られて…悟浄や悟空、八戒達と笑い合える日があって…私自身もすごく幸せで…すごく幸せだなって思うの。」
「…そうか」
「ん。ありがとう…」
「…なに言ってやがんだ…」
「だって…」
「礼を言うのは俺の方だ…」
「三蔵?」
そっと頬を包み込むようにしてまっすぐに目を見つめる三蔵。ふっと珍しく口許が緩むと続けて話し出す。
「どうやら俺も大分変わったらしいからな…雅のお陰で…」
「そう…なの?」
「あぁ。それに、守るものが出来た。この俺が、だぜ?」
「…三蔵…」
「もう守られるだけじゃねえだろうが…これから先も一緒に居る間は俺が守ってやるよ…」
そういうと照れ隠しだろう。再度くいっと抱き寄せた。
「ありがとう…三蔵…」
「さて……そろそろ下手したら帰ってくるな…服着ろ服!」
「…ん」
そうして服を着るべくベッドから降りる雅。ジッと背中のジッパーをあげたときだ。
「自分であげれるんだな」
「そりゃ、あげれなきゃ困るよ…」
「そういうもんか…」
「そうです。あ……!」
「なんだ」
「三蔵の私服!見たい!」
「見ただろうが…」
「でも新しいの見てない」
「……要るか?」
「みたい!…ダメ?」
「…ハァ…めんどくせえ」
「めんどくないよ!ほら!」
「何でそんな嬉しそうなんだよ」
そういうと荷物の中から三蔵の私服を取り出した。
「…っつか、なんで雅が持ってんだよ」
「…んーー?いつでも三蔵の服着れるように?」
「いや、意味わかんねえよ」
「だって…最近……三蔵足りない…」
「……だからって勝手に人の服着るな」
「言ったら三蔵反対するもん」
「当然だ。たかが服にすがるな」
「……三蔵?」
「…チッ…」
「でもね?三蔵のサイズの服だと、しかも三蔵のだとね?だっこされてるみたいなんだ」
「……おい…」
「はい?」
「いいから俺の服着るな…」
「…じゃぁ三蔵着てくれる?」
「…なんでそうなる」
「…だって……」
「あのなぁ。俺が足りないとか言うけどな…俺だって雅が足りねえんだよ。それを勝手に一人で紛らせようとすんな」
「…三蔵…?」
「解ったら返せ」
「…着てくれる?」
「着ねえ」
「…ムゥゥゥ…」
「今度…」
「…え?」
「次の街がでかかったらその時着てやるよ」
「…ほんと?」
「あぁもう、うるせえ」
「…約束だからね!」
そういって雅は小指を三蔵に差し出した。
「何の真似だ…」
「指切り!」
「…要るのか?」
「要る!!」
「…たく…こんなの子供だましだろうが」
「子供だましでもいいの!」
そういって小指を絡めた二人。
それから少しして買い出し組は戻ってきた。夕飯にケーキとごちそうを買ってきた。
「そういえばお二人とも昼食は?」
「あ…食べてない…」
「だとしたらこれでも食べますか?」
「何々?」
「おいしそうなサンドイッチ売ってたんですよ。」
「こんな村なのにな」
「是非食べてみてください?」
「ありがとう!」
そうして二人して少し遅めの昼食となったのだった。
「……本当にすみません…」
「仕方ねえだろうが……」
「大丈夫だよ!!もしかりに野宿だとしても……問題無いし!」
「…何か…本と…」
「気にしないで?ほら!お宿いこうよ!!お部屋無くなっちゃう!!」
そう、二人の誕生日にも関わらず、待ちに着く事も無く、着いた先は少し大きめの村だった。
「あ!!ねえね!!すごくきれいな宿屋さん!!」
「飯うまいかな!!」
「美味しいと良いね!」
「いらっしゃい、ええと、五名様ですね?」
「はい!!」
「申し訳ございません…少し足りなくて……」
「いくつあるんですか?」
「二部屋、ベッドは四台なんですが…」
「…どうします?三蔵」
「良いだろ、それだけありゃ」
「…お願いします」
「予備のお布団とかも本来ならご用意あるんですが…ちょうど団体のお客様も重なっておりまして……ご用意できるのが無いのですが……よろしいですか?」
「あ、はい」
「かしこまりました。
そうして二部屋を借りた。
「部屋割…どうしますか?」
「あーー、八戒、俺悟空と一緒でもいいわ」
「え、俺悟浄と一緒な部屋?」
「…そういうこと、ですか…」
「どうしよっか……」
「俺はどうでも構わんが…」
「……じゃぁ、僕と三蔵と雅が一緒の部屋で良いですか?」
「……ふえ?」
「ご不満ですか?」
「…や、そうじゃなくて私も一緒で良いの?」
「そうでなきゃ雅のベッド、ありませんよ?」
「……あ」
「そういうわけだ…」
「…で?お前は俺と一緒だと不満って訳か?」
「そんなこといってないけど…」
「それじゃぁ、決まりですね」
そうして部屋割も決まった。
「そういえば団体さんっていってたけど、なにかあるのかな…」
「さぁな」
「でも、本当にすみません……お二人の誕生日も明日だと言うのに……」
「問題ねえよ。野宿よりよっぽど良い」
「そうでしょうか……」
「違うのか?」
「私は嬉しいよ?」
「だそうだ」
「……なにか美味しいもの、作りましょうね」
「本と?」
「えぇ、ですから雅?あなたはこの間の服来て三蔵とデートでもしてきてください?」
「……でも…!」
「明日、何したいか考えとけよ」
「……三蔵…ッ…」
「良かったですね!」
そうして嬉しそうに笑って『ん』と答えた雅だった。
しかしその翌日……
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「…それに雨なのは八戒のせいじゃないし…」
「そうだな」
「…そうは言っても…」
「ま、誕生日だからどうこうってもんでもねえし…」
「そうだね!」
「それじゃぁ、僕、買い出しに行ってきますから。あ、悟空と悟浄も連れていくので。のんびりしていてください?」
「…ありがと、気をつけてね?」
「えぇ」
そうして八戒は部屋を後にした。ひらっとしたワンピースを着ている雅をみながら三蔵はコーヒーを飲んでいる。
「あ、三蔵?」
「なんだ」
「……」
「なんだ?」
首にきゅっと巻き付くと雅は少し恥ずかしそうに耳元でささやいた。
「…三蔵、お誕生日おめでとう」
「…それは雅もだろ…」
「…ん……それでね?」
「んぁ?」
「……私、三蔵にお誕生日のプレゼント何が良いかなって思ってて」
「要らねえよ」
「そういうわけにはいかないじゃん?」
「……別に要らねえ」
「……でも…あ、じゃぁ、何かしてほしいことは?」
メガネを外し、そっと腰を抱き寄せ、下から見上げる三蔵。
「お前がここに居る。それだけで十分だ」
「…三蔵…」
「ま、それでも雅が物足りないってならそうだな、何してもらおうか…」
「…三蔵?……」
「二言は無いな?」
「…えっと……三蔵様?」
「それとも口先だけか?」
「それは……ッッ…」
「クス、コーヒー」
「……え?」
「コーヒー、おかわり」
「……あ…うん」
「なんだ」
「……別に……」
「何期待してんだ」
「何も!三蔵のエッチ!!」
「コーヒー寄越せって言うのが何がエッチだ、バカじゃねえのか…?」
「もういい…ですよぉだ……」
そうして勘違いをしていた自分に恥ずかしくなりながらも三蔵のサイドテーブルからマグカップを取ると小さなキッチンに向かった。
「……でも、お宿もきれいだし…部屋も広いし。こうして小さくてもキッチンもある……ッッ」
「……」
「三蔵?」
後ろから抱き締める三蔵。きゅっと両腕に収まる雅はドクンと胸が高鳴った。
「せっかく八戒が気を利かせてくれてんだ。」
「だって……さっき三蔵がコーヒーって……」
「冗談に決まってんだろうが…」
「解りにくい」
「…どれだけ一緒に居るんだ」
「…そうは言っても……」
「こんな雨の日で、この時間だ。悟空や悟浄も連れていったとなれば昼飯もすませてくるだろ」
「…三蔵」
「ただでさえ…夜には抱けねえんだ……」
「…さん……ぞ」
カチンとコンロの火を切り抱き締める腕に力が入る。そっと右手は胸元へと上がっていく。
「…ン…」
「やっぱこれ…短けえよ…」
そういうとふわりと抱き上げた三蔵。ベッドに下ろすとそっと唇を重ねた。
「…ン…」
「舌…出せ」
「…でも…」
「良いから…」
そういわれ、ゆっくりと舌先を出す雅。くっと吸い上げられ、絡め取られた。
酸素を求める間もなく唇は離れることはない。
クチュ……チュ…チュク……
唾液の混じる音が厭らしくも部屋に響く。そのままふっと離れるととろんとした目で見上げている雅。
「三蔵…ぉ」
「なんだ」
「……フフ…もっと…」
「…ッ…欲しがるな…」
そう言いぐいっと抱き寄せると座らせ、唇を重ねる。てはゆっくりと背中のファスナーにかかり、ジッとおろしていく。
「三蔵……」
パサッと袖から腕を出し、脱がしていく。
「隠さなくて良い…」
「だって」
「…手、退けろ」
「……ッッ…」
「…きれいだ」
そう言われ慣れないことを不意に言われた雅。ゆっくりと取り払われた手も三蔵の腕に絡め、きゅっとつかむ。
「…三蔵…」
「ん?」
「…焦らさ…ないで…」
「ほぅ…?何も焦らしてるつもりはねえんだがな…」
「さ…んぞ…」
ゆっくりと下腹部に移動していく三蔵の手に雅はピクリと反応する。
「…ッッ…三蔵…ぉ」
そんな時だ。バタバタと音が鳴る。
「三蔵!!」
バンっと扉を開ける悟空。
「……ッッ?!?!?」
「あ……えっと……」
「…チッ…」
シーツをかき寄せる雅。明らかに不機嫌な三蔵。法衣を脱いだままツカツカと悟空のもとに向かう。
「…おい、何しに来た」
「…は……八戒が……忘れ物って……」
「その八戒はどこに居る」
「宿の…外…」
ツカツカと部屋を出る三蔵。
「てめえも来い!!」
そう言って悟空を連れ出す。
「おい…八戒…」
「あ…三蔵…」
「何してんだ、てめえら」
「…すみません。止めたんですが…聞こえる前に…」
「そんなのはどうでもいい」
「まさか…三蔵、お前……こんな昼間っから…?」
「それで忘れものってなんだ」
「いえ、ですからあったんですよ…」
「で、てめえは何しに来た悟空」
「…だって…!呼んだか?八戒」
「えぇ、一応…」
「……マジ?」
「えぇ、マジです」
「……つまりはお前達の勘違いだったって訳か?」
「…すみません…お邪魔してしまって…」
「ハァ…」
三蔵はゆっくりと背中を向けて部屋に戻っていく。
「もしかして…すっげぇ邪魔しちゃったかも知んない…俺」
「…マジ?」
「だって…雅……」
「雅がどうしたんですか……?」
「…いや、やっぱいい!!俺…見間違えたかも知れないし…」
「…あーー、多分見間違えじゃねえわ」
「…本当に困りましたね…ハァ…」
「てか、昼間っからヤってる方もどうかじゃねえ?」
「でも、今じゃないと、ほら。今回は僕も一緒ですし…」
「……まぁ、そういわれちゃうとなぁ…」
「でもさ!俺達でパーティー準備してさ!」
「…そうですね」
そう話して居た。
一方の雅は恥ずかしさのあまりにシーツから出てこれなくなっていた。
「おい、いい加減に出てこい…」
「だって……」
「…買い物に戻った。」
「…三蔵…」
「たく……邪魔しやがって…」
「三蔵…」
「なんだ、さっきから」
「少しだけ……こうしてていい?」
そういうと背中から巻き付いた雅。
「…ハァ…まず服着ろ…」
「……ヤダ…」
「…嫌じゃねえよ…また帰ってくるかも知れねえだろ…」
「…ほんの少しでいいから…」
そういう雅の手をそっと包み込むように手を重ねる三蔵。そのままきゅっと指を絡める
「…全く…」
「三蔵…」
「なんだ」
「……なんでも…ない」
「無い訳ねえだろ」
「三蔵の温度だけでもいい…」
「俺はどうなる…」
「え…?」
ゆっくりと腕を緩めると三蔵は体の向きを変えてゆったりと抱き寄せた。
「俺は抱くことも出来ずに、抱き締めることも出来ねえのか」
「……それは…」
「ゆっくりと誕生日だなんて祝ったこともねえから…どうでもいいと思っては居たが…」
「三蔵?」
「こうして雅と過ごす誕生日なら…悪くないのかも知れん…」
「…ん。」
そうしてゆっくりと体を離す雅。
「ねえ三蔵?」
「なんだ」
「こんなに人って、誰かを好きになれるんだね…」
「…なんだ急に…」
「ううん…ただふと思ったの。あの時三蔵が来てくれなかったら…三蔵が連れ出してくれなかったら…私は今頃どうしてるのかなって…あの生まれた村でまだ生きてるのか…それともとっくに死んでるのか…解らない…でも…」
「……でも?」
「今はね、三蔵とこうして居られて…悟浄や悟空、八戒達と笑い合える日があって…私自身もすごく幸せで…すごく幸せだなって思うの。」
「…そうか」
「ん。ありがとう…」
「…なに言ってやがんだ…」
「だって…」
「礼を言うのは俺の方だ…」
「三蔵?」
そっと頬を包み込むようにしてまっすぐに目を見つめる三蔵。ふっと珍しく口許が緩むと続けて話し出す。
「どうやら俺も大分変わったらしいからな…雅のお陰で…」
「そう…なの?」
「あぁ。それに、守るものが出来た。この俺が、だぜ?」
「…三蔵…」
「もう守られるだけじゃねえだろうが…これから先も一緒に居る間は俺が守ってやるよ…」
そういうと照れ隠しだろう。再度くいっと抱き寄せた。
「ありがとう…三蔵…」
「さて……そろそろ下手したら帰ってくるな…服着ろ服!」
「…ん」
そうして服を着るべくベッドから降りる雅。ジッと背中のジッパーをあげたときだ。
「自分であげれるんだな」
「そりゃ、あげれなきゃ困るよ…」
「そういうもんか…」
「そうです。あ……!」
「なんだ」
「三蔵の私服!見たい!」
「見ただろうが…」
「でも新しいの見てない」
「……要るか?」
「みたい!…ダメ?」
「…ハァ…めんどくせえ」
「めんどくないよ!ほら!」
「何でそんな嬉しそうなんだよ」
そういうと荷物の中から三蔵の私服を取り出した。
「…っつか、なんで雅が持ってんだよ」
「…んーー?いつでも三蔵の服着れるように?」
「いや、意味わかんねえよ」
「だって…最近……三蔵足りない…」
「……だからって勝手に人の服着るな」
「言ったら三蔵反対するもん」
「当然だ。たかが服にすがるな」
「……三蔵?」
「…チッ…」
「でもね?三蔵のサイズの服だと、しかも三蔵のだとね?だっこされてるみたいなんだ」
「……おい…」
「はい?」
「いいから俺の服着るな…」
「…じゃぁ三蔵着てくれる?」
「…なんでそうなる」
「…だって……」
「あのなぁ。俺が足りないとか言うけどな…俺だって雅が足りねえんだよ。それを勝手に一人で紛らせようとすんな」
「…三蔵…?」
「解ったら返せ」
「…着てくれる?」
「着ねえ」
「…ムゥゥゥ…」
「今度…」
「…え?」
「次の街がでかかったらその時着てやるよ」
「…ほんと?」
「あぁもう、うるせえ」
「…約束だからね!」
そういって雅は小指を三蔵に差し出した。
「何の真似だ…」
「指切り!」
「…要るのか?」
「要る!!」
「…たく…こんなの子供だましだろうが」
「子供だましでもいいの!」
そういって小指を絡めた二人。
それから少しして買い出し組は戻ってきた。夕飯にケーキとごちそうを買ってきた。
「そういえばお二人とも昼食は?」
「あ…食べてない…」
「だとしたらこれでも食べますか?」
「何々?」
「おいしそうなサンドイッチ売ってたんですよ。」
「こんな村なのにな」
「是非食べてみてください?」
「ありがとう!」
そうして二人して少し遅めの昼食となったのだった。
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