凜恋心

降谷みやび

文字の大きさ
上 下
66 / 94

battle53…疑惑

しおりを挟む
その日の午前中、珍しく三蔵は『少し出る』といって一人宿を後にした。

「…三蔵が珍しいね…」
「で?雅は一緒に行かなかった訳?」
「だって、行きたいって言ったら着いてくるなって言われた……」
「あーー、それで俺んとこにいるわけね?」
「うん」

そう。何故か三蔵に一刀両断に着いていくことを拒まれた雅。そういったことは珍しかった。大抵はどこに行くにも三蔵が出るといい、雅が行きたいと言えば『好きにしろ』と言われることが多かった中でしょんぼりしていた。しかも、ではなかったのだ。

「それって……浮気か?」
「悟浄と一緒にしないで」
「たまぁに雅グサッと言うよな」
「三蔵浮気…しないもん…」
「へーへー」

しかしなんとも言えない顔をしたまま雅はしょんぼりとしていた。

「なら、俺と出掛ける?」
「……八戒と服買いに行く」
「そういう八戒もなんか出てったぞ?」
「……嘘吐きぃぃぃ……もういいや…悟浄でいい…」
「ひっでぇなぁ。じゃぁ俺もきれいな女の子のトコ……」

そういいかけた時、きゅっと雅は腕をつかんだ。

「雅?」
「…ごめん…悟浄でいい何て言って……」
「…冗談だよ。行くぞ?」

そういって二人は出掛けた。

一方その頃…

「でも珍しいですね、三蔵が僕を連れ出すなんて…」
「道を聞きたいだけだ。」
「それで?どこまでの道ですか?」
「この街に彫金場があると聞いてな。」
「彫金…ですか?」
「…おかしいか?」
「いえ……」

思いがけない返事に八戒は少し驚いていた。それでもあっちこっちと探しつつも無事にたどり着いた。

「じゃぁ、僕はここで…」
「あぁ、助かった。」

そうして別れていく。外から若干中が見えるとはいえ、少しみていると女性が三蔵を迎え出る。

「僕案内したの…ここ……彫金場…ですよね?」

看板を二度見し、うんうん頷いて戻っていった。
そんな中、雅は悟浄と出掛けようとしたときだ。

「あっれ?二人ともどこか行くの?」
「うん。悟空は?」
「俺はぁぁぁ白竜と遊んでる!」
「そっか……!じゃぁ、行ってくるね?」
「おう!」

そうして二人で出掛けた。クスクスと笑いながら雅は少しはにかみながら悟浄を見上げた。

「どうした?」
「ううん?こぉんなイケメンと最近良く二人ででかけるなぁって思って」
「何、三蔵から俺にするか?」
「夢は寝てからのがいい夢見られるよ?悟浄」
「そういうとこ三蔵にほんっっと良く似てきたな」
「…そう?」
「照れんな、褒めてねえよ」
「むぅ……」
「クスクス…で?どこか行きたいとこあんの?」
「明日八戒と服買いに行く時にすぐ行けるように…下見?」
「はいはい」

そうして二人は色々な店を見ていった。そんなときだ。

「あれ?雅、悟浄も…」
「八戒?あれ……三蔵は?」
「いえね?道を聞かれ連れて行っただけなので…」
「そっか…」
「二人ともどうしたんですか?」
「八戒に約束ブッチされたから悟浄と見に来た。」
「人聞きの悪い…」
「だって……服見に行こうって言ったのに三蔵に着いてっちゃうから…」
「僕も予想外だったんですよ。」
「どうする?八戒と行くか?」
「どうせなら三人で行こうよ。」
「悟空は?」
「宿で珍しく白竜と遊んでるって…」
「それは……珍しいですね…」
「だろ?あの猿が、だぜ?」

そうして三人で服屋を転々として回った。たまにはスカートも……と悟浄が選んだり、ワンピースは?と八戒が手に取ったり…それを試着しながらも選んでいった。雅が試着している時に悟浄は八戒に訪ねた。

「で?三蔵はどこ行ったんよ」
「彫金場、なんですけど…」
「けど?」
「女性と一緒……?」
「……は?!?!」
「ちょっと!!悟浄、叫ばないで?」
「あ…雅」
「どう?」
「似合います。」
「そっかな、どうしようかな……ワンピースも一枚あったら……いいよね……」
「何にいいんだって…」
「三蔵とデート!」
「…いいきったな…」
「言い切りましたね」
「着替えよっと!」

そうして再度シャッとカーテンを閉める。

「…で?女と一緒?」
「えぇ。僕が連れていったのは間違いなく彫金場なんですが…」
「そこで女と待ち合わせってか?」
「いえ、まだ待ち合わせと決まったわけでは…」
「誰が待ち合わせ??」

シャッとカーテンが開く。

「待ち合わせしてる?」
「いえ、その服着て三蔵と待ち合わせとかしたら三蔵きっと飛んできますねって…」
「飛んでは来ないと思うよ?それに意外と無反応だったりするかも」
「さすがにそれはねえだろ」
「だった浴衣着たときもそんなに……反応薄かったし……」
「俺見てねえわぁ」
「悟浄は他の女性ヒト抱いてたから」
「あーー、耳いてえ…」
「そう思うなら女遊び少しは控えたら?」
「おま…!!ナンパは命がけだぜ?」
「はいはい。」

そう言って雅は嬉しそうにレジに向かっていた。

「あ……八戒!!」
「はい?」
「ごめん…私先にいっちゃって……お金」
「あーー、はい済みません。これ」

そういってクレジットを出した。支払いを済ませると、ありがとうといって店を出る。

「八戒、ありがとう!悟浄も!!」
「いえ、支払いは三仏神だからな」
「…一回挨拶した方のがいいのかな…」
「そうは言っても、三蔵しか謁見許されないですし…」
「そうなんだ…」
「でも、菩薩が知ってんならいいんじゃね?」
「まぁ、そうですね…」

そう話していた。
宿に着くと、悟空は少しむくれた顔をして出迎えた。

「はらへったぁ!!」
「…あぁ、すっかり悟空の事忘れてましたね…」
「ごめんね?」
「いいんだけどさ…てかみんなで行くんなら俺も行けば良かった…」
「いつもの悟空だ…」
「だな」
「すぐにご飯作りましょうか。」
「私も手伝う」
「てか、三蔵は?」
「まだ帰ってない?」
「あぁ。ぜーんぜん」
「珍しいね」

そういいながらも雅は八戒の手伝いに調理場に向かっていった。その日の夕方になるとようやく三蔵は戻ってくる。

「夕飯までには帰れたんですね…」
「あぁ。」
「どこ行ってたんだよ、三蔵」
「誰が言うか」
「…まさか三蔵?浮気か?」
「殺すぞ」
「まぁまぁ、さ、お夕飯にしましょう?」
「やったぁ!」

そうして三蔵がどこで、何をしていたのかは誰も知ること無く、その日は過ぎていく。しかし、夕飯の時に三蔵は思いがけないことを口にした。

「この街にあと三日はいるからな」
「え?三日……ですか?」
「あぁ。それと、俺は日中いねえから。飯食いに行くでも、なんでも好きにしてろ」
「……三蔵は?」
「俺は出掛ける…」
「…そうなんだ…」

きゅっと手を握りしめた雅。もしかしたら悟浄と乗った観覧車も三蔵と乗れるかも知れないと思っていた。少しだけミニ丈のワンピースも、そのためにと言っていいくらいの勢いだったのだ。

「ねえ、三蔵?」
「なんだ」
「…最後の日とか……」
「最終日は十三時には出る。それまで俺は外にいる。」
「……そか、うん。解った。」

そういうと雅はカチャ…と箸を置いた。

「雅?」
「ごめん……部屋…戻る…」
「雅…」

そう言って雅は片付けると洗い物をして部屋に戻っていった。

「三蔵、お前、少し位は雅に付き合ってやってもいいんじゃねえ?」
「うるせえ」
「あ、今日雅服買ったんですよ?」
「そうか、それは良かったな」
「なぁなぁ、なんで三蔵、雅と一緒にいねえの?」
「俺には俺の用事があるんだよ」
「……」

三人は少し不思議に思いもしたものの、これ以上は三蔵からはなにも聞けないと踏んでいた。食事を終えて部屋に戻るとやはり雅の姿はない。

「自分の部屋か…」

ドサッと無造作に置いた紙袋。なかには服が入っている。雅の、というわけではなく三蔵自身の服だった。

「俺だって好き好んで離れてる訳じゃねえよ…」

そう呟くものの、やろうと決めたことを今さら曲げるわけにも行かなかった。しかしその理由は今はまだ誰も知らなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...