凜恋心

降谷みやび

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battle50…新たな力

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村に着き、とりあえず宿に向かった一行。四人部屋と二人部屋を借りることにしたものの、ひとまず雅と話がしたい、と八戒は三蔵に頼み、二人部屋に雅と入っていった。

「……なぁ、なんで今回三蔵がこっちにいんの?」
「少しの間だけだ」
「でもさ?雅……回復専門じゃなかったっけ?」
「専門…ではねえだろ」
「そうだな。それ以外にもできるんだろうが、その芽を出さなかっただけ…だろう」
「芽って……」
「ま、俺にはあの系統の力の事は解らねえからな…八戒に任せるしかねえだろ…」
「そう…だよな…」
「…?どうした猿」
「なんか…雅がさ…」
「怖いのか?」
「ちげえよ…!怖いとかじゃないんだけど……なんか俺の知らない人になっちゃうみたいで……」
「そんなことは無いだろう?」
「でも三蔵?!」
「力の開花は誰だって怖いだろうしな。思いがけないことなら尚更だ。でも、悟空じゃねえ。今一番不安なのは雅だろう?」
「…ん……」
「知らない誰かになるんじゃねえ。雅の新しい力…って訳でもねえか…それをどう使うことになるかは雅次第だし、何にしても八戒がいる。そうだろう?」
「……そう…だよな……」

そう話している間にも、離れた部屋では八戒と雅が話していた。

「…体調はどうですか?」
「問題無い…よ?…でも…」
「でも?」
「私…なんで?」
「はっきりと結論を先に言った方が良いですか?」
「…ん」
「誰かを守りたい。それが現れただけです。心配ありません」
「でもそれは…!……それは…回復だからなんじゃないの?」
「それだけじゃないですよ。回復はもちろん、雅が三蔵を守りたい、そう願う事でそれを邪魔する妖怪が来たから切り裂いた。意外と単純な仕組みですね…」
「……私…殺したんだよね…」
「はい」
「……ッッ…」
「気に…やまれますか?」

そう問いかける八戒の言葉にうつむいたまま返事ができないでいる雅。小さく震える手を握りしめたままいた。

「極端なこと、言いましょうか?」
「…え?」
「あなたがどうとかって言うのでは無く……」

そういってそっと雅の両手に手を重ねる八戒。そのまま話し出した。

「雅を守る為に、三蔵が妖怪を殺したとした時、あなたは怖いと思いますか?」
「…ううん?」
「それが三蔵でなく悟浄だったら?」
「怖く…ない」
「悟空や僕であったら?」
「怖くない…ッッ」
「それと一緒ですよ。僕らは雅が初めて妖怪を殺したことに驚きはしましたが、怖くはありません。」
「でも……でももし……」
「もし、誤発したら怖い、そう言うのですか?」
「……ん…」
「言ったはずですよ?雅が守りたいと思ったときには回復だろうと攻撃だろうと変わるのだと……」

それでも不安は拭いきれないのだろう。雅は顔をあげられなかった。そんな雅の手を取り、八戒は他の三人がいる部屋に向かった。

「失礼しますね?」
「あ、話終わった?」
「…雅?さっきみたいにやってみてください。」
「八戒?」
「どう言うこと?」
「あなたが不安になるのなら、それがないと言うことを証明しないと行けないですからね」

そう言うと八戒も三蔵達の方に立つ。ほら、と手を差し出しながら雅に力を使う様に促した。

「……でも」
「構いません」
「お…おい、八戒?」
「皆さん?覚悟は良いですか?」
「ちょ……!!なに?え…?」
「ハァ…」

そんな四人相手に雅はくっと目を閉じ、スッと手を降る。しかしそこにはピンクの様な、淡い光が一筋の線になって現れただけだった。

「…え?」
「いつもと変わんねえけど?」
「…クス…でしょ?」
「どう言うことか説明くらいしろ、八戒。」

戸惑う雅の肩に手を置き、八戒はにこやかに笑った。

「雅も、ほら、座ってください?」
「八戒……?」
「おい」
「話しますから」
「…何がどうなってんの?」

そういう三人と、戸惑いを隠せなかった雅。結果は解っていたと言わんばかりの八戒。それぞれが椅子なりベッドに腰を下ろした。

「で?」
「はい。皆さん、どこか痛いところは?」
「ねえけどよ」
「俺も、どこも痛くねえし」
「ねえな」
「……ね?」
「なぁにが『ね?』だ。」
「解るように言え」
「クス、んですよ。雅の攻撃じゃ。」
「……でも…妖怪」
「あれは敵ですからね。」
「それにさ?今は雅の目、変わらなかったぞ?」
「目?」
「そう。それが気になったんです。無意識かもしれませんが、あなたが妖怪を切り裂く直前、いつもとは雰囲気すら違うかのような目をしていたんです。それで手を引いたら、切り裂かれた。つまりは危機がもたらしたってことになります。でも、例えば、誰かの陰謀で悟浄が操られたとします。」
「…っておい」
「その状態の悟浄だとしたら三蔵に襲いかかれば恐らく、雅の手で悟浄は切り裂かれます。」
「…勝手に殺すな」
「たとえばの話ですよ。」
「……つまりはなんだ。雅の意思と、意識レベルの食い違いが今はコントロールできないってことか?」
「そうなります。」
「……ッッ…」
「でも、心配しないでください?雅に僕らは殺せませんから」
「八戒?でもさっき悟浄は殺せるって…」
「や、誰も俺を殺せるとは言ってねえよ?」
「そうですね。確かにそういいましたが、もしも、本当にさっきの例え話のような事が起こったら切り裂かれるかもしれませんが、そうでない限りは雅の力は、対妖怪にしか発動されません。しかも、とも限りません」
「……中途半端だね…私」
「でもさ、良いじゃん」
「え?」
「雅には変わりないだろ?」
「そうそう、それにさっきの八戒の考えが全部あってるとしたら、俺らの事大事に思ってくれてるって証拠だろ?」
「そうなりますが…」
「それで、おまえはどうしたい」
「え…?」
「その力をしっかりと使えるようになりたいのであれば、八戒にまた教えてもらう必要が出てくるだろうし」
「いえ、ですから三蔵?対妖怪にしかでないんですって…」
「対妖怪なら八戒だろうと悟空や悟浄だっていいじゃねぇか」
「敵の妖怪です。」
「……めんどくせえな」
「そういうこと言うなよな!!」
「良いんだよ…悟空。めんどくさいもん…」
「雅……」

少し困りながらもようやく顔をあげた雅は、小さく笑っていた。

「常に出るわけでもないし、それに、妖怪相手にしかでないんだったらって言っても、生きるか死ぬか解らないのに私も参戦したい!って言うのも違うし…」
「…解りました。」
「八戒?」
「出来る事ならあなたにはその手を血に染めさせたくはないですからね。でしょう?三蔵」
「…そうだな」
「てか、雅が危険になる前に俺らが片付けたら良いってことだろ?」
「その通りです。」
「てか、今日雅にやらせたのは誰のせいだ?」
「……なんだよ」
「確か、傍に居たの三蔵だよな」
「俺のせいかよ」
「自覚あんなら生臭坊主のせいだな」
「……ふざけんなよ!てめえら!」
「まぁまぁ、どっちにしても、あなたが傍にいることが多いんですよね?三蔵」
「…解ってる」
「だそうです。」
「『だそう』じゃないよ!八戒!」
「雅?」
「三蔵にばっか…迷惑かけれない…」
「誰が迷惑だって言った。」
「……三蔵?」
「言ってねえな」
「確かに」
「だな」
「……でも」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ。雅に殺しなんざさせねえよ。」
「…三蔵……」
「あれだけの数がやってくることもそうそうないでしょうし。」
「あの…私…」
「気にすんなって!」
「そうそう!!」
「てか、雅がやらなきゃ、三蔵死んでたかもしれねえじゃん?不意打ち食らって!」
「勝手に殺すな」
「俺が言った言葉パクんないでくれる?三蔵」
「貴様は一回死ね」


そう話している四人をみてふわっと雅の表情は和らいだ。

「やっと雅、笑った」
「…あ……」
「良いんじゃねえの?三蔵の横でへらへら笑ってりゃ」
「へらへらって!!」
「そうそう。それが雅らしいですよ」
「……ありがと…」

そうして話し合いは終わった。雅も自信の新たな力をしり、戸惑いはあったものの少しだけ気持ちも軽くなっていくのを感じていた。
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